地価公示制度とは具体的にどのような目的・役割があるのか

地価公示とは、1969年に制定された「地価公示法」に基づき、翌1970年から国が定めた「標準地」について不動産鑑定士が1月1日時点の「正常な価格」を鑑定評価し、その結果を公示する制度である(例年3月下旬公表)。

目的は「適正な地価の形成に寄与する」こと。
具体的には土地の取引態様によって生ずる様々な事情や動機が取り除かれた“自由取引”において通常成立すると考えられる1m2当たりの更地価格を示すことで、土地に関する取引や補償金などの基準を定めるためにある。

現在調査される「標準地」は都市部を中心に26,000箇所で予算は40億円弱であり、1地点あたり15万円弱の算定コストが発生している(不動産鑑定士の業務報酬としてはやや安価な水準ではある)。
また公的な土地の価格については他に毎年7月1日時点の都道府県地価調査の結果である「基準地価」(こちらの調査主体は名称の通り各自治体)や「路線価」「固定資産税評価額」があり、毎年多くの費用を使って国や自治体が公的な土地価格を算定しているのが現状だ。

海外でもドイツ、中国、韓国などに地価公示制度があるが、実施国は日本を含めて僅かである。実際にこれだけのコストをかけて公的地価を算定する必要があるのかとの疑問、もしくは実際に取引される地価(実勢価格)との乖離が大きくて実用的でないとの指摘もある。また一方で、課税の信頼性や公平性・手続きの透明性の確保が期待でき、地価推移の統計資料としても重要であるとの声もある。

地価公示制度の制定から節目の50年を迎えたいま改めて専門家に問う、日本の地価公示制度の意義・役割・メリットとは何か?

地価公示制度とは具体的にどのような目的・役割があるのか

公示地価の重要な役割~伊藤裕幸氏

<b>伊藤裕幸</b>:公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 常務理事(広報委員長)
1989年に財団法人日本不動産研究所入所。システム評価部、名古屋支所研究員、長崎支所長を経て、国土交通省地価調査課地価公示室に鑑定官として出向(2006年~2009年)。復帰後、企画部次長、業務部副部長(現職)。不動産鑑定士伊藤裕幸:公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会 常務理事(広報委員長) 1989年に財団法人日本不動産研究所入所。システム評価部、名古屋支所研究員、長崎支所長を経て、国土交通省地価調査課地価公示室に鑑定官として出向(2006年~2009年)。復帰後、企画部次長、業務部副部長(現職)。不動産鑑定士

地価公示法(昭和44年法律第49号)が施行されてから今年で50年を迎える。つまり、平成31年地価公示は50回目の節目の公表となる。

公示価格を公表するまでには、全国を167の分科会に分けて、2,442人の鑑定評価員(不動産鑑定士)が、全国26,000地点(うち、福島第一原子力発電所の事故の影響による12地点で調査を休止)の標準地の点検、事例資料等の収集、分科会における総合的分析・検討、鑑定評価書の作成など目に見えない部分でかなりの時間と労力を費やし、さらに標準地1地点につき2名の鑑定評価員が提出する鑑定評価書を基にして、最終的には国土交通省の土地鑑定委員会での正常な価格の判定といったプロセスを経ている。(平成30年地価公示の実績による)

このような膨大な作業によって公表されている公示価格は、一般の土地の取引価格に対する指標の提供だけでなく、土地基本法第16 条の公的土地評価の適正化等の規定を踏まえ、土地の相続税評価及び固定資産税評価については、公示価格を基準等として、その一定割合程度を評価割合として評価が行われている。また、不動産の鑑定評価においては公示価格を基準とすることが必須であることから、J-REITなどの投資用不動産の価値判断や企業会計などにおいても地価公示が重要な役割を果たしている。

