ハシゴ酒のメッカ「野毛都橋商店街ビル」
横浜市、桜木町駅から10分ほど歩いた野毛地区。横浜屈指の飲み屋街として人気を集めるエリアに「野毛都橋商店街ビル」はある。
川のカーブに沿って湾曲した2階建てのビルの中には、昔ながらのスナックやクラフトビールが楽しめる店、ワインバーなど60数店舗がひしめき、夜になればハシゴ酒を楽しみにやってくる人で賑わう。
終戦直後の野毛周辺は「野毛に来ればなんでも揃う」と言われるほど闇市が盛んだった地域。
「昭和39(1964)年の東京五輪の開催でたくさんの観光客を迎えるにあたり、それまで路上で営業していた露店を撤去し、建物に収容しようということになりました。そのために建てられたのが『野毛都橋商店街ビル』です」と教えてくれたのは、現在、ビルを所有し管理する公益社団法人横浜歴史資産調査会(ヨコハマヘリテイジ)の常務理事 米山淳一さん。
開幕直前まで工事が行われ、大岡川沿いの都橋から宮川橋の間に軽量鉄骨造2階建てのビルが完成。1階に衣料品店、靴屋、印鑑屋などの商店、2階に飲食店が並び、60数店舗を収容する商店街ビルとなった。
その独特な景観から、戦後の野毛を象徴する建物として2016年に横浜市の歴史的建造物として登録された。戦後建築の登録第1号である。
個性的な外観がそのまちならではの景観に
「野毛都橋商店街ビル」の一番の特徴は、そのカーブしたファサードにあると思われるが、それ以外にも、1階の店舗は道路に、2階は川に面した造りになっているところも独特なのではなかろうか。
設計段階から横浜市・財団法人横浜市建築助成公社・露店のあいだで建物の美観について協議がなされていたそうで「当初は1階2階とも店舗の正面を道路側に向ける案も検討されていたが、最終的には2階店舗の正面を河川側に設定することで道路側と河川側の両面に表情をもつ建築となった」(※)という。
また、米山さんによると「あの場所は船着き場でもありましたから、形状もちょっと変わっているんですよ。荷物の積み降ろしのために建物の中央にいくにつれて少し窪んでいます。だから中央の店舗になるほど天井が少しだけ高くなっているんです」川沿いの船着き場という特殊な立地を最大限に生かすための形状も、ここならではの景観を生み出すことになった。
※引用:横浜市都市整備局都市デザイン室発行「歴史を生かしたまちづくり横濱新聞」第33号
「都橋商店街ビル―野毛の戦後史が刻まれた共同店舗―」(著:横浜都市発展記念館主任調査研究員 青木祐介)
路地裏、横丁、昔からそこにあるものを残してこそ、まちのアイデンティティが息づく
戦後の人々の営みとともに愛されてきた「野毛都橋商店街ビル」だが、2014年、当時ビルを所有していた公社が数年後に解散する見込みとなり、取り壊しの話が持ち上がったという。築50年以上が経過し老朽化が進むビルも解体しようという流れだった。
ビルの所有をめぐって注目が集まるなか、2017年9月に横浜歴史資産調査会へ譲渡され保存活用されることになった。
「明治大正時代の建物に比べると、昭和30年代、40年代に建てられた建築というのは、ただ古いからという理由で取り壊されてしまうことが多いんです。けれど、昔からそこにあるものを残してこそ、まちのアイデンティティが生きてくる。路地裏や横丁なんかがそのいい例ですよね。まちが発展していくなかで、古い建物は“負の遺産”のように扱われることが多いですが、残すことによって経済が活性化する面もあります。いかにうまく使って地域活性化にもっていけるかということが課題としてあるものの、戦後からずっとランドマークとしてそこにあり続けるビルの存在自体が、まちの人の誇りになっているんだと思います」(米山さん)
開港の地・横浜にはハイカラな近代建築や西洋館が数多く残されているが「野毛都橋商店街ビルのようにまちの人の生活とともに歩んできた近現代の貴重な建造物もたくさんあるということを、もっと知ってもらいたいですね」と米山さんは言う。
「歴史を生かしたまちづくり」が30年たってようやく実を結んできた
昭和63(1988)年に「歴史を生かしたまちづくり要綱」を施行した横浜市。
「野毛都橋商店街ビル」を所有する横浜歴史資産調査会も、もともとは市の都市整備局都市デザイン室のなかに設置された委員会から派生したもの。当時から市と連携してきた米山さんは、
「横浜の景観を形成する大切な建物を残していくために動いてきたのが、市の都市整備局都市デザイン室です。旧横浜正金銀行(※1)や山手教会(※2)などが残っているのはその動きがあったからなんです。市と連携して行ってきた『歴史を生かしたまちづくり』というものが、30年たってようやく実を結んできたように感じます」と話す。
ただ、建物が個人所有の場合、改修維持に大幅なコストがかかることから、相続をきっかけに建物を解体、建て替えとなるケースも少なくない。
「歴史的な建物というのは所有しなくては残らない」と米山さん。市や法人で所有し活用していく先行事例として「野毛都橋商店街ビル」の保存活用が進められている。
横浜歴史資産調査会では、建物の所有者からの相談窓口「歴史を生かしたまちづくり相談室」を設置していて、歴史的建造物の継承をさらに進めていきたい考えだ。
また、歴史的建造物の保存には「地域の人の意識も必要」と米山さん。
「これまで日本人は自国の文化、歴史的資産を大事にするという教育をあまり受けてこなかったと思うんです。自分が育ったまちやそこにあるものを大切にする文化が育っていけばいいなと思っています」と話していた。
※1 旧横浜正金銀行本店本館(現・神奈川県立歴史博物館)
※2 カトリック山手教会聖堂
お客を呼び合って相乗効果で共存している
「野毛都橋商店街ビルは、どこも5人も入ればいっぱいという小さな店舗だけれど、それぞれがお客を呼び合って相乗効果で共存しているんです」と米山さん。
「野毛都橋商店街ビル」のテナントは人気物件で、今でも”空き待ち”は50件を上回っているそうだ。
今回の取材で一軒のスナックに立ち寄った。3坪の店内にはカウンター席が5席。
「うちもだいぶ古いけど、一番古いお店だと20年くらいやっているんじゃないかな。最近はお洒落なワインバーとかも入っているし、若いお客さんが増えたねぇ」とママ。
ちなみに「一見さんお断り」や「会員制」をうたっているお店もあるが、ちょっとお願いすれば歓迎してくれるお店もあるそうだ。
新旧のお店が入り交じりながらも昭和の雰囲気を残す「野毛都橋商店街ビル」。この先も変わらず、まちの誇りとして灯りをともし続けてほしいと思う。
【取材協力】
公益社団法人 横浜歴史資産調査会(ヨコハマヘリテイジ)
http://www.yokohama-heritage.or.jp/
■関連外部リンク:横浜移住サイト~だから横浜で暮らしたい~
https://iju-sumu.city.yokohama.lg.jp





