賃貸住宅の入居を断られるケースが多い高齢者や障がい者
日本が超高齢社会になって久しい。超高齢社会とは、65歳以上の人口が全人口の21%を超える社会のことだ。わが国は2007年に超高齢社会へ突入した。今後も高齢化率は上昇する見込みで、2065年には38.4%に達して国民の約2.6人に1人が65歳以上になると推計されている(内閣府「令和2年版高齢社会白書」)。
高齢者の割合が増加するに従い、不安視されているのが住宅の確保だ。国土交通省の「住宅セーフティ制度の現状について」によると、2023年現在で単身世帯は総世帯数の3分の1(約1,800万世帯)を占めている。そのなかで単身高齢者世帯の割合増加が危惧されており、2015年時点では約625万世帯だったが、2030年には約800万世帯になる見通しだ。
住宅の確保が困難になっているのは高齢者だけではない。障がい者、低額所得者、子育て世帯なども賃貸住宅の入居を断られるケースが多い。そこで国は、これらの人たちが入居しやすい賃貸住宅の供給促進を図ることを目的とする住宅セーフティネット制度を2017年10月にスタートさせ、その改正案が2024年5月に衆院本会議で可決・成立した。それらの内容を解説しよう。
住宅セーフティネット制度とは
まず、そもそも住宅セーフティネット制度が必要な理由を補足する。前出の国交省資料によると、高齢者や障がい者など国が定める住宅確保要配慮者の入居に対し、賃貸人(以下、大家)の多くは、拒否感を覚えている。たとえば、高齢者と障がい者に対しては約7割、外国人に対しては約6割の大家が拒否感を示しているのだ。そのおもな理由は、「他の入居者・近隣住民との協調性に対する不安」(28.7%)、「家賃の未払いに対する不安」(18.2%)、「居室内での死亡事故等に対する不安」(13.1%)などがある。
このような状況に対処するためにスタートしたのが住宅セーフティネット制度だ。柱となる施策は以下の3つ。
1. 住宅確保要配慮者に入居を拒まない賃貸住宅の登録制度
大家が物件情報を都道府県等に登録し、都道府県等が要配慮者に情報を提供する制度。
2. 登録住宅の改修・入居への経済的支援
登録すると大家は改修費補助・融資、家賃保証会社は家賃債務保証料、孤独死・残置物保険料の補助などのメリットがある。
3. 住宅確保要配慮者のマッチング・入居支援
不動産関係団体、居住支援団体(NPO等)、地方公共団体による居住支援協議会等が、要配慮者と物件のマッチングや入居支援(入居相談等)を行う。
居住サポート住宅の認定制度を創設
しかしながら、今のところ住宅セーフティネット制度が大いに役立っているとは言い難い状況だ。たとえば、住宅確保要配慮者の多くは単身世帯だが、登録住宅のうち床面積が30m2未満の住宅はわずか7%だ。また、要配慮者の約8割が入居する家賃5万円未満の物件は、全国では19%、東京都では1%しかない。このままでは、今後増加が見込まれる要配慮者の需要に対応できないおそれがある。
このような背景から、住宅セーフティネット制度の改正案が2024年5月に衆院本会議で可決・成立した。おもな改正内容は以下の3つだ。
1. 大家が賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者が円滑に入居できる市場環境の整備
・賃借人の死亡時まで更新がなく、死亡時に終了する終身建物賃貸借の許可手続きを簡素化
・入居者死亡時の残置物処理を円滑に行うため、居住支援法人の業務に入居者からの委託に基づく残置物処理を追加
・要配慮者が利用しやすい家賃債務保証業者を国土交通大臣が認定
2. 居住支援法人等が入居中サポートを行う賃貸住宅の供給促進
・居住サポート住宅の認定制度の創設
・生活保護受給者が入居する場合、家賃は代理納付(居住支援法人等が直接支払う)を原則化
・入居する要配慮者の家賃債務保証は、認定保証業者が原則引受け
居住サポート住宅とは、居住支援法人等が要配慮者のニーズに応じて安否確認、見守りをして、適切な福祉サービスへのつなぎを行う住宅のこと。市区町村長等が認定する。
3. 住宅施策と福祉施策が連携した地域の居住支援体制の強化
・国土交通大臣と厚生労働大臣が共同で基本方針を策定
・市区町村による居住支援協議会設置を努力義務化し、住まいに関する相談窓口から入居前・入居中・退去時の支援まで住宅と福祉の関係者が連携した地域主体の総合的・包括的居住支援体制の整備を推進
必要とする人すべてがセーフティネット登録住宅に住める世の中に
国はこの改正案の施行を2025年秋ごろとしており、それによって以下の目標達成を目指している。
・居住サポート住宅の供給戸数を施行後10年間で10万戸
・居住支援協議会を設立した市区町村の人口カバー率を施行後10年間で9割
人間誰もが歳を取る。また、将来障がい者になる可能性は誰にだってある。そのとき住む場所がない立場ならどう思うだろうか。1日も早く必要とする人すべてがセーフティネット登録住宅に住める世の中になってほしい。
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