視察依頼の数が600!
~小泉進次郎政務官も視察。注目を集める小さなまちの「地方創生」モデル

岩手県紫波町…盛岡市と花巻市の間に位置する人口約33,800人のこのまちに、これまでに600を超える視察の依頼が殺到しているという。

視察依頼の目的は、紫波中央駅前に拡がるまちの開発事業とその取り組みについて。"成長"を意味する紫波の方言である「おがる」と、"駅"を意味するフランス語の「Gare(ガール)」の2つの言葉から「オガールプロジェクト」と冠された取り組みは、国の補助金に頼らない公民連携の地方創生モデルとして注目されている。

現在、紫波中央駅前には、図書館、産直マルシェ、子育て応援センター、カフェ、貸スタジオなどを備えた「オガールプラザ」、ホテルやバレーボール専用体育館を備える「オガールベース」、バーベキューなどを楽しめる「オガール広場」があり、町民のみならず今や年間で80万人が訪れる場所となっているのだ。

1997年、紫波町はまちの中心部紫波中央駅前の土地10.7ヘクタールの土地を、28.5億円で購入した。だが結局、その土地は開発できず費用がかさみ「日本一高い雪捨て場」と言われていたのである。そこからどうやって現在のような注目を集める公民連携の「地方創生モデル」となったのであろうか。

今回、紫波町役場にお願いし、政府から小泉進次郎政務官も視察したという「オガールプロジェクト」の取り組みを取材してきた。

紫波中央駅前に拡がるオガープラザとオガールベース紫波中央駅前に拡がるオガープラザとオガールベース

公民連携の仕組みを考えたブレーンの存在

案内をしてくださったのは、紫波町経営支援部企画課公民連携室長の鎌田千市さん。
「オガールプロジェクトは2009年に策定された"紫波町公民連携基本計画"に基づいて、公有地活用型PPP(Public Private Partnership)手法を採用しています。単に税金を使って大型の施設開発だけを行えば、成長期ならいざ知らず、少子高齢化がみえている現在では必ず失敗します。これでは、公民連携といっても民間投資は続きません。結果的に使われない施設や空き店舗が多くなり、大きな赤字を抱えている自治体も少なくないはずです。公共は施設を作り、民間はその施設を運用して儲けることが目的ですから、まずしっかりと経営的な目線を取り入れて計画しなければ持続できず、地域活性には寄与できません。公的な資金に頼るのではなく、民間金融機関のチェックを入れるスキームも大切でした」と語る。

その仕組みを紫波町と連携でつくりあげたブレーンの存在がオガールプロジェクトを昇華させた。
オガールプロジェクトの核となるオガールプラザ(株)とオガールベース(株)の代表取締役 岡崎正信氏は紫波町の出身であり、地域振興整備公団から建設省都市局都市政策課出向の経験もあり、行政経験と民間経験を併せ持つ。オガールプロジェクトのアドバイザーとなるデザイン会議には、プロデューサーとして(株)アフタヌーンソサエティの清水義次氏を迎え、委員には(株)アジールの佐藤直樹氏、(有)オンサイト計画設計事務所の長谷川浩己氏、(株)近代建築研究所の松永安光氏、(株)みかんぐみで東北芸術工科大学教授の竹内昌義氏が集まった。いずれも単なる論客や評論家でなく、実際にそれぞれの分野の一線で大きな成果をあげている人物たちである。

「この方々をデザイン会議のブレーンに迎えられたことでオガールプロジェクトは別次元になった、と実感しています。ディスカッションをするプロセスが非常に刺激的でした」と鎌田さんは語る。

徹底的な採算モデルを本気で考え、運用する
考え抜かれた活きる「公民連携のカタチ」

オガールベースのにある施設、バレーボール専用体育館オガールベースのにある施設、バレーボール専用体育館

オガールプロジェクトは民間目線で、金融機関のチェックを入れ、徹底的な採算モデルがデザインされている。例えば、施設…オガールベースでは日本初というバレーボール専用体育館を備えている。何故、サッカーや野球でなく“バレーボール”なのであろうか?

「バレーボールの専用体育館というと、意外にきこえるかもしれません。けれどもそこに特化することで、全国のバレーボールチームから問い合わせがくるんです。既に全日本ユースの合宿や全日本中学選抜の合宿が行われました。もちろんバレーボール以外にも用途はあるわけですが、バレーボール専用という確実にライバルが少ない施設としたことで、高稼働率を実現することができました」という。
施設建築の費用も徹底的にコストコントロールがされていた。オガールベースのバレーボール専用体育館の壁は、よく見ると石膏ボードが貼られたままになっている。また、床は特殊なバレーボール用のものだが、メーカーとのタイアップで比較的安価に抑えられたという。「例えばオガールベースの建築費用は、木造建築にすることでコストをおさえられ、減価償却期間も短くて済んでいます」併設された宿泊施設オガールインには、通常の宿泊者向けのビジネスユースだけでなく、合宿プランもあり、利用者を考えられて設計されている。

