宮島・厳島神社で開催「建築学生ワークショップ2022」

建築を専攻する学生が、大学で学ぶことはたくさんある。建材、構造、法規、計画、施工技術。しかし机上の基礎知識だけでは、よい建築は生み出せない。その場所になじむ建築はどのような姿か?適した材料・構法は何か?意匠は、機能はどうあるべきか?答えは、現場でしか導き出せないからだ。

建築は、地形、風土、土地の歴史といった、その場所を構成する文脈を読み解くことから始まる。そんな"建築の原点"ともいえる考え方を、建築家の卵たちが身をもって学べる催しがある。建築やデザインを専攻する大学生・院生が集うNPO法人 アートアンドアーキテクトフェスタ(AAF)が主催する「建築学生ワークショップ」である。

2010年の平城京跡での開催を皮切りに、2011年 竹生島、2015年 高野山金剛峯寺、2016年 明日香村、2017年 比叡山延暦寺、2018年 伊勢神宮、2019年 出雲大社、2020年 東大寺、2021年 明治神宮など、日本を代表する聖地で行われてきた長年続く取り組みだ。2022年の開催地は、広島県宮島。1996年にユネスコの世界文化遺産に登録された厳島神社が舞台となった。

建築学生ワークショップ2022の開催地となった、朱色の社殿が美しい宮島・厳島神社。およそ70年ぶりに大規模な修復工事が行われている。2023年2月に完了予定(2022年9月時点)建築学生ワークショップ2022の開催地となった、朱色の社殿が美しい宮島・厳島神社。およそ70年ぶりに大規模な修復工事が行われている。2023年2月に完了予定(2022年9月時点)

開催地となった厳島神社の歴史は古い。593年に社殿が創建され、1168年には平清盛により寝殿造りの大規模な社殿と大鳥居が建てられた。宮島を象徴する大鳥居は現在のもので8代目となる。海上に立ち並ぶ建造物群の背後には、手つかずの神聖な山、弥山原始林(国の指定天然記念物)が広がる。潮の満ち引きによりさまざまな姿を見せる島の姿は、神秘的ともいえる唯一無二の自然環境といっていいだろう。

海・山・森と、雄大な自然に囲まれた地で、全国から集まった建築学生たちが10の班に分かれ、各班が趣向を凝らしたフォリー(特定の用途のない小さな建築空間)の制作を行った。2022年8月28日に行われた公開プレゼンテーションの様子をもとに、建築学生の学びの場の在り方を考えたい。

始まりは「建築学生たちに実地での学びの場を」との想いから

世界遺産の地でこのようなワークショップが開けるようになったのは、AAFの代表理事を務める建築家・平沼孝啓氏の尽力が大きい。建築学生ワークショップをAAFが主催し行うようになったきっかけは、2009年9月に開かれた平沼氏の国立国際美術館での展覧会だという。間伐材を利用したパビリオン建築を制作した際、平沼氏は学生たちと実際に手を動かしながら造り上げたことで「実地でなければ学び得ないことがある」と実感したそうだ。

建築学生ワークショップでは、学生たちはキャンパスを離れ、国内外で活躍中の建築家を中心とした講師陣の指導を直に受けながら、その場所性を読み解き、一つのフォリーを造り上げていく。現地調査から設計、実施制作までの期間は約3ヶ月。現場の風を感じながら、部材に触れながら、試行錯誤して一つのものを造り上げる過程は、ほかでは得がたい経験といえるだろう。

平沼氏による間伐材を利用した新たな木造建築の取り組み。積層した木造ブロックの間から光が差し込む(2009年9月 国立国際美術館にて)平沼氏による間伐材を利用した新たな木造建築の取り組み。積層した木造ブロックの間から光が差し込む(2009年9月 国立国際美術館にて)

「建築学生たちに実地での学びの場を」との想いに、多くの建築家や関係者が賛同し、2022年の公開プレゼンテーションは数百人規模となり、開催にあたり岸田文雄 内閣総理大臣が祝辞を寄せたほか、斉藤鉄夫 国土交通大臣や湯﨑英彦 広島県知事も来賓として訪れるなど、年々注目度が増すイベントとなっている。

