日本最大の操車場跡地に誕生する北大阪健康医療都市『健都』
JR東海道本線に乗り、京都から大阪へ向かう途中の車窓に、一見してすぐにそれとわかる広大な土地が広がっているエリアがある。吹田市と摂津市の両市にまたがる『吹田操車場跡地』だ。
大正12年に操業を開始し、日本最大の操車場として関西の貨物物流を支える重要拠点に位置づけられてきたが、物流の変化と共に約60年の役目を終了。その後、1987年の国鉄民営化に伴い、約50ヘクタールに広がる跡地を活用して大規模な再開発事業が進められることになった。
吹田市・摂津市による『吹田操車場跡地まちづくり計画委員会』が2006年に発足された後、街の再開発テーマに掲げられたのは『緑と水につつまれた健康・教育創生拠点』。
北大阪健康医療都市『健都』と名づけられた同プロジェクトでは、産学官民連携による医療イノベーション拠点としての再開発事業が着々と進行中で、『国立循環器病研究センターを核とする医療・研究施設の集積』『医療関連企業の誘致』『都市公園や住宅の整備』『ホテル・商業施設の開業』など、世界でも例を見ない健康都市づくりのビッグプロジェクトの完成に期待が寄せられている。
今回のレポートでは、その『健都』の街づくりのひとつである『都市型居住ゾーン』に誕生した新築分譲マンション『ローレルスクエア健都ザ・レジデンス』(近鉄不動産・大和ハウス工業・名鉄不動産の3社JV)の開発経緯を取材した。
デベロッパーとして「入居者の健康」にどう関わるか?が課題に
「吹田操車場跡地利用については長らく議論が続けられてきたようですが、約30ヘクタールを街づくりに利用しようということになり、プロジェクトが大きく動きはじめたのは、循環器疾患の研究機関である『国立循環器病研究センター』の移転が決定してからだったと聞いています(現在は吹田市『北千里』駅よりバス)。
街づくり計画のひとつに『都市型居住ゾーン』として位置づけられた地域があったのですが、その地域の開発を私共のJVチームが落札させていただき、3年前から着手することになりました。今回の『健都』プロジェクトは、世界に発信できる新しい街づくりのモデルケースでもありますから、弊社としても“ぜひ居住ゾーンは我々にやらせてほしい!”という強い意気込みを持って挑みました」(以下「」内は姉川さん談)。
近鉄不動産の姉川瞳さんは、『ローレルスクエア健都ザ・レジデンス』の計画担当者だ。プロジェクトの入札要件には“健康住宅地としての取組みを行うこと”という行政側の要望が挙げられていたが、“健康に特化したマンションづくり”は同社でも前例が無かったため、まずは「健康とは何か?マンションに何ができるのか?」について考えるところから始めなくてはならなかった。
「実は、私共マンションデベロッパーの立場としては、これまで“お客様に住まいを売ること”はあっても、“住まいを売った後のお客様の生活に関わること”はほとんど無く、基本的に管理組合におまかせするのが従来の概念でした。しかし、“健康に特化したマンション”となれば、今後も入居者の皆様の生活に大きく関わり続けることになります。ただ、入居者の皆様すべてが健康に気を遣っている方ばかりとは限りませんから、“入居者にご負担をかけることなく、長く健康を維持するためにはどのようにしたら良いのか?”という点が本当に難しくて手探り状態でした」
日本初、国立循環器病研究センターと連携して健康管理を行うマンション
『入居者の健康への意識づけをどうやって継続していくか?』…その方向性を探る中で、「移転が決定した『国立循環器病研究センター(以下、国循)』と連携することにより、新しい取組みができるのではないか?」というアイデアが持ち上がった。
「国循の先生方も、民間のマンションと連携するのは今回が初の試みだったので、最初のうちはかなり戸惑われていたと思います。そもそも、国を代表する研究者と不動産会社の担当者では、あまりにも分野が違いすぎてお互いの常識が噛み合わず、私共からは“分譲マンションとは何か?管理組合とはどういう組織か?”について詳しく説明するところから始めました。しかし、“健康を維持できるマンションをつくりたい”という想いはお互いに共通していましたから、何度も打ち合わせを重ねていくうちにやっとスムーズに打ち合わせが行えるようになりましたね(笑)」
ちなみに、国循が研究を進めている循環器病(心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化を原因とする病気)は家系体質の影響を受けにくく、若い頃からの生活習慣の改善によって予防できる病気だ。そのため、国循の研究者にとっては、マンションで暮らしている入居者たちの日常的な生活データが貴重な研究資料となる。一方、姉川さんたち計画担当者としては、“マンションに『健康生活』という新たな付加価値を見出したい”という目標があったため、そこで双方の想いが合致。
●マンションから国循へ、入居者の生活データを提供する
●国循からマンションの入居者へ、専門的なアドバイスを定期的に送り健康管理を行う
という新たな健康システムの構築へ向けてプロシェクトは一歩前進した。
