「都市緑地法の一部を改正する法律」が施行された
「GX」という言葉をご存じだろうか。GXとは、Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)の略で、温室効果ガス排出量の削減と同時に経済成長も実現する取り組みのことだ。従来、温室効果ガスの排出量は、経済活動と比例するとされてきた。これに対してGXは、排出量の削減と経済成長を両立させるとして注目されている。2022年6月に岸田内閣が閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」では、重点投資先の一つとしてGXが挙げられた。
そのGX施策の一つとして2024年11月、「都市緑地法の一部を改正する法律」が施行された。この法律によって、私たちはより緑豊かで幸福度の高い生活を送れる可能性が高まるという。一体どのような法律なのか解説しよう。
日本の都市の緑地充実度は世界の主要都市と比較して低い
昨今、地球温暖化対策や生物多様性の維持、幸福度の向上などの課題解決に向けて緑地への期待が高まっている。ところが日本の都市の緑地充実度は、世界の主要都市と比較して低い。緑地充実度とは、対象都市の中心点から10km圏内における緑被率などを指数化したもので、国土交通省の資料を確認するとシドニーが87.0%、ニューヨークが51.7%に対して、東京は36.0%、大阪は21.2%と大きな差がある。
こういったことから日本の都市は、質・量の両面において緑地の確保に取り組む必要があるといえるだろう。しかしながら、実際に取り組むべき地方公共団体の多くは、財政的制約や緑地の整備・管理に関するノウハウ不足などが課題となっている。また、ノウハウがある民間事業者にとっては、緑地確保は収益を生み出しにくいという認識が根強い。
「都市緑地法の一部を改正する法律」の3つの柱
そこで、都市の緑地の質・量を確保する地方公共団体や民間事業者を後押しするために「都市緑地法の一部を改正する法律」が施行されたというわけだ。この法律には、大きく次のような3つの柱がある。
1. 国主導による戦略的な都市緑地の確保
国土交通大臣が都市における緑地の保全などの基本方針を策定し、それに基づいて市区町村が緑地の確保を行っていく。具体的なイメージとしては、国の「緑の基本方針」⇒都道府県の「緑の広域計画」⇒市区町村の「緑の基本計画」といった流れで連携していくようだ。
2. 貴重な都市緑地の積極的な保全・更新
緑地を長期間にわたって維持していくには、10~20年ごとの大木の伐採を含む皆伐や択伐が必要になる。これを行うには専門の技術者がいなければならない。また低木の整理や下草刈りなどは毎年行う必要がある。このような作業を「機能維持増進事業」として位置づけ、地方公共団体を財政・技術の両面から支援する。例えば都市計画税を充当して事業を行っていく。また、地方公共団体の緑地保全を支援する公益団体を、国が都市緑地化支援機構として指定し、事業資金を貸付けにより支援する。
3. 緑と調和した都市環境整備への民間投資の呼び込み
民間事業者による良質な緑地確保の取組みや都市の脱炭素化に役立つ事業を国土交通大臣が認定する制度を創設。これらの事業資金を貸付けにより支援する。
TSUNAG認定とは
上記の認定制度は、すでに実施されている。それが優良緑地確保計画認定制度、通称「TSUNAG認定」だ。これは都市緑地法に基づき、国土交通大臣が民間事業者の良質な緑地確保の取組みを評価・認定する制度だ。民間事業者は、TSUNAG認定を受けることで次のようなメリットがあるとされている。
緑の価値の見える化
緑の価値が公的に認められるので、投資家・金融機関・テナント等にも評価され、民間投資の呼び込みにもつながる。
社会的支持の獲得
国の認定によって、地域住民・利用者・従業員などから社会的支持や理解を得ることができる。
国による財政支援の活用
無利子貸付(都市開発資金)や補助金(グリーンインフラ活用型都市構築支援事業)を活用することが可能。
TSUNAG認定の審査は、緑地計画の詳細が分かる設計図などの書類で行われる。これらによって緑地の温室効果ガス吸収量、生物の良好な生息、人々の交流などを評価する。
認定基準は、緑地面積や緑地割合等の要件を満たした上で、「先進的取組」「気候変動対策」「生物多様性の確保」「well-beingの向上」「地域の価値向上」といった評価項目の合計点数が50点以上とされている。その中でも3段階にランク分けされ、50~74点がA(シングルスター)、75~99点がAA(ダブルスター)、100点以上がAAA(トリプルスター)となる。
TSUNAG認定の事例を紹介
2025年3月、TSUNAG認定の第一号認定として14件の優良緑地確保計画が認定された。その一部を紹介しよう。
大手町タワー(大手町の森)(東京都)
申請者:東京建物株式会社
緑地面積:3,582m2 緑地の量:AAA 緑地の質:AAA
大手町タワーは、オフィスの他に高級ホテルや店舗が入居する複合高層ビルだ。大手町の森は、その敷地の3分の1(約3,600m2)を占めている。「地上の歩行者空間ネットワークの再整備」と「環境に配慮したまちづくり」を前提とした「都市を再生しながら自然を再生する」という開発コンセプトのもと、大手町に本来あるべき本物の森の創造を目指した。その実現のため、千葉県君津市に土の起伏や人工地盤、土壌の成分、樹木の密度や種類などを、計画地と同じようにつくり3年間育成。これら植物や土壌を大手町の森に持ち込むというプレフォレスト工法を採用している。
グラングリーン大阪(大阪府)
申請者:グラングリーン大阪開発事業者JV8社
緑地面積:2万9,218m2 緑地の量:AAA 緑地の質:AAA
グラングリーン大阪は、梅田地区にある都市公園併設の複合商業施設だ。大阪最後の一等地といわれる立地で、一部のまちびらきは2024年9月6日に行われ、全体のまちびらきは2027年春の予定である。TSUNAG認定については、「うめきた公園」「北館・南館」を対象としている。このエリアの緑地の量(緑地割合37%)や、緑地の質(街区全体で約320種・約1,600本の植栽整備や鳥類・昆虫類の目標誘致種56種)などが評価された。
地球環境のためだけでなく、ストレスフルな生活を送っている都会人のためにもTSUNAG認定を
上記の認定事例で紹介している特徴は、ほんの一部だ。それだけでも「大都会のど真ん中に広がる大自然」というイメージを持てたのではないだろうか。普段、大都会で働いている人でも、身近に豊かな自然があればほっと一息つけるはず。地球環境のためだけでなく、ストレスフルな生活を送っている都会人のためにもTSUNAG認定となる緑地が、今後さらに増えていくことを期待したい。
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