緑に包まれた、果樹園、畑などのある住宅地
最寄り駅のJR武蔵野線新座駅から並木とせせらぎのある「ふるさと小道」を抜け、志木街道を歩くこと10分ちょっと。交通量の多い幹線道路沿いとは思えないような緑の一画が現れる。「新農住コミュニティ野火止台」である。
元々は近隣に住む農家が代々受け継いで畑として使っていた800坪(2640m2)の、その昔の新田開発の歴史を彷彿とさせるような短冊型の細長い土地である。普通に造る場合には土地の中央に道路を敷き、その両側に住宅を配する。これだけの広さがあれば18棟は造れるだろうか。現地周辺には同様に作られた区画が多く立ち並んでもいる。
だが、土地を譲り受けた地元の増木工業株式会社は異なる造り方をした。道路は土地の南側に造り、住宅はその北側に15棟。周辺の分譲地よりも少ない数である。敷地内、各建物の間には東西に縁道と呼ばれる緩やかにカーブする小道が造られ、縁道沿いには果樹、中高木などを織り交ぜて80種以上が植えられている。
普通であれば各戸間にはブロック塀などが境界を示すために建てられ、敷地は小さく分割されて見えるが、ここでは敷地が一体に見える。建物を少なく抑えた分、敷地入り口には果樹園、中央には共用の畑、防災広場など各所に共用スペースが配されており、各住戸内からはそれがまるで自分の庭のようにも見える。
周辺の他の住宅地とは明らかに違うまちなのだが、その背景には明治5(1872)年にこの地で創業、土地の変化を見て来た同社の姿勢がある。このエリアではパワービルダーが農家から土地を仕入れ、真ん中に道路を敷いて土地を一区画30坪(100m2)ほどに分割、住宅を作って販売するスタイルが続いてきていたそうで、それに同社の代表取締役である増田敏政氏は疑問を抱いてきたという。
この土地の風景を残したいという思い
「代表が子どもの頃の新座には緑、畑が多くあり、私有地の間を繋ぐ路地があって公道を通らなくてもどこにでも行けたそうです。今も畑はあるけれど、耕す人がいなくなった。昔ながらの風景はどんどん消えていく。そこでなんとか、畑、緑を残しながら新しい人も住めるような仕組みがつくれないかと10年来考えてきており、元々は借地で考えていたものを今回、分譲で試すことになりました」(増木工業・高木恭子氏)
まちの風景、自然を残したいと考えたのは増田氏だけではない。今回、土地を売却することになった地主もまた、同じ思いを抱いていた。近くに居住しているため、自分の所有ではなくなった後も土地の変化を見続けることになる。であれば、経済効率を優先した、どこにでもあるまちではなく、魅力ある、この土地らしい、長く愛される住宅地を造ってほしい。
そこに誕生したのが「新農住コミュニティ野火止台」である。自然を残そうと作られた住宅地だが、住宅の基本性能にもさまざまなこだわりがある。
たとえば、新座市は武蔵野台地上にあり、もともと地震には強い。そこにパナソニックの耐震工法テクノストラクチャー工法を導入し、1棟ごとに388項目の構造計算を実施。耐震等級は3を取得している。建物そのものの災害対策に加え、被災後に備え、停電時には太陽光発電システム、エネファームから電源を取ることができるようになっており、各戸に150リットルの雨水タンクも用意されている。家庭菜園、共有の畑があるので食料面でも安心である。
地震に強く、高気密・高断熱で快適で長く暮らせる住まい
高気密、高断熱はもちろん、空調では4.0KWのエアコン1台で家中を冷暖房できるOMソーラーのパッシブエアコンを導入、住む人にも環境にも優しく快適な生活を可能にしている。長く安心して住めるだけではなく、税制上のメリットもある長期優良住宅の認定を全戸取得しており、次の世代にも受け継いでいける。
建物内部は1階、2階ともに大きなワンルームとして作られており、住む人が自分たちの暮らしに合わせて仕切ったり、そのまま住んだりと自由にできる。既に入居している7家族でも全く仕切らずに使っている家があったり、自分たちで柱を立てるところから始まり、DIYで部屋を作っている家があるなどと家族それぞれに異なっているとか。
室内に使われているのは床に無垢のあずみの松、壁にドイツ国内で一般的に使われている自然素材でできた紙クロス・オガファーザー、窓枠に国産ひのき材などいずれも自然の素材。経年で劣化する化学素材とは異なり、時とともに風合いを増す素材であり、住むほどに魅力的になっていくはずだ。
