賃貸物件の入居者は、賃貸借契約書を通して「善管注意義務」と呼ばれる義務を負うのが一般的です。これは、「善良なる管理者の注意義務」の略であり、部屋を借りた人が守るべき決まりのようなものです。

そのため、過失によって部屋で火災を起こしてしまった場合、建物に損害が生じれば、注意義務を怠ったとして大家さんに賠償しなければなりません。火災保険はこうした損害に備えるための保険であり、建物や家財の損失を補償する重要な仕組みです。

今回は火災保険の補償範囲と基本的な仕組み、保険料や補償額の相場について詳しく見ていきましょう。

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火災保険の種類と補償範囲

 

火災保険はその名称から、火災被害のみを補償してくれる保険と誤解されてしまうこともありますが、実際には幅広いカバー範囲を持っているのが特徴です。

 

補償の内容は契約するプランや会社によって異なるものの、ここでは基本的な火災保険の種類と補償範囲について解説します。

 

火災保険の内容について見ていく前に、まずは簡単に火災の責任がどのように発生するのか、関連する法律から理解しておきましょう。日本には「失火の責任に関する法律」(以下、失火法)という法律があります。

 

これは、失火しても「故意や重大な過失がなければ、火事による損害を賠償する責任は認めない」という決まりです。重大な過失とは、「誰でもわずかな注意さえしていれば、容易に事態を予防・回避できたもの」を指します。

 

具体的な加減については個別の案件に応じて判断されますが、たとえば過去の裁判例では「てんぷら油を入れた鍋を加熱したまま長時間その場を離れた」「寝たばこの危険性を認識しながらも続けていた」といった場合、重大な過失に該当するとされています。

 

反対に、「天井裏の電線がネズミにかじられた」などの不可抗力の場合は、失火の責任は原則として問われません。

 

賃貸物件の場合は、冒頭でも解説したように、入居者に善管注意義務があります。そのため、過失による火事で家主に損害を与えてしまった場合には、賠償しなければなりません。

 

ただし、左右や上下の部屋に延焼してしまった場合については、前述した失火法が適用される可能性が高いといえます。そのため、上下左右に隣接する部屋の損害部分については、責任が問われないケースが多いです。

 

火災保険では、火災以外のさまざまな災害に対しても保険金が支払われます。ケースによって多少の例外はありますが、具体的には以下のような災害が基本的な補償の範囲とされています。

基本的な補償の範囲

  • 落雷による電化製品などへの被害
  • 強風によって瓦が吹き飛ぶなどの風災
  • 洪水による浸水
  • 大雪やひょう、竜巻による被害
  • 水漏れによる被害

そのうえで、実際にどのような損害に対応してもらえるかは、加入する保険の内容によっても異なります。

 

一般的には「家財保険」「借家人(しゃくやにん)賠償責任保険」「個人賠償責任保険」の3点がセットになっている保険に加入する場合が多いので、ここではそれぞれの内容について見ていきましょう。

 

家財保険とは、所有している家具・家電、衣類などの財産を補償する保険です。火災が原因によるものに限らず、落雷や風災、盗難なども補償の対象になるので、被害発生原因については幅広いのが特徴といえます。

 

なお、家財保険では他人が起こしてしまった火事による家具・家電への損害も補償されます。

 

借家人賠償責任保険とは、火災や水漏れなどによって賃貸物件に損害を与えてしまった場合に、原状回復を行うための費用を補償してもらえる保険です。

 

前述のように、重過失によって火災が発生すれば、入居者は大家さんに対して損害賠償をしなければなりません。

 

火災による損害の原状回復は費用が高額になるケースも多いため、自己負担は難しいと考えられます。借家人賠償責任保険は、こうした損害を補償する重要な仕組みのため、賃貸物件を借りる際には加入が必須とされることも多いです。

 

なお、借家人賠償責任保険で補償されるのは、あくまで善管注意義務を負わなければならない「自分の部屋の範囲のみ」です。延焼した場合の補償は行われないため、注意しておきましょう。

 

個人賠償責任保険とは、日常生活で起こった損害について補償してもらえる保険です。

 

たとえば「自転車で他人にぶつかってケガをさせてしまった」「ペットが他人にかみついてケガをさせてしまった」などで損害賠償責任が発生した場合に、賠償金を補償してもらえます。

 

また、借家人賠償責任保険ではカバーされない「水漏れで階下に損害を与えてしまった場合」なども補償してもらえるのが特徴です。

 

特約として扱われるため、自分でつけるどうかを選ぶことができますが、通常の火災保険とは異なる範囲をカバーする保険なので、基本的には加入しておく方が安心といえます。

 

ただ、自動車保険などのその他の保険にも特約としてつけられるため、すでに加入している場合は特に必要ありません。重複すれば、その分だけ保険料負担が大きくなるので、よく確認して選択することが大切です。

火災保険の加入は任意? 入る保険は自分で選べる?