平沼氏による間伐材を利用した新たな木造建築の取り組み。積層した木造ブロックの間から光が差し込む(2009年9月 国立国際美術館にて)プレゼンテーション会場となった厳島神社末社豊国神社本殿(千畳閣)。豊臣秀吉により建立された国の指定重要文化財
平沼氏による間伐材を利用した新たな木造建築の取り組み。積層した木造ブロックの間から光が差し込む(2009年9月 国立国際美術館にて)建築学生ワークショップ2022、開会の挨拶をする厳島神社宮司・野坂氏

学生たちの挑戦に、建築・美術の専門家から本気のフィードバック

建築学生ワークショップの大まかな流れは次のとおり。6月の現地説明会・調査から、7月のエスキース、提案作品講評会、実施制作打合せを経て、8月23日から泊まり込みで28日の公開プレゼンテーションに向け、実施制作を行う。

公開プレゼンテーションの前日は、学生たちにとってもその場に会する関係者にとってもハラハラが尽きない一日となる。設計どおりになかなかいかない班もあり、建つか建たないか、構造を保ちながら美しさや意図した表現を込められるか、学生たちは名だたる建築家との質疑応答を繰り返しながら、ギリギリまで自分たちが造り上げたい最善の形を模索する。

そのような3ヶ月を乗り越え、迎えた公開プレゼンテーション。各班は、持ち時間約3分、講評・質疑応答の約11分の中で、制作したフォリーについてプレゼンテーションを行う。講評を行うのは、建築・美術両分野を代表する評論家や、第一線で活躍する建築家や構造の専門家たちである。それでは、学生たちの作品を見ていこう(賞を獲得した3作品については後述する)。

■1班「移ろいを織りいだす」
宮島ならではの海との一体感のあるフォリーを生み出したのは1班。潮の満ち引きによって地盤面の海域が変わる場所に建てられたフォリーは、干潮時・満潮時とでまったく異なる表情を見せる。前夜の大潮で一部が流されてしまったのは不運であったが、厳島神社の自然環境の手強さを学生たちが実感した出来事となった。

■2班「ラウテモオ」
2班は、神社建築でよく用いられる「茅(かや)」を主な材料とした。神社では厄除けとしても使われる茅は、神聖なものとされている。禁則地である森と厳島神社の敷地の間に立つフォリーとして、茅の下をくぐることで「神様との出会い」を表現したという。「束ね方を工夫すれば、茅の美しさをもっと表現できたのでは」と講評者からの意見があった。

■5班「とどまりたゆたう」
「建築とは自然の大きな流れの中に、新しい視点をつくること」をコンセプトとして、今までにない宮島への視線を生み出したのは5班。海に浮かぶFRP素材のフォリーには3つのくぼみがあり、その一つに体を預けると、海面に近い位置から厳島神社を眺めることができる。

■6班「浮-沈」
海に浮かぶフォリーのテーマは「物事を焦点を変えて見る」。柔軟性のある竹を使い、厳島神社に存在する動かない大鳥居、動き続ける波、その二面性を表現したという。竹のアーチは二重になっており、内部のアーチは固定、外側はあえて固定せずに波や風の揺らぎを表現している。

左上から時計回りに、1班「移ろいを織りいだす」、2班「ラウテモオ」、6班「浮-沈」、5班「とどまりたゆたう」の各フォリー。前夜の大潮でフォリーの一部が流されてしまうなど、自然の力を目の当たりにした班もあった ©Satoshi Shigeta左上から時計回りに、1班「移ろいを織りいだす」、2班「ラウテモオ」、6班「浮-沈」、5班「とどまりたゆたう」の各フォリー。前夜の大潮でフォリーの一部が流されてしまうなど、自然の力を目の当たりにした班もあった ©Satoshi Shigeta

■8班「包み、包まれ」
「新しい建築材料への挑戦」と評価されたのが、8班。宮島の水を構造材として使うことを試みた。自立の難易度が高く、フォリー全体の完成度を高めるには今少し時間が欲しかった。「水を使った意味を意匠に生かしきれていない」との講評もあったが、水柱から覗く宮島の風景はこのフォリーならではの新たな視界を提案したといえる。

■9班「巣立ち」
宮島の住生活空間、観光スポット、祈りの空間、3つの趣が異なる空間に囲まれた場所に立つフォリー。そこが宮島の出発点になるようにとの思いから「巣立ち」と名付けられた。材料には3つの木フレームと、改修中の厳島神社の瓦、広島のカキ養殖で使われたワイヤーが使われている。バランスを保つための試行錯誤には一定の評価が得られたが、「メッセージ性がもっと欲しかった」という講評もあった。

