withコロナ。住宅ローンの返済困難者は増加の一途

「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の特則について解説する「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」の特則について解説する

政府は、新型コロナウイルス対応によって、27の都道府県に発令されていた「緊急事態宣言」と「まん延防止等重点措置」を2021年9月末で解除した。半年ぶりの全面解除だ。

「緊急事態宣言」等が解除されても、収入がすぐにコロナ前に戻るとは限らない。飲食店などのサービス業や小売業など、小規模事業者を中心に、コロナ関連破たんは今後も高水準で推移すると見られている。住宅ローン利用者にとって、職の確保は収入の確保であり、住宅ローン返済の重要な源泉に違いない。

2021年8月度の全国企業倒産(負債額1,000万円以上)は、3ヶ月連続で前年同月を下回った。8月度は過去50年間で最少を記録(東京商工リサーチ・発表)。倒産抑制が定着している。

一方、「新型コロナウイルス」関連の経営破たん(負債1,000万円以上)は、9月29日16時時点で、全国で累計2,030件(うち倒産1,925件)となった。6月には155件で過去最多を記録。8ヶ月連続で月間100件台と高水準で推移している。全体の倒産が低水準で推移するなか、コロナ関連倒産の構成比が高まっている。

緊急事態宣言中は、多くの飲食店が休業や時短営業をすることとなった緊急事態宣言中は、多くの飲食店が休業や時短営業をすることとなった

そのような中、住宅資金の借入者による金融機関への貸付条件変更等の申込件数は、2020年3月10日から2021年7月末までの累計は5万3,308件と5万件を超える。その内4万4,682件が実行されている(金融庁/金融機関における貸付条件の変更等の状況について)。

「フラット35」を提供している住宅金融支援機構では、新型コロナウイルス感染症の影響により返済が困難となった「フラット35」等の利用者の返済継続を支援するため、返済期間の延長や元金返済の据置、一定期間の返済額減額、ボーナス返済の変更などのメニューを用意し対応している。返済方法変更の承認実績は、7月が501件、8月が443件。昨年の6月、7月のように単月で1,000件を超えるようなことはないが、2020年2月から2021年8月末時点での累計は1万2,431件となった※。
※数字は速報値を含む。速報値は過去に遡って変更となる場合がある。

貸付条件の変更や返済方法の変更は、早期に相談するほど選択肢が多く有益だ。気になる兆候があれば、利用中の金融機関へ相談しよう。

住宅ローン利用者が避けたいのは、自宅の強制売却

住宅ローンの返済が滞った際の選択肢のひとつとして内容を理解しておきたい住宅ローンの返済が滞った際の選択肢のひとつとして内容を理解しておきたい

住宅ローンの利用者が返済困難に陥った際、もっとも避けたいのは自宅の強制売却だろう。要は、破産手続きによる債務整理だ。今回紹介する「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン(以下、自然災害ガイドライン)」の特則を利用すれば、自宅を残すことができる。

本特則は、2020年10月に「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン研究会」が「自然災害ガイドライン」を新型コロナウイルス感染症に適用する場合の特則を公表し、同年12月1日から適用されている。

新型コロナウイルス感染症の影響を受けた債務者は、自然災害のように住宅が損害を被っているわけではないが、本特則は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことによって、住宅ローンや住宅のリフォームローン等の債務を弁済できなくなった債務者が、自然災害の被災者と同様に破産手続き等で自宅を手放すことなく債務整理を円滑に進められるよう、「自然災害ガイドライン」の特則として策定された。

適用から10ヶ月。「緊急事態宣言」等が解除されても、生活苦が継続し、住宅ローンの返済が心細くなるケースもあるだろう。本特則のメリットと注意点を理解し、新型コロナウイルス感染症の影響による万が一の際の選択肢を増やしておくと安心だ。

【自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの特則、3つのメリット】
①自宅を手放さずに、債務整理ができる。
②弁護士等の「登録支援専門家」による手続き支援を無料で受けられる。
③債務整理をしても、個人信用情報に登録されない。

