フリーランスという働き方は増えている
企業や団体に所属せずに仕事をする“フリーランス”という働き方が一般的になっている。政府が推進する働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透や、コロナ禍などの影響でその数は増加した。大手クラウドソーシング会社ランサーズが発表した調査によると、2021年の日本のフリーランス人口は1,577万人と、過去最多を記録した。2015年と比較すると約68%増加しており、今後も増加していく可能性がある。
一方、住まい探しにおいてフリーランスは、会社員に比べると「賃貸物件を借りにくい」「住宅ローンの審査に通りにくい」と言われている。
そこで今回は、お二人のフリーランスの方にご協力いただき、“フリーランスであること”が理由で部屋探しに苦労した経験談をオンラインで伺った。
フリーランスの方々が安心して部屋探しをするために必要なことはなんだろうか。
お話を聞いたフリーランスの方
Sさん……都内在住。フリーランスの広報6年目。個人事業主3年目に、夫婦で地方から上京するにあたりSさん名義で借りるべく部屋探しをしたが、10件以上審査に落ちた経験がある。
Kさん……神奈川県在住。フリーランスのライター9年目。個人事業主2年目、4年目、6年目にそれぞれ別の会社で“審査に通りやすい物件”を探してもらったが、希望と合致せず断念した経験がある。
入社前の正社員のほうが信用は上? 年収1000万円でも難しい? それぞれの体験
――お二人とも住居をお探しでの困りごとということでしたが、まずはSさんから。フリーランスになられた経緯と部屋探し部屋探しで困った体験はどういったものだったのでしょう?
Sさん:結婚を機に東京から夫の住む青森へ転居して、フリーランスとして働き始めました。それから2年後、拠点を都内に移すことになり、夫もそれに合わせて退職をして都内で求職活動するというので、世帯収入源は私だけの状況で部屋探しをすることになったのです。
業務手続き上、私の名義で契約する予定で部屋探しをしていたのですが、なかなか審査が通りませんでした。最終的には、その間に内定を得た夫の名義で申し込んだら一発で決まった、という体験をしました。引越しが予定より半年も遅れてしまいました。
――半年も! それは大変でしたね。「なかなか審査が通らない」とのことですが、何件ぐらい申し込みをしましたか?
Sさん:申し込みをしたのは10件以上でしょうか。不動産ポータルサイトで調べつつ、私がフリーランスになった経緯を知っていた、結婚前にお世話になった不動産会社の方にお願いをして部屋探しを進めていました。ですが、すべて審査が通りませんでした。
――当初はご自身の名義での契約を希望されていたのに、ご主人のお名前で申込みをしたのはなぜでしょう。
Sさん:「夫の名前で申し込みしたらどうなるんだろう?」という興味があったからです。
――ご主人が内定していたのは有名な企業だったのでしょうか。提出に求められた書類はどういったものでしたか?
Sさん:いいえ。未上場の小規模な会社です。提出したのは、月額給与を記載した内定証明書でした。
――次はKさんにお伺いします。どういった体験でしたか?
