国際連合事務総長が提唱したPRI(責任投資原則)
昨今、大手企業による不祥事が連続している。また大手、中小問わず多くの企業は、その活動において環境や労働問題に少なからず関係しているはずだ。そのため、企業活動に対する社会の目は年々厳しくなっている。
その流れを加速化させた出来事に、PRI(責任投資原則)の提唱がある。2006年、当時の国際連合事務総長であるコフィー・アナンが「経済が発展していく一方で環境問題、労働問題、企業統治の問題が浮上している。企業経営は財務的成功だけでなく、環境や社会に与える影響も考慮しなければならない。したがって、企業への投資機関は、ESGを取り入れるべきだ」として世界共通ガイドラインを提唱した。これがPRIだ。PRIは「Principles for Responsible Investment」の略で、責任投資原則と訳される。なお、「ESG」とは、環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)の3つの視点のことだ。
PRIでは以下の6つの原則を掲げている。
責任投資原則
1. 私たちは、投資分析と意思決定のプロセスにESG課題を組み込みます。
2. 私たちは、活動的な株式所有者になり、株式の所有方針と株式の所有慣習にESG課題を組み入れます。
3. 私たちは、投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求めます。
4. 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、実行に移されるよう働きかけを行います。
5. 私たちは、本原則を実行する際の効果を高めるために協働します。
6. 私たちは、本原則の実行に関する活動状況や進捗状況について報告します。
この原則に署名した投資機関は、環境、社会、企業統治に責任ある行動を宣言したことになる。署名機関の数は、2023年10月時点で5,369機関に上る。
最近は、不動産投資市場においてもESGの考え方が浸透しはじめてきた。そこでESG不動産投資とはどういったものなのか解説しよう。
ESG不動産投資のメリット・デメリット
従来不動産投資は、年間のキャッシュフローや売却益などの利益のみに着目して行われることが多かった。これに加えてESG不動産投資では、環境、社会、企業統治の視点から安定性や将来性も分析して投資対象を選定する。
その理由は社会貢献はもちろんだが、3つの視点がない物件は、政治的流れや社会的要望について行くことができなくなるからだ。つまり、国の優遇政策の対象とならなかったり、利用者のニーズに応えられなかったりする可能性が生じ、結果的に利益を生み出せなくなる。ただし、ESG不動産投資にもメリットとデメリットがある。
ESG不動産投資のメリット
・長期運用に向いているので不動産との相性がいい
ESG不動産投資は、環境問題や地域社会への貢献なども考慮して投資物件を選定する。したがって、FXのように短期的な利益を追求することがなく、長期運用が前提の不動産との相性がいい。
・社会貢献できる
断熱性の高いマンションであればCO2排出量の削減に、空き家を再利用すれば地域の活性化に、といったように社会に貢献できる。
・空室対策になる
LED照明や太陽光発電などを導入した環境にやさしい省エネ設計であれば、入居者の光熱費を抑えることができる。また、断熱性能が高ければ光熱費を抑えるだけでなく、室温が一定に保たれ快適に過ごせる。これらは空室対策につながる。
ESG不動産投資のデメリット
・建築費が高額になる場合がある
ESGを考慮した新築物件を建てる場合、太陽光発電の設置や断熱性能のアップなどで建築費がアップするケースもある。
・物件の選定が困難
今のところESG不動産の明確な指標はない。そのため既存物件を選ぶ場合は、どの物件が環境的、社会的、企業統治的に貢献しているか自力で調査しなければならない。なお、ESG不動産には次のような選択肢が考えられる。
・省エネ建築物
・すべての人が使いやすいグローバルデザインの建築物
・地域社会に貢献する公共性の高い建築物
・防災性能が高い建築物
・保育所など少子高齢化に対応した建築物
クラウドファンディング商品も登場
上記のようにESG不動産を自力で選定するのは簡単ではない。そこで最近は、ESG不動産投資に特化した不動産クラウドファンディングも登場してきた。
クラウドファンディングとは、起業家やスタートアップ企業などがインターネットを通じて事業資金を募る仕組み。不動産クラウドファンディングは、この仕組みを利用したファンド商品だ。商品によっては自己資金1万円程度でスタートできる。さらに手続きはすべてネット上で済ませることができ、投資物件の運営や管理などの業務もすべて事業者に任せることができる手軽さから、投資対象として注目されている。
ESG不動産については、保育所の開設、国産木材を使用したアパートの建築、空き家の再生といったファンド商品がある。
政府が認知度アップを推進
ESG不動産投資は、政府も数年前から推進している。日本経済の拡大、地方の活性化には不動産の証券化手法などを通じた資金の活用が必要として、ESG不動産投資に対する概念形成と認知度アップを図っているのだ。
具体的には、国土交通省が「ESG不動産投資のあり方検討会」を発足し、2019年2月より検討会を重ねている。そして同年7月に次のような中間報告をまとめた(総論を一部抜粋)。
・不動産は、環境や社会に関する課題解決に貢献できるポテンシャルが大きい。
・ESG投資とSDGsは幅広い分野を対象としているため、不動産投資市場における理解と認識は現段階で一様ではない。
・不動産投資においても気候変動等に対する海外投資家、評価機関などの目線を意識する必要がある。
このようなことを背景に国土交通省では、ESG不動産の数値化や認証制度を検討している。これらの制度が実現すれば、ESGの評価の高い物件の資産価値はより向上していくだろう。環境のため、社会のため、そして効率的な投資のため、ぜひ実現してほしい。
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