機能的にもすぐれている「簾」

創業100年以上の老舗、田中製簾所創業100年以上の老舗、田中製簾所

2017年6月23日に気象庁が発表した3ヶ月予報(7月〜9月)によると、全国的に平年に比べ気温が高くなる確率が50%といわれていた。その予想通りに、今年は例年よりさらに暑い日が続いている。

こまめに水分をとるなど外出時の熱中症対策はもちろん、自宅でもエアコンや扇風機を使って室温を適度に下げることが大切。とはいえ、電気代も気になるところ。電気代節約のためにゴーヤや朝顔を植えて目にも涼やかなグリーンカーテンを作るのもいいが、水やりなどが苦手な方は、“簾(すだれ)”を使ってみてはいかがだろう。日除けとしてはもちろん、断熱効果もある。

簾というと古いイメージや「海の家みたいでちょっと」と思う人もいるだろうが、長く使われてきた簾は、機能的にもすぐれている部分があるという。

簾の魅力、使い方について東京・浅草にある江戸簾の老舗、田中製簾所の5代目店主・田中耕太朗さんに話を聞いてきた。

もともと宮廷で使われていた?

打掛簾。神社仏閣などで目にすることも多い打掛簾。神社仏閣などで目にすることも多い

そもそも、簾とはいつぐらいから使われているものなのだろうか。
「歴史については諸説あって、中国、朝鮮から渡来したものではないかと言われています。日本にいつ頃伝わってきたのかわかっていませんが、平安時代には京都の宮廷で、室内の仕切りや日よけとして使われていました。
一方で土地に継がれたのものとして、棒状のものを植物の繊維で編んだものなどが、日本だけでなく世界のあちこちの遺跡から見つかっています。おそらく、それらを高貴な人が設え用として使うようになり、発展してきたのだと思います。」

もともと宮廷で使われていたものと聞くだけで、簾のイメージも雅なものに思える。
日本では江戸時代になり、京都の宮廷の簾文化が江戸にも伝わり、お城や武家屋敷、神社仏閣、商家で使われるようになり、やがて庶民の間にも広がっていったという。

「江戸の町は人口も多く、いろんな文化が入ってきたので、京都とは違い、ありとあらゆる簾を作るようになりました。それが江戸簾の始まりです。食品加工用の大きめのもの、油揚げを作るときに使う豆腐の水切り用や、うどん玉を置くためのもの、お菓子の蒸し器用なども作っていました。うちは昔から簾専門ですが、簾のほかに竹籠やざるを作る店や、冬は箒、夏は簾を作る季節商売の職人もいました。」

簾作りは手間がかかる。まずは材料の下ごしらえからはじまる。竹の場合、一定の長さに切り、もみぬか、砂、塩などでこすり、水洗いをして汚れをとり、節を削る。次に、竹を割って、太さ、厚さなどを揃えていく。その後、乾燥させ、ようやく材料が完成。できた材料を1本、1本、糸で編み、仕上げていく。
技術はもちろん、根気強さも必要となる簾職人。近年、海外からの安い輸入品などに押され、手づくりの簾を作る職人が少なくなっているという。そんな中、田中製簾所は明治初年の創業以来、すべての製造工程を手作業で行い、東京都伝統工芸品でもある江戸簾を作り続けている。

どんな簾を選ぶか

材料によって雰囲気も変わる。左からヨシ、御形、竹材料によって雰囲気も変わる。左からヨシ、御形、竹

「簾が動くと直接自分の肌に風があたらなくても、風を感じることで涼しくなる。日本人ならではの感覚ですね。」
そんな風情があるのも簾の魅力。選ぶ素材によっても印象が変わってくる。清涼感のある青竹、錆色の斑点のあるサビ竹、艶のあるヨシ、赤茶色が上品な萩など、好みや自宅に合った素材を選ぶのがいいだろう。

