賃貸では難しい。苦肉の策が分譲としての再生

リノベーション前の外観。ごく普通の、特に魅力を感じることもない建物だリノベーション前の外観。ごく普通の、特に魅力を感じることもない建物だ

香川県高松市にあるひだまり不動産は夫婦2人に社員1名の小さな会社。元々は主婦だった内海芳美氏が不動産投資に目覚め、2006年に創業した会社でリノベーションを得意としている。地元では他に本格的にリノベーションを手掛ける会社が少ないこともあり、地元で住まいに関心のある人には知られた存在である。

そこに屋島にある築32年、全15戸の賃貸マンションを買わないかという話が舞い込んできたのは2014年7月のこと。屋島は高松駅から車で10分ちょっと、郊外の住宅エリアで賃貸、分譲、民間、公営と様々な住宅が集積している。持ち込まれた物件はごくごく普通の地味な外観に60m2前後、地域の平均からするとやや狭めの3DK。「このエリアのファミリータイプは75~80m2が多いので、そこでこの広さの15戸では賃貸としては経営していくのは難しいと断ったのですが、逆にいくらなら買う?と聞かれ、まず売ってもらえないだろうという額を提示。断ったつもりになっていました」。

ところが、2~3ヶ月後に連絡があり、「指値」が通ったという。指値とはいくらなら買うという意思の提示という意味で、内海氏としては指値をしたつもりはないものの、それで売ってくれるならと購入を決めた。だが、賃貸としては貸すには前述の戸数、広さに加え、リノベーション費用がかなりかかるという点からも難しいという現実があった。

「各戸に最低300万円かけたとして全部で4,500万円。それ以外に大規模修繕も必要な状態だったので、それを賃料で回収するのは難しい。だとしたら、分譲にできないか。購入から7ヶ月くらいはその調査をしていました」。

スケルトンから好きにリノベして総額1,200万円~

調べてみた結果、数は多くはないが、東京、地元などで2社の先行例があった。だったら、ウチでもできるだろうと内海氏は分譲として売ることを決意。2015年夏から「RENOWA YASHIMA DANCHI」として販売を開始する。その時点では修繕積立金、管理費は未定で、決まっていたのは物件価格とリノベーション費用だけ。ただ、聞いてびっくり。首都圏の分譲価格と比べるとゼロがひとつ足りないのではないかと思うほど安いのである。

「地元の大手デベロッパーが平成7~8年に建て、3,400万円で売られたマンションが築20年前後で現状700~800万円。だったら、それより高くはできない、安くしようと考えてつけた物件価格が500万円。そこに自分で2人のデザイナーのうちから好みの人を選んでリノベーションしてもらう価格が500万円ということで募集を始めました」。

合計で1,000万円である。実際にはリノベーションに700万円くらいかけた人が多く、総額1,200万円前後が平均的らしいが、その額でスケルトン状態から自分の好きな間取り、インテリアの部屋が作れるのである。首都圏でもそこまで自由度の高い分譲物件は珍しいし、もちろん、高松市では初といっても良いほどだと思う。募集開始から半年で10件ほどの申し込みが入り、最終的には物件購入から2年後には自社で保有することにした2戸を除き、全戸完売した。

入居を決めた人たちに依頼して撮影、インタビューを行い、それを物件PRに利用。信頼関係があってこそできる話だ入居を決めた人たちに依頼して撮影、インタビューを行い、それを物件PRに利用。信頼関係があってこそできる話だ

1階には生活を豊かにしてくれる店舗が5軒

店舗も1軒ずつ店主のこだわりを形にした店舗も1軒ずつ店主のこだわりを形にした

リノベーションされた建物を見て行こう。ごく普通の、そっけない外観は木をふんだんに使ったテラス、手すりなどによってナチュラルでかわいらしいものに生まれ変わった。無垢の木はメンテナンスが必要なので、大手デベロッパーなどは使いたがらないが、それも風情というのが内海氏の考え。効率優先で考えると住宅はつまらなくなるものらしい。

