コロナの影響でシュリンクした不動産セクターは?

4月の緊急事態宣言発出によって、感染防止の観点から海外からの観光客やビジネス渡航者の入国を事実上シャットアウトしたことにより、ホテル・旅館などの観光業不動産セクターは大打撃を被り、民泊施設も含めて倒産や廃業が相次いだことは記憶に新しい。

また、比較的コロナの影響を受けにくいのではないかといわれていたオフィス・マーケットも、働き方改革が半ば強制的に進捗してテレワークやサテライトオフィスの設置などの対応策を講じることにより、常に全従業員をオフィス内に収容する必要がなくなったことで床面積を縮小する動きや、郊外または地方圏への移転によってコストを引き下げる動き、さらにはすぐには解約できないオフィス床を他の事業者に“また貸し”する動きまでがみられるようになった。一部のオフィスでは賃料を下方修正することで移転を思い留まるように説得するなどの対応に迫られている。

事業用不動産サービス大手のCBREの調査によれば、需要の弱含みによって東京および大阪のオフィス空室率は0.1~0.2ポイント程度上昇しており、成約賃料も東京では下落傾向、大阪では横ばい推移する状況であり、ホテルなどの観光業だけでなく、オフィス・マーケットにおいてもコロナの影響は避けられないようだ。企業業績の悪化が懸念されるのはむしろこれからであり、オフィス再編についてもこれから新たな動きが起きるものと考えている。

テレワークが今後定着するか否かはまさしくコロナ次第というところだが、オフィス床の縮小や交通費、オフィス光熱費など企業を運営する上で必要不可欠な固定費を大幅に削ることができるとなれば、仮にコロナ禍で業績が悪化しても収益構造自体は改善する余地があるため、テレワークの定着および広がりは今後本格化する前提で考えておくべき事象といえそうだ。

コロナの影響を受けなかった、もしくは業況が拡大した不動産セクターもある

物流や倉庫はコロナ禍のステイホーム需要による市場が拡大物流や倉庫はコロナ禍のステイホーム需要による市場が拡大

反対に、コロナの影響を受けていない、もしくはコロナ禍で生活様式が変化したことによって業績が拡大した不動産セクターもある。

筆頭にあげられるのは物流や倉庫だ。
このセクターは移動の自粛による“巣ごもり消費”の拡大を受けて、物品の配送業務が急増し、業況が拡大している。コロナ以前は大消費地である都市圏への配送が効率的に実施できる物流の仕組みが構築されていたのだが、コロナ禍によって都市の規模にかかわらず多くのオンライン・ショッピングやTVショッピングの需要での物流量が新たに生まれ、配送網の再整備・強化と物流の拠点である倉庫や配送センターなどの設置が急務となったことがその要因である。実際に大きなインターチェンジの周辺や街道が交差する地域で相応に広さがあるところは、この数ケ月で次々と倉庫や配送センター、取次センターに変わっており、物流はコロナによって市場が拡大したセクターといえるだろう。

住宅関連で業績が安定、拡大しているのが、リフォーム、リノベーションである。
住宅買い替え需要がコロナの影響で停滞する代わりに伸びているのがリフォーム業界だから、これもコロナの影響とみるべきだろう。住宅売却を延期・中止して、テレワーク用のスペースを作ったり子どもの勉強スペースを設けたりするなど、「働き方」を変えることによる生活の変化に対応するため、間取りを変更するケースなどが増えている。特に100万円以上のリフォームについては住宅ローン減税と同様に控除の対象(工事後の床面積が50m2以上であることなど詳細な条件がある)となることもリフォームに需要が向かう要因の一つと考えられる。現在の住宅ローン控除は自らが住む「新築住宅の購入」および「中古住宅のリフォーム」を対象としており、条件さえ満たせば13年にも及ぶリフォームローンの控除が受けられるため、需要を喚起している側面もあると考えられる。

2020年4月に発出された緊急事態宣言以降、新築マンション分譲は急減

緊急事態宣言以降、新築マンション分譲は急減した緊急事態宣言以降、新築マンション分譲は急減した

住宅セクターに目を向けると、4月に緊急事態宣言が発出されて以降、新築マンションは毎月の新規販売戸数が漸減し、2019年末から年明けにかけて月間3,000戸超の販売水準で安定推移していた首都圏では5月には僅か393戸(前年同月比―82.2%)にとどまり、6月以降も1,500戸~2,000戸超の水準で低迷している(不動産経済研究所調べ)。

これは、購入希望者がモデルルームに来場しなくなったというよりも(もちろんそれもあるが)、販売側の感染防止対策がマニュアルの作成も含めて徹底できておらず、モデルルームの閉鎖=事実上の販売中止を余儀なくされたことが大きく影響している。
夏以降はオンラインでの説明会開催やオンライン・モデルルームの開設、ソーシャル・ディスタンスの確保や検温・手指消毒などの対策を実施したうえでの実際のモデルルーム開場(完全予約制のところが圧倒的多数を占める)などによって少しずつ販売戸数を戻しているが、来場者の数自体もやや低迷しており、コロナ以前の販売水準に戻すには相応の時間がかかりそうだ。マンション建設も一時中断していた現場が多数あり、引き渡し時期の変更をせざるを得ないケースも散見される。

また、首都圏では都心を含む23区内の販売戸数が戻らない割に、周辺の都下、神奈川県内などで供給が回復してきており、特に感染者数が比較的少ない千葉県および埼玉県では前年比で2倍前後の供給が行われるなど、明らかに「都心から郊外へ」という動きが発生しているように見える。

