公共・民間の場所を活用し、歩きたくなるまちへ。シンポジウムで考える
3密の回避やテレワークが浸透し、この1年、人口と機能が集中する都心部を避ける傾向が高まっている。withコロナ、afterコロナ時代のまちづくりはどうなるのか? 2月にオンラインで開催された「官民連携まちづくりDAY2021」で最新の取組みを聞いてきた。
「公共の道路や民間のオープンスペースを活用し『居心地が良く歩きたくなるまちなか』に変えていくには、官民の垣根を超える必要性があります。1スピード感のある組織、2魅力的なデザイン、3強いプロモーション、4徹底的なコスト管理というのが“民“のメリットです。加えて法整備や支援策を進める“官”の強みを生かすことで、金太郎飴ではなく、オンリーワンのカッコイイまちが形成できると思います」(国土交通省都市局 栗田泰正さん)
これからのまちづくりは、行政が…民間が…ではなく、「官民連携」が大きなカギとなりそうだ。
都心=必ず3密、ではない。公共空間の利用法を変えるべき
新たな生活様式として3密を避けるようになったが、はたして密なのは都市の中心部だけだろうか。
「人口密度が高い都市ほど3密空間ができやすいことはその通りです。でもどのまちでも飲食店や会議室といった密集空間はあり得ます。『人口・企業などの東京一極集中が問題だから、分散型の都市や国土づくりを』という都市・国土構造の改革よりも、Afterコロナのまちづくりとして目指すべきは、建物や公共空間の設計や利用法を変えることだと思います」と話すのは、基調講演を行った東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻 准教授 村山 顕人先生。
withコロナ・afterコロナのまちのイメージとして村山先生が一例として挙げたのが、「自転車スーパーハイウェイ」や「パークレット」。幹線道路に自転車専用レーンをつくる「自転車スーパーハイウェイ」がヨーロッパで進んでいるほか、車道の一部にベンチなどを置いて人のための空間をつくる「パークレット」がアメリカを起点に日本にも広がりを見せている。環境に配慮したまちづくりが、感染対策にもなるのが興味深い。
実際、国土交通省では3密回避のため、テイクアウトやテラス営業で道路占用ができる「道路占用許可の緊急措置」を2021年3月まで延長した。コロナ禍により、公共空間の活用がより広がったといえそうだ。
歩道をウッドデッキに、道路を庭に!/名古屋市錦二丁目
さっそく官民が連携し「居心地の良いまちなかづくり」を進めている事例を紹介しよう。
名古屋市の2大繁華街・名古屋駅と栄の間に位置する中区錦二丁目。高層オフィスビルと昭和レトロな「長者町繊維街」が共存するちょっと面白いまちだ。長者町は戦後日本三大繊維問屋街として栄えたが、繊維問屋は100数社から今では1割に減少した。
こうしたまち衰退への危機感をきっかけに、まず繊維問屋のコミュニティが祭りやリノベーションプロジェクトなどを手がけた。その後錦二丁目まちづくり協議会(2004年)、錦二丁目エリアマネジメント株式会社(2018年)を設立し、地域主体で2030年までのまちづくり構想を策定してさまざまな取組みを行っている。
その一例が2012年の「長者町ストリート ウッドデッキ」。長者町の駐車場にウッドデッキとベンチをつくり、憩いの場をつくった。「これは名古屋大学と錦二丁目が共同で行う『都市の木質化プロジェクト』の一貫です。豊田市の山から運んできた木材を乾燥させるという“都市の貯木場”の役割も果たしています」(錦二丁目エリアマネジメント株式会社代表 名畑恵さん)
2014年の「長者町通り歩道拡幅 社会実験」では、長者町の通り70メートルにわたって木製の歩道をつくり、歩道を拡幅した。「物流車両が激減するにつれ、一方通行の逆走車や猛スピードのクルマが増えたという課題解決のために実施。6ヶ月の実験により交差点の改修につながりました」
