福岡でLGBTQに取り組む三好不動産
1970年代にレインボーフラッグがLGBTQの社会運動シンボルとして使われるようになってから半世紀近くがたった。日本でもプライドパレードが開催されたり、「LGBTQ」という単語を聞く機会が増えたりと、セクシャルマイノリティに対する認知が広がりを見せている。
LGBTQの方々に向けた事業を展開する民間企業も増え始めてきた。なかでも不動産業界では、福岡県に拠点を置く三好不動産が、先駆的企業として取組みを続けている。
今回は同社でLGBTQ事業に旗揚げから取り組んでいるテナント事業部の原麻衣さんに、話を伺った。
きっかけは三好社長とLGBTQの啓発活動を行うNPO団体代表の方との出会い
――三好不動産がLGBTQの活動をはじめるきっかけが、三好社長と九州レインボープライド代表の三浦暢久(あなたののぶゑ)さんとの出会いと伺いました。その経緯を詳しく教えてください。
当社社長と三浦さんが共通の知人を通して知り合ったと聞いています。その時に、LGBTQの方が部屋探しに困っているという現状を教えてもらったそうです。
当社では賃貸部門(約100名)の研修を年に1回行っているのですが、その研修に三浦さんをお招きして、2016年5月にLGBTQとは何か、LGBTQの方が部屋探しで苦労する現状をお話しいただいたのが活動の始まりです。
三好不動産はすべてのニーズに応えたいという社風があり、私もそこに誇りをもっていました。
三浦さんのお話を聞いたことで自分はLGBTQ当事者だと認識しました。また、賃貸部門でキャリアを重ねていたことから自分が事業の旗振り役として適任だと感じ、手を挙げました。それから今に至っています。
――それ以前の社内では、LGBTQの方に対して意識することはあまりなかったということでしょうか。
そうですね。私も、ドラマで見たエピソードで「性同一性障害」を知った程度です。「LGBTQ」という言葉は講演で初めて聞きました。
お話を伺ってはじめて自分も当事者であることを認識できたほどなので、周りも同じだったと思います。
――原さんが手を挙げたことで、まっさらな状態からどのようにステップアップしていったのでしょうか。
最初は私と広報の川口、当時担当のエリア長と3人で、講演の翌日から活動を始めることにしました。
まずLGBTQのシンボルであるレインボーマークを店頭に掲げることから始めました。それ以降は当事者のお客様に適切な対応をするために、自分自身で知識を身につけながら、同時進行で社内勉強会をスタートしました。
LGBTQに関する認識を浸透させていくことを目標に、賃貸店舗全店を回って私が学んだ知識を直接伝えていきました。
――活動を始めた当初、社員の方々の反応はいかがでしたか?
「やったらいいと思う!」というプラスの反応でした。
これまで三好不動産では、災害時の住宅提供や、高齢者や外国籍の方、DV被害で困っていらっしゃる方の部屋探しなど、さまざまなニーズに対応してきた実績がありました。また、総合不動産会社としてお客様のライフプランをトータルにサポートする地盤がありました。
そうした課題に取り組んできたからこそ、LGBTQの方の部屋探しへの課題も、当たり前のこととして始めることができたと思います。
取組みを始めて6年が経ちますが、毎年協賛させていただいている九州レインボープライドのパレードへ、社員100人以上参加するほどになりました。
また、社内で「カウンターの上にもレインボーの小旗を置いてはどうか」「扉の色をレインボーにしてはどうか」といったアイデアが出るなど、一緒に想いを共有し、理解を広めることができていると思っています。
LGBTQの取組みは情報を発信し続けること
――店舗をすべて回った社内勉強会のほか、対外的に行っている活動はどんなものがありますか。
1つはSNSの立ち上げです。LGBTQ当事者の方はSNSから情報を得ることが多いので、Twitter、Facebookを始めました。その後にホームページも立ち上げて広く発信しています。
また、「LGBTQを考える」をテーマに企業向けの無料セミナーを開催しました。このセミナーがきっかけで、参加した企業の方が理解を示したという実績もありました。このように理解の輪が広がっていくことを願っています。
私は、LGBTQの方のお部屋探しに取り組んでいくうちにLGBTQの方が断られる理由は何かと疑問を感じました。
本来、LGBTQのお客様を区別する必要はないはずです。きちんとお仕事をされていれば家賃も問題なく払えるはずですし、入居後のトラブルも考えにくいので、オーナー様が入居を断る理由はないはずなんですよね。理解の問題だと思っています。
こうした理解不足や知識不足が原因で入居を断られることがないように、LGBTQの方が入居される際は、オーナー様や管理会社にしっかりと説明をして情報を共有すること、情報を発信し続けることが大事だと思います。
――三好不動産ではLGBTQ当事者の方へどんな対応をしているのでしょうか?
