100年あたり約1.05℃の割合で上昇し続けている日本の平均気温

気象庁が2016年1月に発表したデータによると、2015年夏(6~8月)に観測された日本の平均気温は20世紀の平均基準値に対して+0.69℃。長期的には100年あたり約1.05℃の割合で上昇していると分析されており、世界の100年あたりの気温上昇割合平均値が0.71℃であることを考えると、「日本の夏は異常なまでに暑くなり続けている」ということがわかる。

そんな日本の猛暑を救ってくれるかもしれないエコ建材がいま注目を集めている。

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開発を行ったのは、建材とはまったく畑違いの繊維メーカー。繊維の染色工場で発生する廃棄物・余剰バイオマスケイクを活用した、保水性・透水性に優れた超微多孔性発泡セラミックス基盤『グリーンビズ』だ。

▲気象庁が2016年1月に発表した日本の夏の平均気温の推移グラフ。<br />都市部では『ヒートアイランド現象』によって郊外よりも気温が高くなるため、<br />東京では100年前と比べると平均気温が3℃上昇しているという▲気象庁が2016年1月に発表した日本の夏の平均気温の推移グラフ。
都市部では『ヒートアイランド現象』によって郊外よりも気温が高くなるため、
東京では100年前と比べると平均気温が3℃上昇しているという

年間約7000トンもの『余剰微生物』の処理に困ったのがきっかけ

▲石川県能美市の小松精練本社を訪れると、本社ビルや工場など随所に『グリーンビズ』が使用されている。こちらは日本海を一望する小松精練ファブリック・ラボラトリー『fa-bo(ファーボ)』の屋上の様子▲石川県能美市の小松精練本社を訪れると、本社ビルや工場など随所に『グリーンビズ』が使用されている。こちらは日本海を一望する小松精練ファブリック・ラボラトリー『fa-bo(ファーボ)』の屋上の様子

この『超微多孔性発泡セラミックス基盤・グリーンビズ』を開発したのは、国内トップクラスの繊維生産量を誇る『小松精練』(本社:石川県能美市)。

同社取締役・先端材料事業本部長の奥谷晃宏氏に開発秘話を聞いた。

「繊維を染色する際には大量の水を工場で使用します。当社の場合は“日本で一番たくさんの繊維を作っている会社”ですから、“日本で一番たくさんの水を使う会社”ということになります。工場で一日に使用する水の量は2万5,000トン。これは中規模都市の一日の生活水使用量に相当します。この排水処理をどのように行うか?ということは、当社だけでなく繊維業界全体の長年の課題でした」(奥谷氏談)。

染色工場からの排水には微生物が含まれているため、排水処理を行うとサラサラの水ではなくドロドロとした汚泥のようなモノが残る。そうした副産物は『余剰汚泥』と呼ばれ、処理方法とコスト削減に頭を悩ませてきたという。

「余剰汚泥を処理する際には、一般的には『活性汚泥法』という方法を使います。これは、水中のバクテリアに汚泥の中の有機物を食べさせて浄化する方法なのですが、バクテリアにしてみれば、食べ物がたくさんある汚泥の中は居心地が良いため、放っておくと増えすぎてしまい臨界点を超えると赤潮のような状態になってしまいます。万一、排水処理場が赤潮になってしまったら工場の操業をいったんストップしなくてはいけません。そのため、常に『バクテリア係』という生きものがかりのようなスタッフがいて、バクテリアたちを定期的に間引きしているのです」

すると、次に“間引きしたバクテリアたちをどうするか?”が課題となる。

「汚泥から間引かれたバクテリアたちは、放置しておくと死んで腐ってしまいますから早めに処理をしなくてはいけないのですが、燃やそうと思ってもほとんどの成分が水なので、燃やすことができません。そのため産廃業者さんに引き取って処理をしてもらうことになるのですが、当社の場合は1年間で発生する余剰微生物が約7,000トン、処理費用は年間約1億円もかかっていました。そこで、なんとかその費用を削減できないか?と、余剰微生物の二次利用について研究をはじめたのです」(奥谷氏談)。

染色産業の廃棄物から生まれたエコ建材『グリーンビズ』

余剰微生物の処理については、余剰汚泥を抱える多くの企業が長年研究を重ねており、燃料への転用や堆肥としての活用方法などが検討されてきた。しかし、燃料として使用すると経済合理性が見合わず、肥料として活用しようとすると「工場で出た廃棄物を肥料にするなんて…」と、農家から敬遠されたという。

「実は、もともと私自身が学生時代に余剰汚泥の研究を行っていたこともあり、ふとアイデアが思い浮かんだのです。“余剰微生物の難脱水性を生かし、粘土とぐちゃぐちゃに混ぜて高温で焼いたら…微生物が燃えて消えたところに無数の小さな孔が開き、多孔性の連続通孔を持ったセラミックスができるはずた、と」(奥谷氏談)。

