生活困窮者自立支援制度とは? 制度ができた背景
働きたくても働けない、住む所がない、コロナ禍で生活が苦しくなった、ひきこもりで人と接することがない。そういった社会問題がトリガーとなって日々の生活が困難になったり、不安定になったりという人々がいる。
最低限の生活が営めなくなるおそれのある人を支援するのが「生活困窮者自立支援制度」だ。この制度は困窮した状況を改善させることで、相談者が自立した生活を送れるようになることを目的としている。
2008(平成20)年に起こったリーマンショックの影響で、日本国内の経済は大きく揺らいだ。終身安定雇用の仕組みが崩れはじめ、経済的な困窮状態に陥る人々が増加した。渦中に巻き込まれて住む場所を失った人や、失う恐れに直面した人たちを救うため、厚生労働省は「住宅手当緊急特別措置事業」を2009(平成21)年10月にスタートさせた。
その後、制度はその後2013(平成25)年4月に「住宅支援給付金制度」へ改定される。そして、2017(平成29)年4月から施行された生活困窮者自立支援法を基に、旧給付金制度と支援事業を一体化させた、現行の生活困窮者自立支援制度が生まれた。
この制度は、既存の制度ではそれまで十分に対応できなかった生活保護利用者になる前の段階の生活困窮者に対して、包括的な自立相談支援等を実施することで、「自立の促進」を図ることを目的としている。つまり、自立できる余力がある時点で支援を行い、自分の力で生活をささえていくことができるように手を打とうという制度なのである。
現在は国内の全自治体に相談窓口があり、その運営は自治体の直営あるいは民間団体への委託により行われる。運営比率は概ね直営:委託=4: 6で、委託先の約8割は社会福祉協議会が担っている。
2つの必須事業「自立相談支援事業」と「住居確保給付金」
生活困窮者自立支援制度の必須事業とは、福祉事務所を設置する自治体が実施主体となり、必ず行わなければならないと位置付けられている事業のことだ。これには、自立相談支援事業と住居確保給付金の2つの事業が定められている。
■自立相談支援事業
生活に困りごとや不安を抱えている人に対して一人ひとりの状況に合わせた支援プランを作成し、専門の支援員が相談者に寄り添いながら他の専門機関と連携して、解決に向けた支援を行う。生活困窮に陥る人は総じて複雑な事情を抱えているケースが多いといわれる。支援を受けるまでにいくつもの窓口にたらい回しにされたり、申請の煩雑さであきらめてしまったりすることがないよう、ワンストップで包括的な支援が求められている。
■住居確保給付金の支給
生活費のなかで最も多額に及ぶ住居費の支出を支援することで、安心して就職活動に注力できるようになる。仕事と住まいの両方を確保して、困窮状態に陥ることを防ぐ目的のため制定された。対象となるのは、離職・廃業から2年以内、または休業等により収入が減少して離職・廃業と同程度の状況にあり、世帯収入が基準額より低い賃貸住宅住まいの人。該当者については、原則3ヶ月(延長申請によって最大9ヶ月)、家賃相当額(上限あり)を自治体から直接家主に支給される。
2021(令和3)年7月時点で、長引くコロナ禍に対応するため、特例措置として支給期間が延長された。2020(令和2)年度に新規申請して受給を開始した場合に限り最大12ヶ月の給付を受けられるようになっている。ただし、この給付金は自立に向けた支援の一環であるため、プランニングされた活動を自ら実施しないと給付を止められることがある。
4つの任意事業
自立相談支援によって立てられた自立支援計画に基づいて、困窮者が必要とする支援を斡旋される。任意事業と呼ばれる支援事業内容は、大きく4つの分野に分かれている。
■就労準備支援事業
「社会との関わりに不安がある」「他の人とコミュニケーションがうまくとれない」など、直ちに就労が困難な人を対象にした事業のこと。6ヶ月から1年の間、プログラムに沿って、一般就労に向けた基礎能力を養いながら、就労に向けた支援や就労機会の提供が行われる。
■一時生活支援事業
住居をもたない人、またはネットカフェ等の不安定な住居形態にある人に、一定期間、宿泊場所や衣食を提供する。退所後の生活に向けて、就労支援などの自立支援も行われる。安定した住まいをもつことで、生活の基盤を整えるための支援。
■家計改善支援事業
家計状況の「見える化」と根本的な課題を把握し、相談者が自ら家計を管理できるようにする。状況に応じた支援計画の作成、相談支援、関係機関への連携や、必要に応じて貸付の斡旋等が実施される。早期の生活再生に向けた支援。
■子どもの学習・生活支援事業
家庭が貧困に陥ると、子どもたちを取り巻く環境が悪化しやすいといわれている。子どもの学習支援をはじめ、日常的な生活習慣、仲間と出会い活動ができる居場所づくり、進学に関する支援、高校進学者の中退防止に関する支援等、子どもと保護者の双方に必要な支援が行われる。
困ったことに直面したら
生活を送ることが困難になったら、まずは全国各地にある自立相談支援機関の相談窓口へコンタクトを取ろう。日本の全自治体に必ず相談窓口が設置されている。窓口へ直接足を運べなくても電話や、場所によってはメールでも相談を受け付けている。
またこの相談窓口は、賃借人の収入減による家賃滞納で困っている不動産会社や大家も利用できる。住居確保給付金などの制度の活用によって家賃滞納を回避できる場合がある。
支援団体や不動産会社の困りごとには、困窮者支援情報共有サイトを上手に使いたい。生活困窮者自立支援制度は、時流に合わせてフレキシブルかつスピーディーに変容している。このサイトでは、最新の情報を掲載するほか、全国研究交流大会やセミナーを開催している。これにより独自分野だけでない横のつながりが全国規模で生まれ、要支援者だけでなく支援する側も包括的なつながりを得られることが期待できる。企業や団体の参画によって、より良い地域づくりの一助になるのではないだろうか。
生活困窮者自立支援制度は尊厳のある自立を助けるもの
住民基本台帳を基に各種制度が成り立っている日本で住居を失うことは、多くの行政サービスを受けられなくなることにもつながりかねない。さらに、生活困窮者の支援には「自己責任」という問題に論点を向けられることがある。そのような風潮に、当事者たちは自己肯定感や自尊感情を失っていることも多いそうだ。
この制度では、本人の自己選択や自己決定を重視しつつ、必要な支援を受けながら、経済的自立だけではないそれぞれの人に合った自立を目指している。その人らしい生き方や、尊厳のある自立を助けるために生活困窮者自立支援制度があること。そして制度の理念が、広く認知されるようになってほしいと願っている。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2021年8月掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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