移住者数、過去最高を記録した静岡県

2022年度の静岡県の移住者数は2,634人と、過去最高を記録したという(※)。2018年度の移住者数1,291人から右肩上がりで伸びており、4年で倍以上になった計算だ。年代別に見ると、20代が34.3%、30代が32.0%、40代が17.3%を占め、働きざかりの世代が移住者の中心となっている。また、移住相談件数も上昇傾向で、2018年度には9,981件だったものが、2022年度には13,496件となっている。
※静岡県 くらし・環境部調べ(県や市の移住相談窓口、移住促進施策を利用して県外から移住した人を対象)

静岡県発表「2022年度 移住者数・移住相談件数」によれば、移住者を年代別にみると20~40代の子育て世帯が全体の8割以上を占め、県外からの移住者数が多い自治体は浜松市、静岡市、沼津市、富士市となっている静岡県発表「2022年度 移住者数・移住相談件数」によれば、移住者を年代別にみると20~40代の子育て世帯が全体の8割以上を占め、県外からの移住者数が多い自治体は浜松市、静岡市、沼津市、富士市となっている

地方都市への移住先として、静岡県を思い浮かべる人は多いだろう。認定NPO法人ふるさと回帰支援センターの調査による「2023年 移住希望地ランキング」では、静岡県は1位にランクインしていた。
静岡県に人が集まる背景には、都心からのアクセスのよさや、豊かな自然環境なども当然あるであろうが、移住者獲得に向けた独自の取り組みも功を奏しているようだ。
静岡県は現在、移住者の一歩手前、いわゆる関係人口の創出に力を入れている。静岡県の関係人口情報サイト「SHIZUOKA YELL STATION」を運営する静岡県 政策推進局 総合政策課の橋本 貴史さんと藤田 昂亮さんに取り組みの概要を伺った。

関係人口情報サイト「SHIZUOKA YELL STATION」が生まれた背景

「SHIZUOKA YELL STATION」を運営する橋本さん(左)と、藤田さん(右)。登録団体の開拓や訪問相談、プロジェクトの審査確認なども担っている「SHIZUOKA YELL STATION」を運営する橋本さん(左)と、藤田さん(右)。登録団体の開拓や訪問相談、プロジェクトの審査確認なども担っている

「SHIZUOKA YELL STATION」とは、静岡県で地域活動を行う企業や団体と、静岡県に関する活動に興味がある個人や企業、大学等をつなぐマッチングプラットフォームである。サイト運営は県が担っている。
サイト内の「募集中のプロジェクト」や「団体を調べる」から検索すると、静岡県内で行われているさまざまな活動や団体の情報が表示される。キーワードやカテゴリーで絞ることもできる。気になる活動や団体が見つかったら、参加申込フォームから連絡し、気軽に実際の活動に参加できる仕組みだ。
2020年に立ち上げられたそうだが、どのような背景で生まれたのだろうか。

橋本さん「県外から静岡県への移住者数は年々増えているものの、高齢化や若い世代の県外への人口流出などで、静岡県全体では人口減少が続いています。地域活動の担い手や事業の後継者がどんどんいなくなってしまう中で、政策として何か手が打てないかということで、関係人口を増やしていくための取り組みを企画しました。
もちろん移住者を増やしたいですが、“いきなり移住”というとやはりハードルが高いですから、まずは住むまではいかずとも、地域に通ってくれる人、頻繁に訪れて関わってくれる人、いわゆる関係人口を増やしていく方針になりました。県外の方が関わってくれることで、地域の活性化や、今行っている活動の維持にもつながるだうと。関係人口を取り込むために、『SHIZUOKA YELL STATION』という情報発信サイトを立ち上げました」

「SHIZUOKA YELL STATION」を運営する橋本さん(左)と、藤田さん(右)。登録団体の開拓や訪問相談、プロジェクトの審査確認なども担っている「SHIZUOKA YELL STATION」のトップ画面。地域に関わりたい、社会貢献したい個人や企業、大学等と、静岡県内の地域活動団体を結ぶ場所となっている

その地域のことをよく知らないまま移り住むのは、ミスマッチが起こりやすい。すでに何度も地域との関わりを持った状態で移住すれば、定住につながりやすくなるだろう。

橋本さんは「静岡県が調査した移住者を対象としたアンケートによれば、移住者がいきなり静岡に移住したのではなく、事前に何かしらの形で地域との関係性を持っている方が多いようなんです。そこで、いつか移住を検討する際に静岡県を選んでもらえるように、移住検討層の裾野を拡大するためのに、静岡県に関係を持ってくれる人を増やすことがこのサイトの狙いです」と語る。

