悩みが多い、小規模マンションの管理
小規模マンションとは、一般的に戸数が50戸未満程度のマンションのことをいう。2020年時点の分譲マンション棟数およそ11万7,682棟のうち、小規模マンションの割合は52.5%と半分以上を占める(※2021年 不動産業統計集より/公益財団法人不動産流通推進センター)。
小規模マンションは住民同士の距離が近かったり、住環境のよい低層住居専用地域に立つ物件が多かったりと、小規模マンションならではの魅力はたくさんあるものの、悩みが多いのがマンションの管理だ。
多くのマンションで理事会役員の入れ替えが行われる春先、マンション管理のコンサルティングを手がける株式会社さくら事務所には、小規模マンションの理事からの相談が増えるという。内容の多くは「理事の人数が少なくて、一人当たりの仕事の負荷が大きい」「大規模マンションのように予算が潤沢ではないので、できることの選択肢が少ない」といったもの。
そのような声を受け、2021年6月26日、「小規模マンションにおける組合運営のコツから、管理費・修繕積立金の節約方法まで~新米理事さんのお悩み即時解決セミナー」と題したオンラインイベントが行われた。登壇されたのは、株式会社さくら事務所のマンション管理コンサルタントの土屋 輝之さん。大小合わせて400を超えるマンション管理組合の運営コンサルティングを手がけてこられた。
「小規模マンションは戸数が少ないため、大規模マンションよりも予算の節約が必要だったり、輪番制で理事を回しても住民一人ひとりにかかる負担が大きかったりと、小規模ならではの難しさがあります。今回はさまざまな事例を基にしながら、小規模マンションの理事会運営のポイントをお伝えします」(土屋さん)
セミナー中は参加者から多くのコメントや質問が寄せられ、関心の高さがうかがえた。セミナーの内容から、小規模マンションの管理運営でよく見られる「3つの失敗パターン」をまとめてご紹介する。
失敗パターン1. コストダウンありきの管理会社の見直し
小規模マンションの管理費は、大規模マンションよりも割高になりやすい。国土交通省の調査によると、管理費の一戸当たり月額平均は 1万862 円(※2018年度 マンション総合調査結果より/国土交通省)。マンションの規模が大きくなるほど金額は低くなる傾向にある。
この管理費を少しでも抑えようと、管理会社の変更を検討する際、コストダウンありきの見直しには注意が必要だ。市場全体として、さまざまな規模のマンションで管理費の値上げが続いている。管理会社を変更したところで、そう簡単にコストは下がらないのが現状である。交渉の仕方次第では、管理会社とコミュニケーションがとりにくい状態に陥ることもある。
また、管理委託費用だけでなく、委託業務内容についても十分な検討が必要だ。日々の清掃、設備点検、フロントの対応など、在宅時間が増えたコロナ禍以降、管理体制への不満を訴える相談も増えているという。住まいの管理に求めるものは住民それぞれなので、委託内容の見直しを行う場合は、後々のトラブルを避けるためにも住民への説明を繰り返し行うことが求められる。
また、費用を抑えられるからといって、「自主管理」へ安易に移行することも注意が必要だ。すべての理事がマンション管理に必要な知識を備えることは難しい。将来的に「やはり管理会社に再依頼したい」となったときに、修繕や会計記録を正確に残しておく必要もある。管理組合の変更がコストダウンの手段から目的とならないよう、丁寧な議論が必要だ。
失敗パターン2. 不透明になりやすい、小規模修繕工事の発注経緯
大規模修繕ではなく、日常的に発生する電気関係や給排水設備の修理。こういった小規模修繕工事はケースバイケースであることが多く、必要性や費用の妥当性を判断するのが難しい。失敗パターンとしては2つある。
1つは、上記のとおり判断が難しいことから、管理会社に任せきりになるパターンだ。管理会社経由での小規模修繕工事の発注は割高になる場合が多い。緊急を要する工事以外は、実施時期や実施方法、施工範囲について複数の専門家の意見を聞くことが望ましいといえる。
もう1つは、理事の知り合いや関係者に工事を発注するパターン。株式会社さくら事務所での相談事例の中でも、縁故関係への発注によるトラブル事例は頻繁にあるという。もちろんすべてに問題があるわけではないが、見積もりや施工内容に透明性が欠けていたり、工事の不備があった際にも指摘がしづらかったりと、トラブルになりやすいという。
では、どのような体制が望ましいのか。外部の専門家にコンサルティングを依頼するのも一つだが、小規模マンションの場合、コンサルティング料も割高になる場合が多い。
そのため小規模修繕工事については、業種ごとに専門会社とのつながりをいくつか持っておくとよいだろう。電気工事であればA社かB社、給排水工事であればC社かD社、といった具合だ。「かかりつけ医」のように、地域の施工会社に直接発注することができれば、多少手間は増えるものの、管理会社を通すよりはコストを抑えることができる。
