民間シェルターの役割とは
「シェルター」と聞いて、どんな場所を思い浮かべるだろうか。竜巻から身を守るための地下施設、戦争の爆撃を逃れるための防空壕、核爆発の放射能を防ぐ鉄壁の箱、飼い主のいない犬や猫の収容施設…。広義には「命を守るために避難する場所」という意のシェルター。社会福祉の観点では、緊急一時的に避難できる施設と定義されている。
日本では、命を落としかねない窮地にいる人たちを、NPOなどが運営する民間シェルターで保護しているのが現状だ。今回は、ACTION FOR ALLの活動でも支援を行う民間シェルターにスポットを当て、その役割や運営における課題をお伝えする。
シェルターとは「命をつなぐための一時避難場所」
まずは、シェルターそのものについて理解を深めておこう。
先に述べた通り、社会福祉的な観点におけるシェルターとは「緊急一時的に避難できる施設」と定義されている。目前の要因によって、安全な暮らしができない人が危機から身を守るための当座の場所だ。
ひとくちにシェルターと称しても、「何から身を守るのか」という性質によって、運営の指針が異なる。各シェルターでは、避難者の安全な場を保障するだけでなく、問題なく日常生活を送れるようにするため、訓練を受けた従属スタッフやボランティアによって運営されていることが多い。
また、シェルターの存在自体は知られていても、具体的にどんな施設なのか、どういった場所なのかはあまり知られていない。その一因として、シェルターがその性質上、一般に電話番号や所在地を公開していないことが挙げられるだろう。
DVやストーカーの事例では、加害者は被害者を「自分のもの」と思い込み、被害者が自分の意思で去って行くことを受け入れられずに追いかけ、連れ戻そうとすることが往々にしてある。そういった相手から隠れてシェルターに逃げ込むため、施設の特性として「機密であること」が求められているからだ。
公的なものとはどう違う? 民間シェルターの役割
日本国憲法第二十五条にある、「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」という法の理念から、行政が運営する「公的シェルター」も各都道府県に設置されている。
公的シェルターは、民間シェルターに対して生まれた便宜上の呼び方だ。
主たる運営は、施設が設置されている地方自治体が担っており、運営費は税金で賄われる。また、原則として滞在できる期間は2週間程度である。
一方の民間シェルターは、公的支援ではカバーしきれない人たちを救うために生まれた施設だ。多くはNPOや地域の弁護士会などで運営されていて、国からの少ない委託費と個人・法人からの寄付が財源になっている。
残念なことに、公的シェルターをめぐっては審査によって入居できない、建物が老朽化している、自治体が財政難のため運営できずに閉鎖するといった事態が起こっている。そうした施策のほころびをつくろう形で、民間シェルターが救済の場を維持する役割を務めているのが現状だ。
その他の民間シェルターの利点としては、利用者の気持ちに寄り添って対応するフレキシブルさがあるだろう。公的シェルターでは大部屋が慣例となっているのに対し、民間シェルターでは世相に則して個室を増やすなど、利用者の安心をいかに担保するかに注力しながら、活動を発展させてきた。
特徴も設備も異なる 民間シェルターの種類
既存の制度では助けられない人を保護するべく、さまざまな民間シェルターが運営されている。国内にある民間シェルターの種類には、DVシェルター、子どもシェルター、難民シェルター、ホームレスシェルターなどが挙げられる。
DVシェルター
配偶者からの肉体的・精神的・経済的DVから逃れるための施設。
DVを受けた女性は、心理的不安や安全面上、男性がいる無料低額宿泊所に泊まりづらいため、多くの施設は女性限定になっている。2001年、DV被害者の保護を定めた通称DV法の施行から施設数は増え、国内にあるシェルター施設の中で最も比率が高いともいわれている。
子どもシェルター
虐待やネグレクトを受けている子どもや、家庭に居場所がない子どものための一時避難場所。
児童相談所の一時保護は、幼少児や中学生が多いこと、自立援助ホームは中長期向けであることから、緊急性の高い10代後半の子どもを主に受け入れている。ケースにもよるが、一人ひとりに専任の弁護士がつくのが特徴で、親権者からの保護やメンタルケアをしつつ、安全かつ人としての尊厳を取り戻す生活支援施設になっている。
難民シェルター
内戦や紛争などで身の危険を感じて日本に逃れてきた、あるいは来日中に先の理由で帰国できなくなった外国籍の人に向けた一時避難場所。
難民申請中で就労許可がないこと等を理由に経済的に困窮したり、ホームレス化したりといった事態を防ぐための居場所となる施設だ。難民申請が通って施設を出た後に自立した生活が営めるよう、居住支援だけでなく、語学やプログラミングといった就労サポートを提供している団体もある。
ホームレスシェルター
ホームレス状態の生活困窮者に向けた一時避難場所。
路上生活からの救済を目的に宿泊場所を提供している。自立した生活の基盤を整えると同時に、社会的な孤立に陥らないよう、生活保護申請などの支援活動を合わせて行っている。
時代の変化で生まれる苦境 民間シェルターの課題
支援団体ならではのこまやかさで弱者に寄り添い、利用者の心の平穏を取り戻す活動を続ける民間シェルターだが、その実、さまざまな課題をはらんでいる。
利用者の視点では、まず、多様化するニーズに対応しきれていないという問題があるだろう。国内にさまざまな民間シェルターが存在しているが、相対比でいえばDVシェルターと子どもシェルターが大半を占める。生活困窮者は年々増えているといわれるなか、受け皿に偏りが生じているのが実情だ。
また、ジェンダーに対応していない点も、問題視されていることの一つだ。
DVシェルターの場合、被害のトラウマから入居者を守るため異性混在にはせず、多くの施設は女性限定になっている。男性専用DVシェルターは国内にほぼない。無料低額宿泊所に一時的に身を寄せることはできるが、そこでは女性向けのDVシェルターのような、DV被害者に特化した自立支援サポートは皆無だろう。
子どもシェルターは、男子専用、女子専用と整備されているものの、男子2:女子8というニーズの男女比に沿うように、男子向けの施設の数が少ない印象だ。
夫が妻からモラハラを受けるという事例も増えてきている。親からの暴力を受けるのは女児だけではない。逃げる場所の門の狭さが生じてしまっているのが問題だ。
そして、運営についても課題がある。どの分野の民間シェルターにも共通するのが、財源不足だ。地方公共団体や法人からの財政支援はあるが、それでも十分とはいえない。経費削減のため、勤務する有償スタッフは数名、しかも時給換算すると数百円という専従のスタッフには過酷な状況も。活動休止を余儀なくされたり、閉所したりするシェルターも出てきている。
シェルターという特性上、専従スタッフが必要となるにもかかわらず人材不足というのも、困難をきたしている一因といわれている。財源不足から、安定して人材を確保することができず、ボランティアや非常勤スタッフに頼らざるを得ない施設が多くあることが、内閣府の「民間シェルター等に対するアンケート調査」で分かった。常勤ではないスタッフに、責任のある業務を任せることの難しさが指摘されている。
心理的に抑圧され疲弊すると、人は判断力、行動力、知的能力が失われてしまう。つらい状況から「逃げ出す」ということは、心身共に弱っている人にとって、まさに命をつなぐアクションである。それを市民の手で受け止める民間シェルターは、現代の駆け込み寺といえる存在だ。生きづらさを抱える人たちが救われる場所の尊さが、広く認知され、運営に賛同してもらえる場になればと願っている。
※本記事の内容は、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL note 2021年11月15日掲載当時のものです。
【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」や「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。
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