後継者不足に悩む店と開業したい人をつなぎ、移住定住促進を図る

佐野らーめん予備校。実技と座学を行う施設を市役所近くに用意。約70店舗ほどで構成される「佐野らーめん会」の会長も講師の一人佐野らーめん予備校。実技と座学を行う施設を市役所近くに用意。約70店舗ほどで構成される「佐野らーめん会」の会長も講師の一人

人口減少が進む日本では、移住者獲得のための積極的かつさまざまな取り組みを行っている自治体があるのはご存じだろう。地域を活性化するための取り組みがある中、地元の大切な資産であるラーメンを活用した移住定住促進を行っているのが栃木県佐野市だ。

佐野市の人口は1990年の12万8,276人をピークに、2022年8月1日現在で11万5,572人と、30年強の間に約1割減少。人口の減少に歯止めをかけたい市が着目したのが「ご当地グルメ」としても全国的に名を馳せる佐野らーめん。市内には約150軒の佐野らーめん店が営業するものの、なかには店主の高齢化による後継者不足などの問題を抱えている店もあるという。

そこで立ち上げたプロジェクトが「佐野らーめん予備校」の開設。後継者不足に悩む佐野らーめん店と、佐野らーめん店を開業したいという人をつなぎ、佐野市への移住と独立開業を支援する、国の地方創生推進交付金を使ったプロジェクトだ。このプロジェクトを担当している佐野市総合政策部 総合戦略推進室 移住・定住係の西沢治さんと中治令子さんにお話をお聞きした。

修業から開店、経営までのノウハウを伝授するカリキュラムを用意

「佐野らーめん予備校」の第1期生の研修スタートが2020年11月。プロジェクトがスタートしてからの応募者は30数名、受講者は14人。2022年8月現在、9期生を募集している。

「『佐野らーめん予備校』は、地域の大切な資産である佐野らーめんをこの先も守り続けていくため、移住定住促進のために設立したものです。市全体の高齢化に合わせてらーめん店主も高齢化しています。名店がなくなるのは佐野市にとっても大切な資源が継承されなくなってしまうということですので、移住者獲得と佐野市の資源を活性化していくための両方を兼ね備えた事業として考案しました」と西沢さん。

プログラムは基礎研修と、その後の本格修業で構成される。
基礎研修では元・佐野らーめん店主の講師が、佐野らーめんの作り方はもちろん、伝統の製麺技術「青竹打ち」から食材の調理方法、盛り付けまで基本的な知識のレクチャーを行う。期間は約2ヶ月で、座学も含まれる。

その後の本格修業では、事業承継者向けと独立開業者向けのそれぞれの希望に合わせ、本格修業を行うための店舗も紹介している。
「以前にらーめん店を経営していた方、まったく未経験の方などさまざまな方がいますが、すぐに開業されたい方、既存の店に本格修業を希望する方の2通りに分かれます。すぐに開業したい方には、店舗探しや開業の支援なども別途行っています。すぐに開業とは言っても基礎研修で学ぶのはどの方にも教えている本当に基本的な佐野らーめんですので、ご自身で納得のいく、お金をいただけるような佐野らーめんが完成するまで3ヶ月から半年ぐらいは修業が必要だと思います。経験を積むために本格修業したい方には、働き手を募集しているらーめん店を紹介するサポートを行っています。だいたい3年ぐらい修業をしてから開業する方が多いようです」(西沢さん)

また、独立開業のためのサポートとして、開業にあたり必要な「食品衛生責任者」や「食品営業許可」の講義、開業時の資金調達に必要な事業計画の作成方法や借入方法などの講義が行われるなど、美味しい佐野らーめんを作るための技術と、安定した経営を行うための知識をワンストップで学べるのが「佐野らーめん予備校」の特徴だ。

佐野らーめんの伝統技法「青竹打ち」の指導を受ける研修生佐野らーめんの伝統技法「青竹打ち」の指導を受ける研修生
佐野らーめんの伝統技法「青竹打ち」の指導を受ける研修生実技はもちろんのこと、経営のノウハウも伝授。ワンストップで学べるのが「佐野らーめん予備校」の特徴
佐野らーめんの伝統技法「青竹打ち」の指導を受ける研修生麺をチェックする講師。元・佐野らーめん店主が実践的な指導を行う
佐野らーめんの伝統技法「青竹打ち」の指導を受ける研修生味の大切な決め手のひとつであるスープの作り方も丁寧に指導

「佐野らーめん予備校」卒業生3名が開業。事業承継は今後の課題

「佐野らーめん予備校」が開校してから約2年。3名が開業し、移住者ならではの個性を発揮した味の魅力もあり、「いずれも好評店になっています」と西沢さん。「佐野らーめん予備校」の講師としても協力してもらっているという。

2022年8月現在、「佐野らーめん予備校」のプロジェクトによって9世帯19人が佐野市に移住してきたという。
「工場を誘致して500人移住者を獲得したなどという話とは規模が違いますが、目に見えて開業して頑張っている方もいらっしゃいますし、少しですが移住者も増えてきています。佐野らーめんの発展にもつながっていると思いますし、既存のらーめん店とのつながりもでき、応援してくださる店主の方がいるのもうれしいですね」と西沢さん。

