持ち家へのこだわりが強い英国
英国人は、持ち家に対するこだわりがかなり強い。これは、 “お城のようなりっぱな家”に住んでいるということではなく、自分の家では好きなように振る舞い、誰の指図も受けないという個人主義を表している。そして、このこだわりは、日本のように自分の好きな間取りやインテリアのマイホームを持つというよりは、資産としての活用である。そんな英国の住宅事情が今、変化に直面している。
英国の住宅市場はいくつかの点で日本の住宅市場とは違っている。まず、英国では売買される物件の大部分が中古の住宅で、築後数年の家から150年前のビクトリア時代の家まで驚くほどの幅がある。内部の設備さえ更新されていれば、風格があるという理由で古い家が好まれ、値段が高いこともある。一方、新築住宅は取引数全体の1割にも満たない。日本のような注文住宅はまれで、住宅建設会社の仕様で建てた家がずらっと並ぶので、整然とした街並みが形成される。
不動産で資産形成を目指す「プロパティーラダー」という考え方
英国では、20代で親元から独立し、住宅ローンを組んでアパートや小さな家を買い、パートナーや子どもができたら、家族向けの大きな家に移って、徐々にステップアップして資産を築いていく。これは「プロパティーラダー(不動産のはしご)」ともいわれ、子どもたちが巣立ったら、大きな家を売り払って小さな家に移り、家を売って得た現金を使って悠々自適の老後を送ろうとする人たちもいる。
プロパティーラダーでの資産形成を考える人が多いのは、ここ数十年、不動産価格が上昇しているからである。イングランドとウェールズの平均住宅価格は1998年から2018年の20年間で7万ポンドから22万4,000ポンドまで上がった。マイホームは売却益への課税もないので、効率良く資産を増やすことができる。それゆえ、プロパティーラダーは、金融資産に縁のない庶民にとっても最も身近な投資なのである。
しかし近年、英国では住宅価格の高騰が激しく、プロパティーラダーで資産を形成するという前にそもそも住宅の取得が難しい状況になっている。住宅の値上がりの最大の要因は何と言っても供給不足だ。英国の人口はこの20年で約5,900万人から6,700万人へと増加。住宅の建設戸数は400万戸不足しており、解消するには2031年までに毎年34万戸の建設が必要とされている。
供給不足でロンドンの住宅価格が高騰
過去15年の住宅価格の推移を見ると、ロンドンの値上がり幅が突出。就業機会の豊富なロンドンに国内外から人が集まり住宅需要が高いこと、国際的な都市として外国からの資金が流入していることなどが考えられる。ロンドンでは平均的住宅の価格が毎年2万ポンドずつ上がっており、給与所得よりも不動産価格上昇分のほうが大きいということも珍しくない。
住宅価格が上がると、家を持っている人は資産が増えるが、初めて家を買う人にとっては購入の第一歩が踏み出しにくくなる。住宅価格が年収の何倍かを見てみると、1995年にはロンドンも英国全体も住宅価格は若年層の年収の2倍強だった。しかし、2017年にロンドンでは10倍、英国全体でも5.1倍になった(Nationwide統計)。また、2018年のデータによると、ロンドン市の大半の区で住宅価格は年収の12倍~15倍となっている。
現在、ロンドンで家を買うには、頭金11万9,000ポンド、年収8万4,000ポンドが必要とされているようだ。こんな高額の貯金や給料は若いうちは望むべくもないので、大多数の若者は一生賃貸するしかなく「賃貸世代(generation rent)」と呼ばれている。しかも、家賃もかなり高いので、やむなく一軒を何人かでシェアすることも多い。
若者のマイホーム購入支援に動きだした政府
家を買う見込みがたたず、賃貸住宅を同居人とシェアするような状況では、若者は未来への希望が持てず、結婚や子育てという次のライフステージにも移りにくい。このため政府は若者のマイホーム購入の後押しに躍起になっている。
支援策の1つが「Help to Buy」である。2013年にスタートしたもので、価格60万ポンド以下の新築の家やフラット(日本のマンションやアパートのような集合住宅内のワンフロア形式の住居)の購入資金のうち、ロンドンで4割、それ以外では2割を政府が貸し付ける。最初の5年間は無利子で、6年目は1.75%、それ以降は小売物価指数プラス1%ずつ上がっていく。貸し付け金の元金は物件を売却した時に当初の貸付割合に応じて返済するというものだ。
このHelp to Buyなどの施策が効を奏し、昨年、初回住宅購入者(first-time buyer)による購入が2006年以来最高の36万5,000戸を記録した。1995年以降初めて、初回住宅購入者による購入数が既存所有者による住宅買い替えの件数を上回ることになった。
ただし、Help to Buyに関しては、対象物件の上限価格が60万ポンドと高いことから、政府の支援なしでもマイホームを買えるような高所得者による制度利用も多く、税金の無駄遣いだとの批判もある。
影を落とし始めたEU離脱の行方
英国は、2016年6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めているが、2019年12月現在も不透明な状況が続いている。国民投票後、住宅市場は先行き不透明となり、2016年に8%だった英国の住宅価格の上昇率は、2019年春に2%を切る状況になった。
EUからの離脱で、経済全体が打撃を受ければ、住宅が安くなっても若者は先行き不安のためにマイホーム取得を控えるかもしれない。また、多額のローンを組んで家を買った人の中には家の評価額がローン残高より低くなる「ネガティブエクイティ」に陥る人も出るだろう。そうなると、不動産のはしごで高い所にいる人ほど、大きな負の資産にあえぐことになる。EU離脱の問題は既に英国の不動産にも大きな影響を与え始めている。
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