また、オガールプラザでは町民に開放している図書館や会議室、貸スタジオなどを中心に据える。そして、その施設に集う人々に向けてカフェなどの飲食店舗、子育て応援センター、産直マルシェが配置されている。マルシェには図書館で借りられるレシピ本の紹介がされたり、図書館には貸スタジオを借りている人に好評だという様々な楽器用の楽譜が並ぶ。
図書館を預かる工藤さんは、「単に本を借りるだけでなく、“本を借りるという動機”を通じて、紫波町の活性化につなげていきたいと思っています。紫波は米と果物が産物ですから、農業の本の特別コーナーを設けていますし、農家の若者たちが集う意見交換会なども行っています。“夜のとしょかん”と題してさまざまなテーマでディスカッションを行う取り組みもしています。お陰様で当初の入館目標は10万人だったのですが、30万人を超える利用者にお使いいただいています」という。

施設の希少性、差別化、人の流れのつくり方…どの取り組みも"たまたま"ではない。トレンドや景気に左右されやすいショッピングや飲食店などの商業施設を人集めの中心に置くのではない。消費目的の施設を中心に置くことは、人口減少の今、ネット通販や大型ショッピングモールに負けてしまう。だからこそ、公共だからできる"人が集まる施設"の周りにストーリーのある商業施設や附帯施設を付けていく。施設設計の最初から、モデルに組み込まれた"それぞれがあるべき理由が明確にある、採算のとれる仕組み"なのである。

紫波町のビジョンを体現した「まちづくり」がオガールプロジェクトのベース

民間視点の採算化・効率化だけでない。オガールプロジェクトには、公の部分の「われわれのまちづくりはこうあるべき」という紫波町のビジョンが随所に具現化されている。

ベースにあるのは、2000年6月に発表された「新世紀未来宣言」。“(前略)…モノを大切にするこころ、生命を育むこころ、郷土の文化と伝統を伝えていくこころを百年後にも引きついでいきます。そして紫波の環境を百年後の子どもたちに、よりよい姿で残し伝えていきます。”と発表された宣言を機に町民の環境に対する機運が高まり、2001年6月に「紫波町循環型まちづくり条例」が制定された。「循環型まちづくり」とは、3つの資源循環を基本としている。①有機資源循環→農業を産業とする紫波町の元気な土づくり、地産地消の推進 ②森林資源循環→町産木材を利用した公共施設・住宅の建築など ③無機資源循環→焼却ごみの削減など である。
実際にオガールプラザ、オガールベースには町産木材が利用されており、住宅地であるオガールタウンの住宅には町産木材の端材である木質チップを利用した暖房・給湯システムが採用されている。

オガールプロジェクトは、前出の2009年に策定された"紫波町公民連携基本計画"に記された理念「都市と農村の暮らしを“愉しみ”、環境や景観に配慮したまちづくりを表現する場にします。」に基づき、またその考え方「まち中心部のにぎわいがまち全体へ波及し、中心部と各地域のつながりを重視した、持続的に発展するまちを目指します。」に沿って、デザインされている。

紫波町のビジョンを体現した「まちづくり」がオガールプロジェクトのベースである。

できたのは「本当に使われる施設」
まちを大切に思い、愛する人々が増えていく

いままでの補助金をあてにした公共開発は、将来持続的に発生するランニングコストや稼働率の見積もりが甘い事業計画になり、空きテナントが目立つ建物ができ、結果的に維持管理費が財政負担となり失敗するケースが多かった。オガールプロジェクトは、テナントの先付により見込み収入を計算し、そこから逆算して建築・維持費を出している。民間の融資を基に厳しく審査された施設をしっかり運用し、集客率を高め、そこから得る収益を税収として維持管理費に充て、実質の町負担をゼロにし、収益の生める公共施設を現実とした。まさに公と民が共助(win-win)の関係となり、持続性のある循環型社会ができあがった。

こうしてできた施設と仕組み…しかしそこにオガールの本当のすごさである、“魂(たましい)” を入れたのは人々である。

オガールプラザにつくられた公共施設部分では、町民によって様々なイベントや勉強会、セミナーがさかんに行われていた。使いやすく集まりやすい公共施設が集客装置となり、安定した交流人口が生まれている。図書館でのイベントや紫波マルシェなどの産直マーケットに町民自らがアイディアを出し、実際に関わって実行していく。オガールベースでも、全日本代表に選ばれたバレーボールの有名選手をスタッフとして迎え、一緒に施設を運用している。取材した日は土曜日であったが、案内いただいた鎌田さんをはじめ、町役場の人々が町民の行っている勉強会に参加し、活発なディスカッションを行っていた。
まちに住み、自らまちづくりに関わることで、まちを大切に思い、愛する人々が増えていっているのである。

紫波町のオガールプロジェクトを通じて、まちづくり・地域活性は公主導でも民主導でもなく「持続可能な優れた仕組み」と、なにより「本気でまちを思い、愛する人々」であると感じた。またその人々が「自ら関わるプロセス」も大きな要素である、と実感した取材であった。

オガールプラザの中心にある図書館。紫波町の産業である農業関連の本や紫波町の歴史の本なども揃う。</br>左から工藤さん、手塚さん、藤原さんオガールプラザの中心にある図書館。紫波町の産業である農業関連の本や紫波町の歴史の本なども揃う。
左から工藤さん、手塚さん、藤原さん

2015年 05月11日 10時56分