そしてこの流れを誰が理事会役員になっても実行できるよう、修繕工事発注細則の制定を行うなど、小規模修繕工事発注の手順をルール化しておくことが望ましい。
失敗パターン3. 修繕積立金の増額を先送りしてしまう
総会への区分所有者の出席割合は、戸数100戸未満のマンションでは36.4%、501戸以上のマンションでは14.3%と、小規模マンションほど高い傾向にある(※2018年 マンション総合調査結果より/国土交通省)修繕積立金の積み立て方式は、段階的に徴収金額を増額していく「段階増額積み立て方式」と、一定金額で徴収する「均等積み立て方式」がある。多くのマンションでは段階増額積み立て方式が採用されており、築年数がたつほど負担額が大きくなっていく。
この修繕積み立て金の増額は、多くのマンションで課題となっている。住民の高齢化が進む中で、老後の生活資金への不安を抱く住民も当然多い。修繕積み立て金増額の合意を得ることは簡単ではない。
そして、住民同士の距離が近い小規模マンションにおいては、「修繕積み立て金の増額はきっと猛反対を受けるだろう」「自分が理事のタイミングで増額の議論は避けたい」という心理が働くのも無理はない。長期修繕計画の見直しは、多くのマンションで5年ごとを目安に行われているが、計画に比べ、現在の積立額が不足しているマンションは全体の34.8%に上るという(※2018年 マンション総合調査結果より/国土交通省)。
しかし、先送りにしたところで将来必要となる修繕費用は変わらない。増額の決定を先送りにすればするほど、後々の増額幅は大きくなる。負担に耐えられなくなる所有者が現れるなど、合意形成はさらに困難になるであろう。修繕積み立て金額を上げる必要性や計画の妥当性を十分に検討し、丁寧に説明をしたうえで適切なタイミングで増額を進めることが必要となる。
段階増額積み立て方式ではなく、均等積み立て方式へ移行するには、竣工50~60年後まで見据えた計画の立案が必要になる。区分所有者の多くは、マンションの維持管理に必要な専門知識を必ずしも持ち合わせていない。マンションの資産価値の維持あるいは向上のためにも、長期修繕計画の見直しには、外部の専門家にチェックを依頼することも一つであろう。
小規模マンションが乗り越えたい、「住民の無関心」
3つの失敗パターンを紹介したが、共通する改善の糸口として「住民間のコミュニケーション」が挙げられる。管理体制を見直すにも維持管理についての判断を下すにも、住民意識のリサーチを行うことや、十分に議論することが必要不可欠だ。
セミナー中の参加者からの質問では、「住民のみんなが無関心、どうすれば関心を持ってもらえるの?」「理事会が管理会社の言いなりになっている気がする」「頭の固い人が多くて議論が進まない」といったコミュニケーションに関する相談が多く寄せられた。ただでさえ区分所有者の高齢化が進む中、運営にかけられるマンパワーが限られている小規模マンションでは、住民の無関心は大きな痛手となる。住民全員が参加できる仕組みをつくるには、小さな関わりの機会を根気よくつくることが必要だ。
住民参加型の仕組みづくりを
普段から住民同士の意思疎通が図れていることは、強みとなる。マンションの維持管理に関わる合意形成がスムーズになるだけでなく、生活音や喫煙、ペットの問題など、マンションで起こりやすい住民間トラブルの際にも生きてくるだろう。
また、小規模マンションでは予算の都合上、災害対策の備えが十分でない場合も多い。そこを補うためにも、住民の主体的な意識が必要だ。「この範囲までは管理組合側で準備をします。ここから先は住民それぞれで準備をお願いします」といった情報を理事会から発信し、住民全員で認識を共有しておく必要がある。
「小規模マンションの管理運営は、小さいからこその強みを生かすべきです。大規模マンションに比べ、管理会社とのコミュニケーションもとろうと思えばとりやすいはずです。また、理事会単位にこだわらないこともポイントです。『住民全員参加型の運営』で活路を見いだしたマンションをたくさん見てきました。私たちのような外部のマンション管理コンサルタントも活用いただきながら、住民一人ひとりの声が反映されやすい理事会運営を目指していただけたらと思います」(土屋さん)
現在は感染症対策などの配慮が求められるが、七夕やクリスマスといった季節のミニイベントや防災関連の取り組みを管理組合で企画するなど、住民同士が顔を合わせる機会を定期的に設けることが望ましいといえる。
取材協力:株式会社さくら事務所
https://www.s-mankan.com/
マンション管理組合のミカタ
https://www.sakurajimusyo.com/






