これからの住まい・住まい方を実験するという壮大な計画
大阪ガスが「NEXT21」のプロジェクトをスタートさせたのは1990年、バブル経済真っただ中の時期である。同社はそれまでにも1968年、1985年に実験住宅を建設しており、本業にかかわる住宅設備について、生活の中での実験を行ってきた。
「住宅では設備のビルトイン化が進み、社会では『パラダイムの転換』という言葉が話題になっていた時代でした。住まいについてもこれから大きな変革が起きるのではないか、そんな期待があり、であれば事業範囲を超え、変わりゆく住まいの姿を含めて実験・検証をやっていこうと計画されたのがNEXT21でした」(大阪ガスエネルギー・文化研究所主席研究員 加茂みどり氏)。
計画実施にあたっては社外の有識者をメンバーに迎えて建設委員会を設置、長期にわたって使える可変性の高い建物を計画した。具体的には建物の骨格となるスケルトン(構造躯体)と生活に合わせて自由に変えられるインフィル(住戸・内装部分)を分けて考えられたスケルトン・インフィル方式(SI方式)を採用、外壁や配管も自由に移動、取り換えできるようになっている。加えて建物を立体的なまちとして想定、共用廊下や階段をふれあいのスペースとする考え方や建物緑化も取り入れられており、見た目からして他の集合住宅とはかなり違うものになっている。
本業であるエネルギーシステムにおいてもその時々の近未来の集合住宅用エネルギーシステムの提案が行われており、現在は各戸に小型燃料電池を設置、住戸によっては太陽光発電や蓄電池と組み合わせたシステムを構築しているという。
実験に社会が追い付いてきた例も多数
完成から今日に至るまで何度も改修が行われ、同社の社員が住むことでさまざまな実験が行われてきたわけだが、そのうちには当時としては先進、今となっては社会が追い付いてきたと思われるような例もある。たとえば「自立家族の家」(設計/シーラカンス)と題した住戸があった。
これは共用通路に面して4室の出入り口のある個室が並び、家族は自分用出入口から個室を通って家族の空間であるLDKに入るというもの。完成当時、建築家には絶賛されたが、一般からは「カラオケボックスですか?」などと言われたとか。ところが時間が経つにつれ、評価が変化。シェアハウス、高齢者の住まいなどとして良いのではないかという声も出るようになった。実験開始時には一般的ではなかった、他人が集まって住むという住まい方が認知されてきた結果だろう。竣工から約30年の間に私たちの暮らしは変化してきたのである。
もうひとつ、住戸中央にリビング、その周囲に独立した3部屋、2か所のトイレを配した「拡大家族の家」(設計/KBI計画・設計事務所)もシェアハウスを想定、時代を先取りした間取りだった。建設委員会メンバーであり、設計関係者の一人であった首都大学東京(現:東京都立大学)名誉教授の深尾精一氏としては女性2人、男性1人の応募者の入居を希望したそうだが、当時はまだ、他人である男女がひとつ屋根の下で暮らすことが想定しにくかったのだろう。最終的には男性3人が入居した。こうした意識の変化も反映されていると考えると、住まい、住まい方は時代の鏡でもあるのかもしれない。
高齢化に対応、変化する住まいの提案
建設以来数年単位でテーマを決めて改装、実験を行ってきたNEXT21だが、2020年からは住まいの課題にその都度対応していく運用となっており、2020年度は「快適な住空間、万一に備えた住まい」をコンセプトに、少子高齢時代の多様な暮らしへの対応、ウェルネスZEH、災害時の72時間自立への対応、健康管理IoT住戸をテーマに改装が行われた。
一般公開ではそのうちのいくかの部屋、設備に加え、特徴的な住戸を見学したのだが、個人的にもっとも興味深かったのは高齢化に対応、住む人の変化に合わせて5つの室空間が分離、結合しながら、その時々の暮らしに合った住まいになるという「自在の家」(設計/設計組織ADH)。
入居時、それから15年後、30年後、45年後の、子ども家族までも含めた住み方が提案されているのだが、その使い方がなるほど自在なのである。子どもの独立で空いてしまった部屋はリタイアした夫のオフィスとして使うだけでなく、、子どもたちが友人と暮らすシェアハウスとして使ったり、帰ってきた子ども家族が住んだり、子ども部屋として隣家の家族に貸す、下宿人を置くなどという手も。また、住戸間の通路部分を共用スペースとしており、その時々に住んでいる人に合わせて使い方を変化させてもいる。
