湘南モノレールが舞台のユニークな展覧会。7人の建築家の提案を紹介

湘南モノレールを舞台に行われた「7人の若手建築家によるサーファーの家展」。(主催:鎌倉・藤沢リングプロジェクト研究会、協賛:シェルター、協力:湘南モノレール、コーディネート:中崎隆司)

前編では、4人の建築家の提案を紹介した。後編では、残る3人のアイデアを見ていこう。

※記事中の図版は各建築家から提供された画像を編集部で再構成したもので、展示とは異なる。

前編で紹介した4つの提案。左上から時計回りに大野力さん「『内』と『外』と『その間』が連なるシェアハウス」、オンデザインパートナーズ「展望屋根の家」、川添善行さんの「地面のある家」、海法圭さんの「大地と空をサーフする」前編で紹介した4つの提案。左上から時計回りに大野力さん「『内』と『外』と『その間』が連なるシェアハウス」、オンデザインパートナーズ「展望屋根の家」、川添善行さんの「地面のある家」、海法圭さんの「大地と空をサーフする」

05:玄関から直接入る“バスリビング”。髙濱史子さんの「風呂小屋/BATHING SHED」

2018年夏、大磯で新しい住宅を完成させた髙濱史子さん。「風呂小屋/BATHING SHED」のアイデアは、そのとき湘南に通って見聞きした経験を元に発想したものだそう。
「サーファーの住まいは、屋外にシャワーが取り付けられていて、そこで砂を流してから家に入るようになっていました。だったら、家そのものを、もっとお風呂の機能に特化してはどうだろうかと」。

8坪ほどの小さな建物は、繭(まゆ)の一部を切り取ったような平面を持つ。カーブする二重の壁に囲まれた吹き抜けの空間は、全体が玄関ホールとお風呂を兼ねており、さまざまな過ごし方ができる“バスリビング”だ。海から戻ったら、そのまま家に入ってお風呂で汗を流せるし、そこでサーフボードの手入れもできる。湾曲した木の壁に反射する日光が柔らかなグラデーションを描き、安心してくつろげる気持ちのいい場所だ。

「波の上という、この上なく広く開放的な場所から帰ってくるなら、対照的に、少し内にこもった、小さな場所がいいのではないかと思いました」と髙濱さん。「バスリビングと名付けた場所では、入浴だけでなく、段差に腰掛けて読書をしたり物思いにふけったり、長時間ゆったりと過ごしてほしい」

二重の壁の内側にはコンパクトなダイニングキッチンとロフトの寝室があり、一つの住宅として十分に成立するが、「小さな建物なので、既存の住宅の離れとして建ててもいい」と髙濱さんは言う。「実際の使い方は建て主さんとの相談次第ですが、ご依頼があれば、ぜひ実現させたいですね」。

髙濱史子建築設計事務所 https://www.t-ft-t.com/

画像はCGではなく20分の1の模型をつくって撮影・加工したものだそう。湯気がたちのぼる風呂にサーフボードが写り込む</br>(元画像提供:髙濱史子建築設計事務所)画像はCGではなく20分の1の模型をつくって撮影・加工したものだそう。湯気がたちのぼる風呂にサーフボードが写り込む
(元画像提供:髙濱史子建築設計事務所)

06:サーフィン経験者・田辺雄之さんによる、波の形の「うねりが入った住宅」

鎌倉で生まれ、現在も鎌倉の御成町商店街に事務所を構える田辺雄之さん。7組の中で唯一のサーフィン経験者だ。「サーフィンの条件で、一番大事なのは海の“うねり”。サーファー同士の会話では、“いいうねりが入った”と表現します。
波は上下に動いているように思われがちですが、実は、波をつくる海の“うねり”は円運動なんですね。そこで、立方体がさまざまな大きさの“うねり(円)”によってくりぬかれたような形の建物を考えました。家にいながら、まるで波の中にいるような感覚が味わえる空間になると思います」。

波に乗った家は、地面から1.5mほどの高さに浮いている。支えているのは建物を貫く3本の塔だ。これは通し柱であり、換気装置であり、採光窓でもある。うちひとつは、海の“うねり”を確認するための、見晴らし塔にもなっている。

地上にはピックアップトラックが停められる屋根付きの駐車スペースがあり、玄関を入ってすぐにサーフボードのメンテナンススペースが用意されている。屋内は螺旋状に少しずつ上っていくスキップフロアのワンルーム空間で、地上3mの高さに明るいダイニング、さらにその上に海を一望できるリビングと、波音が聞こえるベッドスペースがある。

