都市部で一戸建てを持つということ

お話を伺った川内浩司さん。快適さを追求した開発は苦労も多かったというが、それを経て完成した縦の家は「自信作です」と誇らしげに話す姿が印象的だったお話を伺った川内浩司さん。快適さを追求した開発は苦労も多かったというが、それを経て完成した縦の家は「自信作です」と誇らしげに話す姿が印象的だった

「都市部に一戸建てを持つ」という事を、一種のステータスとして憧れる人も多いだろう。しかし地価が高いため広い土地を確保するのは難しく、一次取得層にとっては、区割りした狭小地に3階建を建てるというのが現実的だ。
立地と、限られた面積に部屋数を確保することを優先した従来の都心の3階建て住宅では、日当たりや広さ、快適さは諦められてきた。

そうした中、「無印良品の家」を展開する株式会社MUJI HOUSEが、都心の3階建住宅商品「縦の家」を発表した。

食品から家具まで幅広い商品展開をする無印良品が「家」の販売を開始したのは2004年10月のこと。第一号の商品「木の家」は、無印良品らしい合理的なデザインや構造の他に、自然の光を利用した温かさなど、日本家屋の知恵を生かした快適さが特長だ。しかし、都市型狭小地では「木の家」の良さを活かす事が難しい。こうして、これまで諦められてきた明るさや広さ、快適さを確保した、都市型3階建専用の商品を作ろうとしたことが始まりだという。

「明るさ」「広さ」「快適さ」を維持した都市型3階建てとは、どんなつくりなのだろうか?「縦の家」のモデルハウスにお邪魔し、同社取締役 住空間事業部 開発部長の川内浩司さんにお話を伺った。

「暗いし寒い」を諦めない

リビングに設けられた北側の窓。かなり大きく取っているので、充分な明るさが確保できていたリビングに設けられた北側の窓。かなり大きく取っているので、充分な明るさが確保できていた

モデルハウスは北側道路に面した間口5.8m、敷地面積約20坪。北以外の三方にはすぐに隣家が迫っている、一般的な都市型住宅のサイズだ。しかし中に入ると家の真ん中を通る階段、間仕切りが無く、1階から3階までが吹き抜けのような開放感。従来のそのイメージとは大きく違う。

取材日は雨が降っていたが、それでも室内が暗く感じない。どのようにしてこの明るさを確保しているのだろうか?
「日本の住宅には南側に窓を設けて明かりを取る文化がありますが、狭小地では難しい。どうせ南側から光を取れないのであればと、北側に大きな窓を取りました。日当たり燦燦、というわけにはいかないですが、これで安定した明るさは十分に確保できるんです」(川内さん)

さらに最上階に大きな天窓を取り、日当たりはここから取り入れる事ができる。光は、段と段の間が空いたスケルトン階段を通り抜けて家全体を明るく照らす仕組みというわけだ。
「狭小地では日当たりが悪く暗いし寒いと思われがちですが、この家は南側から日が入らなくても非常に快適です。南側を諦めて北側から明かりを取ろうという発想で、都市に住むことでみんな諦めていた暗さや寒さを解決しました」
(※天窓はオプションで設置可能)

家全体を“包む”ことで快適に

スケルトン階段、間仕切りの無い設計で建物の中の空間は一つにつながっているスケルトン階段、間仕切りの無い設計で建物の中の空間は一つにつながっている

とはいえ、南側からの日当たりが少ないと夏は良くても冬は寒いのでは?という疑問も浮かぶ。実はそれが、この「縦の家」の一番のポイントだという。川内さんはこう説明してくれた。
「都市型住宅では、外からの太陽熱で室内を温める事が難しい。それならば、熱を思いっきり逃さないようにと発想を逆にしたんです」

