1967年にまちびらきをした泉ケ丘駅周辺の「泉北ニュータウン」

「ベッドタウン」として活躍してきた町が、生まれ変わろうとしている。大阪府の中央部に位置する政令指定都市・堺市にある、泉北高速鉄道 泉ケ丘駅で、「泉ケ丘駅前活性化計画」が2022年3月にスタートした。

泉ケ丘駅といえば、大規模なニュータウンである「泉北ニュータウン」の重要な拠点駅である。泉北ニュータウンは、高度経済成長期、人口の都市集中によって発生した住宅需要に応えるために、都市計画に基づいて整備されたエリアだ。1967年から、泉北高速鉄道の3駅・泉ケ丘駅、栂・美木多駅、光明池駅それぞれの丘陵地帯に沿って周辺地区に順次開発が進められた。現在は、公的賃貸住宅、マンションなど約5万8,000戸の住宅が並んでいる。

泉北ニュータウンを背景にする泉北高速鉄道泉北ニュータウンを背景にする泉北高速鉄道

住宅地と商業地が計画的に配置され、小学校、幼稚園、医療センター、公園などが整っており、低層住宅や中高層住宅が整然と広がる特有の景観を形成している。周辺には良好な里山が多く、市民農園、農産物直売所なども近所で運営されており、身近なところで、豊かな自然環境や農空間に親しむことができる。また、住人が安心して歩行できるよう、車道と分離された緑道が住宅エリアと駅、商業施設や生活支援サービス施設等を結んでいる。

西日本最大級のニュータウン、現在の課題とは?

“緑が多く、豊かな住環境”である泉北ニュータウンが、現在過渡期なのだという。居住人口が1992年の164,587人をピークにして、2020年12月末時点では118,181人まで減少し、高齢化率は36%を超えている。これは日本全体の 20 年先の高齢化率とほぼ同じ状況だ。10代後半から30代の世帯分離による地区外転出がそれを上回っており、結果として若年世代の転出超過も課題となっている(※)。

一方で明るい話題もある。2025年11月には、近畿大学医学部と近畿大学病院が泉ヶ丘エリアへの移転が決まっている。コロナ禍を経て、リモートワークやワーケーションといった多様な働き方が生まれたことで、人々のライフスタイルや価値観の変化なども起こり始めている。ニュータウンが生まれてから約50年が経過しようとしている。これらを受けて、2021年に堺市は、泉北ニュータウンの次の10年を見据えた取組みの方向性や将来像を示す「SENBOKU New Design」を策定。将来にわたって多様な世代が、快適に住み続けられる持続発展可能な町を目指していこうとしている。南海電鉄は、次世代の沿線中核都市を目指していく。この中心となる取組みが、「泉ケ丘駅前活性化計画」なのだ。

※参照: 堺市.SEMBOKU New Design.2021年5月

泉ケ丘駅前に、医・職・充をキーワードにした複合施設を

お話を伺った、(左)南海電気鉄道株式会社 総務広報部 園口勇一さんと(右)南海電気鉄道株式会社 泉北事業部 黒田響子さんお話を伺った、(左)南海電気鉄道株式会社 総務広報部 園口勇一さんと(右)南海電気鉄道株式会社 泉北事業部 黒田響子さん

現在、泉ケ丘駅前活性化計画では、2025年の開業を目指し、複合施設の建築が進められている。「駅前の『泉ヶ丘ひろば専門店街』が新たに生まれ変わります。施設の空間を刷新することで、これまで行っていた地域活動と絡めて、町を活性化する動きにつなげていく予定です」と南海電気鉄道株式会社 泉北事業部 黒田響子さんは話す。

2025年に新築して生まれ変わる複合施設は、医・職・充がテーマだ。医は医療、職は仕事、充は充実をそれぞれ指している。複合施設の低階層は商業施設、上層階は医療機関やオフィスとなる予定。テナントには、日常使いできる店舗が入ることを想定している。移転予定の近畿大学病院等と泉ケ丘駅と施設を結ぶ、バリアフリー等のユニバーサルデザインに配慮した歩行者の動線も生まれる。