実際に現地にお邪魔してみると、開発道路と住宅が建っている土地は笑ってしまうほど異なる場。どちらが楽しいかといえば当然、住宅が建っているエリアで、縁道は細い道ながら歩いて見ると途中に背の高い木が現れたり、畑や駐車場があったりとメリハリがあり、風景が変わる。すでに入居している家では各戸の菜園部分にそれぞれに植物を植えたり、夏に備えて緑のカーテンを作り始めていたり。
「完成から1年ほどが経ち、完成直後と今をドローンで撮影した写真で比べてみると緑の成長は明らか。いずれ森の中に家があるような姿になっていくはずです。その時に邪魔にならないよう、建物は色も形もシンプルに作ってあります」と高木氏。四季の変化のみならず、経年の変化も楽しめるわけである。
分譲後も関わり続ける仕組み
共同の畑は敷地中央に、縁道を挟んで防災広場と向かい合うように作られている。現時点では増木工業が管理しており、じゃがいもや茄子、トマトなどの野菜が植えられている。同社は畑部分の所有者であり、それもこの住宅地の特徴のひとつ。同社はこの住宅地の所有者のひとりとしてこれから作られる管理組合にメンバーとして加わる予定なのである。
「土地を所有していると税金を払う必要もあり、事業収支としてはマイナス。売ったほうが損得という意味では得です。ですが、この住宅地に関わり続け、将来にも責任を持つためには土地を所有していることが大事。売っておしまいにはしないという意思表明です」
住戸内も見せていただいた。入ったところに細長く土間のある間取りがあり、個人的にはこれが魅力的だった。自転車やアウトドアグッズなどを置くのに便利だろうし、泥付きの野菜の置き場としても良さそう。壁がなく、玄関から住戸内が見渡せる間取りだが、壁の代わりに両方から使えるように棚を置けば目隠し兼収納になり、壁がなくとも問題はない。冷暖房効率の悪い家だとエアコンの届かない玄関や廊下が寒いからと間取りには制限が生まれるが、全館を同じ温度に調整できる家なら、間取りは自由になるのだ。
この住戸には大工さんが作った置き家具がいくつか用意されており、住まいの使い方として参考になった。畳の載った箱は好きな場所に組み合わせて置くことで小上がりとして使えるし、下部は収納になる。読書コーナーになる箱は販売されていたらウチにも欲しいという人が出そうだ。
映画「人生フルーツ」に共感した人に
現地に足を運べば魅力は一目瞭然だが、良さは分かっても自分が住むとなると躊躇する人も少なくない。その要因は主にふたつ。ひとつは一戸建てながら管理費・修繕積立金が月額6,000円かかること。マンションから一戸建てに住み替える人の中には毎月のローン以外の出費を抑えたいという人が少なくない。払いたくないから住み替えるのに、また、そうした出費が必要になるのは嫌だというのだ。
もうひとつはこれまで隣近所との付き合いのない生活を送ってきたため、管理組合を作って一緒にまちを作っていくことや隣地との間に塀などの境界がないことへの不安があるという。隣の人が気になる、うまくやれるか。
居住者の暮らしからは子どもや野菜の収穫を通じて自然な会話が生まれていることが分かるが、外から見て不安になるのも分かる。そこで不安払拭のために増木工業が考えたのが価値観、人生での優先順位などに共通項のある人たちにアプローチすること。同じ関心を持つ人同士なら不安なく、うまくいくのではないかと考えたのだ。
そのため、今回の開発のコンセプトに繋がる手作りワークショップや収穫祭などのイベントを開催、集客を図っている。そのうちでも同社が大事にしているのが映画『人生フルーツ』の上映。2017年から上映が始まり、今でも全国で断続的に上映、多くの人に支持されている『人生フルーツ』は高度経済成長期に経済の論理から作られたニュータウンの一画で、それとは異なる豊かさを追い求めた建築家夫妻の暮らしを描いたもの。ご夫婦のゆったりした時間に憧れた人なら、この土地での暮らしに共感を覚えるのではないかと考えたのだ。
確かに各戸のスペースとしては映画ほどの広さはないが、敷地全体で考えれば豊かな空間が手に入ることになる。幸い、働き方が変化する時代でもあり、これからは通勤の利便性一択ではない住まい選びが可能になる。環境面から住まいを考えたいという人ならこの物件、選択肢になりそうである。
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