住宅ローンの返済が滞った際の選択肢のひとつとして内容を理解しておきたい自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの特則のメリットのひとつとして、弁護士等の「登録支援専門家」による手続き支援を無料で受けられることがある

本特則の最大のメリットは、債務者が住宅を手放すことなく生活や事業の再建をはかれる点だ。その方法が、調停条項案を作成すること。調停条項案では、住宅ローンを個人再生等の手続きから除くことができ、返済可能な住宅ローンの支払方法を別途定めることができる。

「調停条項案?」と思われた方も多いだろう。調停条項案の作成や手続きは、弁護士、公認会計士、税理士、不動産鑑定士といった登録支援専門家のサポートを無料で受けることができる。この2つめのメリットは、とても心強い。

そして、3つ目のメリットは、債務整理をおこなっても、個人信用情報に登録されないこと。ブラックリストに載らないため、新たな借入れができ、クレジットカードをつくることができる。生活再建の強い味方であり、心理的な不安も軽減される。

次項では、適用条件のポイントと誤解しやすい点を確認しておこう。

【適用要件等】個人・個人事業者向け

新型コロナウイルス感染症以外の理由による返済困難者は、本特則の利用は不可。
◎本特則における対象債務
・2020年2月1日以前に負担していた既往債務 
・2020年2月2日以降、本特則制定日(2020年10月30日)までに新型コロナウイルス感染症の影響による収入や売上等の減少に対応することを主な目的として以下のような貸付等を受けたことに起因する債務

①政府系金融機関の新型コロナ感染症特別貸付
②民間金融機関における実質無利子・無担保融資
③民間金融機関における個人向け貸付

◎債務の免除等には、一定の要件(債務者の財産やコロナ影響前後の収入状況、信用、債務総額、返済期間、利率といった支払条件、家計の状況等を総合的に考慮して判断)を満たすことやローンの借入先の同意が必要。また、簡易裁判所の特定調停手続を利用することが必要。

◎本特則による支援類型
個人:「住宅資金特別条項」 住宅ローンの弁済は継続し住宅は残したうえで、その他の債務を整理する。
「清算型」住宅等の資産を処分・換価して弁済。または資産の処分・換価の代わりに住宅等の資産の公正な価額を一括もしくは原則5年以内で弁済して当該資産を残す。など。

個人事業主:
「清算型」上記の個人に同じ。 
「事業継続型」再建計画を策定のうえ、事業からの収益等により弁済。
「住宅資金特別条項」上記の個人に同じ。など。

※いずれの支援類型においても、資産の処分や事業からの収益等により弁済できない金額については、借入先の同意を得て債務が免除される。

本特則の注意点と適用要件

●新型コロナウイルス感染症の影響による返済不能であること
本特則の摘要を受ける債務者は「新型コロナウイルス感染症の影響を受けたことにより」住宅ローン等の返済不能に陥っていることが条件である。感染症とは関係ない理由による収入減での返済不能は、対象外だ。

実際の手続きでは、当該返済不能が「新型コロナウイルス感染症の影響を受けたこと」であることの証明が難しい。自治体から罹災証明が発行される自然災害との違いだと言えよう。

●住宅ローンは免除されない
誤解が多い点がこれだ。「住宅ローン債務が免除され、自宅が手元に残る」ことはない。一定の条件のもと、カードローンなど、住宅ローン以外の債務の免除や減額を申し出ることができる、という制度である。

●債務の免除には、一定の要件と全借入先の同意が必要
本特則では、手続に沿って債務整理を進めていくが、債務の免除等には一定の要件(前述参照)を満たすこと、そして、すべての債権者の同意を得ること、が必要となる。債権者の立場に立てば、借金の帳消しはハードルが高いだろうことは、想像に難くない。

本特則では、破産手続や民事再生手続と同等額以上の回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できることが必要だとされている。

●本特則の対象債務
前述の【適用要件等】にあるように、本特則の対象となる債務は、政府系金融機関や民間金融機関からの借入れだ。小口資金の貸付けなどが含まれると、手続きの煩雑さを嫌う自治体もあるだろう。本特則の適用を申し込めばすぐに減免されるとは思ってはならない。手続き中も生活費等の支出が継続することを肝に銘じておこう。手続きについては、次項以降で紹介する。

