ル・コルビュジエも訪れた「旧神奈川県立近代美術館 鎌倉」が「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」に
戦後すぐに日本初の公立近代美術館として開館し、65年間もの長きにわたり親しまれてきた「旧神奈川県立近代美術館 鎌倉」。美術館としての先駆的な活動はもちろん、日本のモダニズム建築を象徴する建物として「日本の近代建築20選」(DOCOMOMO)、神奈川県指定重要文化財として高い評価を得ている。
それもそのはず、設計はル・コルビュジエに師事し、日本の近代建築の礎を築いた建築家のひとり・坂倉準三。ユネスコの文化遺産に登録されたコルビュジエ世界7か国17作品のひとつである東京・上野の国立西洋美術館を設計する際、コルビュジエ本人も既に完成していたこの建物を訪れている。しかし65年の間にこの建物も老朽化し、美術館を運営していた神奈川県と土地を提供していた鶴岡八幡宮間の借地契約の満了に伴い、2016年に惜しまれつつ閉館。その後建物は取り壊され、更地として鶴岡八幡宮に返却される予定だった。
その後、神奈川県と鶴岡八幡宮には建築物としての価値の高さから取り壊しを惜しむ声や、美術館の存続を求める声が多数寄せられた。そこで更地返却ではなく、建物を残して鶴岡八幡宮として改修工事をしたうえで、新たな文化交流施設として運営することに。建物はリニューアルされ、展示やイベントなどの運営が神奈川県から鶴岡八幡宮に変わり、2019年6月8日開館するのが「鎌倉文華館 鶴岡ミュージアム」(以下、鎌倉文華館)だ。
坂倉準三建築の設計当初の精神を再現しつつ、最新技術で耐震補強と機能を向上
「旧神奈川県立近代美術館 鎌倉」は、建物の老朽化が大きな課題だったため、2017年9月から約1年半かけて大規模な耐震・改修工事が行われた。建築の価値を保存するため、歴史的建築の意匠を保っている。特徴である外壁の大谷石の石積みは一度解体され、鋼板耐震壁を設置してから大谷石を貼って仕上げデザインは変えず耐震性を向上させた。屋根はデザイン性の高い独特の形状が建築当時の技術では雨漏りのもとになり平面の片流れのデザインに変更されていたが、建築当初ののこぎり型に戻しつつ雨仕舞も強化された。
設計当初にはなかった変更点はバリアフリーなどのユニバーサル対応。エレベーターや車椅子対応のトイレを新設し、車椅子での移動もしやすいよう、中庭も建築当初のデザイン性を保ちながらフラットな仕上げに。これで子供やお年寄り、誰もが安心安全に坂倉準三のモダニズム建築を体感できるようになった。
建物内でひときわ目を引くのが、池に面したピロティの白い天井に映る波紋の美しさ。
ゆらゆらきらきら、時のたつのを忘れて見惚れてしまう。広い中庭の光を感じながら、昔ながらの中庭側の大谷石と新しくなった外壁の風合いの違いを味わうのも良い。
開館に先立って開催された「新しい時代のはじまり」展(4/20~5/6)では、建築を公開するとともに、建築時から改修までの歴史を映像やパネルを展示。解説や展示を見ながら、坂倉準三建築らしい光や風を実際に感じることができるのが醍醐味だ。
鎌倉の中心・鶴岡八幡宮の境内から鎌倉と日本文化の魅力を発信する新名所に
建物自体も大きな魅力ながら、開かれた明るい印象になり、建物がひと際映えるようになったのも、今回の大きな変更点。「神奈川県立近代美術館 鎌倉」時代は出入り口が県道側にあり、鶴岡八幡宮側からは池越しに一方向から見えるだけだった。広い鶴岡八幡宮だが、流鏑馬馬場より北側は神聖なエリア、南側は開かれた親しまれる場に、ということも大きなコンセプトだ。
参道側には鎌倉文華館へのアプローチが新設され、こちらが正面玄関に。広々とした前庭もあり、附属棟にカフェとショップもオープン予定(2019年8月)でグンと明るく開かれた印象だ。さらに平家池をぐるりと周遊できるようになり、様々な角度からまるで池に浮かんでいるかのような建物を眺めることができるようになった。
鎌倉文華館の開館は2019年6月8日(土)。開館記念「季節展示・夏」では、境内の出土品や文士ゆかりの品を展覧し、武士の精神的よりどころであった鶴岡八幡宮の歴史から鎌倉文士に至るまでを展示(7/15<月・祝>まで)。鎌倉の中心で観光の拠点となる立地で、今後も鶴岡八幡宮はもちろん、鎌倉の神社仏閣、歴史や文化、文学、美術、祭りなど幅広いテーマを発信する拠点として活用される予定。
カフェやショップも含めて、新たな鎌倉の観光&散歩コースや写真撮影スポットになりそうだ。
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