静岡県富士市に誕生した、築40年の倉庫を改修した複合施設
中古住宅をはじめ店舗、施設などのリノベーション事業が盛んに行われている今日。
“付加価値をつけた”個性的な不動産再生や街の再構築が各地で積極的に進められているが、先日筆者が訪ねた場所もなかなか興味深かった。
その場所とは、静岡県富士市に今春誕生した【LUMBER YARD(ランバーヤード)】。
築40年の鉄骨倉庫を全面再生した『倉庫リノベーションカフェ』なのだが、ただ単に飲食を楽しむ空間ではなく、「ハンモックカフェ」「アウトドアギアショップ」「レンタルスペース」の顔と、ランバーヤード(材木置き場の意)の名が示すように、木材や工具・機械がたくさん用意された「DIYワークスペース」を合わせ持つアウトドア色豊かな複合施設となっている。
しかも、大きく4つの顔を持つこの『ハコ』では、富士への旅行者に向けたアウトドア情報発信やローカルツアーの企画、地域・人と出会える場所の提供など“観光拠点”ともなるべく『ソフト』の充実にも力を入れているのが面白いのだ。
カフェ・ショップ・DIY・貸スペース・・・緩く人が集まるサードプレイスに
まずは『ハコ』としての特徴をご紹介すると、リノベーション前は材木店の材木倉庫だったそうでそれを店名にしたのだとか。
倉庫の大空間を活かしたコンクリート打ち放しの施設内は、広い土間空間の上にワイドなウッドデッキのカフェスペースが設けられている。調理場は“厨房候”ではなく、一般家庭の対面式キッチンを進化させたような雰囲気で、こだわりの一枚板カウンターの周りに種類も大きさも様々な端材を貼った凹凸感が自然味を演出している。色も形もとりどりのハンモックをはじめとしたアウトドア用品や、天井の高いワンフロア大空間も手伝ってか屋内ながら開放感いっぱいの全天候型アウトドアスペースといった印象だ。
どことなく住空間の延長にある空気感を覚えるのだが、手掛けたのは同市で住宅設計施工販売を行う加藤材木店と聞いて大いに納得した。
前述のように、ここはカフェであり、ショップであり、貸スペースでもある場所。
複合的なリノベーション施設にしたのは、自宅でも職場でもない、人の“第3の居場所”をいうサードプレイスになりたい想いがあるのだとか。
人がフラリと気軽に立ち寄り、“ガチガチのコミュニティ”を作らずに緩く自然に集まるような居心地の良い場所でありたいと、家や職場にはない空間づくりを目指したようだ。
母体は材木店。その強みを活かすDIYワークスペースは、特に若い女性に好評
緩く人が繋がる・・・それは同施設の大きな特色でもあるDIYワークスペースでも展開されている。
カフェスペースの離れのように設けられたここは、ごく簡単な木工作から本格的な家具づくりまでを楽しめる時間貸しのレンタルスペース。プロ仕様の様々な工具や機械が用意されており、それらを自由に使いながら、地元の間伐材などで好きな品を作ることができる。
木材は持ち込みも購入もOKで、予めカットされた木材を接続するだけの初心者向けオリジナルキットも用意されている。
利用者の多くは20代・30代の女性。定期的にワークショップも開催されるが、常にDIYの得意なスタッフがいるので初心者も安心して利用できる上に、同じ空間を共有しながら作品づくりを楽しむ者同士はコミュニケーションも発生しやすく、自然に会話が生まれアドバイスをし合うなどの光景も。一人でフラリと立ち寄ってDIYに興じる若い女性も少なくないのだとか。
アウトドアツアーの企画やアクティビティ・キャンプの場の紹介富士山麓の観光情報発信も行って、国内外旅行者も集う場所に
そして『ソフト』面の特徴は、『富士地域の観光情報発信基地』となるべく展開していること。
同施設ではWi-Fiも無料で使えるのだが、国内外から“日本のローカル”への観光客が増える中、キャンプなどで富士を訪ねる外国人ツーリストを対象に、フェイスブックなどのSNSを利用して観光情報を提供。富士山麓の自然を愉しむアウトドアツアーの企画やコーディネート、さらにはキャンプ用具の貸し出しなども行い、「ここに来れば『情報』と『人との交流』を得られる」そんな観光窓口を目指しているそうだ。
「地域住民が集う場所であり、旅行者が気軽に足を運ぶ観光拠点にしたい」
同施設を一任されているのはディレクターの牧野光太氏。アパレルや有名キャンプ場での企画を行ってきた実績を買われ全面プロデュースした。空間づくりからインテリア、商品選びだけでなく、ワークスペースではDIY指導を、またカフェではシェフとして調理も行うという多彩ぶりだ。
「富士市内には人が溜まる場所が少ない。
知り合い同志が仲を深めるのでも、古くから地元にいる人と新しくこの地域に来た人が交わるのでも、地元の人と観光客が交流をはかるのでも良い。人が集まる開けた場所でありたい」と話す。
倉庫リノベーションのDIYカフェ、と聞くとイマドキ感があって若者がターゲットかと思われがちだが、実際は、長くこの地に住むお年寄りたちがコーヒーとお喋りを楽しみながら長時間過ごしていたり、カフェに居合わせた60代と20代が意気投合して談笑していたり。
牧野氏自身も、リノベ中には近隣に住む方が道具を譲ってくれたり、ご近所のお年寄りに誘われて一緒に呑みに行くなど地域交流を深めているそう。
それにしても、大通り沿いにあるわけでも、駅近くにあるわけでもなく“目立たない場所”に存在している同施設。筆者は電車で向かったのだが、レトロ感が人気の富士のローカル線・岳南鉄道「吉原本町」駅を降り、古くからの家が建ち並ぶ住宅街に向かって歩くこと12分ほど。その街並みに違和感なく馴染むシンプルな佇まいの倉庫、それが【ランバーヤード】だった。
「製紙が栄えたこの街には倉庫も多く残っています。
初めてこの倉庫を見た時は暗い印象を抱いて戸惑いましたが、これも街の歴史でありカラーかなと。それを壊さず街に溶け込むことで、地域の方にも快く受け入れて頂けたのかもしれません。ちなみにここ、地域掃除の集合場所にもなってますから(笑)」(牧野氏)
街と建物の歴史を尊重し、受け入れた上で新たな風を吹き込むリノベ―ション事例。
魅力ある『ハコ』と『ソフト』が、この先も地域と人に幸せを運ぶことに期待を込めたい。
取材協力/LUMBER YARD
http://lumber-yard.jp
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