■10班「C.R.」
佇まいが非常に美しく、「フォリーによってその場所に新たな価値を設けたい」という気持ちが伝わる仕上がりだと感じたのが、10班のフォリー。厳島神社・東回廊の古材を再活用し、訪れた人が腰かけられる新たな木陰を生み出した。古材は経年変化によるひずみや歪みが強く、扱いが難しい建材だが、木片をスペーサーにし歪みの改善と構造補助の役割を持たせている。太陽の動きによって時間ごとに木漏れ日の変化が楽しめる。

左上から時計回りに、1班「移ろいを織りいだす」、2班「ラウテモオ」、6班「浮-沈」、5班「とどまりたゆたう」の各フォリー。前夜の大潮でフォリーの一部が流されてしまうなど、自然の力を目の当たりにした班もあった ©Satoshi Shigeta左上から時計回りに、8班「包み、包まれ」とその設営場所での発表の様子、10班「C.R.」、9班「巣立ち」の各フォリー。各班のフォリー周辺では大勢のギャラリーが学生たちの発表に耳を傾けた 右上の除き ©Satoshi Shigeta

最優秀賞は、未知の建築素材「ロウ」に挑戦したフォリー

「全体的にちょっとこじんまりしている」との厳しい評もあったが、その中でも素材への挑戦や完成度の高さで評価を集めた3作品が、「特別賞」「優秀賞」「最優秀賞」をそれぞれ受賞した。

■特別賞:3班「流」
「"宮島の海の音を聴きたい"と思わせる造りだった」。そんな声が上がった3班のフォリーが特別賞を受賞した。波の音が絶えず聴こえる立地を生かし、音を反響させるパラボラ形状とし、あえて視界を閉ざすことで波の音に耳を澄ませやすい空間としたのは独自性が感じられた。竹フレームを下地に、宮島のカキ殻を含めた土を塗り重ねている。

■優秀賞:4班「源」
優秀賞は、宮島で最も古い寺院である大聖院の階段に造られた4班のフォリー。講評者の言葉に思わずうなずいてしまったのだが、「階段を上りたくなった。もとからそこにあるかのような完成度だった」と言わしめたフォリーは、約1,000枚の和紙とフレームを組み合わせ、視覚的にも体感的にも宮島の海からの風を感じられる仕掛けが施されている。一方で、講評者からの「新しさが感じられない」という言葉のとおり、どこか既視感があると感じられるほどの完成度が、逆に学生の発想としては面白みに欠けると受け取られたようだ。

「特別賞」を受賞した3班のフォリー:「流」。厳島神社ならではの波の音を建築に生かそうとする試みが評価された ©Satoshi Shigeta「特別賞」を受賞した3班のフォリー:「流」。厳島神社ならではの波の音を建築に生かそうとする試みが評価された ©Satoshi Shigeta
「特別賞」を受賞した3班のフォリー:「流」。厳島神社ならではの波の音を建築に生かそうとする試みが評価された ©Satoshi Shigeta「優秀賞」を受賞した4班のフォリー:「源」。海から山に抜ける宮島の風によっておよそ1,000枚の和紙が回転し、視覚的にも爽やかさを感じる

■最優秀賞:7班「うやむや」
最優秀賞に輝いたのは、新しい建築素材「蝋(ロウ)」で造られた7班のフォリー。もともとロウは建築材料ではないため、施工には苦心したというが、さながらバウムクーヘンのように幾重にもロウを溶かしては巻き重ね、水平形状の建物が多い厳島神社の中にあって垂直に自立する、今まで見たことのない質感の造形物を生み出した。
広島県知事からの「ロウのフォリーを一目見て、思わず近づいて触れてみたくなった。真っ白な美しさと不思議な涼やかさがあるフォリーでした」とのコメントのとおり、人の目を引きつける魅力があったのは確かだ。「うやむや」というタイトルのとおり、建材としては未知なあやふやな存在であるロウ建築の可能性を、大学生のグループが示してみせた。