こうして、“日本初の国立循環器病研究センター連携マンション”が誕生することになったのだ。
「健康づくりを強く意識しなくても、“住んでいるだけで気づかないうちに健康になれるマンション”を目指してシステム構築に取り掛かったのですが、国循との連携を行うためのシステムは完全にゼロベースからのスタートでしたから、協力会社のサポートを仰ぎつつ完成までに1年半かかりました。国循の先生方としては、研究者としてより多くのデータを収集したいという熱意があり、“毎日尿検査をしたい。部屋の温度や照度の変化と健康との関係性を見てみたい”といったご要望もあったのですが、それを実際に住まいのシステムとして取り入れようとすると、入居者の皆様の快適な生活が成り立たなくなってしまう懸念がありました。
加えて、“毎日体重計に乗って、その情報をパソコンに入力してもらう”といった面倒な作業は極力排除しなくてはいけませんでしたから、いかに“入居者の皆様に手間をかけること無くデータを収集できるか?”そして“そのデータが国循の先生方の有益な研究対象となるかどうか?”をひとつひとつ検証していくのが大変な作業でした」
“気づかないうちに健康になれるマンション”を目指した付加価値ある住まい
『ローレルスクエア健都ザ・レジデンス』では、『光BOX+』『ムーヴバンド3』『体重体組成計』『血圧計』を全住戸に配布し、入居者の体重・歩数・睡眠の長さと深さ・消費カロリーなどのバイタルデータを収集する。ウェアラブル端末等によって集められた入居者のバイタルデータは各住戸の光BOX+に無線送信され、クラウドに保管。そのクラウドのデータを国循が解析して医療研究に役立てると同時に、データ提供を行ってくれた入居者に対しては専門家による健康アドバイスが定期的に自宅のテレビ画面に届けられる仕組みだ。
また、国循と連携した健康システム以外にも、同マンションの敷地内には健康づくりにつながる多彩な共用施設が導入されている。
1階の共用廊下には膝に負担をかけないゴムチップ製のウォーキングコースが設けられており、夜間でも雨の日でも、セキュリティに守られたマンションの中で1周400mのウォーキングを楽しむことができる。本来、デベロッパーの立場としては住戸数をより増やして利潤を追求したいはずなのだが、「1階には住戸をつくらず、健康のためのフロアとして入居者の皆様に開放することにしました」と姉川さん。運動器具が揃った1階『エクササイズルーム』では、月に2~3回トレーナーによるレッスンを開催予定で、わざわざ外のスポーツジムへ通わなくても、自宅マンション内でプロから本格的なレクチャーを受けることができるサービスが好評だ。
「これからは、私共マンションデベロッパーも単に“住まいを提供する”だけでなく、“そこで暮らすことで何ができるのか?“という住まいの付加価値についても積極的に提案しなくてはいけない時代だということを、今回のプロジェクトに携わって痛感しました。もちろん、コストとのバランスは課題となりますが、インターネットを通じて国循と健康管理を行うことは大阪に限らず全国どこでもできますから、今後の新たな展開も視野に入れながら“付加価値のある住まいづくり”に取り組んでいきたいと考えています」
▲健康管理システムは1住戸4人まで登録が可能で、管理組合からIDが配布される(システム利用料は戸あたり月額1000円)。時計代わりに装着できる『ムーヴバンド』は入浴時を除き終日身につけることを推奨。帰宅すると自動的に光BOX+につながるため、データ入力などの面倒な作業は一切不要だ。入居者から収集されたデータは自宅のテレビ画面で確認できるほか、定期的に届けられる国循からのアドバイスもテレビ画面に表示される。「当初はシニアのお客様からのニーズを想定していたのですが、実際には20代から70代までと幅広い世代にご成約をいただいております。そもそも健康意識の高いお客様ばかりですから、このシステムに対して“面倒”とか“不要”といったご意見は無く、好意的なご評価をいただいております」とプロジェクトマネージャーの内藤康成さん世界に誇る複合医療産業拠点として、2019年夏に全面運用開始予定
日本最大の物流拠点だった吹田操車場跡地は、北大阪健康医療都市『健都』として再生。これまで車窓のいち風景に過ぎなかったこの街に、新たな都市の価値が生まれようとしている。
今年の秋にはホテル・クリニックモール・スーパーなどが入った駅前複合商業施設と市立吹田市民病院が開業予定。そして、来年2019年夏には『国立循環器病研究センター』の移転完了・運用開始が予定されており、“世界に誇る複合医療産業拠点”がいよいよ本格的に動き出す。
今後は『健都』の街づくりだけでなく、『ローレルコート健都ザ・レジデンス』の入居者たちの健康意識がどのように高められ、国循のどのような研究成果に貢献するのか?についても業界内外から大きな注目を集めることになりそうだ。
■取材協力/ローレルスクエア健都ザ・レジデンス
https://www.kintetsu-re.co.jp/mansion_kansai/hokusetsu/kento/
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