歴史があり、静謐さと自然に包まれた札幌有数の高級住宅地
北海道・札幌市で有数の高級住宅地といわれる「宮の森」地区に、世界的な建築家の隈研吾さんのこだわりが詰まった分譲レジデンスが完成した。20戸の独立した住まいが階段状に積み上がり、丘と同化するように立つ「プロスタイル 札幌 宮の森」。札幌都心から車で10分ほどという立地ながら、車の音さえ気にならない静謐な佇まいだ。
「宮の森」の由来には、宮家とのゆかりがある。昭和初期に秩父宮、高松宮両殿下がここでスキーを楽しまれたことから名付けられた。90年以上の歴史がある、皇室が優勝者にカップを下賜する「宮様スキー大会国際競技会」も開かれるようになった。やがて1972年札幌冬季五輪の開催につながり、会場の「大倉山ジャンプ競技場」はスキージャンプで世界的に有名になった。
売主・事業主の「株式会社LogSuite(ログスイート)」の鈴木秀章さんによると、首都圏で例えると渋谷区の松濤と似た、落ち着いた雰囲気だという。
この地区からは札幌都心を一望でき、周辺の緑も目に飛び込んでくる。「プロスタイル札幌 宮の森」の自慢の1つがこの眺望だ。室内や屋外階段、各戸の玄関近くに直行できるエレベーターからは、ビル群と自然が調和した「借景」を存分に楽しめる。
自然の地形を生かしたデザインで、隈さんの「新境地」に
都市部を中心に高級リノベーションマンションを展開する「LogSuit」、同じグループで新築マンションなどを企画販売する「株式会社プロスタイル」は創業以来、手がける物件すべてで無垢材を使うというこだわりぶり。意匠性の高いルーバーなど各所に木を積極活用し、建築を自然に近づける考えを持っている隈さんに、設計から監修まで依頼した。
隈さんは道内ではレジデンスの設計は手がけていなかったが、宮の森地区が開発で造りこまれておらず、自然豊かな皇族ゆかりの地であり、「ウインタースポーツのメッカが街のすぐ脇の丘の上にある」という恵まれた場所で、貴重な第一種低層住居専用地域でもあることに価値を見いだした。自身にとっても新境地になると考え、引き受けたという。
「プロスタイル札幌 宮の森」と最寄りの地下鉄駅との間には、北海道開拓の守護神がまつられる北海道神宮や円山動物園がある。その緑豊かな界隈を駅から抜けて坂道を上ると、やがて山の手らしい風情が出迎えてくれる。
2022年10月下旬に取材で訪れると、周囲に高層建築物がないにもかかわらず「プロスタイル札幌 宮の森」の敷地の数メートル手前まで存在に気づかなかった。宮の森という土地になじむように、丘と一体化するように立っているのが印象的だった。一方で、道路からも見えた丸太のような外壁が目を引いた。
斜行エレベーターがいざなう、外に開かれたゆとり空間
各戸は1フロアか2層、3層と3タイプあり、間取りは1LDK+S~3LDK。居室面積は124.26m2 ~ 176.65m2と広々だ。敷地全体の中央には、ケーブルカーを思わせるモノレール式のエレベーターが走り、各戸の近くまで運んでくれる。各部屋のスイッチを押すと玄関近くまでエレベーターが出迎えてくれ、スムーズに外出できる。
エレベーターの乗降口を降りてプライベート感の濃い廊下を歩いて室内に入ると、その巨大な窓に圧倒される。木の質感が特徴的なサッシは、北欧の厳しい冬を暖かく過ごせるよう開発された「Viking Window社」の3重ガラスの特注品。これを通して見える景色は他の住戸の存在を感じさせず、「借景」を際立たせている。
テラスは26.78m2 ~ 122.75m2と広く、バルコニーやプライベートガーデンもある。共用スペースである路地のような屋外階段を歩いて外出することもできる。
また、ゆとりある住環境をつくる工夫として、駐車場隣にタイヤやゴルフバッグなどを保管できるトランクルームや、スキー・スノーボードの道具などを乾燥させられるドライルームも備わる。
各戸を山肌に張り付くように並べ、周囲の自然や低層住宅地に溶け込ませた点、階段状に積み上げて眺望を室内に取り込んだ点、そして木材利用の新たな可能性を開拓した点が評価され、2022年のグッドデザイン賞に選ばれた。
環境面にとどまらず、「ふぞろいの価値」を体現できる木にこだわる