1階テラスは元々あったアスファルトを剥がして造られたもので、ここから1階にある店舗に入っていけるようになっている。「この地域は私たち家族が高松で最初に住んだ場所でここに物件を作るなら、地域の人に楽しいと思ってもらえる場にしたいと思い、1軒だけは必ず店舗を入れようと計画。自分たちでコーヒースタンドを経営することにしていました。ところが、最終的には1階5戸は全部店舗が入ることに。これまで街になかった雰囲気の店が集まってできたので、地元では話題になっており、各種ローカルメディアに取材されました」。

誕生したのはパン屋さん、自転車屋さんにネイルサロン、そしてコーヒースタンドで来春にはもう1軒、雑貨店がオープンする。店舗もすべて間取り、内装が違っており、たとえばネイルサロンは個室で施術が受けられる贅沢な作り。パン屋さんの床材は六角形の木のタイルを500個(!)もひとつずつ手で貼った手の込んだもので、新しいのに時間を経た雰囲気を漂わせている。住んでいる人にとってはいつでも淹れたてコーヒーや焼き立てパンが手に入る状況というわけで、ここでの暮らしは食も含めて楽しそうだ。

1部屋2ヶ月かけてじっくりリノベ―ション

続いては住戸を見ていこう。元々の3DKは住戸によって1LDKになったり、2DKになったりと様々。インテリアのテイストも異なり、写真を並べて見ると同じ住宅内とは思えない。分譲マンションの一部にも仕様変更を可能としている物件はあるが、その場合も打ち合わせ回数、特定の工事の申込期限などには制約があり、ここまで自由には作れない。

「1部屋2ヶ月くらいかけてその人の好みに合わせて作っていきました。ただ、すでに10年近く地元でやってきているので、細かいことがどうこうというより、弊社ひだまり不動産のテイストが好きという方が多く、なかなか決まらない、時間がかかるケースはありませんでした」。

もうひとつ、魅力がある。それが店舗側に設けられた入居者共有の庭。木が植えられた下には長い長いベンチがあり、その先には各戸それぞれの家庭菜園も。少人数でも扱いやすいよう、一つの区画は2m2。「夏の暑い時期にもバジルなどのハーブが茂っていました。カフェで使うこともあるようです」。

室内はそれぞれに個性的。同じ一棟にあるとは思えない室内はそれぞれに個性的。同じ一棟にあるとは思えない

賃貸から分譲、ハードルになるのは何?

物件告知のために開かれたマルシェ。多くの人がテラス、店舗に集まり、ライブやワークショップ、飲食などを楽しんだ物件告知のために開かれたマルシェ。多くの人がテラス、店舗に集まり、ライブやワークショップ、飲食などを楽しんだ

ところで、過去に2社の先行例があるとはいえ、賃貸から分譲というケースはそれほど多くはない。だが、建物の条件次第では不可能ではないと内海氏。

「購入者は大半が住宅ローンを利用するので、銀行が融資してくれる新耐震がベター。新耐震でなくても引き受けてくれる銀行があればいいのですが、安心して買うためには耐震性能は大事でしょう。この物件ではフラット35が使えたので、購入者も安心したと思います。また、メンテナンスのしやすさも重要で、古い物件だと排水管が床下のコンクリート内に敷設されていることがあり、そうした物件では大規模修繕に多額の費用がかかり、不向きです。また、管理組合を作ることを考えると、ある程度世帯数がないと管理費その他が高くつく、しょっちゅう役員をやらなくてはいけないなど、管理等の負担が重くなります」。ソフト面では管理組合、大規模修繕計画を作る必要もある。

所有形態でいうと土地家屋調査士、司法書士などの専門家に依頼、一度、すべての住戸を分譲する会社が所有する形にし、それを分譲していくということになるのだとか。そのための再登記に100万円ほどかかったというが、意外にやればできるもの。賃貸と分譲では立地に求められるものが異なり、賃貸では成り立たない地域でもこうした形なら建物を再生できる可能性はある。それで安価に面白い住まいが供給されたら楽しいのではなないだろうか。

うっちゃんのひだまり不動産
http://www.hidamari.bz/

2016年 11月05日 11時00分