東京のライダーは、北海道でログビルダーに
北海道下川町に、社長と従業員1名と小規模ながら、オーナー一人ひとりの要望をカタチにし、「住む人が幸せを感じられる」家づくりを続ける工務店がある。社長であり現役大工の加藤滋さんに話を聞いた。
東京生まれ、東京育ちの加藤さん。若い頃からバイクツーリングが好きで、20歳の夏、ついにあこがれの北海道を訪れる。どこまでも広く豊かな自然は想像以上で、すっかり魅せられ、北海道全域を旅したのだとか。
「中でもお気に入りの場所は富良野でした。2回目の北海道旅行では、フェリーで出会ったライダーとすぐに仲良くなり、2週間後に富良野の駅で待ち合わせしよう!と約束して、それぞれの旅を満喫しました」
そうして2週間後に再会した彼から、驚きの一言が飛び出す。「ログハウスを建てている現場を手伝ってるんだけど、一緒に来ない?」と。突然の出来事だったが、好奇心に突き動かされ、南富良野落合という地区を目指すことになった。
「カヌーやトレッキングやアウトドアスポーツなどを主体とする『どんころ野外学校』というところで、当時はログハウス建設も行っていたんです。現場で丸太を切ったり組み合わせる作業をしながら、空き家みたいなところに寝泊まりして過ごしていました。もともとは1ヶ月くらい滞在するイメージで北海道に来たのに、ログハウスの現場が楽しすぎて、夏はおろか一冬越してしまいましたね(笑)」
それを機にログハウスづくりに夢中になった加藤さん、とうとう「期間限定ではなく、北海道に移住してしまおう」と決意する。
「こう言うと、元々ログハウスが大好きだったように思われるかもしれませんが…ログハウスが好きというより『木』という素材がずっと好きだったんです。木の肌は温かいし、木目がきれい。木目がひとつひとつ違うことも面白い。また学生時代専門的に学んだ経験はなかったのですが、小さい頃から純粋にものづくりが好きでした。ものづくりをしている時間がすごく楽しかったんです」
ログビルダーから大工への転身
ログハウスを追求するべく北海道にやってきた加藤さん、まずは小樽市にある家づくり会社へと就職を果たす。その会社は、『家じゅうまるごと天然素材の木の家』をつくり続けていて、構造体はもちろんの事、床や腰壁・ドアや造作家具に至るまで、厳選した無垢の材を用いた本物の木の家をつくっていた。そこで2年ほど修業をして、自然素材を活用することの魅力やノウハウを学んだのだ。
ただ、ログビルダーは建築大工とは違い、住宅の屋根や基礎を作ったりすることはできない。
「丸太を削って組み立てるなどの作業が最初は楽しかったんですが、『自分の家を建てたい』と思った時、ログビルダーでは建てられないと思ったんです」。
すべてを自分で手がけられるだけの、住宅に関する幅広い技術を身につけたいと思った加藤さんはその後、何と札幌近郊に移り住み、職業訓練校の建築科で建設の基礎を学ぶ。
しかし、ログビルダーとしての知識やノウハウは、今も活かされキタ・クラフトならではの特徴に繋がっていることは確かだ。
卒業後は大手ハウスメーカーの下請けをしていた工務店に入社し、大工として年間10棟以上の住宅建築を5年以上経験した。「ここでは高断熱高気密の家づくりなど、住宅性能を高める大工工事、そして作業効率の良い手早い仕事という面でも鍛えられました。大工は5年くらい一生懸命やれば一通りのスキルも身に付き一人前扱いされるので、自信もつきましたね」
こうして、大工としても一通りの経験を積み、技術を身につけた加藤さん、「せっかく北海道に移住したのだから、もっと自然豊かな田舎で暮らしたい」という以前からの考えをいよいよ実行に移す。選んだのは下川町だった。
下川町で、個人大工から工務店の創業へ
道北に位置する下川町は人口3,000人ほどの小さなまちだが、持続可能な地域づくりを目指し、国の「環境未来都市」や「環境モデル都市」の指定を受けながら、仕事と暮らしをリンクさせる「ワークライフリンク」の考え方を掲げている。
「率直にいうと『何もないところがいい』と思いました。たくさんのものや便利さに溢れていないからこそ、魅力を感じたんです。さらに、森林活用の先進地で、町全体が森林を計画的に育て、木材を活用して地域を活性化させる先進的な取り組みをしていることもポイントでした。下川町の森林組合も小径木を木炭に加工し商品化したり、林業体験、トドマツ精油などのほか、全国の移住者を、人材不足に悩む林業従事者に育てる活動で注目されていたんです。当時森林組合で働いていた方とご縁が繋がり、その紹介で下川町内のある工務店に大工として入りました。移住が実現するには、ご縁を繋いでくれたり、相談相手になってくれる方の存在が大きいことも身をもって実感しましたね」
分業体制の進んだ札幌の大きな工務店と違い、田舎では基礎や足場の組立などの仕事も大工がやるのが当たり前。基礎工事など住宅建築に関わる多彩な仕事を経験できたのだという。
「大工として経験を重ねる中で、自然素材を活かした手づくりのキッチンや収納・家具、薪ストーブなど、私も大好きでお客様も喜んでいただける家の姿が見えてきました。住宅に関することなら、大抵のことは自分の腕で作り上げることができるようになり、徐々に当初は考えもしなかった『工務店創業』という考えが私の中で生まれてきました」
そうして2001年に下川町でキタ・クラフトを起業。
実現したいのは、「環境にも良い、お客さんや自分たちの希望も取り入れた、住んでいて嬉しい家づくり」だった。
自然素材へのこだわり
キタ・クラフトの顧客は、地元の人のほか、移住者も多い。木が好きな人、ナチュラルな家づくりにこだわりたい人、地球環境に配慮した家を建てたい人など、『こういう家を建てたい』と確固としたこだわりを持つ人が多い。
そうしたニーズは、加藤さんの「天然素材へのこだわり」とも相性が良い。
例えば断熱材のウールは、羊毛100%か一般的に使われるグラスウールかの違いで、1平米あたり2倍ほどコストが変わってくる。断熱材は実際に家が完成してしまえば、外から見えることはない。
そう考えると、グラスウールを使うとコストを抑えられるし、見えないなら変わらない、という考え方も合理的だが、
「断熱材を生産するとき、グラスウールや発泡系の断熱材であれば石油系の資源などを使います。生産するだけで多くのエネルギーコストを発生するわけです。住む上でコストが安いエコな家・・・ということではなく、使う素材自体がエコであるものを選びたい方々は、羊毛の断熱材を選んだり、その比率を増やしたりするんです」
そして特に大きいのは「木材」についてのこだわりだ。
「建材にはできるだけ地元の自然素材を多く使いたい、と思っています。なので、木材も第一には『下川町の地元の木材』を使いませんか、と提案します。コストを考えると地元の素材ではすべてカバーできないところもあるので、次に「国産の木材」を入れて、最後に外国産の木材で、という順番で提案しています。FSCやSGECの認証林の木材も、大切にしていますね。自然環境にやさしい木材、管理された森林で育った木材だよという証です。こういった環境に配慮した木材を使うことは、何か見た目が変わるというものではありませんが、その裏にある『ストーリー』に価値を感じ、共感していただくことに意味があります。もちろん、これらにこだわりすぎるとコストが膨大になるため、「コスト」「意識」「こだわり」のバランスをとるのが私の役目です」
驚くべきことに、ときには社長自ら自然素材を集めるために山に入ったり、川に入ったりもするのだとか。
「士別市のパン屋さんを建てた際には、オーナーさんと一緒に薪ストーブまわりの耐熱壁に使う石(鉄平石)を下川町の山に採取しに行ってきました。また、塗り壁に使う珪藻土は、道北の自然の中に見つけたこともあります。もちろん、素材は探せばもっともっと色々なものがあります。世の中にはどんな材料があるのか、日々探し模索しています」
自分の住んでいる家が、環境に配慮したものになっていることで、間接的にエコに貢献できている。丁寧な素材と毎日ともに過ごせている。その喜びは、決して小さくなく、住み続ける限り続いていく。
その価値に共感できる人にこそ、キタ・クラフトの家がしっくりとなじむのだ。
移住者を集める下川町の魅力
下川町に住む魅力について、加藤さんはこのように語る。
「下川町は木のまちだから、自然と木が好きな人が集まってきている気がします。また、田舎は四季がハッキリしているのが魅力。冬は厳しいけど、春がくれば喜びが倍増しますね。真冬の嵐の中にあっても、暖かい家の中で過ごせるのでご安心ください(笑)都会の便利さはありませんが、『なにもない』ことが心地よい、丁寧な暮らしができる場所だと思っています。必要なものはインターネットで買える時代ですしね」
そして最後にちょっと驚きの発言が。
「下川町には移住者が多いので、先輩がたくさんいて安心です。あと月1回くらい、移住者と定住者との交流の場があるので、見知らぬ地で孤独になったり、心細くならないようなコミュニティがあることも魅力です。そして、実はそろそろこのキタ・クラフトを、5〜10年くらいかけて事業への想いに賛同できる方がいれば次の世代へと引き継いでいくことを考えています。もちろん引継ぎ後は僕も色々なことをサポートしながら、事業をお譲りしたいと思っていますので、興味のある方は是非」
少々驚いたが、このような工務店が地域にあり続け、その地域ならではの「本当に住みたい家づくり」を実現できることが、地域の豊かさにつながるのかもしれない。であれば、次の担い手を早めに募集するにこしたことはない。
「こだわりを持って家をつくっていきたい」そんな思いをお持ちの方は、一度、下川町を訪れてみてはいかがだろう。
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◎筆者:くらしごと編集部 佐々木都