このように、地価公示制度は国民の生活を安定させること、また、わが国の経済活動の指標として欠かすことのできない重要な位置づけにある。

そして、この制度はさらに進化をする。
これまでは鑑定評価書の一部だけが情報公開されていたが、平成31年地価公示からはインターネットを通じて鑑定評価書のすべてのページが公開されるのだ。今後はこのようなオープンデータ化によって、地価公示の果たす役割がより一層拡大することが期待される。

公示価格と実勢価格の乖離を抑えるには~篠木美由紀氏

<b>篠木美由紀</b>:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。同紙にてマンションデベロッパー、不動産流通業界などの分野担当を経て、2019年から行政担当。国土交通省の建設専門紙記者会に常駐し、不動産政策を中心に取材を行っている。税務専門紙記者を経験後、2011年株式会社不動産経済研究所入社。1977年生まれ、東京都出身篠木美由紀:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。同紙にてマンションデベロッパー、不動産流通業界などの分野担当を経て、2019年から行政担当。国土交通省の建設専門紙記者会に常駐し、不動産政策を中心に取材を行っている。税務専門紙記者を経験後、2011年株式会社不動産経済研究所入社。1977年生まれ、東京都出身

地価公示は、標準地の「更地としての価格」を算定する。土地だけが対象で、建物は評価されない。「住宅地」に分類された標準地なら、その上に住宅が建っているはずである。しかし住宅の価値は全く考慮されない。普通、不動産の価格が知りたいと思う人は、土地と建物をセットにした「実際の売買価格」を求めるはずだが、地価公示からは土地の情報しか得られない。

「実勢価格との乖離」という問題もある。
公示価格は「土地について、自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格」とされているが、実際には経済情勢により売買価格と大きな差が出る。ある不動産仲介会社がこぼす。「標準地の土地の売買に携わったことがあるが、公示価格で売れず売主に怒られた」。こんな笑い話もある。「同じエリアに店を出す仲介3社で同じ標準地を査定したら、3社とも公示価格にならなかった」。

求められるのは「土地と建物セットの実際の売買価格」である。これを国が公開してくれれば良い、という話だが、そう簡単にはいかない。日本では不動産の売買価格は個人情報と考えられている。国も様々なアプローチで不動産売買価格の開示に取り組んでいるが、個人情報という考え方がある限り、すべてが公開されることは考えにくい。

少しでも実際の売買価格に近い公的データの提供を図ることはできないだろうか。土地だけの公示地価に対して、建物だけの「公示家価」があってもいい。所有者からの勝手に価格を出すなという苦情を抑えるため、何らかのインセンティブは必要だろう。そしてまず標準地を「建物価格も含めた限りなく価格透明性が高い地点」とすることができれば、将来的に個人情報の意識から脱するための布石になるかもしれない。

統計的見地からみた「公示地価」の存在意義~菅田 修氏

<b>菅田 修</b>:(株)三井住友トラスト基礎研究所 副主任研究員。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院ファイナンス研究科修了。主に、賃貸マンションの賃料予測を中心とした住宅市場全般や、各プロパティタイプの期待利回り予測等の不動産投資市場に加え、「不動産としてのデータセンター」をキーワードにニューアセットへの投資動向についても精力的に調査・分析を行っている菅田 修:(株)三井住友トラスト基礎研究所 副主任研究員。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院ファイナンス研究科修了。主に、賃貸マンションの賃料予測を中心とした住宅市場全般や、各プロパティタイプの期待利回り予測等の不動産投資市場に加え、「不動産としてのデータセンター」をキーワードにニューアセットへの投資動向についても精力的に調査・分析を行っている

不動産リサーチの世界に身を置いていると、公示地価が公表されると春の訪れを実感する。公示地価の評価方法や有用性については、疑義を唱える方も少なからずいらっしゃるだろう。しかし、全国一律で比較できる不動産の指標は限られており、長期時系列データである点も考慮すると、公示地価は「貴重な存在」と言える。

