2020年に全面開所した福島ロボットテストフィールド
2011年に発生した東日本大震災、および原子力災害により大きな被害を受けた福島県浜通り地域では、新しい産業を創るさまざまな取組みが進められている。その核となるのが、「福島イノベーションコースト構想」だ。
福島イノベーションコースト構想とは
福島県浜通り地域の産業回復のため、新たな産業基盤の構築を目指す国家プロジェクト。廃炉、ロボット・ドローン、エネルギー・環境・リサイクル、農林水産業、医療関連、航空宇宙分野の産業集積を推進し、交流人口の拡大を図る。2017年に福島県復興再生特別措置法が改正、構想が法定化され、福島県が「福島イノベーション・コースト構想推進本部」を設置。
この大規模なプロジェクトのなかで、目玉ともいえるのが2020年に南相馬市に全面開所した「福島ロボットテストフィールド」だ。2017年の土地整備工事中にLIFULL HOME'S PRESSでは取材している。完成した福島ロボットテストフィールドを訪れた。
◆「イノベーション・コースト構想」福島をロボット産業の集積地に。南相馬市に開所予定のロボットテストフィールドとは?
国内唯一の大規模試験場
福島ロボットテストフィールドは、萱浜海岸方面、南相馬市復興工業団地内にある。東西約1キロ、南北500メートル、約50ヘクタールの大きさだ。東京ドーム約10個分の面積と、かなり広大な施設である。「無人航空機エリア」「インフラ点検・災害対応エリア」「水中・水上ロボットエリア」「開発基盤エリア」があり、陸・海・空に対応したロボットの実証実験が行える。
「滑走路やトンネルだけなど、一部を提供している施設は全国にいくつか存在してるようですが、一ヶ所に集まってこれだけの規模感で実証試験設備を提供しているのは日本でここだけです。福島ロボットテストフィールドの全面開所以前から実証実験は行われており、これまで800件以上の試験を実施してきました」と話すのは、福島ロボットテストフィールド事業部 総務企画課の安田浩樹氏。いったいどのように福島ロボットテストフィールドは利用されているのだろうか。それぞれの施設とともにご紹介したい。
無人航空機エリア
ロボットテストフィールドは施設の利用料金を支払い、事前に計画を提出し、承認されれば一般の人でも利用することができる。現時点ではほぼ100%企業による利用で、特に多いのがこの「無人航空機エリア」でのドローンの実証実験だという。国内最大の飛行空域、滑走路(500メートル)を有する。緩衝ネット付きの飛行場もあり、安全に衝突回避や不時着、落下、長距離飛行などのさまざまな試験に対応することができる。滑走路を利用した輸血用血液の輸送試験や、固定翼ドローン試験、緩衝ネット付きの飛行場では空飛ぶクルマの試験などが行われてきた。固定翼ドローンは、小型のドローンと比較して飛行距離が長い。震災発生時に災害状況を瞬時に把握するために利活用されることが期待されている。
南相馬市から約13キロ離れた浪江町には浪江滑走路(400メートル)と滑走路附属格納庫があり、こちらでもドローンの実証実験が可能。今後、南相馬市と浪江町間で無人航空機の離着陸ができるよう、現在協議を進めている。
水中・水上ロボットエリア
水中・水上ロボットエリアには水没市街地フィールドと、屋内水槽試験棟がある。水没市街地フィールドには、1階部分が浸水した建物と、冠水した建物が並んで設置されている。ここを利用して、消防による、洪水で屋根に避難した人の救助訓練や、水陸両用車での救出訓練などが行われている。
屋内水槽試験棟では、水中ロボットの性能試験や操作訓練などが実施されている。これらの技術が実を結べば、護岸やダムなどの点検をロボットが人に代わり安全にできるようになるだろう。
インフラ点検・災害対応エリア
日本では、橋やトンネル、河川などの社会インフラが高度経済成長期に集中的に整備された。今後20年間、これらの社会インフラのうち、建設後50年以上を迎えるものの割合が高くなることが予想されており、老朽化の対策が急務となっている。そういった社会課題に対応する必要性を見据え整備されたのがインフラ点検・災害対応エリアだ。試験用の橋梁、トンネル、プラント、住宅やビル、交差点などを再現した市街地フィールド、瓦礫・土砂崩落フィールドからなる。試験用トンネルでは3Dトンネル点検システムの試験、試験用橋梁では橋梁点検ドローンの試験などが行われている。
