不振が目立った商業地
国土交通省は2021年3月23日に「2021年1月1日」時点の地価公示価格を公表した。2021年の地価公示は全国の全用途平均が6年ぶりの下落となり、下落局面に転じた大きなターニングポイントとなった。
特に2021年の地価公示の結果は、大阪市の商業地の下落が目立っており、下落率全国上位10位のうち8地点が大阪市、1地点が愛知県、1地点が京都市の商業地である。全国の商業地で下落率が最も大きかった地点は「大阪市中央区道頓堀1丁目(標準地番号:大阪中央5-19)」であり、前年比▲28.0%にもなっている。
変動率下位の順位表で10地点入りしている大阪市の商業地は全て「大阪市中央区」内の土地であり、いわゆるミナミ周辺の地価が大きな打撃を受けてしまった。ミナミ周辺エリアは、2020年の相続税路線価においても減額補正が行われたエリアだ。相続税路線価とは土地の相続税評価額を計算する上での基準となる価格である。
減額補正とは、1年間のうちに相続税路線価を期中で下方修正する例外的な措置のことを指す。
通常、相続税路線価は1年間を通して価格は変わらないため、1年のうちに金額が下方修正される減額補正は極めて異例だ。減額補正は過去には大規模災害の後に行われたこともあったが、2020年に行われた大阪市中央区エリアの減額補正は景気後退を理由に行われた初めての補正であり、事態の深刻さがうかがえる。
変動率下位の順位表で10地点入りした大阪市中央区エリアは、相続税路線価の減額補正がなされた周辺のエリアであり、下落率が20%以上にもなるエリアが5つも存在する。大阪市中央区の商業地の地価が大きく下落した原因は、新型コロナウイルスの影響によって外国人観光客が激減したことに他ならない。
道頓堀や難波、心斎橋といったミナミ周辺は外国人観光客が多かったことから、ホテル用地の需要が地価を牽引していた。しかしながら、外国人観光客が激減したことでホテル用地需要が減り、地価を大幅に下落させてしまった。さらに、緊急事態宣言によって飲食店などの店舗の撤退が相次いだことも地価下落に追い打ちをかけている。
商業ビルのテナントが撤退すれば、不動産が生み出す収益力が下がり、結果的に地価下落をもたらす。2021年の地価公示は、外国人観光客の影響力が大きかった大阪圏の商業地に多大なる影響を与えてしまったといえる。
小幅な下落にとどまった住宅地
大阪圏の住宅地については、下落率は小幅な動きにとどまった。2021年の全国の住宅地の下落率は前年比▲0.4%であるが、大阪圏は前年比▲0.5%であり、全国とほぼ同水準の下落幅といえる。
商業地では変動率下位の順位表で10地点の中に9地点、大阪圏の土地が入っていたが、住宅地に関しては、「兵庫県赤穂市(標準地番号:赤穂-11)」が10位に入っているだけである。住宅地は商業地とは真逆の動きをしており、大阪市では中央区、福島区、都島区等の7区が上昇を継続している。
また、北摂エリアでも、下落はわずか▲0.1%にとどまっており、商業地のような大きな下落は見られない。しかも、大阪や京都へのアクセスが良い池田市や、茨木市、箕面市、島本町では下落ではなく地価上昇が継続している。さらに、豊中市や、池田市、高槻市、茨木市、島本町といったエリアでは、住宅地だけでなく商業地の地価も上昇が続いているのだ。
このように大阪圏の住宅地に関しては全体としては下落に転じたものの、人気の高い住宅地は依然として地価上昇が続いている。下落が多かったエリアは東大阪地域や南大阪地域であり、これらの地域は以前から下落が散見される地域だ。
新型コロナウイルスは大阪圏の住宅地に関しては大きな影響は与えていないと考えられ、利便性の高い住宅地は引き続き底堅い需要が続くものと予想される。
東京圏とは異なる地価動向
