20年間に及ぶ精神障がい者への住まい探し

岡山県の阪井土地開発株式会社の阪井ひとみ社長は、20年ほど前から精神障がい者をはじめ社会的支援が必要な人たちが地域で暮らしていけるよう賃貸住宅の斡旋を行っている。

これまで、延べ1,000人以上の入居支援を行い、今でも約450人以上の支援をしている。阪井さんが最初に出会った心の病の方は、入居者の1人だった上場企業の支店長で、その方が精神科の病院に入ったところ、後日病院から入院患者の退院後の住居斡旋を頼まれたそうだ。それを機に精神障がい者を中心に住まい探しを始めたが、その実態を目の当りにすると驚くことばかりだったという。

「当時はまだ今より偏見も強く、社会的弱者のために部屋を貸してくれる家主は多くありませんでした。そのため彼らは、一度退去すると住所がなくなってしまうという恐れから、部屋とは名ばかりのとても人が住めないような劣悪な環境での生活を我慢していたのです」。

本人の生き方を尊重し、自分らしい生き方を支援する

サクラソウの外観サクラソウの外観

そこで阪井さんは、自分だけの時間が持て、自分らしく生きることが可能な住宅を斡旋し、生活支援をすることで精神障がい者の自立をサポートすることにした。

物件は阪井さん自身がサポートするからということでオーナーを説得し、さらに恒常的に住宅を確保するために一般の居住者と混在型の「サクラソウ」(総戸数54戸)や長期入院者のための「トキワソウ」(同16戸)といった物件を自ら購入。また最近は、学生向けのアパートで大学の市内回帰などで空室が埋まらなくなった物件なども何棟か購入し、緊急避難用のシェルター付きシェアハウス「あおば」(同27戸)や、生活保護を受けず自立して暮らす方のために月1万円の家賃のシェアハウス「てぃーだ」(同20戸)などとして運営している。

その結果、立地も市内から市外まで、住宅のバリエーションもいろいろ用意することができるようになった。

「社会的弱者も自分が住みたいところが自由に選べるようにすべきです。私たち不動産会社は、本人の生き方をできるだけ尊重し、どこに住みたいか、どんな家がいいのかを聞き、本人と一緒に伴走しながら住まい選びを考えていくことが重要です」。 

本人にふさわしいネットワークを組んで対応する

実務面では、入居希望者と申込時に1時間以上かけてインタビューをし、その人にあった物件を考えるとともに、医師や弁護士、福祉関係者や行政などと協力し、本人や家族・親族との対話から“その人にふさわしいネットワーク”を形成し、日常的に入居者をサポートする体制を整える。

「一般的に精神障がい者の生活支援は、母親やヘルパー、病院などが行いますが、私たちの場合は八百屋のご主人やコンビニの店長が加わることもあります。入居者本人が頼りやすい“止まり木”をたくさんつくることで暮らしやすくなります。だから450の入居者には450通りのネットワークがあり、地域で連携することで社会的弱者に対する不安や偏見も解消していくのです」。

一方で入居者にも社会の一員として“当たり前のこと”を求める。
「町内会費は必ず払う、地域の清掃を行う、選挙に行くことも勧めています。地域の人間になることで社会の中で暮らし続けることができると考えています」。

支援のネットワーク図支援のネットワーク図

新たな事業展開

阪井さんは新たな事業展開も始めている。2015年には精神障がい者が暮らしやすい地域づくりを進めるため、「NPO法人おかやまUFE」を立ち上げ、精神疾患のある本人や家族が気軽に集まり困りごとを打ち明けられる居場所として「よるカフェうてんて」などの取組を始めた。
さらに2017年には、岡山県に約14万戸ある空き家の活用と住宅確保要配慮者の住まいの確保を支援するための総合相談窓口として「住まいと暮らしのサポートセンターおかやま」(すまサポおかやま)を開設。また「株式会社かいしゃ」も立ち上げた。

「住宅が確保され生活が安定すると、次は働こうと考えます。しかし履歴書に空白の期間があり、精神科に入院していたとわかると一般の会社には就職しにくいですし、ハローワークに行っても作業所を紹介されるだけです。そこで就職斡旋会社を立ち上げ、仕事を探すことにしました」。

それだけでなく、精神医療の歴史を知るための資料館を作った。
その理由は「精神の病気のことをもっと知ってもらわないと理解が進まず、恥ずかしいとか隠そうということにつながります。やはり、歴史の中で精神障がい者がどのような生活をし、社会から排除されてきたのかについて知ることで、虐げられてきた人たちの社会の現実について私たちはちゃんと向き合う必要があると思います」。

よるカフェうてんてよるカフェうてんて

不動産ビジネスとしても持続的な取り組みにする

物件の収支では、最近取得した「あおば」は取得費と改修費含めて数千万円、「てぃーだ」は改修費だけで1,000万円以上かかったが、どちらも単純利回りで10%以上で回っているとのこと。

「社会的弱者に対して住宅を提供することは決してボランティアではなく、不動産のビジネスとして立派に成り立つ仕事です。今では岡山県内からも私の後に続いてくれる若い不動産会社が何社もでてきました」。

最後に阪井さんからとても印象的な話をしてもらった。
「ホームレスのおじさんに1ヶ月の収入を聞くと、空き缶の収集で5万円くらいとのこと。そこから1日1,000円で生活したとすると生活費が3万円。“残りの2万円で畳の上で住めるのなら、そりゃありがたい”と言われたので1万円で入れる部屋を探しました。その後、そこに入居した人たちは住所ができたので履歴書を書くことができ、そこからいろいろなところへ就職できるようになりました。まさにその家が社会にでるための入口になったと感じました」。

■阪井土地開発株式会社 関連リンク
阪井土地開発株式会社
http://www.sakaitotikaihatu.jp/

NPO法人おかやまUFE 「住まいと暮らしのサポートセンターおかやま(すまサポおかやま)」
http://utenti.click/

株式会社かいしゃ
http://かいしゃ.biz/

NPOおかやまUEFの相談体制NPOおかやまUEFの相談体制

2018年 11月19日 11時00分