Kさん:私の場合は、新たに入居契約したその年にフリーランスになり、契約更新の2年、4年、6年目タイミングで、計3回、苦い経験をしました。
1回目のときは、知人だった不動産会社の方に相談したのですが「年収1000万円のフリーランスの人でも審査が通らない」と言われ、ひるんでしまったんです。
フリーランスが借りられる部屋も紹介してもらったのですが、希望と合わず引越し自体を断念しました。
2回目は、ポータルサイトで検索しつつ、希望していたエリアの不動産会社をめぐって部屋探しをしたのですが、フリーランスと伝えると苦い顔をされました。
そのうちの1社の不動産会社の対応が良かったので、両親に連帯保証人をお願いして審査に臨もうとしたのですが、父親は定年を迎えていて、母親は自営業だったため審査が通らないだろうと言われ、再び引越しをあきらめました。
3回目は、フリーランスに特化した不動産会社仲介サービスがあるのですが、そこでつないでもらった不動産会社からフリーランスでも借りられる物件を提示してもらうという探し方でした。
ですが、提示される物件が希望条件とマッチしなかったのと、希望条件に合う物件が見つからなかったため、またも引越しを断念した、という経緯です。
審査が通らずに感じる切迫感
――Sさんは10件以上断られ続けたとのこと。不動産会社の方の対応はどうだったか、覚えている範囲で教えてください。
Sさん:お世話になっていた不動産会社の方は、私のフリーランスとしての収入がわかる書類を提出して「これだけの収入なら、審査も大丈夫でしょう」とおっしゃっていたのですが、結果としてすべて審査に落ちてしまったんです。
不動産会社も個人情報を伝えるわけにはいかないので、審査に落ちた理由をはっきりとは言ってくれませんでしたが、担当の方は「また探してみます」とすごく申し訳なさそうでした。
――申込時に不遜な対応に遭ったわけではなかったんですね。
Sさん:並行して不動産ポータルサイト経由で問合せた不動産会社では、「フリーランスだから厳しいかもね」と言われたことはありました。
――それは堪えますね。
Sさん:ええ。部屋探し当初から、フリーランスは会社員に比べて不利であることは覚悟のうえで、貯蓄もすべて見せるつもりで臨んでいましたが、あまりに審査に落ちることが多かったです。
引越せないことで仕事にも支障が出ますし、見通しが立たずにこの先どうしたらいいんだろうと呆然としたこともありました。
その後は夫の名前を出して希望物件の審査が通ったのですが、審査に落ちた私の収入よりも、夫の収入は低かったんですね。おまけに夫は会社にまだ入ってもいない状態でも審査に通ったのがショックでした。
フリーランスという立場がダメなのか、登記した経営者でないとだめなのか、ポジションの違いでこうも差が出るのかと実感しました。
――ちなみに、Sさんとご主人と、申込時の提出書類に差はありましたか?
Sさん:大きな違いはなかったと思います。記入する書類は同じでしたし、私の場合は確定申告書の写し、夫は収入証明を提出しました。
「フリーランスが借りられる部屋は限られている」希望とは異なる物件の紹介
――Kさんの場合は何社もやり取りなさったようですが、対応は覚えていらっしゃいますか?
Kさん:1回目のときに相談した知人から、「審査落ちが続くと、さらに審査が通りづらくなる」と言われたのがとても記憶に残っています。
2回目では、来店時には明るく対応してくれていたのに「私はフリーランスなので…」と伝えると、早めに切り上げたいと感じるような接客態度を取られたことがありました。
――そのうち対応のよかった1社の方にお願いしたとのお話でしたが、どのようなところがよかったのでしょうか。
Kさん:フリーランスでも問題ないこと、実際にフリーランスの人の希望に沿った部屋探しをして成約した例など、具体的なお話をしてくださったところです。
――結果的に3つのタイミングともにお引越しを見送ることになりましたが、この経験を通して、思うことはありますか?
Kさん:それまでフリーランスとして定収入を得ていて、一生懸命働いているのに評価されないようで悲しかったです。
それと、フリーランスというだけで、「(引越しを)おすすめしません」と言われたり、かなり物件が絞られていたり、希望じゃない物件を勧められたり。さらには、フリーランスでも入居できるという物件は空室に困っている物件が多いのか、物件周辺の治安が心配だったり、やけに審査が緩かったり、そのような物件の案内が続くと、妥協して探さないといけないのだというイメージがどんどん強くなっていきました。
フリーランスというだけで、妥協して部屋を探さないといけないのは納得いかないと感じています。
将来の住み替えや家の購入における懸念点
――今後また賃貸物件を借りる、あるいは住宅の購入を検討するにあたり、懸念していることはありますか?
