コロナ禍の下、新しい観光方法としてのバーチャルツアー
世界遺産に登録された姫路城は、12城しか残っていない現存天守の一つで、真っ白な外観から白鷺城とも呼ばれる。
天守へ至る門が「い・ろ・は・に」と周回して続くのも特徴で、豊臣を睨んだ徳川最前線の城としての仕掛けがよく残っており、護りを固める工夫や装置がわかるのも魅力だ。コロナ禍の下、集客に苦労しているのは世界遺産といえども例外ではないが、公益社団法人姫路観光コンベンションビューローなどが主体となって、観光客誘致について、新たな試みを始めている。取組みの一つとして、11月28日に姫路城の縄張りを巡るバーチャルツアーが開催されたので参加した。
「縄張り」とは、城の設計図のこと。見張り櫓があるか、門があるか、道がどのように張り巡らされているかを見れば、敵からどのように護り固めようとしたのか想像できるのだ。
今回のバーチャルツアーは入場門ともいえる菱の門から複数の門を経由して天守までの道をたどり、天守前広場である「備前丸」を通って菱の門へ戻るルートを紹介された。ツアー中、どの道からも天守が見えることが確認され、ずっと見張られながら登城せねばならなかった、往時の武将たちの緊張感を追体験できたのが面白い。
動画共有のコメント機能をつかった質問も
バーチャルツアーは、城好きの落語家として知られる春風亭昇太 師匠が、姫路城観光ガイドの湯原喜義さんの案内で姫路城を歩くのを、動画共有サイトで視聴する方式。コメント機能があるので随時質問できる。公益社団法人姫路観光コンベンションビューローのアカウントが「この後質問タイムです」などと告知してくれるので、コメントを見てもらえている安心感もあった。
質問タイムは5度ほど挿入され、質問の内容は、城に関するものと、ゲストの春風亭昇太師匠に対するものに二分されたようだ。
たとえば前者なら「織田や豊臣の城は黒っぽいのに、徳川の城が白っぽいのはなぜですか」との質問があった。防衛を考えれば夜に見えづらい黒が良いが、徳川の城は戦のない時代のものが多く、防衛より威圧の意味が大きい。だから白いのだそうだ。後者は「師匠はなぜ姫路城が好きなのですか?」などと、ファンらしい質問も多かった。
一緒にまわっている感覚になるバーチャルツアーの利点
バーチャルツアーでは石垣や建物に触れられず、直接見ることもできないため、満足感が低いのではないかと敬遠する方もいるかもしれない。
実際に参加してみると、確かにそういった短所はあるし、音切れなどもないわけではないが、基本的にガイドやゲストの背後から、あるいは前方からのカメラワークのため、一緒にまわっているような感覚で視聴できた。さらに、バーチャルツアーならではの利点も少なくないと感じる。高い場所や柵などで近寄れない場所でも、カメラワークによりアップで見ながら説明が聞けるのは、大きな利点だろう。たとえば瓦の模様がはっきり確認でき、歴代城主の家紋を確認できた。
今回のツアーでは天守に入らなかったが、出演者が移動する間に、内部の紹介VTRが流れた。2時間のツアー中、情報が提供されないタイミングはなく、退屈せずに見ていられたのもバーチャルならではないだろうか。視聴者は椅子に座って見ているだけなので、ずっと説明が続いていても疲れず、集中できるのも良い点だろう。たとえば最初にゲストから「行きは攻め手の気持ちで、帰りは護り手の気持ちで見ると楽しいですよ」とアドバイスされたが、旅行の荷物を持って移動しながらの見学なら、いろいろ気をとられて、その設定を忘れてしまったかもしれない。
ツアーの最後にガイドを予約する方法などのガイダンスもあり、コロナ収束後に行ってみたいと思った視聴者も少なくなかったのではないだろうか。
姫路城バーチャルツアーの目的とは
バーチャルツアーの体験後、姫路観光コンベンションビューローにツアーのインバウンドプロモーション担当である浦上正寛さんに、企画した目的などについて聞いてみた。
参加者の上限がない動画共有サイトを利用したため人数制限はなく、最終的な参加者は269名。ほぼ予想通りの人数だったが、採算はとれていない。アーカイブ販売などで、最終的に黒字にしたいと考えているという。
「初めての試みで、試行錯誤の連続でしたが、姫路城にはエレベーターなどがありませんから、普段は訪城が難しい体の不自由な方や、遠方でなかなかお越しになれない方に楽しんでいただきたいと考えました。第二弾として、城郭考古学者の千田嘉博先生とお城好き博士ちゃんとして知られる栗原響大君をゲストに、非公開エリアのバーチャルツアーを開催しましたが、視聴者は359人に増えました。第一弾をご覧になってリピーターになってくださった方も少なくなかったようです」と、バーチャルツアーの試みはまず第一歩を踏み出せたようだ。
城は要塞でもあるため、電波の届かない場所も所々にある。電波チェックやカメラワークの決定などのため、4~5日かけて入念なリハーサルを行ったそうだ。しかし内容については敢えて台本を作らず、できるだけ一般に知られていない情報を紹介するよう意識した以外は、生ならではのライブ感を大事にしたという。
「今回は姫路城の機能や役割を知っていただこうと縄張りを紹介しましたが、姫路には、城以外にもたくさんの魅力があります。たとえば城文化とともに発展した和菓子屋さん、甲冑を作る技師として平安時代から五十二代続く明珍家といった、城下町ならではの伝統もありますので、今後はまた違った切り口でのバーチャルツアーを計画しています」と、浦上さん。
さまざまなアプローチでバーチャルツアーを実施し、コロナ収束後には多くの観光客に足を運んでもらいたいと考えている。
コロナ禍の中、観光地だけでなく、博物館や美術館などでもバーチャルツアーが実施されており、トップクラスの知識を有する専門家の解説が聞ける。「いつか旅してみたい」と憧れている場所があるなら、バーチャルツアーに参加して予習してみてはいかがだろう。
公開日:






