水戸市の観光名称でのPPPが行われるに至った背景
水戸市の観光名所といえば、日本三名園の一つであり国の史跡および名勝の指定を受けている「偕楽園」がある。
2月中旬から3月にかけての早春の時期に開園面積58ヘクタール(東京ディズニーランドの面積に相当)の広大な土地に約3,000本の梅の木に色鮮やかな花が咲く。毎年、国内外から多くの観光客が訪れており、新型コロナウイルス感染症が拡大する前には梅まつりの開催時のみで約50万人が来園していた。
しかしながら現在は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて観光客は減少しコロナ禍前の水準に戻っていない状況にある。また、観光客は早春の時季に集中しており、2・3月以外の時季でも桜やツツジ、萩などで見どころはあるものの、観光地としての集客機能に課題を抱えている。
こうした状況を受けて、公園管理者である茨城県では、2019年に偕楽園周辺の魅力を向上するためのアイデアを星野リゾートに委託し、委託を受けて同社がとりまとめた提案書を受けて実現可能な具体案を検討し、2020年には「偕楽園魅力向上アクションプラン」を策定した。
同プランでは、偕楽園を「日本を代表する通年型観光地」にすることなどを目標として、PPPを活用した公園の魅力づくりに乗り出した。
偕楽園は開園当初から開かれた公園だった
偕楽園のPPPの概要を解説する前に簡単に偕楽園の歴史について触れてみたい。偕楽園は、1842年に江戸幕府最後の将軍である徳川慶喜の実父である第9代水戸藩主の徳川斉昭の指示により整備された。
「偕楽」とは、中国の儒学を代表する「孟子」の「梁恵王下」の中の一篇に登場する「古の人は民と偕に楽しむ、故に能く楽しむなり」からつけられた。その意味は、古代の賢明な指導者たちは自らの楽しみだけでなく、民(領民)と共に楽しみを分かち合い、その結果として、より豊かな楽しみを得ることができるというものである。
歴史好きならご存じの方もいると思うが、江戸時代末期に活躍した吉田松陰も水戸遊学の際に立ち寄った歴史ある場所となっている。ちなみに吉田松陰は、幕末の尊王攘夷論の間でバイブルとされた「新論」を著した会沢正志斎(徳川斉昭の教育係)をはじめ水戸の知識人に会うために水戸藩を訪れており、水戸とは深い関係にある。
また、今年7月から1万円札の新たな顔となる渋沢栄一も水戸に学んだ人物の一人で、晩年には偕楽園や弘道館を訪れ、弘道館での講演では、徳川慶喜に仕えていたことや水戸への想いを語っている。渋沢栄一と水戸との関係性については、2021年に放送されたNHKの大河ドラマ「青天を衝け」をご覧になることをおすすめしたい。
偕楽園でのPPPの取り組み
偕楽園でのPPPでは、偕楽園のうち、昭和から平成にかけて拡張した部分の月池区域で展開されており、茨城県内では初のPark-PFIの取り組みとなっている。
なお、Park-PFIとは、2017年の都市公園法改正により新たに設けられた制度のこと。飲食店や物販店などの公園利用者の利便性が上がる公園施設の設置と、その施設から得られる収益を活用して公園施設の整備・運営を行う者を公募により選定する制度のこと。市街地に整備される都市公園が対象で、民間企業の投資を誘導しつつ管理者である国・自治体の財政負担を軽減するなどの効果がある。
偕楽園でのPark-PFIの事業コンセプトは、「世界から訪れる人々のおもてなしと迎賓の場として唯一無二の空間を創出」「日本三名園に相応しい品格のあるパークレストランとテラスガーデンづくりで偕楽園の新しい魅力と交流・感動の場の創造」としており、迎賓機能や、偕楽園という日本三名園の一つに立地することへの品格などが重要視された。PPPにより代表法人は、佐賀県伊万里市に本社を構えるゲストハウスウエディング施設や飲食店を展開する「アイ・ケイ・ケイ株式会社」である。
迎賓機能を備えたパークレストランとして、「The迎賓館 偕楽園 別邸」を2021年4月に開業した。公募対象の公園施設である迎賓館および駐車場は事業者が設置・維持管理を行っている。また、事業者が整備した園路や月池デッキなどは茨城県に寄付され、施設の維持管理は設置した事業者が行うとともに、迎賓館等が設置された範囲の公園使用料を茨城県に支払うスキームとなっている。
2023年12月に水戸市内に開催された「G7茨城水戸内務・安全担当大臣会合」では食事会場としても利用されている。私も足を運んでみたが、市民の憩いの空間とマッチした施設といった印象を受けた。Park-PFIに多いカジュアルなカフェや飲食店とは違い、頻繁に利用できるような施設ではないが、当該地区の景観とマッチする風格ある施設が立地することで、公園の魅力が向上しているように感じられた。
千波湖でのPPPの取り組み
次に、偕楽園に隣接する千波公園でもPPPが行われている。
千波公園は、約78ヘクタールと偕楽園よりも広大だが、このうち黄門像広場地区周辺の1.7ヘクタールが官民連携により民間事業者が運営等を行う公募対象公園区域となっている。水戸市では、2022年11月にPark-PFIを担う事業者として、代表法人を大和リース株式会社(構成企業:株式会社アドストリア、株式会社横須賀満夫建築設計事務所)とする企業を選定し、2023年1月に基本協定を締結している。
最優秀提案として公表されている概要によると、事業の方針は、「場づくりを“まちづくり”につなぐwell-being Park 構想」として、3つにゾーニング(Food,Play,Nature)された各エリアに公園施設を配置することとしている。また、千波公園で過ごす豊かな事業を創造して、水戸市のさらなる活性化を目指すことも目標としている。
事業者が整備し維持管理を行う公募対象公園施設として、敷地面積5,498m2、予定延べ面積が2,044m2とし、マルシェや物販施設、カフェ、レストラン、ベーカリー、スポーツラウンジ、交流スペースなどが計画されている。また、整備後に水戸市に譲渡を行う特定公園施設は、敷地面積7,143m2、延べ面積304m2として、トイレ・防災倉庫、インフォメーション、休養施設、修景施設、芝生の広場、園路などが予定されている。
なお、2023年9月の市議会での市の答弁によると、当初は、2024年4月に工事着手予定としていたが、物価高騰や資金計画の修正、テナント出店者との調整に時間を要していることから、工事着手時期が6ヶ月程度遅れることを明らかにしている。このため、工事着手は2024年秋ごろとなり、開業自体も2025年秋以降となる見通しとしている。
偕楽園・千波湖のPPPの今後の動向
水戸市民の憩いの場所といえば、千波湖というくらいに平日・休日を問わず多くの方が利用している。
一時は、茨城県が委託した星野リゾートによる「偕楽園・歴史館エリア観光魅力向上構想」により大きくリニューアルされるのではという期待の声もあったが、現時点での茨城県の動向としては、偕楽園拡張部および千波湖でのPark-PFI以外に関する目立った動きはない。
今後については、茨城県が作成したアクションプランに基づき、偕楽園内の歴史的建造物の復元や、歴史館のリニューアルなどをはじめとしたさまざまな取り組みが行われることになるが、実施スケジュールなどは県から公表されていない。
なお、水戸市と公募により選ばれた「大和リース・アダストリアグループ」が進めている千波湖でのPark-PFIについては、2025年秋ごろには完成予定とされている。現在計画のPPPが完了すれば、偕楽園に隣接する千波湖の魅力が上がることで立ち寄りたい施設として観光客にも選ばれるようになり、水戸市への観光が、これまで以上に楽しめるようになるはずだ。
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