2021年の地価公示は、東京圏と大阪圏では異なる地価動向を見せている。大阪圏は観光業の低迷によって商業地に大打撃を与えたが、それ以外は特に大きな影響を受けていないという特徴がある。大阪のビジネス街は企業の支社が多いため、東京のようなテレワークによる大きな影響が生じていない。
まず、東京では大企業が本社を構え、大きな床面積を借りるという強いオフィス需要がある。今回の新型コロナウイルスによって東京では大企業がこぞってテレワークに移行したことから、東京のオフィスの賃貸需要は大きく揺らぎ始めている。
もちろん、大阪にもオフィス需要はあるが、大阪は企業の支社がオフィスを借りているため、各社の賃貸面積がそもそも小さい傾向にある。大阪支社は拠点として残しておかなければならない会社も多いため、テレワークが継続したとしても簡単に撤退はされない。
また、東京圏ではテレワークの推進によって人が千葉県などの郊外に移り住むといった現象が生じている。東京では住宅価格が高く、仕事部屋まで確保できない家が多いことから、テレワークを行うために広くて部屋数を確保できる郊外へ移り住む動きがでているのだ。
一方で、大阪圏は元々の住宅価格が手頃であるため、大阪市や北摂エリアでも十分な広さの家を購入することができる。大阪では郊外に人が移り住むような現象は発生しておらず、むしろ便利な中心部に人が集まり続けている。その結果、大阪市福島区のような中心部の地価は引き続き上昇傾向が見られた。
大阪圏はオフィスの賃貸需要が東京圏ほど高くないことから、今後、テレワークがオフィス街に与える影響は少なく、むしろ傷は東京圏よりも浅い可能性がある。
大阪圏の商業地でダメージを受けたのはミナミ周辺の観光地に集中しており、観光客さえ戻ってくれば地価が比較的早く回復するとも考えられる。
明暗を分けた大阪圏と地方都市の違い
2021年の地価公示では、商業地の地価が上昇した地方都市も多い。福岡市では+6.6%、札幌市では+2.9%、仙台市では+2.8%上昇している。福岡や札幌も大阪市と同じく外国人観光客の多いエリアでもあるが、大阪市の商業地とは大きく明暗を分けた。
これらの地価が上昇した地方の商業地に共通するキーワードは「再開発」だ。上昇した地方都市では、いずれも一等地で大規模な再開発が実施または予定されており、地価が上昇に転じている。
大阪市は2020年に目玉となる大規模再開発がたまたま行われなかったため、タイミングが合わなかったという要因が大きい。地方都市では、2020年あたりにようやく大規模再開発の順番が回ってきており、偶然にも土地価格を上げることができたのだ。もし新型コロナウイルスの影響がなければ、福岡や札幌などは再開発によってもっと地価が上昇していたかもしれない。
2021年の地価公示では、大阪市の商業地の地価下落が目立ってしまったが、地価を牽引する再開発が存在しなかったことも明暗を分けた大きな原因といえる。
懸念される訪日客依存と期待される東京圏からの回復の波
大阪圏の地価で懸念されるのは、外国人観光客への依存体質から抜け出せない点である。外国人観光客が以前のような人数に戻るには数年かかるともいわれており、今のところ先が見えない。2021年も外国人観光客数が回復しなければ、商業地の地価はさらに下がる可能性もある。
一方で、期待される点は東京圏からの早い回復の波が挙げられる。2021年は東京圏も地価は下がったが、大阪圏ほどの打撃を受けていない。
地価の下がった東京圏では早くも外資系が不動産を買い漁る動きが出てきており、海外マネーが早晩東京圏の地価を回復させていく可能性がある。東京圏の地価が上昇すれば、次にターゲットとなるのは大阪圏であり、大阪圏も少し遅れて海外マネーが流入してくる見込みは出てくる。
いずれにしても、地価下落は始まったばかりであり、不透明な状況はしばらく続くだろう。
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