当社では、LGBTQ当事者のお客様にまず、どういう契約をしたいかご希望を伺っています。
「親にカミングアウトしていないので、保証人を頼めない」「社宅の契約なので、一人入居として契約したい」「両親にはカミングアウトしていないけど、兄弟姉妹にはカミングアウトしているので、保証人は兄弟姉妹にしたい」など、さまざまなご要望があります。
「保証人は用意できないが、パートナーと2人で暮らしたい」というお客様には、当社の管理物件をご紹介して対応しています。
自社管理物件であれば保証会社も理解がありますし、基準を満たせば保証人不要で契約していただけます。
他社管理の物件ですと、双方に保証人が必要になるケースがあります。さらに、管理会社や保証会社から2人の関係を根掘り葉掘り尋ねられることや、不動産会社の知識不足が原因で申込みを断られるケースもあります。
ある時は、管理会社の方にお話しすると「LGBTQってなんですか?」と聞かれたこともありました。
そうした壁を感じる出来事が多々あるため、二人入居であることを偽って一人入居として契約するケースがあると聞きます。
管理会社としてどの部屋に誰が住んでいるのか把握しておきたいのと、緊急時に火災保険が利かないといったリスクもありますので、お客様には「正しい契約を」と促しています。
取組み開始当初と6年後の今で変化したこと
――めまぐるしくも地道な活動を続けてきて、変化を実感したことはありますか?
取組みを始め今年で6年が経ちますが、社内外に理解の輪が広がってきていると実感しています。
例えば、それまで同性の2人入居の場合は親族に限るという条件だった管理会社がLGBTQの方への理解を深めて、親族でなくても同性の2人入居を認めるようになりました。保証人は契約者と同居人それぞれに必要だったのが、保証人は契約者のみで契約が可能になった、といった変化が起きています。
また、LGBTQに限らず、社内でさまざまな物事に対する固定概念がなくなってきているようにも感じます。
先日も、当社のテレビCMの打ち合わせの席で、三好不動産のゾウのキャラクターのお母さんゾウを出すのに、赤いゾウにしようという案が出ました。
その際、社内から「『お母さん=赤』と決めつけていいのだろうか」との声が上がったのです。
それなら「お母さんゾウ」を表すには、エプロンを着ければという意見に、「『お母さん=家事をする人』という考えはどうなんだろう」というやりとりが続きました。
それを聞いて、当たり前とされていたことに、本当にそれでいいのか?と見直す視点をみんなが持ち共有できていること、知識や理解がかなり浸透していることを実感しました。
――LGBTQへの取組みをきっかけに、物事を多様な視点でとらえようとする人が増えているんですね。
そうですね。
また、当社はGoogleで口コミをいただくのですが、星が4.8以上付いている店舗がほとんどです。
そのコメントの中に「悩みをくみ取ってくれた」など、お客様の立場で接客できている内容が増えていて、顧客満足度の向上にもつながっていると感じます。
――Googleの口コミ以外にも、お客様からの声を直接聞く機会がありますか?
鍵をお渡しする際にお客様にアンケートをお願いしていて、それが直接社長に届くようになっているんです。
そのアンケートは社長から私たちへフィードバックされます。そこにもよいコメントをたくさんいただいています。
そうしたやり取りを通じて、「〇〇さん頑張ってるな」と社員同士で切磋琢磨していますし、お客様へのホスピタリティが高くなっていると思います。
LGBTQを特別視しない当たり前の世の中へ
――不動産会社としてこれから取り組みたいことや、今後のビジョンを教えてください。
よく聞かれることなんですが、「これって当たり前のことだよね」「特別なことじゃないよね」とプロジェクトメンバーともよく話しています。
現状はいろいろな企業でLGBTQへの理解が進んでいないから私たちが特別に見えているだけです。こうした取組みが当たり前で、特別視をしない世の中になればいいなと思っています。
今回のような取材も、何年か後にはなくなるといいですね。
私どもは総合不動産会社なので、お客様のライフプランに沿った柔軟な対応を心がけています。何かお困りごとがあれば、相談していただければと思います。
生活における衣食住の「住」はとても重要です。管理会社の方にも、「当事者の方が困っているので、一緒に解決していきましょう」と伝えています。
福岡は、当社が取り組むことでかなり変わってきている実感があります。
県外のオーナー様や不動産会社に波及しているのも感じていますので、この流れが全国にも広がっていくことを願っています。
「LGBTQの問題は、業界の理解が進めば解決できることがほとんど」と原さんは話す。入居を断った管理会社でも出向いて理由を尋ねれば、理解を示し入居可に転じることも少なくないそうだ。明確な理由が出ないということは、さほど重要な問題ではないのだと感じられる。
三好不動産の当たり前の考え方が、皆の当たり前になる―。私たちはその変革期にいるのかもしれない。どんな人にも快適な社会とは、どのようなものであるかを考えていきたい。
お話を聞いた方
原 麻衣(はら・まい)
2013年株式会社三好不動産入社。賃貸事業部としてスマイルプラザ吉塚店で営業職に就いたのち、博多駅前店で店長代理として務めていた2016年に受けたセミナーからLGBTQのお部屋探しの取組みをスタートさせる。現在はテナント事業部でテナント営業を行う傍ら、LGBTQの旗振り役として社内外の啓蒙活動に奔走している。
▼三好不動産
▼三好不動産「LGBTフレンドリーサイト」
▼三好不動産フレンズLGBT(Facebookページ)
▼三好不動産フレンズ(LGBT)(X)
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2022年4月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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