住宅ローン債務が免除されるわけではないことを理解しておこう住宅ローン債務が免除されるわけではないことを理解しておこう

債務者の要件

債務者の要件7つを確認しよう債務者の要件7つを確認しよう

本特則では、債務者の要件を7つ提示し、全ての要件を備える個人であること、としている。
ポイントとなる要件を見ておこう。

■新型コロナウイルス感染症の影響により収入や売上げ等が減少したことによって、住宅ローンやその他の本特則における対象債務を弁済することができない、又は近い将来において本特則における対象債務を弁済することができないことが確実と見込まれること。

⇒債務者が資力を欠いているために、約定どおりの返済ができない状態にあり、そのような状態が継続する状態、いわば、破産手続における「支払不能」の状態を指す。

また、現時点では約定どおりの返済ができているものの、債務者が資力を欠いているために、近い将来、特定の債務だけでなく、その他の債務全般について返済ができなくなることが、確実に見込まれる状態。これは、民事再生手続における「支払不能のおそれ」に相当する状態を指す。

■弁済について誠実であり、その財産状況(負債の状況を含む)を対象債権者に対して適正に開示していること。

⇒債務者に調停条項案を作成し、履行する意思があること。手続きにおいて提出を求められる書類等に虚偽がないことが必要だ。多くの人が関わるゆえ、誠意と感謝を持って取組みたい。

■新型コロナウイルス感染症の影響に係る基準日(2020 年2月1日)以前に、対象債権者に対して負っている債務について、期限の利益喪失事由に該当する行為がなかったこと。

⇒当該債務について、すでに延滞をしていると、要件クリアが厳しくなる。ただし、期限の利益の喪失事由に該当する事象が発生していても、当該対象債権者が同意する場合には、この特則の対象となる債務者に含まれる。

ここまで、主な要件を見てきたが、債務者の要件に該当せず、本特則の利用が叶わない場合は、破産手続や民事再生手続(個人再生は自宅を残せる)を利用することになる。これらの法的倒産手続は、裁判所の関与の下、法律の定めに従って行われる。

本特則に基づく債務整理との違いは、信用情報登録機関への個人信用情報の登録・報告を行わないという点だ。ブラックリストに記載されない事は、とてもありがたい。本特則では、裁判所がある程度関与するものの、基本的には関係当事者の合意により債務を整理していく手続きとなっている。

債務者の要件7つを確認しよう本特則に基づく債務整理との違いは、信用情報登録機関への個人信用情報の登録・報告を行わないという点

●本特則の利用状況
2020年12月の本特則の適用開始から10ヶ月。「東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関」の公表によれば、債務整理が成立したのは2021年6月末時点で、たったの3件。

申立件数が少ないのか、というとそうではない。登録支援専門家に手続支援を委嘱した件数は特則の適用開始から1,085件。自然災害による案件は1,189件であり、決して引けを取らない。だが、債務整理成立件数は、本特則3件に対し、自然災害案件では556件と差がついている。

債務整理設立の件数が伸びない要因は、新型コロナ感染症の影響による返済困難であることの証明の難しさ、手続きの煩雑さ、など。「債務の性質上、手続きに時間がかかる」とのことだが、7ヶ月間で3件という数字はいかがなものか。一件でも多くの債務整理が成立することを望んでいる。

本特則の適用が開始された2020年12月、金融庁は、麻生財務大臣兼金融担当大臣談話として、「同特則の運用に際し、自由財産の拡張や債務整理の対象債務について、個人債務者の生活や事業の再建のため、可能な限り柔軟な支援に努めること」「12 月のボーナス返済についての相談など、顧客の状況やニーズに応じた返済猶予等の条件変更の迅速かつ柔軟な対応を行うこと」を金融機関へ要請した。

