1万人規模のアリーナの新設を模索していた京都府
アフターコロナにより、世界各国からの観光客が戻ってきた京都。街では多くの外国人観光客で賑わっている光景をよく目にするが、京都には国際的に後れを取っている分野がある。
それは、大規模なスポーツ大会や国際的なイベント誘致が難しい点だ。
その大きな要因として、京都府内に5,000席を超える体育館が京都市北区にある「島津アリーナ京都」しかなく、1万人以上を収容できるアリーナがないことが挙げられる。その島津アリーナ京都も、直近の国際大会の種目では、開催の基準に満たないことが多いため、近年は京都でのスポーツ大会の開催日数が減少している。
そもそも「アリーナ」とはどのような施設を指すのだろうか。goo辞書によると、アリーナの解説は以下のとおりである。
1、室内競技場。また、円形劇場。アレナ。
2、野球場・体育館などを使う興行で、本来の観客席とは別に、グラウンド内に特設された席。
引用:goo辞書「アリーナ(arena) とは?」
この記事で取り上げるアリーナは「1、室内競技場や円形劇場」が当てはまり、主に室内スポーツやコンサート、展示会や講演会などが行われる施設があてはまる。
日本の主なアリーナは以下が挙げられる。
●国立代々木競技場第一体育館(東京都)
・最大収容人数:約13,000
●さいたまスーパーアリーナ(埼玉県)
・最大収容人数
スタジアムモード:約37,000
メインアリーナモード:約22,500
●大阪城ホール(大阪府)
・最大収容人数:約16,000
●マリンメッセ福岡A館(福岡県)
・最大収容人数:約15,000
●島津アリーナ京都(京都府)
・最大収容人数:約8,000
これらの施設と比較しても、京都では大規模な室内スポーツやコンサート、国際的なイベント誘致の競争力が低下しているのがわかる。このような現状から、京都府内では1万人規模の施設建設の必要性が高まっているのである。
アリーナ建設は「京都府立大学体育館の建て替え」と「向日町競輪場敷地内での建設」で議論
京都府ではこの現状を打開するため、2020年に京都市左京区にある京都府立大学の体育館を1万席規模のアリーナに建て替える計画を策定し、新たなアリーナの候補地とした。
京都府立大学の体育館は、老朽化により耐震基準が満たされておらず、現在は授業で使われることがなくなっている。また、京都市街地から近く交通アクセスが便利な場所な点や、隣接する京都府立植物園により自然環境が豊かな場所だということで白羽の矢が立ったのだ。
この計画では、メインアリーナにバスケットコートが3面(観客席10,000席程度)、サブアリーナにバスケットコート2面や武道場を整備する方針を打ち出した。また、体育館に隣接する京都府立植物園に「にぎわい施設」やステージの設置を計画した。しかし、アリーナが建設され多くの人が大学周辺に集中すると、学生の学習環境や生活環境に影響が出るおそれがあることから、地元住民や学生から反対する声が上がったのだ。
こうした中で京都府は、2023年に老朽化した向日町競輪場を再整備する方針を打ち出し、その中で競輪場の敷地内にアリーナを建設する方針を検討しだしたのである。京都府向日市にある向日町競輪場は、1950年に開設された京都府内唯一の競輪場だ。一時期は収益悪化による存廃問題が議論されてきたが、新型コロナ禍による巣ごもり需要で、売り上げが好調に転じたことにより存続が決定されていた。
京都府立大学体育館の建て替えか向日町競輪場の敷地か。2つの候補地の中で京都の大規模なアリーナ建設が議論されてきたが、2024年3月に、京都府は向日町競輪場の敷地内にアリーナを建設する方針を明らかにしたのである。
京都アリーナ(仮称)の概要とは
2024年4月、京都府は「京都アリーナ(仮称)」の詳細を発表した。アリーナの最大収容人数は8,000人以上になる予定で、スポーツの国際大会会場としての機能を備えることや、インターハイなどの大会が開催可能な施設にするなどとしている。
京都府が公表している「京都アリーナ(仮称) 整備・運営等事業 募集要項」では、アリーナが有する機能の考え方を以下のとおりとしている。