 

続いて、火災保険の加入に関するルールについて見ていきましょう。

 

火災保険は基本的に任意で加入を判断できる保険です。自動車の自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)のように強制ではないため、加入しなかったからといって特に罰則はありません。

 

ただし、これまで説明したように、火災保険は万が一のトラブルに備える重要な仕組みであり、賃貸物件においては入居者と大家さんの両方を守る役割を持っています。そのため、ほとんどの賃貸物件では、火災保険への加入が契約条件とされています。

 

物件を借りるときには火災保険の加入が実質的に必須となるため、契約をスムーズに進めるために、物件の仲介をする不動産会社が保険会社やプランを勧めてくれることが多いです。

 

しかし、必ずしも紹介してもらった保険に加入しなければならないわけではありません。自分で加入する保険を選べるため、補償内容や保険料をきちんと確かめたうえで、複数の保険会社やプランを比較することも可能です。

 

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一人暮らしの火災保険の相場

 

火災保険料は補償内容によっても異なるため、一概に「いくらが目安」と言うことはできません。補償内容と保険料を比較して、コストパフォーマンスを見極めることが大切です。

 

ここでは、いくつかの保険会社で実際にシミュレーションを行い、賃貸入居者向けプランの保険料を比較してみましょう。

 

保険料

家財保険金額

借家人賠償責任

個人賠償責任

借家修理費用

A社

4,000円

100万円

2,000万円

1億円

300万円

B社

4,770円

300万円

1,000万円

1,000万円

100万円

C社

9,500円

250万円

2,000万円

2,000万円

100万円

D社

7,500円

200万円

2,000万円

2,000万円

100万円

※保険期間は1年間で試算

その他の条件

A社

・水回りトラブルサポート

・鍵、エアコン、給湯器トラブルサポート

・ハチのトラブルサポート

・被害事故法律相談費用30万円

 

B社

・生活再建費用10万円

・被害事故法律相談費用30万円

 

C社

・地震災害費用20万円

・家財破損、汚損補償

・水回りトラブルサポート

・鍵、ガラスのトラブルサポート

・臨時宿泊費用20万円

・被災転居費用20万円

 

D社

・家財破損、汚損補償

・水回りトラブルサポート

・鍵トラブルサポート

・臨時宿泊費用20万円

・被災転居費用20万円

このように、一口に火災保険といっても、プランや細かな条件によって設定される保険料には違いがあります。

 

たとえば、C社は保険料こそ比較的高額ですが、地震災害にも補償がついているのが特徴です。

 

通常の火災保険では地震災害まではカバーできないため、補償内容は手厚いと判断できます。そのため、まずはどのプランが必要なのかを見極めたうえで料金を比較することが大切です。

賃貸で地震保険は必要?

 

火災保険料のシミュレーションでも少し触れましたが、通常の火災保険では、地震による損害まではカバーできません。仮に火災による損害が発生しても、その原因が地震である場合には補償の対象外となってしまうのです。

 

そこで、地震災害の損害を補償してもらうには、地震保険の特約をつける必要があります。ただし、補償範囲が手厚くなる分、保険料が高くなる点には注意が必要です。

 

また、火災保険と比べると、賃貸においてはリスクに対する保険料の割合は割高と判断することもできます。これは、両者の保険の目的が異なるためです。

 

地震保険の目的は「被災者の生活の安定」にあり、「被災物件の復旧」を目的とする火災保険とは役割が異なります。そのため、賃貸物件においては火災保険のみで十分と判断し、特約などを充実させるのもひとつの考え方です。

 

なお、地震保険は火災保険と違い、所得控除の対象となる点はメリットです。

 

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火災保険の見積をとる

 

火災保険はインターネットや保険代理店で見積もりをとり、具体的な料金をシミュレーションすることができます。加入する火災保険を自分で選ぶ場合には、複数社に一括で見積もりをとり、比較しながら検討しましょう。

 

保険代理店であれば、担当者が詳しいプランの内容や用語について説明してくれるので、検討材料を明確にしやすくなります。自分で火災保険を選びたい人は、保険の相談窓口に実際に足を運んでみてもいいでしょう。

  • 火災保険は基本的に火災のほか、水災や落雷、風災などの損害にも対応している
  • 賃貸物件では火災保険の加入が必須とされる場合が多い
  • 賃貸であっても、加入する火災保険のプランや契約する会社は自分で選ぶことができる
  • 特約によって補償される範囲には大きな差があるため、自分で見極めることが重要
  • 地震災害の補償を希望する場合は地震保険を特約でつける必要がある

 

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更新日: / 公開日:2019.02.21