発案から約2年の研究期間を経て、奥谷さんのアイデアは確信に変わった。燃焼によって微生物から水分が抜け気化する際に小さな爆発を起こすこともあったが、燃焼温度を調整しながら水を抜いていくことで『超微多孔性発泡セラミックス』のペレットが完成。完成したペレットに水を流してみると、驚異的なスピードで“水を吸う”ことがわかった。

これが新建材『グリーンビズ』誕生の瞬間だ。

▲『グリーンビズ』は保水性・透水性に優れ、土が無くても植物が育つため、屋上緑化や壁面緑化用の建材として活用されている。<br />舗装用ブロックとして使用する場合は、従来の保水ブロックの1.5倍以上の保水力が確認されており、<br />目づまりがしにくくメンテナンス性や耐久性が高い点も特徴だ。<br />こうした特性が評価され、2013年グッドデザイン賞を受賞した▲『グリーンビズ』は保水性・透水性に優れ、土が無くても植物が育つため、屋上緑化や壁面緑化用の建材として活用されている。
舗装用ブロックとして使用する場合は、従来の保水ブロックの1.5倍以上の保水力が確認されており、
目づまりがしにくくメンテナンス性や耐久性が高い点も特徴だ。
こうした特性が評価され、2013年グッドデザイン賞を受賞した

ヒートアイランド現象やゲリラ豪雨対策として注目を集める存在に

「吸水性の高いセラミックスの板は完成した。じゃぁ、その板を使って何を作ろうかな?と考えたときに、“植物を植えて屋上緑化ができるような建材にしたらどうだろう?”ということを思いついたのです。

ちょうど2000年以降環境問題が叫ばれるようになり、世の中の人たちのエコへの関心が高まっていた頃でした。また、東京都が屋上緑化に関する条例を発表したタイミングでもあったので、“これはイケる!”と思いましたね(笑)」(奥谷氏談)。

2009年に販売がスタートした『グリーンビズ』は、屋上緑化マーケットの活性化を受けてその存在が広く知られるようになった。従来の屋上緑化では、防水シートを敷いた上に土を敷き詰め緑を植えていくことから耐過重面での課題があったが、薄くて軽い『グリーンビズ』ならその点もクリアできる。また、広さ1,000m2あたり12トン以上の高い保水力があることが実証されたため、路面舗装材として使用することでゲリラ豪雨時の排水対策としても期待が集まっている。

▲もともとトタン屋根だったところを『グリーンビズ』で覆った『カフェ・クレオン』(富山県富山市)。<br />店長の明石さんによると「以前は冷暖房が効きにくかったのですが、<br />グリーンビズで屋上緑化をしてから冷房効果がぐんと高まりましたし、防音効果も実感しています」とのこと。<br />外観のインパクトもあり、建物の意匠性そのものを高めるエコ建材としても注目されている▲もともとトタン屋根だったところを『グリーンビズ』で覆った『カフェ・クレオン』(富山県富山市)。
店長の明石さんによると「以前は冷暖房が効きにくかったのですが、
グリーンビズで屋上緑化をしてから冷房効果がぐんと高まりましたし、防音効果も実感しています」とのこと。
外観のインパクトもあり、建物の意匠性そのものを高めるエコ建材としても注目されている

半年に一度商品開発を行わなければいけない繊維メーカーならではの挑戦

しかし、前回の【繊維メーカーの新たな挑戦①】でご紹介した炭素繊維を使った耐震補強材『カボコーマ』といい、今回の産業廃棄物を利用した『グリーンビズ』といい、業界の垣根を飛び越えた新たなアイデアを連発し続けている理由はどこにあるのだろうか?

「繊維業界というのはファッショントレンドが常に変化していくので、半年おきの展示会に合わせて毎シーズンごとに新商品を開発しなくてはいけません。当社の場合は、その“開発魂”のようなものが根底にあるんでしょうね。“まだ誰も気づいていないような可能性にチャレンジし、常に新しいものを生み出していく”というのが小松精練の社風でもありますから、今後も建築業界からビックリされるような新素材をどんどん開発していきたいと考えています」(奥谷氏談)。

繊維メーカーの開発魂によって誕生したエコ建材。今日、あなたが歩く街の中でも、密かに『グリーンビズ』が活躍しているかもしれない。

■取材協力/小松精練
http://www.komatsuseiren.co.jp/
■グリーンビズ
http://www.komatsuseiren.co.jp/greenbiz/

▲「これが小松精練が考える未来の街の姿です(小松精練本社ビルに展示されているジオラマ)。<br />環境先進国ドイツでは、建物をひとつ建てたら必ず屋上緑化をすることが義務付けられています。<br />日本でも建物を新しく作ること=新しく緑化をすること、という意識が広く定着すると良いですね」と奥谷さん▲「これが小松精練が考える未来の街の姿です(小松精練本社ビルに展示されているジオラマ)。
環境先進国ドイツでは、建物をひとつ建てたら必ず屋上緑化をすることが義務付けられています。
日本でも建物を新しく作ること=新しく緑化をすること、という意識が広く定着すると良いですね」と奥谷さん

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