Sさん:我が家は夫と二人暮らしで、地元からも離れて暮らしているので購入予定はないですが、もし今後住宅を買うとしたら住宅ローンの審査は心配ですね。
将来的には賃貸で住み続けるつもりなのですが、住み替えするとしても、昨今の賃料上昇から、同エリア・同家賃・同等以上のクオリティーの部屋を探すのは難しいと感じています。
――ちなみに、次に借りるときの名義は、ご夫婦どちらでお考えですか?
Sさん:次は自身の名前で借りたいです。
――なるほど、Kさんはいかがですか?
Kさん:懸念点を挙げるとすれば、希望のエリアに住めるかどうか、でしょうか。将来的に家の購入も考えてはいますが、共有名義ではなくて夫の名義1本にするつもりです。
フリーランスの住まい探しで不動産会社やポータルサイトができることは
――大変な経験をしたお二人が、賃貸物件の入居審査に望むことは何かありますか?
Sさん:確定申告の書類だけではなく、取引先まで見てほしいですね。
フリーランスは収入が不安定というイメージがあるかもしれませんが、継続してお取引をいただいていて、安定した収入がある人は多いと思います。
また、私の場合、仕事の決済をすべてカードで行っているのでカードの与信額もかなり大きく、CIC(※)で自分の履歴を調べたことがあるのですが、何ら問題ありませんでした。
審査の際に、支払い能力についても見ていただきたいです。
それから、日本だけかもしれませんが、個人なのか・法人なのかで信用の差が大きいように感じます。
私は社長や経営者になりたいわけでないので、フリーランスという働き方を選んでいます。
個人の仕事の能力や安定性を、取引先や与信額などで見ることができたら、今後変わっていくのではないかと期待しています。
Kさん:部屋を借りる側からしたら、審査がどう進んでいるのか、審査に通らなかった場合も理由が明らかにされないので、見えないことへの不安を感じて私は引越しに踏み切れなかった部分もありました。
不動産契約のプロである不動産会社の人に「落ちるかも」と言われたら、さらに構えてしまいます。
見えないことへの不安要素をあまり伝えてほしくないですね。それと、「フリーランス」と伝えたことで、消極的な物件探しならないでほしいです。
※CIC……主に割賦販売や消費者ローン等のクレジット事業を営む企業を会員とする信用情報機関。保証会社の多くも会員として、各種支払いの延滞経歴を知ることができる。
フリーランスの賃貸探し 経験者からのアドバイス
――これから部屋探しを考えているフリーランスの方や、フリーランスを目指している方へ向けて、何かアドバイスがあればお願いします。
Sさん:フリーランスになってから借りるのは本当に大変ですが、諦めずに頑張ってほしいです。もし今会社員でこれからフリーランスになるのであれば、今のうちに借りておいた方がいいと思います。
Kさん:3回探している経験から感じたのは、不動産会社の担当者さんが大事だということです。
1回目に引越しを検討した際の知人や、2回目にフリーランスの仲介実績を伝えてくださった不動産会社の方、3回目にフリーランス向けの不動産会社仲介サイトで知り合った不動産会社の方に共通していたのが、熱量でした。
熱量高く接してくれる人だと、納得した部屋探しまでたどり着けるのではないかなと思います。
それに加えて、担当者がフリーランスに関する情報をどれだけ知っているかも、ポイントになると思います。よい担当者に出会えるといいですね。
「フリーランスを理由に部屋を借りられない」というケースには、審査が通らずに大変だった、希望物件とのミスマッチで苦労した、と全く別の理由があることを知ることができた。
Sさんの「会社員時代に部屋は借りておいた方がいい」というアドバイスには、課題の重さを感じずにはいられない。
状況は違えどもお二方が大切にしていたのは、フリーランスの方に理解のある不動産会社との信頼感だった。部屋探しの際には、安心して頼める不動産会社との出会いにフォーカスする必要があるのかもしれない。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2023年7月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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