中古市場への影響は限定的

一方の中古マンションは、各都市圏で一時的に市場流通価格の下落傾向が示されたものの、新築分譲が減少したことも手伝って需要は堅調に推移しており、売り物件の減少によってむしろ価格は若干上昇する基調にある。
また、新築分譲と同様に郊外エリアでの中古マンションや中古戸建に対する問合せは明らかに増加しており、中古流通においても郊外物件の売れ行き好調との情報が伝わってくる状況である。現状では大きなトレンドとなってはいないが、今後新型コロナの影響が冬に向かって再び拡大するようなことがあれば、郊外における住宅需要は在宅勤務やサテライトオフィスの設置、企業の移転などの状況次第で顕在化していく可能性がある。

中古マンションだけでなく、戸建てへの需要が顕在化する可能性も指摘しておきたい。仮に住宅需要が郊外化することになると、都心や近郊エリアに比べればマンションの割合が相応に低下し、広めの住宅を選択できるようにもなるため、相対的に戸建てを選ぶ購入希望者も増えることが考えられる。

実際に筆者が知りえた賃貸マンションから郊外の戸建てを購入して転居したケースでは、物理的に部屋数が増えたことでワーキングスペースを確保することができ、仕事と家庭を無理なく両立させられるというポジティブな感想を聞くことができた。
働き方が変わって毎日通勤する必要がなくなれば、住み方や住む場所も変わるということになっていくのは、ある意味必然的な流れなのかもしれない。

コロナの影響を等しく受けても、購入派と賃貸派の考え方は異なる

コロナの影響は日頃の行動パターンや移動・消費・飲食にとどまらず余暇の過ごし方や教育方針など生活のあらゆる局面に及んでいるが、住宅に対する考え方も例外ではない。

例えば、LIFULL HOME’Sが緊急実施した「コロナ禍での借りて住みたい街ランキング(首都圏版)」では、賃貸ユーザーがどのエリアにある物件に問合せを行ったかというリアルな数値を基にランキングを集計した結果(よくあるアンケート調査ではない)、1位の「本厚木」を筆頭に「大宮」「千葉」「八王子」「津田沼」「立川」「八潮」「平塚」など、準近郊~郊外に属するエリアの街(駅)が多数上位に登場した。これは問合せ数から集計したランキングで、このうち実際に郊外に転居したケースというのは決して多くはなかったが、それでも郊外に転居したい、若しくは転居することをイメージして問合せを多数行っていることを考慮すれば、賃貸ユーザーにおいては上記に示したコロナの影響による「居住エリアの郊外化」は十分起こり得るシナリオということになるだろう。

ちなみに4年連続して1位を獲得していた「池袋」は、今回の緊急調査では5位に後退している。このことからも、都心に住みたいと考える賃貸ユーザーはコロナ以前から減少傾向にあるとみてよいだろう。利便性を取るか、感染リスクを少しでも下げるか、ユーザーは冷静に判断しているようだ。

これが住宅の購入希望者となると傾向は大きく異なってくる。
同じくLIFULL HOME’Sが実施した「コロナ禍での買って住みたい街ランキング(首都圏版)」によれば、1位は前回調査と同様に「勝どき」で、以下「白金高輪」「中目黒」「目黒」「牛込柳町」など都心の住宅地が上位に並んでおり、コロナの影響は賃貸ユーザーほど大きくない。むしろコロナに関わりなく都心居住を積極的に選択しているように見受けられる。
当然のことながら、賃貸居住と違って一度購入してしまえば売却して住み替えることは難しいから、コロナの影響が長期化するならばともかく、現状の購入に関する選択肢は依然として生活や移動に便利な都心・近郊との意向になるものと考えられる。実際に都心に居住すれば、徒歩や自転車などを使って通勤・通学することも可能で、公共交通機関を使わずに感染リスクを下げられるという意識も働いているようだ。また、上記に名前の挙がったエリアはいずれもここ1~2年でマンション開発が活発に行われているところが多く、需要が喚起されることによって買って住みたいのは街というよりは物件そのものとみるべきだろう。新築マンションに関していえば、鶏が先か卵が先かは常に決まっているのである。

ただし、このランキングでもコロナの影響を垣間見ることはできる。
それは、これまでランキング上位の常連だった「恵比寿」や「横浜」が15位、17位と大きくランクダウンしており、また4位に「北浦和」、5位「本厚木」、6位「八王子」、8位「柏」、10位「朝霞」など準近郊に位置するエリアがランキング上位に登場していることだ。
つまり賃貸ユーザーほど居住意向は郊外化していないが、同じ首都圏内でも比較的郊外に属するエリアで、かつ都心へのアクセスが良好なところに注目していることが窺われる結果である。一方では変わらず都心・近郊の利便性に優れた&将来の資産性にも期待できるエリアでの生活を想定し、また一方では通勤・通学に支障がなく安心して生活できる準近郊のベッドタウンに注目するユーザーもいるということになる。一言で言えば、ニーズの二極分化ということになるだろうが、コロナによって今一度どこに住むか、何に住むかを真剣に考え始めたユーザーが増えていることだけは確かなようだ。

コロナの影響による生活様式の変化で、居住エリアの郊外化をイメージする者もいれば、変わらず利便性最優先の生活を前提とする者もいる。新型コロナの感染拡大はその危機意識の違い、コロナ感染に対する受け止め方の違いによって、居住エリアを変えるか変えないかの選択を迫りつつあるのかもしれない。これまで利便性最優先で販売を続けてきた住宅産業も、自然災害が多発するだけでなくコロナ感染にも何らかの対応策が必要な状況となれば、利便性に加えて安全性や安心感をユーザーに対して具体的にどのように提供していくかが問われることになるだろう。

「コロナ禍での借りて住みたい街ランキング(首都圏版)」の一位となった本厚木「コロナ禍での借りて住みたい街ランキング(首都圏版)」の一位となった本厚木

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