オープンした3店はいずれも新規開業。事業承継という視点からはどのように評価しているのだろうか。
「店を引き継ぐタイミングが難しいですね。店主が高齢になってきているものの、ご夫妻ともに元気で無理なく経営できているため今すぐ辞めることはないという方もいます。また、そのお店の味と、『佐野らーめん予備校』で学んだ方と好みの味が異なり、その店の味を受け継ぎたいかどうかという問題もあります。現実的には、高齢などで閉店し、空き店舗になったところにちょうどいいタイミングで新しい卒業生が居抜きで新店舗を開業するというパターンが多く、3人の卒業生は、皆さん居抜きの店舗で開業しています。開業資金が少なくて済むというメリットも大きいでしょう。高齢化や病気などで名店の味がなくなってしまうのは悲しいことです。佐野らーめんを介して既存の店主と移住者が2人3脚でのれんを引き継ぎ、佐野市の資源として継続していくためにも、今後は事業承継にもチャレンジしていきたいと思います」(西沢さん)

約150の佐野らーめん店が営業している日本有数のラーメンの街、佐野市。後継者の確保を希望する店舗とのマッチングが今後の課題約150の佐野らーめん店が営業している日本有数のラーメンの街、佐野市。後継者の確保を希望する店舗とのマッチングが今後の課題

佐野市での生活を体験できる「おためし住宅」や、関係人口を増やす「佐藤の会」などの取り組みも

移住定住促進の取り組みの一環として、佐野市が「おためし住宅」を始めたのは2021年4月から。移住をする前に、佐野市での生活を実際に体験できる制度で、JR・東武線「佐野」駅から徒歩10分ほどの住宅街の中に家が用意されている。
「佐野市は東京から程よい距離にある都市のため、テレワークをされている方とか、雪がほとんど降らない地域なので検討してみたいと考えて利用される方が多いですね。費用は7日間で1万円、30日で3万円。水道光熱費込みの値段となります。都会と違って車が必需品なので、車を使って移動をするなど、移住後の生活を想像して利用していただけたらと思います」と中治さん。

「おためし住宅」を活用し、移住した方も1人いるとのこと。現在、お子さんの進学のタイミングを見計らっているところで、いずれ移住を考えている人もいるそうだ。
移住後の住まいに関しても、「空き家バンクのご案内のほか、佐野市内の不動産会社さんの案内も行っています」と中治さん。

移住定住促進とは直接関係ないかもしれないが、会員限定で値引きやサービスなどの特典が受けられる「佐藤の会」も面白い取り組みなので紹介しよう。これは、全国で約200万人いるとされる、日本で一番多い名字の「佐藤」さんのルーツが佐野市にあるということから始まったもの(諸説あり)。ちなみに佐藤さん以外も入会でき、会員になれば誰でもさまざまな特典を受けることができる。
「関係人口を増やし、地域の活性化につなげたいと考えています」と西沢さん。

また、佐野市は日本で唯一の国際クリケット場を持っており、全国大会や国際大会も開催されるクリケットの盛んな街。クリケットをきっかけに移住した方もいるという。
「クリケットはサッカーに次いで世界で2番目に競技人口が多いスポーツです。そこに目をつけて国際クリケット場をオープンしました」(西沢さん)

「佐野市でもほかの市町村のように一般的な移住定住政策は行っていますが、やはり『佐野らーめん予備校』と『佐藤の会』は他の市町村の担当者などから『面白い取り組みをしていますね』などと言われることが多いですね」と西沢さん。
「佐野らーめんに特化した『佐野らーめん予備校』はマスコミの皆さんの頭に残りやすいようで、取り上げていただけるのがありがたいですね。何年か前の調査で、佐野市は人口当たりのラーメン店舗数が全国1位になった街。ラーメン以外にも、アウトレットや佐野厄よけ大師、唐沢山城跡、出流原弁天池など見どころがたくさん。市の魅力を発信していきたいと思います」と中治さん。

在宅ワークが増えるなど、働き方、暮らし方が大きく見直されている昨今。関東近県への移住やらーめん店開業に興味のある方は、「佐野らーめん予備校」について問合せてみては。また、都会から離れてゆったり暮らしたい方は、まずは佐野市の「おためし住宅」を体験するのはいかがだろうか。


■佐野らーめん予備校
https://www.sanoramen-yobiko.jp/

■おためし住宅
https://www.city.sano.lg.jp/soshikiichiran/sougou/sogosenryakusuishinshitsu/gyomuannai/16052.html

■取材協力/佐野市総合政策部 総合戦略推進室 移住・定住係

お話をお聞きした、佐野市総合政策部 総合戦略推進室 移住・定住係の西沢治さん(左)と中治令子さん。「のんびり店をやりたいという方もいればチェーン展開したいと夢を持っている方もいます。少しずつですが、手応えを感じながら取り組んでいます」と西沢さん。「移住される方はさまざま。私たちがよいと思っていても、それはいらない、逆にこちらが必要など、さまざまな反応があるので難しいですね。都会の方などとの視点の違いから、新たに佐野市の魅力を発見しています」(中治さん)お話をお聞きした、佐野市総合政策部 総合戦略推進室 移住・定住係の西沢治さん(左)と中治令子さん。「のんびり店をやりたいという方もいればチェーン展開したいと夢を持っている方もいます。少しずつですが、手応えを感じながら取り組んでいます」と西沢さん。「移住される方はさまざま。私たちがよいと思っていても、それはいらない、逆にこちらが必要など、さまざまな反応があるので難しいですね。都会の方などとの視点の違いから、新たに佐野市の魅力を発見しています」(中治さん)

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