大規模災害時における応急仮設住宅としての民間賃貸住宅の活用

6月28日から7月8日頃にかけて西日本各地を襲った記録的な集中豪雨は、死者は200名以上、家屋の全壊戸数は3,000棟を超えるという、被害の広域性や、被害の規模の面でこれまでに例をみないものとなった(「平成30年7月豪雨による災害」)。

政府は7月11日の時点で被害が甚大な岡山県、広島県をはじめ、8府県58市37町4村に災害救助法の適用を決定し、それに伴い該当府県に対し、避難所で生活している被災者が速やかに移れるよう「応急仮設住宅」の確保のための指示を出した。「応急仮設住宅」は二種類あり、「応急建設住宅(建設仮設住宅)」と民間賃貸住宅を借り上げて提供する「応急借上げ住宅(みなし仮設住宅)」がある。

今回の災害では、入居手続きの迅速化を図るために「住宅の被害が半壊であっても、住宅として再利用できない場合は、内閣府との協議なく、府県の判断により応急仮設住宅への入居が可能」とし、「応急借上げ住宅」において国庫負担する対象経費も、家賃、共益費、敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料、管理費、入居時の鍵交換費と明確化した。

大規模災害時における不動産協会の役割

筆者が所属する全宅連の47都道府県協会では、既に各都道府県と「災害時における民間賃貸住宅の被災者への提供等に関する協定書」を締結し、賃貸住宅の情報提供と斡旋仲介すること等を取り決めている。

応急借上げ住宅の供給の仕方は、“各都道府県が自ら物件を借上げ被災者に提供するマッチング方式”と、“被災者が自ら探して入居を希望する物件を各都道府県が借上げる方式”がある。通常の災害の場合前者の方式がとられるが、今回は必要数が多いことから岡山県などは後者を採用している。

被災者が自らさがす方式では、宅建業者が各都道府県から出された住宅の条件(耐震基準、標準的な世帯人数や賃料の上限、経費の負担ルール等)に合致する賃貸住宅の状況を確認し、物件所有者に意向確認を行う。応急借上げ住宅として提供確認がとれればその物件情報を被災者に提供し、市町村を通じて申し込みが入ると宅建業者が仲介し、各都道府県が借主となり、所有者と被災者(入居者)の3者による定期建物賃貸借契約を結ぶ。また、事務手続きが煩雑なことから被災者の入退去手続や家賃の支払い等の業務はほとんどの場合宅建業者が行う。

応急借上げ住宅供与方式(被災者自らが探す方式):㈱価値総合研究所作成応急借上げ住宅供与方式(被災者自らが探す方式):㈱価値総合研究所作成

宅建業者も被災者。手探り状態の中で住宅の提供に取り組む

平成23年の「東日本大震災」時の対応について、宮城県宅建協会の役員と協会職員にヒアリングをしたことがある。

「震災翌日から県との協定に基づき会員から物件情報を集め県に提出しましたが、連携が上手くいかず情報が生かせられなかったことから、業界3団体が窓口となり、仙台市が借上げた住宅を被災者に対してマッチング作業を開始。長引く避難生活で疲労もピークに達していた被災者からの要望も非常に高くなり、電話での対応は困難で根気のいる作業でした。その後被災者が自ら探す方式が導入されると急激に申込が増え、さらに自主避難者への遡及家賃の適用も決まるとその数は最終的には26,000件を超えました。しかし制度に対する宅建業者への周知の徹底が困難だったことや、自治体も十分対応しきれず窓口には苦情が殺到しました。さらに想像を絶する量が集中したことから申請書類等の不備が続出、家賃等のデータ作成が間に合わず家賃の支払いが滞った物件もあり、宅建業者が肩代わりしたケースもあります」。

宅建業者自身も被災者でありながらその職務を果たすべく、入居者の安否確認や管理物件の状況確認、応急借上げ住宅の斡旋など、手探りの中で対応したその大変さは想像を超えるものだったと思われる。

長年培ってきた地域のコミュニティを維持させる

「平成28年熊本地震」における対応で印象的だったのは、地域コミュニティを守るために果たした役割だ。(有)ライフプラニング代表の内田敏則氏は、阿蘇郡西原村の布田地区の区長でもあることから

「地震翌日には重機とオペレーターを地区で雇い、入口確保、道路の応急補修、危険な屋根の養生等を行いました。村では既に地震による被害を想定し全村民参加型の『発災対応型防災訓練』を行っており、それが役に立ちました。大切畑地区では倒壊した建物に9名が閉じ込められましたが、“この下あたりにおばあちゃんが寝ているはずだ”と見当がつき、消防隊と協力して屋根から穴をあけて全員救助することができました。この地域は昔から清掃や野焼きなどを一緒にやっており、住人同士がお互いの家の間取りまでわかっているような親しい関係でした」。

そのような経験から、震災によってこのコミュニティがバラバラになることを避けるべく、村の再建にあたっては避難所を回り直接個人の意思確認を行なうと共に、再生委員会を立ち上げ全員で地域のあり方について検討を開始した。また地区祭りなどを開催し、避難している人々が一堂に会する交流の場も設けた。
その結果、115世帯のうち105世帯が今後も村に残ると意思表示したそうだ。

大切畑地区の倒壊家屋救出現場大切畑地区の倒壊家屋救出現場

大規模災害は日本のどこにでも起こりうる

震災対応マニュアル震災対応マニュアル

地震や豪雨による大規模な災害は今や日本全国どこでも起こりうるようになった。私たち宅建業者は日頃からどのような準備をしておかなくてはならないのだろうか?

協会としては各自治体と事前の話し合いをしておくと良いだろう。山梨県宅建協会では、災害救助法は各都道府県が運用するが、実際の被災者への対応は各市町村が行うことから、協会役員が13市町に赴き、災害時に行う被災者への協力活動について市町村の担当者と細かい項目について定期的な話し合いを始めている。「防災の日」などを活用した模擬訓練の実施なども有効な方法だ。

宮城県宅建協会では平成28年に「不動産業者・管理業者のための震災対応マニュアル」を作成した。これには、1,500社の会員の震災時の体験を全て収集し、その経験を踏まえ、非常時の連絡体制の構築、外構や設備の地震対策、対応書式の準備、震災発生直後の移動・通信手段の確保、安否確認や物件の状況確認の方法、その後の物件の危険度の判定方法や、貸主・借主の死亡時の対応、復旧工事の手配、被災者支援制度の紹介など、どの時期にどのような準備と対応が必要なのかについて克明に記載されている。

全ての宅建業者はこのマニュアルを熟読し、災害に備えた準備を今から始めて欲しいと思う。

【参考資料】
・大規模災害時等における被災者への住まい確保方策に関する調査研究報告書
 協会の協定書の雛形や、平成16年中越地震、平成23年東日本大震災の際の対応等に関する報告書

・大規模災害時におけるチェックリスト
 災害に備えた事前準備のためのチェックリスト

・民間賃貸住宅での入居のしおり
 応急借り上げ住宅には初めて賃貸住宅に入る方が多いので入居時にこのしおりが便利

・東日本大震災から学ぶ!不動産業者・管理業者のための震災対応マニュアル
 マニュアルの入手先

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