大規模災害に備え各種訓練でも活用される
昨今、ロボットテストフィールドで増えているのが災害対応訓練での利用だ。2019年は4事例、2020年度は12事例、2021年度は20事例と年々活用実績は増加。意外にも口コミでの利用が増えているのだ。
「無人航空機エリアにはヘリポートがあり、ヘリコプターによる人命救助訓練で利用されています。そのほか消防訓練、ドローン運用アドバイザー育成研修、水陸両用車の救出訓練なども。口コミや、ホームページで紹介している使用事例を見て問合せを頂くこともあります」と、安田氏。
福島県内の機関だけではなく、東京消防庁の利用もあり、重宝される施設であることが分かる。2022年6月には福島県・山形県・宮城県・新潟県の4県の消防防災航空隊による合同訓練が実施された。地震、台風などの大規模災害が近辺で発生した場合の連携に備えるものだ。
日本では台風、洪水、大雨、土砂災害、地震、噴火など何かしらの自然災害が毎年各地で発生している。災害に備えるため、日ごろから各種訓練ができる充実した施設があるというのは貴重なことであると感じる。
関連企業の集積・事業拡大も進む
福島ロボットテストフィールドの敷地内中央にあるのが研究棟だ。ここには2022年7月現在、18の研究機関や企業が入居している。空飛ぶクルマを開発するテトラ・アビエーション株式会社、橋梁点検ドローンを開発する株式会社デンソーや、次世代モビリティを研究する東北大学などが入居する。
また福島ロボットテストフィールドが隣接する南相馬復興工業団地には、2019年にロボコム・アンド・エフエイコム株式会社が、2021年にはアイリスグループの株式会社アイリスプロダクトと、株式会社テラ・ラボが進出している。テラ・ラボは2019年に研究室に入居しており、卒業後、2021年に立地協定を締結、復興工業団地内に長距離無人航空機を活用した事業化・実用化拠点を設立するに至った。イノベーションコースト構想を機に、企業とのつながりが生まれ、着実にロボットの関連産業が集積していっている。
イベントの開催で交流人口の増加にも貢献
福島ロボットテストフィールドは、ロボット関連産業の集積だけでなく、未来を担う人材の育成、交流人口の拡大も目指す。企業の誘致活動はもちろん、さまざまなイベントを実施している。2021年にはワールドロボットサミット(WRS:ロボット競技会)の開催地となり4千人弱の来場者があった。
「県内の小中学生を主に対象としたお子さん向けのロボット・プログラミング体験会は年間20回開催しています。入居している研究室に委託していますが、遊び感覚で取り組める内容になっていて、みなさんすごく楽しそうに参加しています」とは、事業部長の本宮幸治氏。
福島ロボットテストフィールドは福島に新しい産業を創るという大きな使命を持った施設でもあり、また日本のロボット産業の発展において重要な役割を担う場所でもある。
「2022年12月に、ドローンの利用に関連する改正航空法が施行される予定です。その法律に則り、どのように安全に運用していくか、指標が必要になります。これまでドローンの安全な運用方法に関するマニュアルなどを作成してきた知見を生かし、今後のガイドライン作成、制度運用に貢献していきたいと思っています。ただ、法整備がなされ、運用が進んでも、理解が進み、社会に受け入れてもらえなければ技術は十分に生かしきれません。今後も引き続き見学会やイベントなどを実施し、みなさんによりロボット技術を知ってもらう機会をつくっていきたいと思います」と、本宮氏は今後の展望を話してくれた。
働き手の不足は建設・インフラ業界だけに限らず、すべての産業において課題となっている。これまで人間が担っていたインフラ点検や、被災地の状況把握などの場面で、その担い手に代わることが期待されるロボットの実証試験が多数、福島ロボットテストフィールドで行われている。福島に新しい産業を創り、日本の社会課題の解決にも貢献する……。今後も続々と福島ロボットテストフィールドを活用した新しい技術が生まれることに大いに期待したい。
取材協力/福島ロボットテストフィールド
https://www.fipo.or.jp/robot/





