統計指標は本来、マーケットの透明性を支えるインジケーターであり、同一条件で比較が行えることが重要である。現在公表されている公示地価のポイントは、過去に比べると少なくなっており、比較可能な長期時系列データが減少してしまっている。公示地価は、足元の状況を把握したり比較したりすることによって評価されているため、基本的には過去にさかのぼって一律の評価を行うことは難しい。また、もともと網羅率がさほど高くないため、地価ポイントの減少は、比較可能なポイントがより遠く離れたものになるといった事態を招いてしまう。現状として、公示地価に代わる有力な代替指標が見いだせていないことを勘案すると、地価ポイント数を含めて現行の評価制度を維持していくことは、極めて重要なように感じる。特に、地方都市においては、現状を統計的に把握しにくく、取引が頻発しないエリアにおいても公示地価が公表されている点は、もっと評価されるべきではないかと思慮している。

地価公示の役割、特性、活用について~国土交通省 時津主任分析官に聞く

50年は地価公示について注目を集める好機 今年度からウェブ上で鑑定評価書を全ページ公開

地価公示制度は1969年に制定され、今回で50年の節目を迎えた。膨大な調査データが蓄積されており、指標としての継続性と重要性も増していて、今後も公的な土地価格の調査の必要性をアピールしながら維持継続していく。50年は特別ではないが、これから取り上げられる機会も出てくるものと思われる。

「地価公示法」における「正常な価格」とは、自由な取引において通常認められる価格という意味で、買い進みや売り惜しみなど、個々の売買の事情に左右されない価格のことを指しているが、個別事情の全くない土地売買は事実上存在しないため、「そういう事情を除けば成立するであろう市場流通価格」を算出していると考えるとわかりやすいと思う。誤解を恐れずに言えば、一つの相場観を示した土地の価格という意味だ。
実勢価格(実際に取引された価格)との乖離が大きいとの指摘を受けるが、年1回の大規模な地価調査で、1月1日時点の価格情報を取りまとめて3月下旬に公表するまでにタイムラグが発生してしまうのは事実であるし、また資金力を背景とした強気な購入や将来の収益性、再開発など土地の活用・地域の発展を見通した売買価格と、そのような事情を勘案せずに更地価格を算出した公示価格ではおのずと異なる。それだけ個々の事情は、特に都市部において土地価格に与えるインパクトが大きいと認識している。

地価公示の調査ポイントは全国で26,000あり、毎回1%程度が地域の標準的な土地の意味合いが変化することで結果的に変更されているものの、地価調査の定点観測としての役割があり、特に前年からの変動率は、実際の地価の動きや売買において参照されるべき指標として活用が進むことを期待している。補完的に四半期に一度「地価LOOKレポート」も公表しており、こちらと併せて地価の定点観測を行なえば土地の利活用だけでなく景気動向の指標としても活用できる。
また、固定資産税や相続税などを算定するための路線価の基準にもなっているので、これからも関心を高めてもらう努力を続けたい。
その意味で地価公示制度は課税制度を運用する上でも極めて重要な調査であり、日本では国が調査主体となることに大きな意義があるが、海外での導入例が少ないのは国の徴税方法が各々異なることも要因の一つと考えられる。

今年度より、ウェブ上で公示地価を算定した「鑑定評価書」を全ページ公開し閲覧可能にした。これは地価公示制度の「見える化」によって信頼性を高め、不動産鑑定士の業務の重要性を広く認識してもらうことも意図している。秋の都道府県地価調査=基準地価においても同様の対応をとる自治体も増えてくるのではないかと考えている。

■取材協力
時津 純:国土交通省 土地・建設産業局 地価調査課 地価公示室 主任分析官。2018年より現職

地価公示制度の役割として公表されている資料。経済指標のほか、課税評価や時価評価に資するとの表記がある地価公示制度の役割として公表されている資料。経済指標のほか、課税評価や時価評価に資するとの表記がある

2019年 03月27日 11時00分