そして、今年も12月がやってくる。家計収支の変化によって、ローンの返済が厳しい、返済が厳しくなりそう、との予感がしたら、迷わずに金融機関へ相談して欲しい。返済を延滞してしまうと、本特則の利用が厳しくなるだけでなく、対応策の選択肢が減ってしまう。住宅を手元に残し、生活再建を図りたいならばなおさらだ。

債務者の要件7つを確認しよう返済が厳しくなりそうな場合は、できるだけ早めに金融機関に相談したい

手続きの流れ

本特則の手続きは、大きく7ステップ(下記参照)だ。ご覧のとおり素人が一人で行うには少々ハードルが高い。登録支援専門家のサポートが無料で受けられるのは、とてもありがたく大きなメリットだろう。手間のかかる手続きを行ってくれる弁護士や税理士等の専門家の確保も課題だ。

①手続き着手の申出
もっとも多額のローンを借りている金融機関等へ、ガイドラインの手続き着手を希望する旨を連絡。

②専門家による手続き支援を依頼
金融機関等から手続き着手の同意を得たら、地元弁護士会などを通じ、ガイドライン運営機関に対して、「登録支援専門家」による手続き支援を依頼。

③債務整理(開始)の申出
金融機関等に債務整理を申し出て、申出書のほか必要書類を提出。

④「調停条項案」の作成
登録支援専門家の支援を受けながら、金融機関等との協議を通じて、債務整理の内容を盛り込んだ書類(調停条項案)を作成。

⑤「調停条項案」の提出・説明
「登録支援専門家」を経由して、金融機関等へ「調停条項案」を提出・説明。

⑥特定調停の申立
債務整理の対象とする全ての借入先から同意を得て、簡易裁判所へ特定調停を申立(申立費用は債務者の負担)。

⑦調停条項の確定
特定調停手続により調停条項が確定すると、債務整理が成立。

手続きの流れ手続きの流れ

住宅ローンの返済に困らないために

マンション(区分所有)、一戸建住宅ともに不動産価格指数は上昇傾向にあるマンション(区分所有)、一戸建住宅ともに不動産価格指数は上昇傾向にある

足元の住宅価格は上昇トレンド。国交省が8月31日に公表した不動産価格指数(全国・令和3年5月分)によれば、マンション(区分所有)は対前月比+2.5%、戸建住宅は+2.4%といずれも上昇。不動産価格指数は、2010 年平均を100とした指数だが、マンション(区分所有)は 165.0、戸建住宅は 105.3となっている。特に2014年度以降のマンション(区分所有)の上昇率が大きい(下図参照)。同時期に同様に購入希望者の年収が上昇したのかと考えると、非常に悩ましい。

住宅価格の年収倍率はどうなっているのか。国交省発表の令和2年(2020年)度 住宅市場動向調査を見ると、三大都市圏の購入価格と年収倍率は分譲マンションで4,639万円/5.28倍、分譲戸建住宅で3,826万円/5.31倍、注文住宅だと5,359万円/6.67倍にもなる。

現在、住宅ローンの金利は低く、住宅ローン控除などの税制面の優遇も整っていて、購入意欲を後押しする。加えて、リモートワークやステイホームなど、昨今の生活様式の変化が、住環境の最適化という需要を膨らませているようだ。

年収の5倍も6倍ものお金を20年、30年と長期にわたって投入する。低金利とは言え、長期になれば、支払利息も積みあがる。FP相談の現場では以前、「夫の年収だけで返済可能な資金計画」の希望が主流だった。が、今や返済計画は共働きが前提だ。都心の住宅購入ともなれば、主役はパワーカップルに絞られてくる。

共働きを前提にしたギリギリの返済計画だと、収入の減少、教育費等家計支出の増加、金利の上昇などに対応できない。資金計画・返済計画では、最悪のシナリオを想定しておくと不安が解消する。先ずは、借り過ぎないこと。対応策は、いたってシンプルだ。資金計画は、目の前の事情のみで判断することなく、返済継続可能なプランで進めることが肝心だ。

マンション(区分所有)、一戸建住宅ともに不動産価格指数は上昇傾向にある出展:国土交通省不動産価格指数

公開日: