「猫と暮らしている人のやさしくわかる防災と避難」刊行記念の対談が開催

小林元郎獣医師が監修した「猫と暮らしている人のやさしくわかる防災と避難」(ナツメ社)の表紙小林元郎獣医師が監修した「猫と暮らしている人のやさしくわかる防災と避難」(ナツメ社)の表紙

2020年6月に発売された本「猫と暮らしている人のやさしくわかる防災と避難」(ナツメ社)。その刊行記念として東京・下北沢にある書店、本屋B&Bが主催し、本の監修をした獣医学博士で獣医師の小林元郎氏と作家の藤谷治氏による対談がオンラインで2021年2月に開催された。

東京都世田谷区にある成城こばやし動物病院の代表を務める小林氏は、東京都の獣医師会に所属し、災害時の動物救援も行っている。本には猫と生き残るための防災知識や災害準備、そして発災時や被災中の対応が、かわいいイラストを多用してわかりやすく書かれている。

今回の対談タイトルは「猫連れは災害弱者?!猫オーナー必見、いざという時のために、どう備える?」。4匹の猫を飼っている愛猫家でもある藤谷氏との約2時間にわたったお話からご紹介したい。

まずは飼い主が自分の身を守る“自助”の大切さ

獣医師の小林元郎氏(左)と作家の藤谷治氏。対談の模様は本屋B&Bからオンラインで生配信された。ご自身も猫を飼っている藤谷氏は本について「絵がかわいいわりに内容がシビアですよね。オチがありつつ、なかなかドキマギしちゃうような話も多い」と感想を述べた獣医師の小林元郎氏(左)と作家の藤谷治氏。対談の模様は本屋B&Bからオンラインで生配信された。ご自身も猫を飼っている藤谷氏は本について「絵がかわいいわりに内容がシビアですよね。オチがありつつ、なかなかドキマギしちゃうような話も多い」と感想を述べた

今回の本を書いた動機を小林氏が語った。
「東日本大震災で動物救護をした石巻市の保健所の方に成城の区民会館でお話をしていただく機会があり、参加した地元の方とのフリートークのときに言われたのが『みなさんいろんなことをおっしゃっているけれど、人が先に死んじゃうんですよ』ということ。災害が起きた時にはディスカッションできるような余裕なんてないということなんです。それを聞いた時にまさにそうだと思いました。

大きな災害があったあとに診察していると、飼い主さんから避難の話が出ます。避難所にはドッグフードはあるのかしら、毛布はあるのかしら。そして、先生はいますよね?と。自分も亡くなってしまう可能性があることが現状の想定でないのであれば、これを境に変えていただいて、圧倒的に余裕のない時間の中で自分はどうするのかを考えるきっかけにしていただけるとうれしいなと思います。本は猫を主体にしましたが、人も犬もみんな一緒です」

そんな小林氏が防災で一番大切だと思っているのは、「自分でなんとかするということ」。減災のためには、自助=自分の身を自分で守ること、共助=地域住民で協力すること、公助=国や自治体が取り組むこと、以上3つの連携が重要とされているが、最も基本とされる“自助”の大切さを小林氏も支持する。

藤谷氏がもし小林氏自身が被災した時、どのくらいで獣医の職に戻れるかと問いかけると、小林氏は「3日目くらいですね」と答えた。

3日目というと72時間だが、それは災害が起きてから人命が助かるタイムリミットの目安ともいわれる時間だ。その時間をいかにペットと一緒に乗り切ることができるかとなるが、「まず飼い主が助からないとペットのケアもできない」と小林氏。

猫との同行避難

猫や犬との同行避難は課題も抱える猫や犬との同行避難は課題も抱える

まずはわが身を守ってからペットである猫を助けるのが防災の基本と本にも書かれている。ここからは、本のなかの猫と生き延びるための防災知識に関連する対談の内容を取り上げたい。

対談タイトルにもある、猫連れが災害弱者となるというのは、連れて避難することで被災のリスクが高まるからだ。人の防災グッズに加えて猫の防災グッズが必要となるし、一人暮らし、幼児や高齢者のいる家庭では大変さが増す。そういったことをふまえての避難対策が必要となる。

猫を連れての同行避難について小林氏は「大きくは2つの意味があると思っていて、1つは動物が放浪したりすると公衆衛生上の問題があるから飼い主がちゃんと保全してキープしなさいということ。もう1つは、ペットを災害で失った方はPTSDというダメージのあとの精神的ショックから社会復帰ができなくなることが多いんです。そういう意味でも、飼っている人とペットをセットに考えてあげなければいけない」と語った。

小林氏が獣医として初めて災害時の動物援護に当たったのは、2000年の三宅島の噴火だったそうだ。全島避難になった島民のペットを東京都の獣医師が預かる活動を行ったが、ペットと一緒に避難所に入りたいという要望に応えられなかったという。「東京都としては法律がないということだったんです。都民の税金をペットに使っていいという法的根拠が」とのことで、その時はペットを都民の“財産”とする提案で乗り切ったという。