ホームセンターなどで手軽に買うこともできるが、選ぶポイントはあるのだろうか。
「安く手に入るものはどれも同じですね。材料も作りも安価なので1シーズン持てばいい方。使い捨てはできるだけやめてほしいとは思うけど、毎年、掃除をしたり片付けるのが大変だったら安いものを使うのもいいでしょう。長く使いたければしっかりしたものを買って、夏の終わりに水洗いをして、乾かして、大事に使う。そういうことが季節を感じることにもなりますね。」

まずは手軽に買えるものを使ってみて、気に入ったら、いいものを長く大事に使うというのもいいのではないだろうか。
田中製簾所では、修理も行っている。
「簾は直接紫外線が当たるので、10年くらいで糸が切れたりしますが、編み直しをすればまた使えます。うちで作るものは、修理をして使えるような材料しか使いません。ただ、修理には時間がかかるので、早めに出してもらいたいですね。夏は毎年くるんだから、直前になって慌てて修理に出すのではなく、シーズンが終わったら出して、新しくなった状態でしまうとか、来年の春までにやっておいてって出すとか。無理して急ぎで修理することもできるけど、やるならいいものを作りたいしね。」

インテリアとして取り入れるのも楽しい

東京都伝統工芸品でもある江戸簾。田中製簾所では希望の寸法に合わせた注文販売を行っている。東京都伝統工芸品でもある江戸簾。田中製簾所では希望の寸法に合わせた注文販売を行っている。

では、実際、簾を掛けるにはどうすればいいのか。
「日除けをするなら、窓から20cmぐらい離して簾を掛けるのがいいですね。窓に直接日が当たると、ガラスやサッシが熱くなって部屋の中にも熱が伝わります。簾と窓の間を風が抜けるので、部屋も涼しくなるし、見た目にもきれいです。
窓にぴったりつけてしまうと熱が伝わりやすくなるので、日除けにはなりますが、あまり涼しくなりません。ただ、昔の家のように木造で軒先があればどこでも釘を打って掛けられますが、今の建築だと最初から簾を掛けられるように設計するとか、特別に加工してもらうしかないですね。」

簾が掛けられなければ、よしずを代用するのもいいという。
「斜めに建て掛ければ風も抜けるので断熱効果もあると思います。高層階で、簾もよしずも使えない場合は内掛け(室内用)の簾もあります。窓に直接日が当たるので窓は熱くなりますが、日差しを遮るとか床が暑くならない程度には効果があると思います。どのぐらい日除けをしたいかによって材料を選ぶといいですね。内掛けは洋風の家にも合うような材料や色、デザインも現代風になってきています。
掛けるだけでなく、インテリアとしての使い方もあります。ランチョンマットやコースター、テーブルセンターに簾を使うだけでも夏らしさを演出できます。ガラスの器を置けば見た目にも涼やかです。」

なるほど。日除けとしてだけでなく、インテリアとして取り入れるのもよさそうだ。

内掛けして使う簾はゆるやかな仕切りとなり、気配を感じながら間仕切りができる

日除け以外にも、間仕切りなどとして年間を通して使える簾。
田中製簾所では、最近、高齢者が住む家から、部屋の間仕切りに内掛け簾を使いたいという注文が増えているという。戸で閉め切られるより、ゆるやかな仕切りとなり、同じ空間で生活している気配を感じられるのがいいらしい。

田中さんに簾の魅力を聞いてみた。
「最近、作る側が魅力を語るものでもないと思っているんですが、あえて言うなら、主張しすぎないで最低限の機能を持っているところかな。でも、使う人たちがどう感じるか。神社仏閣で使えば厳かな雰囲気を演出できるとか、あくまで道具のひとつ。使う人が、工夫をして、うまく使えばいいと思います。」

シンプルでありながら、様々な機能を兼ね備えた簾。自分の生活スタイルに合わせて楽しんでみてはいかがだろう。

■取材協力
東京都伝統工芸品「江戸簾(すだれ)」 田中製簾所:
http://www.handicrafts.co.jp/

2017年 08月14日 11時00分