そこでこだわったのが、断熱性能だ。木質繊維で透湿性のある断熱材を外壁に採用。壁の中や屋根、さらには基礎にも断熱を施している。こうして家全体を“包む”ようにして断熱性能を上げ、冬は温めた空気を外に逃がさず、夏は外気の暑さを室内に入れない仕組みをつくった。
断熱材で包んだ家の中は各部屋に間仕切りが無い。この大きな空間の温度を安定させるのは、1階と3階のエアコンだ。
「一部屋を温めたり冷やしたりという事ができないので、家ごとエアコンで温度を安定させる必要があります。1階に置いたサーキュレーターで空気をゆるやかに動かしているので、1階から3階まで本当に温度差が無く、夏も冬も快適なんです」と、川内さんの話す通り、これまでの多くの都市型住宅の”1階は夏は湿気が高く冬は寒い。逆に3階は日当たりが良くとても暑い”というイメージとは大きく異なり、本当に家の中が一定の空気に包まれているといった様子だった。

次世代省エネ基準の最高等級では、熱の逃げやすさを表す“Q値”を2.7以下と定めているが、この家ではプランにより1.86程度まで下げられ、高い快適性と省エネ性が数値でも証明されている。

ゆるく繋がる空間で、広さと家族のつながりを演出

間仕切りの無いつくりは、空気を一定に保つためだけではない。「狭さ」の解決や、家族のつながりを促す役割を担っている。

階段を中心に、各階が平面でなく段差のあるスキップフロアを用いたことで、スペースを縦に広く使い、空間を開放的に感じられる。また、各部屋の天井高を自由に決められるため、例えばリビングはたっぷりと天井高を取り、その分、上階の寝室は少し低めにという風に、部屋の使い方によった合理的なプランニングを可能にした。

こうして空間がナナメに繋がることで、いつもお互いの気配を感じながら過ごす事ができ、家族のコミュニケーションにも一役買っている。
「高度成長期の時代は子どもにそれぞれ部屋を与える事が親の甲斐性みたいな風潮がありましたが、最近は子供部屋は寝るだけにして、勉強はリビングでしたりとなるべくフリーな空間をつくることが流行っています。この家はまさにその発想です」と説明してくれた川内さん。しかし、子供が成長するとプライバシーの確保も必要になるのでは…?
「もちろん、後からでも間仕切りを設置できますし、子供が成長したら部屋の配置を変える事で、プライバシーの問題は解決できますよ」

各部屋を「編集」できるのも、縦の家の大きな特長の1つ。子供が小さい時は子供部屋を主寝室の近くに、成長したら階を分ける…という風にライフスタイルに合わせて間取りを編集できる。
家族でどんな過ごし方をするかによって6つの箱(部屋)の使い方を考えるのも、ライフイベント毎の楽しい作業になりそうだ。

モデルハウスの断面図。階段を中心にした6つの部屋を、</br>ライフスタイルの変動によって「編集」できるのも「縦の家」の楽しさモデルハウスの断面図。階段を中心にした6つの部屋を、
ライフスタイルの変動によって「編集」できるのも「縦の家」の楽しさ

新しい都市型住宅の姿とは

各階に設けられた大きな窓が印象的な「縦の家」外観。外壁は防火地域でも使用可能な断熱性能に拘った国産の杉材を利用。また、「都市部で木の経年変化を楽しんで欲しい」との意図も各階に設けられた大きな窓が印象的な「縦の家」外観。外壁は防火地域でも使用可能な断熱性能に拘った国産の杉材を利用。また、「都市部で木の経年変化を楽しんで欲しい」との意図も

これまでの都市型住宅で諦められてきた「明るさ」「快適さ」「広さ」を、無理なものは捨て、できる事を最大限追求するという逆転の発想で「諦めない」方法を提案してくれた、無印良品の新しい家。
「無印良品の家というと、オシャレハウスだと思って来られる方も多いんですが、実はとても合理的な考えの元に、真面目に家づくりをしているんですよ。都心部では相続税も高く、今後も狭小地が増えると思います。その中で、『縦の家』が一つの選択肢になればと考えています」

モデルハウスでは毎週見学会を実施しているが、ほぼ満員になるといい、その注目度の高さを表している。
都心部の地価は下がらず、依然として立地の良さの人気は高い一方で、「自分たちらしく」という暮らし方が、以前より注目され始めてもいる。今回誕生した「縦の家」は、これまで広さを理由に難しいと思われてきたそれらを都心に暮らしながらも叶えるという、新しい都市型住宅の姿だと感じた。

■株式会社MUJI HOUSE「縦の家」  http://www.muji.net/ie/tatenoie/


2014年 07月26日 10時17分