相続土地国庫帰属制度とは
2021年4月28日に「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(以下、相続土地国庫帰属法)が成立した。相続土地国庫帰属法によって、相続によって取得した土地を手放して国庫に帰属させることができる仕組み(相続土地国庫帰属制度)が新設された。近年、土地利用ニーズの低下などにより、特に地方では土地を相続したものの、土地を手放したいと考えている人が増加している。
現行の制度では、相続したくない財産がある場合、例えば相続放棄をするといったことも考えられる。しかしながら、相続放棄は最初から相続人とはならなかったとみなされる制度であり、相続放棄をするとすべての相続権を失うことになる。不要な山林だけを相続放棄するといった使い方はできず、一部の財産だけ要らない人にとっては使い勝手が悪い。しかしながら、相続土地国庫帰属制度なら不要な不動産だけを国に対して手放すことができるため、画期的な制度といえる。
相続土地国庫帰属制度を使えば相続放棄をせずに不要な土地だけを国に帰属させ、必要な財産は相続することができるようになるのだ。
相続土地国庫帰属制度ができた背景
相続土地国庫帰属制度ができた背景は、所有者不明土地が増えたためである。所有者不明土地とは、「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡が付かない土地」のことを指す。
国土交通省の「所有者不明土地の実態把握の状況について」によると、全国の所有者不明土地の面積は約410万ヘクタールに相当し、九州の面積(368万ヘクタール)を超える状況だ。
https://www.mlit.go.jp/common/001201304.pdf
所有者不明土地は山林等に多く、高速道路の延長で用地買収をする際の障害となっている。
また、東日本大震災の復興整備事業においても障害となり、社会問題となった。所有者不明土地が発生する原因は、主に相続後の名義変更登記がなされないことが理由として挙げられる。2022年6月時点において相続の名義登記は義務ではなく、また名義変更をするには登記費用もかかることから、山林のような比較的資産価値の低い不動産は登記されないことも多い。
このような状況を受け、2021年に「不動産登記法の改正」と「民法の改正」「相続土地国庫帰属法の新設」の3つの法整備が行われた。これらの法整備によって所有者不明土地の「発生予防」と「利用の円滑化」の両面を目的に新たな制度ができている。
不動産登記法の改正
不動産登記法の改正では、相続後の名義変更登記(相続登記)が義務化されることとなった。
相続登記が義務化されることで、所有者不明土地の発生を相当に予防できることが期待される。義務化の対象となる相続登記は、既に発生している相続もすべて対象となることがポイントだ。
民法の改正
民法の改正では、所有者不明土地の管理制度が創設された。
一定の手続きを踏めば裁判所が所有者不明土地の管理人を選任できるようになり、従来よりも円滑な土地利用ができる仕組みとなっている。
相続土地国庫帰属法の新設
相続土地国庫帰属法の新設では、土地を手放すことができる相続土地国庫帰属制度が創設された。
不要な土地を手放すこともできるようにすることで、所有者不明土地の発生を予防している。
「不動産登記法の改正」と「民法の改正」「相続土地国庫帰属法の新設」の3つは所有者不明土地関連法とも呼ばれており、所有者不明土地を今後減らしていくことが目的となっている。
相続土地国庫帰属制度はいつから始まる?
相続土地国庫帰属制度は、2023年4月27日から始まる予定である。所有者不明土地関連法では、「相続土地国庫帰属制度」と「所有者不明土地の管理制度」、「相続登記の義務化」の3つの仕組みができたが、それぞれのスタート時期は以下のようになっている。
【各制度の開始時期】
相続土地国庫帰属制度:2023年4月27日
所有者不明土地の管理制度:2023年4月1日
相続登記の義務化:2024年4月1日
帰属させることができる土地の要件
帰属させることができる土地は、一定の要件が設けられている。どんな土地でも受け入れてしまうと、要らない土地は国に渡せば良いという安易な判断(モラルハザード)が生じかねないため、要件は若干高めに設定されている。
基本的な考え方としては、「通常の管理または処分をするにあたり過分の費用、または労力を要しない土地」であることが必要だ。具体的には以下のような土地が国に帰属させることができる物件となっている。
【帰属させることができる土地の要件】
ア.建物や通常の管理または処分を阻害する工作物等がない土地
イ.土壌汚染や埋設物がない土地
ウ.崖がない土地
エ.権利関係に争いがない土地
オ.担保権等が設定されていない土地
カ.通路など他人によって使用されていない土地
要件の中で最も重要なのは「ア」の「建物がない土地」という点である。つまり更地が条件であり、不要な空き家をそのままにして帰属させることはできない。
建物が残る物件を帰属させたい場合には、まず建物を取り壊さなければならないということだ。
また、「権利関係に争いがない」ことも要件となっている。例えば、境界が明らかになっていない土地は、権利関係に争いがあるものとして却下される見込みである。
さらに、「土壌汚染や埋設物がない土地」も要件となっており、土壌汚染対策法上の特定有害物質に汚染されている土地も却下されることになる。
帰属の要件を満たしている土地は、感覚的には「すぐにでも売れるきれいな更地」という印象であり、ここまで条件を整えられるのであれば売却という選択肢も出てくると思われる。
手続にかかる費用は?
しかも、土地を帰属させるには、審査手数料のほか、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費相当額を納めなければならないとされている。法務省では、10年分の土地管理費相当額を以下のような金額で参考例として挙げている。
【10年分の土地管理費相当額の参考例】
・粗放的な管理で足りる原野:約20万円
・市街地の宅地(200m2):約80万円
例えば、一般的な規模の木造住宅であれば、取り壊し費用に150万円程度かかる。さらに10年分の土地管理費相当額が80万円ということであれば、不要な空き家を帰属させるには取り壊し費用も含めて230万円程度の費用がかかることになる。手放すのに230万円も費用がかかるのであれば、帰属させずに自力で売ろうと判断する人は多いのではないかと予想される。なお、法務省は「具体的な金額や算定方法は、今後、政令で定められる予定」としている。よって、相続土地国庫帰属制度は不要な空き家を手放すには使いにくい制度といえる。
一方で、山林であればもともと建物が建っていないため、取り壊し費用は発生しない。10年分の土地管理費相当額も20万円であることから、空き家に比べるとハードルはかなり低い。売ろうとしてもなかなか売れない山林の場合、20万円程度であれば土地管理費相当額を支払ってでも手放したいという人は出てくると思われる。よって、相続土地国庫帰属制度は空き家よりも山林のような物件には使いやすい制度といえる。
相続土地国庫帰属制度は、もともとは山林に多く存在する所有者不明土地の発生を予防するための制度であり、空き家の解消を目的としたものではない。空き家に関しては、まずは自力で売却を試み、どうしても売れないようであれば相続土地国庫帰属制度を検討してみるという順番が適切だろう。
手続きの流れ
土地を帰属させるための手続きの流れは以下のようになる。
(1)承認申請
最初に国に対して土地を帰属させるための承認申請を行う。相続土地国庫帰属制度を申請できるのは、原則として「相続等により土地の全部または一部を取得した者」、あるいは「相続等により土地の共有持分の全部または一部を取得した共有者」となっている。
(2)要件審査・承認
申請のあった土地に対して、法務局が審査を行う。通常の管理または処分をするにあたり過分の費用、または労力を要しない土地であれば、帰属が承認される。
(3)負担金を納付して国庫帰属
帰属の承認がされたら、申請者が10年分の土地管理費相当額を納めることで国庫に帰属させることができる。10年分の土地管理費相当額は、地目や面積、周辺環境等の実情に応じて決定されることになっている。
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