現在の集合住宅では子どもが独立して余っている部屋を子ども部屋が足りないお隣さんに貸すなどということはあり得ない話だが、建物内でそうしたことができれば間取りや広さに起因するさまざまな不満が解消され、住み続けられるようになるはず。もちろん、そのためには住まいだけではなく、人間関係も変化しなくてはいけないわけだが、長く建物を使い続ける方法としてはあり得るのではなかろうか。
多様な使い方、将来を予測した家も
間取りの可変性という点では子どもが独立した後の夫婦が料理教室を開くことを想定して設計された「しなやかな家」(設計/近角建築設計事務所)も多様な使い方ができるように考えられていた。現状は料理教室に使うキッチン、食堂と夫婦の生活の場を分けて使えるようになっているが、他人に貸したり、二世帯住宅にすることも可能。しかも、一部屋だけを貸す、住戸として使えるように貸すなど、貸すという使い方ひとつにも選択肢があり、生活の変化にいかようにも対応できるように考えられているのである。家を使い倒すとはこういうこと。空いた部屋をそのままにしておくのはもったいない話である。
私と娘、母、祖母の4世代の4人の女性が暮らす住まいとして提案された4G HOUSE(提案者/株式会社大京、株式会社岩村アトリエ)は実際にあったら人気が出そうと思った。それぞれの個室に加え、一人になりたいときに籠れる部屋が用意されていたり、介護が必要な時の改装まで予測した作りになっており、将来を考えた上での住まいづくりの大事さも考えさせられた。
もう1軒見せていただいたいのは健康管理をIoTで行うという住戸。室内で転倒したことを検知したり、体重や体温、肌の状態(!)を自動的に測定してくれたりとさまざまな仕組みが取り入れられている。近未来的と思ったが、あと数年もすればこうした住まいも実際に登場することになるのかもしれない。そうなれば、高齢者の一人暮らしも安全、快適になるだろうし、不測の事態を懸念しての貸し渋りもなくなるかもしれない。
住宅のあるべき姿を考え続ける契機としてのNEXT21
それ以外にも数多くの見ごたえのある見学会だったのだが、ひとつ、疑問はここで得られた知見はどのように活用されているのかという点。設備については商品として販売されているものがあり、成果は上がっているが、SI方式の住宅そのものとしてはどうなのか。
聞くとここまで理想的ではないものの、同じ思想で作られた集合住宅もあるにはあるそうだが、数は少ない。こんな住まいなら欲しいという人がいるのではと思ったが、実験集合住宅にかかった費用その他の説明を聞いて現実は厳しいことを悟った。
「SI方式が100年持つとして買った人がそこに100年住むことはあり得ず、その建物にそれだけの対価を払うのが妥当かと考えるのではないでしょうか。自分が生きている間は得をしないのです。建物を長く持たせることは地球に対する負荷を軽減するなど社会、後世に対してメリットがありますが、自分の住宅購入にそこまでの責任を意識する人は少ないでしょう」と深尾氏。
実際、国が推奨する長期優良住宅でも認定を受けているのは新築住宅全体で11.3%、うち一戸建ては24.6%、共同住宅等では0.3%(2018年3月末時点)ほど。長期的な視点で住宅を考えるのは理想ではあるが、現実としては難しい話なのである。
また、集合住宅を一戸建てのように自分好みにして住みたいと思うのは日本だけとも。一戸建ての場合は建てた人の好みが中古になってからの流通を阻害しているといわれる。オリジナリティがあり過ぎてカスタマイズされにくいのである。
「住宅がどうあればよいかは難しい問題」と深尾氏。庶民が不動産を所有できるようになったのは戦後のことで日本の住宅の歴史は諸外国に比べて非常に短い。その中では良いものだから普及するかといえば必ずしもそうではないのだ。だが、住宅がどうあるべきかは今後も考え続けるべき問題であり、その点からもNEXT21がこの30年近くやり続けてきた実験は評価されるべきこと。同プロジェクトのホームページには今回説明しきれなかった情報が掲載されている。特に住戸の間取りは示唆に富む。ぜひ、ご覧いただきたいと思う。
NEXT21について(大阪ガス)
https://www.osakagas.co.jp/company/efforts/next21/about/
長期優良住宅の現状(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/common/001263388.pdf