今では動物愛護の観点から同行避難もできるようになったが、まだ十分ではない。小林氏によると、日本の国民で犬や猫を飼育しているのはおよそ25~26%ほどで、「社会の75%くらいはペットの優先順位は低いということ。ここのところをちゃんと認識して防災は考えていかないといけないと思います」と指摘。それゆえ、同行避難は災害のたびに議論となることも多く、課題を抱える。

避難所がペットとの同行避難に対応しているか事前確認を

言葉をしゃべれない動物を守るため、飼い主としての避難対策として、小林氏は「自治会への問合せ」をすすめる。

「避難所は小学校や中学校だったりすることが多いですが、けっこう誤解されているのが、地震が起こった時の避難所の運営は、行政もですが、決定権があるのは学校長と自治会長だということ。夜中に災害が起きたときは、行政の職員や学校長がエリア外に在住ということもあるのですぐに駆け付けられるわけではありません。そうすると避難所を切り盛りするのは、まちの人なんです。まずは自分の住んでいるエリアで避難所にペットを連れて行っていいかの確認をして、もし同行避難のルールが進んでいないときは、ディスカッションを始めていただくというのが防災の第1歩です」

これが“共助”、そして自身のリスク管理につながる。

一方で避難はケースバイケースということも。老いた猫、病気を抱えた猫では避難所生活は不安だ。現在は自宅が安全であれば在宅避難も選択肢とされているので、その対策をとるのも手だ。

また、災害でも地震や風水害では異なる。「風水害であれば2~3日前から予測ができるので準備ができます。そのときに僕がおすすめするのは、避難所に猫と一緒に避難するだけではなく、疎開=その地域から出ることもいいと思います。避難所での猫のストレスを考えたら、知り合いのところなどで2~3日過ごさせもらう。土砂崩れなどがあれば別ですが、風水害は長引かないことが多いですから。そのために普段から周囲の人とコミュニケーションをとっておくといいですね」と小林氏。

視聴者から「多頭飼いの避難」について質問があったが、小林氏は可能であれば分散しての疎開がおすすめとした。3匹以上だと家族と共に全員で無事に過ごすには労力も必要となるため、安心できるためには「疎開先を準備しておく」のがいいそうだ。

「避難所において、犬はリードを使って散歩に連れて行ったりできますが、猫はケージのなかで3日、4日と過ごさなければならない」ということから、避難用のキャリーバッグやケージも大切なアイテム。いざという時のために普段から慣れさせておく工夫も必要だという。詳細は本に書かれているので、ぜひ参照を「避難所において、犬はリードを使って散歩に連れて行ったりできますが、猫はケージのなかで3日、4日と過ごさなければならない」ということから、避難用のキャリーバッグやケージも大切なアイテム。いざという時のために普段から慣れさせておく工夫も必要だという。詳細は本に書かれているので、ぜひ参照を

共助のひとつ? SNSの活用

飼い主の不安は敏感に伝わってしまうもの。大切なパートナーである猫と、いざというときのために備えをしておきたい飼い主の不安は敏感に伝わってしまうもの。大切なパートナーである猫と、いざというときのために備えをしておきたい

自治会などの共助についての話が出た際、藤谷氏から「日本は猫を飼っている人たちのコミュニティー、ネットワークはどうなんですか」と質問があった。

小林氏は「犬の場合は、ダックスフント、ゴールデン・レトリバー、柴犬と犬種ごとに集まるオフ会などを聞きますが、猫を連れて集まるということはあまり聞きませんね。ただ、SNS上ではけっこうあると思います」と語った。

そして、本でも紹介された、SNSアプリ「ドコノコ」の話を。「ドコノコ」は、糸井重里氏が代表を務める株式会社ほぼ日が運営。犬と猫に特化したSNS写真アプリであるが、迷子捜しの機能も持つ。

「30万を超えるダウンロードがあり、飼い主同士が話し合ったりということもけっこうあります。また、僕の病院も『ドコノコ』を利用しているので、半径4km圏内で迷子になったという通知が僕のスマホに届きます。そうすると登録している近所のユーザーさんたちが迷子を捜すのを手伝ってくれるという、共助というか、助けあいの動きがあります。それから、迷子になった時、パニックになってしまい、何をしたらいいか分からなくなると思います。このアプリは、『迷子捜しマニュアル』というものが公開されているし、さらにすごいのは迷子のチラシを自動作成できます。自分の地域で助け合う共助の部分としておすすめですね」とのことだ。

*******************
今回の記事では、自助や共助の話を中心に、おもに猫との避難の心構えについてピックアップさせてもらった。本には防災グッズなどの準備や、被災中のケガなどの応急処置についてなど、細かに掲載されている。

ペットは災害時には“リスク”となってしまうが、平時には大切なパートナーだ。筆者には愛犬がおり、気になりつつも万全な対策はとれていないのが実情。今回の対談を聞いて、自治会ではないが、市役所に同行避難について問合せてみたところ、避難者のアレルギーなどの観点から現時点で避難所にペットが入れる部屋を設けることはなく、ケージなどに入れて外のスペースで避難させるということだった。不安を感じたが、小林氏のいうようにまずは「第1歩」として対策を考えていけたらと思う。

取材協力:本屋B&B 
http://bookandbeer.com/

いぬねこ写真アプリ「ドコノコ」
https://www.dokonoko.jp/