富士山、川、海、茶畑、映画祭など、静岡ならではの多様なプロジェクト

「SHIZUOKA YELL STATION」にはどのようなプロジェクトが登録されているのだろうか。静岡らしいプロジェクトや注目の活動があるかを伺ったが、「幅広いプロジェクトがあること」こそが“静岡らしい”という。

「静岡らしいプロジェクトとはなんだろうなってちょっと考えたんですけど、静岡は一言で語れないのがいいところだろうと思います。日本一高い富士山があって、一級河川の天竜川や大井川、南に行けば海もあって、都市部や里山、茶畑もあって、多種多様な要素や魅力がある地域というのが、そのまま登録プロジェクト一覧にも表れています。
登録いただくプロジェクトは本当に多様です。富士山の自然環境保全の取り組みですとか、海や湖でのゴミ拾い活動、棚田の保全活動、農作業、里山再生事業、放置竹林対策の取り組みなどもありますね。カフェでのコミュニティ活動、熱海では映画祭、スポーツ振興など、幅広く文化的なプロジェクトもありますね」

さまざまなプロジェクトが掲載されている。取材時には「里山づくりプロジェクト」「富士山南東斜面の自然環境調査」「県有地有度山北麓里山林再生ゾーン、谷田地区竹林帯森づくり計画」「第5回 熱海怪獣映画祭」「富士市・富士宮市出身大学生によるコミュニケーションサークル『DOKYO RADIO』参加者募集!」といったプロジェクトが参加者を募集していたさまざまなプロジェクトが掲載されている。取材時には「里山づくりプロジェクト」「富士山南東斜面の自然環境調査」「県有地有度山北麓里山林再生ゾーン、谷田地区竹林帯森づくり計画」「第5回 熱海怪獣映画祭」「富士市・富士宮市出身大学生によるコミュニケーションサークル『DOKYO RADIO』参加者募集!」といったプロジェクトが参加者を募集していた

橋本さんの言うように、サイトにはさまざまなプロジェクトが並んでいる。自分に合う活動が見つかるよう、いくつかの質問に回答することでプロジェクトとの相性が分かる「適性診断」ができる機能もあるという。

「静岡県の総合計画では、2025年度には関係人口を2万人に増やすことを目標に掲げています。2023年度の実績は1万9,020人でした。さらに関係人口が増えるきっかけを提供できるよう、『SHIZUOKA YELL STATION』では、毎年100件程度のプロジェクトが登録されている状況です」

2020年のサイトオープンから関わりのある団体も増え、団体登録数としては、企業や大学、任意団体も含め141団体にものぼるという。登録団体はどのように増やしているのだろうか。

「まだまだサイトの認知も少ないので、地域活動を行っているさまざまな団体を私たちで地道に訪問しています。市や町とも連携して訪問先を広げて、サイトのコンセプトや事業の狙いを伝えています。登録団体が増えないと利用者も増えないですからね」

さまざまなプロジェクトが掲載されている。取材時には「里山づくりプロジェクト」「富士山南東斜面の自然環境調査」「県有地有度山北麓里山林再生ゾーン、谷田地区竹林帯森づくり計画」「第5回 熱海怪獣映画祭」「富士市・富士宮市出身大学生によるコミュニケーションサークル『DOKYO RADIO』参加者募集!」といったプロジェクトが参加者を募集していた登録団体の過去の活動例:NPO法人伊豆・田んぼプロジェクトによる「お米づくりの楽しさと食の大切さを発信! 伊豆の田んぼで稲作体験」(伊豆市)
さまざまなプロジェクトが掲載されている。取材時には「里山づくりプロジェクト」「富士山南東斜面の自然環境調査」「県有地有度山北麓里山林再生ゾーン、谷田地区竹林帯森づくり計画」「第5回 熱海怪獣映画祭」「富士市・富士宮市出身大学生によるコミュニケーションサークル『DOKYO RADIO』参加者募集!」といったプロジェクトが参加者を募集していた登録団体の過去の活動例:静岡放置竹林竹炭プロジェクトによる「週末は仲間と竹炭づくりに熱中!放置竹林竹炭プロジェクト」(静岡市)

サイトを活性化させ、地域と関わる人を増やすために

オリジナルデザインのWAONカード「ふじのくにパスポート+(プラス)」。カード利用金額の0.1%が静岡県に寄付され、世界文化遺産「富士山」の保全に役立てられるという。地域の一員になったような体験ができる仕組みだオリジナルデザインのWAONカード「ふじのくにパスポート+(プラス)」。カード利用金額の0.1%が静岡県に寄付され、世界文化遺産「富士山」の保全に役立てられるという。地域の一員になったような体験ができる仕組みだ