夢のある建物だが「本当に実現できますか?」と尋ねたところ「模型の時点できちんと成立していますから、実現可能だと思いますよ」との返事が返ってきた。ちなみに、たくさんの塔に貫かれた形の建物は、2019年秋、長野県に飲食店として実現する予定だ。

田辺雄之建築設計事務所 http://yuji-tanabe.com/

夏の塔と冬の塔、見晴らし塔の3つの塔によって浮かぶ建物。平面図は1階部分で地上1.5mの高さにある</br>(元画像提供:田辺雄之建築設計事務所)夏の塔と冬の塔、見晴らし塔の3つの塔によって浮かぶ建物。平面図は1階部分で地上1.5mの高さにある
(元画像提供:田辺雄之建築設計事務所)

07:湘南育ちの伊藤立平さんは、地形を活かした「海と風と人と」を提案

伊藤立平さんの提案は、現実の空き地を敷地に仮定して設計したもの。七里ヶ浜から続く丘の中腹に位置する、眺めのいい場所だ。傾斜地をなぞるような起伏のある建物は、レベル差のある7つの「ルーム」を内包している。

「湘南エリアには、崖地が多くて造成が難しい未利用地があります。その地形と地質をどう活かせばいいでしょうか。波は海底の地形と関係が深いので、サーファーは地形にも敏感ではないかと考えました」と伊藤さん。

七里ヶ浜の山は、削りやすくて崩れにくい、関東ローム層で形成されている。柔らかい岩肌を削ってつくられた中世の山城や戦時中の防空壕が、今もその痕跡を残している。そこで伊藤さんは、敷地内の土を削ったり、その土を盛ったりして、土の中や上にそれぞれ雰囲気の異なる空間をつくった。

幾重にも重なる屋根は、ちょうど波に乗るサーフボードのように、海から吹き上げる風を巧みに操る装置になっている。強風を和らげたり、日の光を採り入れたり。「自然環境と人の暮らしを絶えずシンクロナイズさせる、地域と一体化した建築を目指しました」(伊藤さん)

伊藤立平建築設計事務所 http://www.tappeiito.com/

波打つような屋根は、サーフボードのメタファーともいえる。店舗併用住宅にも、シェアハウスにも応用可能な建物</br>(元画像提供:伊藤立平建築設計事務所)波打つような屋根は、サーフボードのメタファーともいえる。店舗併用住宅にも、シェアハウスにも応用可能な建物
(元画像提供:伊藤立平建築設計事務所)

モノレールに乗る人々に、どうやって建築を届けるか。今後の企画にも期待

展示が行われたのは2018年11月17日〜23日の7日間だったが、モノレールの車内と駅構内での住宅展という試みは、参加した建築家たち自身にとっても刺激的だったようだ。

「人は移動する時間をどう使っているのか。モノレールに乗る楽しさと住む楽しさを掛け合わせて相乗効果を生むにはどうすればいいのか。みんなで様々な議論をしました」と前出の伊藤立平さん。建築に関心を持って展示を見に来るのではなく、おのおのが別の目的を持って通りがかる人に、どうすれば提案が伝わるか、各人が工夫を凝らした。

オンデザインの西田司さんは「モノレールは天井が低いので、中吊りが目に留まりやすい。車内ではじっとしているから、コピーもじっくり読んでもらえそうでした」と振り返る。オンデザインの展示は、メインビジュアルにキャッチコピー、ボディコピーと中吊りポスターらしい形式。色合いも、通常の設計ではあまり使わない、人目をひく色使いを工夫したそうだ。

大野力さんや伊藤立平さんはインスタグラムやメールアドレスにリンクするQRコードを付け、展示の先につなげていた。田辺雄之さんもSNSを活用し「#サーファーの家」とタグを付けて発信したら、今までにない反響があったという。

「今回の経験は、今後の活動につながりそうです」と伊藤さん。「例えば、2018年12月1日に全館リニューアルオープンしたモノレールの終着駅、湘南江ノ島駅での活動を検討中。地域の防災拠点を兼ね、展望台を備えた駅なので、さまざまな可能性が考えられそうです」。また、モノレールだけでなく、江ノ島電鉄とのコラボも考えていきたいそうだ。

鎌倉・藤沢リングプロジェクト研究会 http://kamafujiring.com/

2019年 01月08日 11時05分