隈さんは国立競技場やJR山手線の高輪ゲートウェイ駅などの設計で知られ、道内では東川町のサテライトオフィス「KAGUの家」でも話題になった。いずれも木を多用しているのが特徴だ。環境意識の高まりもあり、海外では建築に木を取り入れる流れが強まっているが、日本では集合住宅で活用することが少ないため、「プロスタイル札幌 宮の森」を先駆けにしたい思いがあったという。
施工にあたっては、独自に「残存型枠構法」が考案された。コンクリートを流し込む「型枠」として、小径の道南スギの丸太を加工して活用。壁面の装飾としても多く使われ、アイコンの1つとなっている。施工現場を訪れた隈さんが、一本一本チェックすることもあったという。
敷地外から仰ぎ見ても、屋外階段を歩いていてもこのスギは目に飛び込んでくるが、特別な存在感を放っているのがエントランスやロビーだ。間接照明で樹皮の残る質感と陰影が浮き上がり、立体感が目を見張る。遠目に見るとシャープ感と開放感があるが、近くで目を凝らすと、1本ごとに長さや厚みが微妙に違うため、工業製品のような均一性がなく、安らぎを与えてくれる。木を自然な形のまま使うこの手法は初のチャレンジといい、製材された規格品の板にはない「ふぞろいの価値」を表現できたという。
室内では、2階部分に上がる階段に丸太を加工した手すりが備わり、指先の感覚を心地よいものにしている。フローリング材は北海道らしさのあるナラで、一枚ごとに違う板目で、高級感と落ち着きを演出している。
「大きな箱」が多いレジデンスと一線を画す、“HOME”感
木材活用に加え、集合住宅そのものの新しいスタンダードを打ち立てたのが隈さんにとっての「新境地」の1つになった。丘に同化し、周囲の景観に溶け込むような形状は斬新だが、これは従来の集合住宅へのアンチテーゼでもある。隈さんは「プロスタイル札幌 宮の森」の公式サイトで、「20世紀の建築は地面から離れる建築でした。最終的には超高層ビルに行き着きます」とした上で、これからは逆に「どんどん自然の中に溶けていく時代が来る」「自然に還っていく」とつづっている。
コロナ禍で「密」に違和感を抱く人が増え、新しい生き方や働き方が注目され、自然への関心も高まっているといわれる中、建築を取り巻くこうした流れは加速すると隈さんはみる。
今回、大きな「箱」に20戸を押し込めずに独立させ、積み上げるような構造にしたのは、1戸ずつを「1つのわが家」のように感じてもらい、個々人を尺度にした心地よい「ヒューマンスケール」を表現する意図があったという。共用スペースである屋外廊下は、車移動が前提ではなかった時代の懐かしい路地をイメージ。 経年変化する木の質感も、「わが家」と時間を重ねる喜びや温かみにつながりそうだ。
富裕層を引きつける「一低層」。自然や住環境を大切にする暮らし
宮の森地区の静かな環境は、ここが第一種低層住居専用地域(一低層)という都市計画法上の地域に定められていることが大きい。同法が土地利用や建築条件などを定めた「用途地域」の中で、一低層は最も規制が厳しく、余裕を持たせた土地利用や、静かな住環境を確保しやすいとされる。
ログスイート社の鈴木さんによると、東京の都心部などに住む富裕層にとって「一低層」は特に魅力的に響き、利便性と良好な住環境を両立できる地域は貴重な存在。タワーマンションから低層レジデンスへ住み替えるニーズは増えている実感があるという。
「プロスタイル札幌 宮の森」の購入者や検討者は、隈さんが手がけたことへの関心が高い人のほか、北海道にゆかりのある人や、本州の夏の暑さを嫌って道内に拠点を設けたい人もいるという。気候変動や過密を受け、新しい暮らしの場として札幌への関心は高まっている。
札幌は全国的にも観光や開発のポテンシャルが高く、中でも「宮の森」地区は特別な位置づけだったため、同社は宅地として売り出されていない段階で予定地を取得し2年かけて手を加えた。隈さんによる設計に3年以上、施工にも3年以上をかけた一大プロジェクトだ。設計から隈さんがチャレンジを重ねたことで、4,000m2以上の敷地に20戸のみという、贅沢な「丘のような建築」ができあがった。
鈴木さんは「札幌の集合住宅で人気があるのは60m2前後の部屋ですが、その倍以上の専有面積があります。札幌、しかもその中央区でこの広さはなかなかなく、部屋からは『借景』が楽しめ、平置きの駐車場があるのもラグジュアリーなポイントです。家にいる時間を大切にしよう、自然や住環境を大切にする暮らしを提案できたらと思います」と話す。
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