都市型農業で生み出す 大阪産(おおさかもん) きのこ

「都会でのシイタケ栽培ってめっちゃ、よろしいやん」ということから名付けられた『よろしい茸』。大阪の特産と認められる加工食品「大阪産(おおさかもん)」に認定されている「都会でのシイタケ栽培ってめっちゃ、よろしいやん」ということから名付けられた『よろしい茸』。大阪の特産と認められる加工食品「大阪産(おおさかもん)」に認定されている

「西成をシイタケの街に!」と壮大な目標を掲げ、障害者や高齢者らの働く場をつくるNPOの活動が注目を集めている。その名は、大阪産の「よろしい茸」。
2016年10月、大阪市西成区北津守にある1800m2の遊休地にシイタケ工房の巨大なビニールハウスを開いた。運営は、西成区と隣接する浪速区の2か所で福祉事業をおこなうNPO法人・街かど福祉。

西成区は“労働者のまち”とも呼ばれたが、現在4人に1人が生活保護を受給する。市内でも突出して受給世帯が多いところに拠点を構えた。都市型農業を強みに、輸送コストや長距離輸送による傷を減らし、“新鮮でみずみずしいシイタケを届ける”ことで知名度を高めていこうと奔走中である。

西成の都会で、なぜシイタケ栽培なのか?
NPO法人・街かど福祉 街かどあぐり にしなり よろしい茸工房の代表理事である豊田みどりさんにお話をうかがってきた。

西成で障害者や高齢者の就労支援を

「大阪のおかん」という言葉がぴったりの快活な豊田さん(67歳)。豊富な人生経験で自立への道を後押しする「大阪のおかん」という言葉がぴったりの快活な豊田さん(67歳)。豊富な人生経験で自立への道を後押しする

豊田さんは、大阪・北新地の商家に生まれ、飲食業や不動産業の経営者を経て、2012年に大阪市浪速区でNPO法人・街かど福祉を立ち上げた。

「これまでの不動産業は息子に任せ、一旦は引退したのですが、長らく働き続けてきたせいか毎日が物足りない。これからは社会に貢献できることをやろう。“働いて自立したいのに、働く場がない”という障害者や高齢者の支援をやろうと未経験ながら乗り出しました」と、豊田さん。
「しいたけ工房をなぜ西成に?とはよく聞かれる質問やね。実は仕事で西成区役所に訪れた時、生活保護を受ける行列が印象に残って。これは雇用問題が大きく関係しているな、と。それやったら、西成で働く場をつくろうと思ったんです」と、振り返る。

かつての不動産業で業界団体の役員を歴任してきた豊田さん。大阪市中心部からのアクセスもよい西成に、比較的値段の安い遊休地があることに着目していた。
若い頃はアイディアがあっても実行になかなか移せなかった。でも次第に知恵もつき、連携できる仲間も増えた。福祉と相性のよい「シイタケの人工栽培」があると知った時、「これや!」と思い立ったという。

育てるよろこび・収穫するよろこびを味わう

ハートフルアグリとは、農と福祉の連携。大阪府では、全国に先駆け、都市農業の振興と保全に向けて農業の多様な担い手の確保と、障害者雇用のためハートフルアグリを推進している。
よろしい茸工房は、障害者や高齢者、生活困窮者が一般企業への就労をめざし働く場。工房の開所式には、西成区長をはじめ行政関係者らも応援に駆け付けた。地域からの期待も大きい。

工房の仕事はシイタケを育てることから始まり、収穫、選別作業、商品詰め、シール貼り、出荷作業や直販など一連の流れがある。そのため、働き手それぞれの個性に応じた役割を見い出しやすい。

雇用形態は、事業者と利用者が雇用契約を結ぶ"就労継続支援A型”。B型との違いは、雇用契約があり最低賃金が保障されていること。対象は、
・特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、就職に結びつかなかった
・就労移行支援事業を利用したが、就職に結びつかなかった
・就労経験があり現在、雇用関係がない
方となる。これは、障害者総合支援法に定められた就労支援のひとつで、働きながら能力を向上し一般企業への就職をめざすものである。
同工房で「あぐりメイト」と呼ばれるスタッフは、1日6時間、月20日の勤務でおよそ10万円の給料が得られる。これは、一般的な就労支援施設よりも高い。

「シイタケ栽培をやってよかったと思うのは、別の仕事で休みがちだったスタッフが、ここでは休まず朝早くから出勤してくれるようになったこと。小さな芽から毎日コツコツ育てることに、楽しさややりがいを感じてくれているようです」と、にこやか。どうやら一石二鳥以上のメリットがあるようだ。

よろしい茸工房の外観とハウス内。シイタケは農薬・殺虫剤・雨水を一切使わず、電子水のみで栽培。<br>モーツアルトを聴きながら、すくすく育つよろしい茸工房の外観とハウス内。シイタケは農薬・殺虫剤・雨水を一切使わず、電子水のみで栽培。
モーツアルトを聴きながら、すくすく育つ

農業と福祉の連携でまちの未来をつくりたい

西成生まれのシイタケの評判は上々。
「スーパーの若い経営者が『よろしい茸』の味を肉厚があっておいしい、一級品やといって継続した仕入れを決めてくれた。後になって施設の人たちが作っていると知り、それやったらもっと応援せなあかんなと言ってくれた。うれしいですね。リピーターをつけるのは、やっぱり“ほんまもん”でないと。長続きしないでしょ」と、豊田さん。やさしくも、品質に対する目はきびしい。
障害者が作ったシイタケを前面に打ち出すのではなく、朝採れのシイタケを産地直送30分で届けられる“鮮度”と“味”で勝負したい。現在、関西で食べられているシイタケの8割は徳島産だけど、「西成のシイタケ、めっちゃジューシーでおいしいよ」とアピールしていきたいと意気込む。

今後の課題は、販路の拡大。オープンした工房は、1日150キロ生産できる体制にあるが、現在は出荷の関係で1日30キロに抑えている。また、菌床から自家生産し、年間2万床の栽培を目標に掲げる。

「よろしい茸のブランド力をアップし、西成のイメージが変わったと感じてもらいたい。このモデルケースを軌道にのせ、区内の福祉施設や企業の雇用促進、遊休地の活用にも役立ててもらいたい」と、熱く展望を語る。

全国各地で「地産地消」の重要性が見直されるなか、大阪の真ん中で生まれる「よろしい茸」の取組は意義深い。

“ほんまもん”を追求する、よろしい茸工房のみなさん。朝採れのシイタケをチームワークのよさで日々出荷する“ほんまもん”を追求する、よろしい茸工房のみなさん。朝採れのシイタケをチームワークのよさで日々出荷する

2017年 02月18日 11時00分