「SHIZUOKA YELL STATION」のサイトがオープンしてから、3年あまり。登録団体数やプロジェクト数は順調に増えているようだが、利用状況はどうなのだろうか。

「登録団体を対象に利用状況のアンケートを取っていますが、『YELL STATIONにプロジェクト登録するようになってから、活動に参加する人が増えた』、『移住まではいかずとも、何回も地域に足を運んでくれる人ができた』など、そうした話はちらほらありますね。ゴールを『移住』にすると、移住の決断には複合的な要因が関わるので評価は難しいですが、関係人口の創出には一定の成果が出ていると思います」

地域活動に関心があっても、見ず知らずの団体に、個人が自ら問合せをするのは心理的なハードルが高い。それが「SHIZUOKA YELL STATION」であれば、自治体の運営するサイトということで安心感もあり、サイトから気軽に問合せができる仕組みは、利用しやすさの観点で優れているといえるだろう。

個人の利用者を増やすために、認知拡大が今後の課題だという。

「サイト閲覧数は、まだまだ物足りないのが現状です。こうした自治体のサイトで多いか少ないかというのは基準が難しいですが、もっと個人や企業の方に知ってもらえるよう取り組んでいきたいです。個人登録を促すような仕掛けづくりや、参加してくれた方が個人のSNSなどで静岡での活動を発信してくれる流れを生み出して、もっと認知を広げていきたいです」

地域が盛り上がっていれば、自然と関係人口は増えていく

上述した個人登録者数を増やす仕掛けに加え、今後は団体の横のつながり強化にも努めていくという。

「今後はさらに、静岡県内で活動している団体や企業同士のつながりを強めていきたいと考えています。少子高齢化で、小さな組織だと活動の継続が難しかったり、人手が足りないということもよく起きています。そんなときにちょっとしたことを相談できる相手だとか、参考にできる団体が身近にいるって大きいですよね。必要に応じて団体同士で連携して取り組むこともできるでしょうし、そうしたコミュニケーションが生まれやすくなるような仕組みを、県の方で整える予定です」

団体間の横のつながりが強くなれば、「SHIZUOKA YELL STATION」に新たに登録しようという団体もまた増えていくだろう。

「卵が先か鶏が先か論になりますが、地域活性化のために関係人口をいかに呼び込むか、という視点になりやすいですが、逆も非常に大事だと思っています。地域がおおいに盛り上がっていて話題になったり注目を浴びるからこそ、県外から人が訪れたり、ひいては移住、定住につながりますよね。活気のある地域だから、人が集まり、関わる人が増えることで、さらに活動も活発になります。そうした好循環をぐるぐると生み出すことが、持続可能な地域づくりをする上で非常に重要だと思います。
施策を打つときは、どうしても“いかに県外の人にアピールするか?”という思考に陥りやすいですが、地域で活動されている方にもっと目を向けて、地域の方々がもっと活動しやすくなるように、新しい挑戦がしやすくなるような連携や枠組みづくりが必要だと考えています。自治体だけの力では難しいことも多いので、そこは民間の協力を仰ぎながら進めていきたいですね」

県外の人間が地域活動に興味関心を持つきっかけは、I・Uターンの人を除けば、そこで活動する人々が魅力的だったり、その地域が好きな作品のロケ地になっていたり、面白そうな空間やコミュニティの場が続々と生まれていることだったり、人それぞれの理由があるだろう。いずれにしても、行動を起こすだけの動機が生まれるには、人的資源やコミュニティ、コンテンツなどを生かし、地域に活力があることが前提になる。
「SHIZUOKA YELL STATION」のプロジェクト一覧ページを開くと、地域が元気であるかどうかは、ある程度は見える化されている。地域で精力的に活動する団体や企業と、関心を寄せる人々をつなぐハブのような場として、今後も活用が期待される。

県外からの移住者が増えている静岡県沼津市。「SHIZUOKA YELL STATION」には、2023年12月に沼津市愛鷹運動公園自由広場で行われた「静岡オーガニックフェスティバル」の様子など、さまざまな地域活動事例をレポートとして読むこともできる県外からの移住者が増えている静岡県沼津市。「SHIZUOKA YELL STATION」には、2023年12月に沼津市愛鷹運動公園自由広場で行われた「静岡オーガニックフェスティバル」の様子など、さまざまな地域活動事例をレポートとして読むこともできる

■取材協力:静岡県 政策推進局 総合政策課
 静岡県関係人口情報サイト SHIZUOKA YELL STATION
 https://shizuoka-yellstation.com/

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