「特別賞」を受賞した3班のフォリー:「流」。厳島神社ならではの波の音を建築に生かそうとする試みが評価された ©Satoshi Shigeta「最優秀賞」に輝いた7班のフォリー:「うやむや」。建築材料としての可能性を切り開いたことが高く評価された。氷のような質感で涼やかさがある。フォリーとしての役目を終えた後は、弥山(みせん)の「不消霊火堂」で保存する「きえずの火」の燃料に再利用されることになった ©Satoshi Shigeta
「特別賞」を受賞した3班のフォリー:「流」。厳島神社ならではの波の音を建築に生かそうとする試みが評価された ©Satoshi Shigeta「誇れる1位です」と最優秀賞を受賞した7班の学生たち。ロウを使うことに対し、グループ内でもさまざまな賛否両論があったそうだが、結果的にチームの一体感につながった

表彰作品に共通するものは、"人の心を動かす建築"であるか

表彰された3作品の共通点として、"いかに人の心を動かしたか、行動を促したか"といった要素があったように思う。それぞれの講評の中で次のような言葉が印象的であった。

・最優秀賞(うやむや):「夏空の下でとても綺麗に映えていて、思わず触れてみたくなる質感だった」
・優秀賞(源):「フォリーのある階段は傾斜がきつかったが、それでも上ってみたくなった」
・特別賞(流):「フォリーの中で腰掛け、波の音を聴いてみたくなった」

どの作品も、見た人に何かしらの行動を自然と促している。材料の手触りや、厳島神社の風や潮の音、太陽の光など、五感をフルに使って感じ取り、表現した作品が評価された結果といえるだろう。この結果からは、建築学生ワークショップの狙いの一つである「場を読み解くことを実地で学ぶ」が体現されていると感じた。

4班のフォリー「源」。傾斜のきつい階段でも、思わずフォリーのある上段部まで上りたくなる造り4班のフォリー「源」。傾斜のきつい階段でも、思わずフォリーのある上段部まで上りたくなる造り

惜しむらくは、講評者からも多くの声があったように、どの作品も「コンセプトの言語化が足りなかった」ことだ。現場で感じ取ったものを一つのフォリーにまとめ、その形状が何を意味するのか、見た人に何を感じてほしいのか、限られた時間の中で難しかったと思われるが、フォリーに込めたストーリーがもう一歩踏み込んだ表現で学生の口から語られてもよかったように思う。

とはいえ、当然ながらコンセプトの言語化には経験や訓練が必要だ。講評者からも「建築家は、言葉で説明することが苦手。自分で設計したものにツッコミ(俯瞰と検証)を入れ続けないといけない職業」との言葉があったとおり、経験豊富な大先輩でも難しいのである。

その意味でも、建築学生ワークショップは、建築学生たちにとってこれ以上ないはじめの一歩であるといえる。同時に、このワークショップを支援する大人たち、その場に参加した建築関係者にとっても、それぞれの立場で刺激や発見が得られる場でもあると感じた。
特に今回はほかにはない自然環境の厳島神社が舞台ということもあってか、講評者の言葉からは、自然を読み解いていく建築の世界はいくつになっても奥深く、面白く、知的好奇心がくすぐられる世界なのだと感じられた。建築ほど、現場での学びが多い学問はほかにないかもしれない。

2023年の開催地は、京都の世界文化遺産である「仁和寺」が予定されている。皇室とゆかりが深い歴史ある寺院であり、フォリー制作にあたっても古都・京都の伝統、文化的背景の解釈が求められる。
今後も続く建築学生ワークショップが、建築家を志す学生にとって大きな成長の場であると同時に、建築に関わるすべての人にとっても建築の原点を見つめ直す場であり続けることを期待したい。


■取材協力・記事内画像提供
特定非営利活動法人(NPO法人)アートアンドアーキテクトフェスタ
https://www.aaf.ac/
建築学生ワークショップ宮島2022
https://ws.aaf.ac/2022index.htm
建築学生ワークショップ仁和寺2023
https://ws.aaf.ac/

4班のフォリー「源」。傾斜のきつい階段でも、思わずフォリーのある上段部まで上りたくなる造り最前列左側から、AAFの代表理事を務める建築家の平沼孝啓氏、広島工業大学 名誉教授で建築家の村上徹氏など、それぞれの視点から厳しくも温かい学生たちへアドバイスとエールが送られた ©Satoshi Shigeta

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