”向日町競輪場を競輪開催の場としての機能だけではなく、レジャーや憩いの場、スポーツ活動の促進や地域防災の拠点等の機能を併せ持った複合的な施設へと転換し、地域の交流・ 賑わいの拠点として、府民に広く親しまれるような存在へと変革することを目的とし、同用地を活用して新たな屋内スポーツ施設を整備することとした。”
①アジア大会や世界大会のアジア予選などの国際大会やプロリーグなどの観戦機会を提供できる施設
②インターハイや国民スポーツ大会の府予選決勝など、府民が目指す大会を開催できる施設
③イベントのない日も、日常的に府民が憩い、スポーツに親しめる施設
④文化芸術(音楽コンサート)などに関連するイベント、ビジネスマッチング(コンベンション)など、多用途利用に対応した施設
⑤競輪事業との相乗効果を図れる施設
引用:京都府「京都アリーナ(仮称) 整備・運営等事業 募集要項」
アリーナの開業は2028年度を目指しており、公募では概算の整備費として約343億円が示されている。今後、事業者からアイデアを募り、設計・施工から維持管理・運営までを一括して契約し、負担の軽減につなげたいという。すでに再整備が決定している向日町競輪場との相乗効果が期待されており、自転車競技を含めたスポーツ振興の拠点化を図りたい考えだ。
ここで、向日町競輪場の再整備計画も確認しておこう。再整備後の向日町競輪場の新たなコンセプトとして、「自転車(サイクル)を通じて、交流・賑わいが循環(サイクル)する競輪場」を掲げている。そして次の3つの競輪場を目指すとしている。
①安全・快適で、コンパクトな競輪場
~来場者・利用者が安全・快適に利用でき、効率的な運営が行える競輪場~
②自転車競技関係者や自転車愛好家が集う競輪場
~自転車を通じた、スポーツ振興・人材育成・交流の拠点となる競輪場~
③地域と共生する競輪場
~競輪非開催時にも多くの府民が訪れ、交流・賑わいの拠点となる競輪場~
引用:京都府「向日町競輪場 基本構想」
また、これらのコンセプトを踏まえ、競輪場全体を「エントランスゾーン」「管理・運営ゾーン」「観戦・投票ゾーン」「交流・賑わいゾーン」の4つのゾーンに分けて再整備が実施される。向日町競輪場の最大収容人数は約5,000人、2029年度のリニューアルオープンを目指している。
京都アリーナ(仮称)整備への課題と展望
向日町競輪場の敷地内でのアリーナ建設が決まったが、整備までの課題も多い。向日市の市民団体からは、地元住民への説明が不十分として京都府に要望書が提出された。要望書には、向日市民に京都アリーナ(仮称)の具体的な情報を提供し京都府の構想を説明することや、周辺の住環境と交通環境が損なわれるおそれがある中、それらを解決せずに整備をしないことが求められている。
実際、向日町競輪場の入口に面している東側の府道67号線は、長岡京市や向日市、京都市を結ぶ交通量が多い道路として知られている。現状でも渋滞が起きやすい府道67号線沿いにアリーナが建設されることで、混雑が深刻化するおそれがある。そうなれば、地元住民の生活に大きな影響を与えることになるため、交通環境の改善は重要な課題となるだろう。
その一方、向日市では阪急洛西口駅周辺で「向日ノースゲートウェイ」計画というまちづくり計画が進行しており、それによる相乗効果でさらなる発展が期待されている。この計画では、阪急洛西口駅の西側に観光の拠点となる宿泊施設や医療・健康増進施設などが誘致される予定となっており、市民や観光客のための大きな交流の場を目指している。向日ノースゲートウェイ計画は、2026年の開業を目指しており現在工事が進められている。
このように、京都アリーナ(仮称)はさまざまな課題がある半面、向日町競輪場の再整備や向日ノースゲートウェイ計画など、追い風になる要素もある。世界的な観光地として発展を続けてきた京都だが、次は京都アリーナ(仮称)によりスポーツ振興の拠点としての競争力を高められるかどうかに注目が集まっている。
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