コロナ禍における道路占用の緊急緩和策も逃さず活用し、2020年11月から2021年3月まで「ナゴヤアウトサイド シートストリートin 錦二丁目」を実施。6つの飲食店が歩道空間を利用するにあたり、テラス席の営業時間など独自ルールをつくった。これまで歩道活用について地域の合意形成が課題だったが、今回は「飲食店を応援」という目的で団結できたのが大きな糧になったという。
2020年には大学や企業など外部を巻き込んだまちづくり実験の場「N2/LAB」を立ち上げ、挑戦をさらに加速している。「まちのレガシィを大切にしつつ、歩いてよし、住んでよしという多様性のあるまちづくりを目指します」
バス停やコインパーキングを「憩い空間」に/広島市カミハチキテル
続いて紹介する広島市紙屋町・八丁堀地区のプロジェクト「#カミハチキテル」は、社会実験のビジネス化に成功した事例だ。
紙屋町・八丁堀地区は商業施設やオフィスが集まる広島の都心だが、メインストリートの相生通りはクルマ中心で、人が回遊しやすいまちではなかったという。そこで勉強会をきっかけに、道路の一部を人のための空間に変えるプロジェクト「#カミハチキテル」をスタートした。エリア名を略したカミハチと、「来てる」「キテル(いい感じ)」をかけた名称は、社会実験とは思えないほどおしゃれでインパクト大だ。
2020年3月~4月に実施された第1弾「#カミハチキテル -URBAN TRANSIT BAY-」では、相生通り沿いの3ヶ所に憩い空間を設置。コインパーキングの10台分にウッドデッキやベンチを置くアイデアも面白いが、圧巻なのがバス停前のくぼんだ部分バスベイを使った「パークレット」だ。長さ53メートルもあり、日本最大を誇る。
この社会実験では産官学が連携し、クラウドファンディングで資金、現物支給で資材を調達した。「企業に協賛していただくにあたり、CSRではなくCSV(共通価値の創造)を目指しました。パークレットを『ストリートのオープンショールーム』と位置づけ、製品を無償提供いただきPRの場として活用いただいたんです。照明メーカーさんはここでパンフレット撮影も行いました」(地域価値共創センター 山中佑太さん)
第1弾の社会実験×企業PRの取組みが共感を呼び、第2弾につながった。
2021年1月28日〜3月28日 基町クレドふれあい広場で「#カミハチキテル- MOTOMACHI CRED URBAN TERRACE -」を実施中。今度は道路ではなく、民間オープンスペースを憩いの広場へと変貌させた。ベルギー製のアウトドアファニチャーやイタリア製の高質な人工芝が無償提供され、まちなかでグランピングのような気分。産官民のそれぞれ単独では難しいが、連携により実現できたプロジェクトといえそうだ。
市が計画し、民間がどんどん変えていくまちづくり/群馬県前橋市
最後に、群馬県前橋市の事例を紹介しよう。
中心市街地のまちづくりを推進するため、まず前橋市が「前橋市アーバンデザイン」のビジョンを策定し、民間の有志や企業を募って2019年に「前橋デザインコミッション」を設立。さまざまな民間団体のプロデュースを行いながら「広瀬川nightテラス」「まちなか広瀬川キャンプ」といった河畔や公共施設の屋上を活用した社会実験を行っている。
「一般的な行政のまちづくりは確実な完成予想図を決めて計画しますが、このプロジェクトは民間のアクションでどんどん変えていこう、というのがポイントです」と前橋市 市街地整備課 CCRC・計画推進室 纐纈正樹さん。官が立ち上げ、民間へ移行するという連携がうまくいき、第2回先進的まちづくり大賞で国土交通大臣賞を受賞した。
今回のシンポジウムに参加し、コロナ禍で静かに見えるまちの水面下で、新たなまちづくりの機運が高まっていることが分かった。ゆとりある歩きたくなる空間づくりと豊かで暮らしやすいまちづくりを大切にし、まちがどう進化するのか注目したい。
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