施設2階には大規模な広場を設け、駅前ロータリーデッキ2階にある広場「堺市くすのき広場」と一体化させてより広く開放的な場所となる。4階建の各フロアや屋上階にも広場を設けるなど、泉ケ丘駅にこれまで以上に充実した広場が生まれる予定だ。マルシェや地域イベントなど、広場を活用したシティプロモーションの展開や多様な交流を促す場も生まれやすくなるだろう。

「広場は地域の交流の場。これまでも、泉ケ丘駅前の広場を利用した『つながるDays』というイベントを2017年から計10回実施していました。音楽ライブや趣味の展示、物販や子ども向けの催しなど、地域の人たちが企画から積極的に関わっていました。施設完成後は新たに、共通の趣味や好みを共有するような、テーマ型のコミュニティイベントも計画予定。広域の来訪者による泉ケ丘駅の利用率アップも目標のひとつです」

お話を伺った、(左)南海電気鉄道株式会社 総務広報部 園口勇一さんと(右)南海電気鉄道株式会社 泉北事業部 黒田響子さん完成予想図。左側に泉ケ丘駅前ロータリーデッキ2階堺市くすのき広場、右側に同計画新築4階建のうち2階広場を中心に望む。延床面積 約1万6,000m2 、竣工予定2025年9月。(写真提供:南海電気鉄道株式会社)
お話を伺った、(左)南海電気鉄道株式会社 総務広報部 園口勇一さんと(右)南海電気鉄道株式会社 泉北事業部 黒田響子さん泉ケ丘駅前活性化計画の予定地(写真提供:南海電気鉄道株式会社)

転出が増えている若年世代の人口を誘引したい

泉ケ丘駅前の広場を利用して行われていた地域イベント『つながるDays』の様子。音楽ライブや趣味の展示、物販や子ども向けの催しなど、地域の人たちが企画から積極的に関わっていた。(写真提供:南海電気鉄道株式会社)泉ケ丘駅前の広場を利用して行われていた地域イベント『つながるDays』の様子。音楽ライブや趣味の展示、物販や子ども向けの催しなど、地域の人たちが企画から積極的に関わっていた。(写真提供:南海電気鉄道株式会社)

住宅地として計画された泉北ニュータウン内では、働くことができる場所が少ないという問題もある。複合施設への企業誘致を推進することで、泉北ニュータウン内で働く場を生みだそうとしている。職住一体や近郊型のライフスタイルも可能になる。子育てを支援する機能も用意されるというから、若年世代が暮らしやすく働きやすい環境が実現しそうだ。

「私たちの目標は、泉北ニュータウンの価値を高めて、次世代へ引き継ぐこと。泉ケ丘駅周辺を訪れたことがない方に訪れていただき、この町ってとても暮らしやすそう...!という認識を持ってもらえたら。目指すのは、日中の人口増加です。ベッドタウンとしての機能から脱却して、働けるまち、暮らせるまち、訪れるまちとしての機能を強化することで、多様な人が行き交う、南大阪地域をリードできるような賑やかな町にしていきたいです」

緑が多く、豊かな居住環境という整った条件に加えて、多様なライフスタイルを叶えられる可能性が町に加わろうとしている。泉ケ丘駅で生活も仕事も医療も自己実現も包括されるようになれば、良き先行事例のひとつとなるだろう。10年後、リニューアルが施されたニュータウンの変貌を楽しみに待ちたい。

泉ケ丘駅前の広場を利用して行われていた地域イベント『つながるDays』の様子。音楽ライブや趣味の展示、物販や子ども向けの催しなど、地域の人たちが企画から積極的に関わっていた。(写真提供:南海電気鉄道株式会社)地域イベント『つながるDays』では、ワークショップなどを通して、地域住民同士の交流も生まれていた(写真提供:南海電気鉄道株式会社)