外国人観光客が戻り、ナイトタイムエコノミーに復活の兆し

夜の街に国内外からの人が増えてきている。コロナ禍での渡航制限などにより減少していた外国人観光客も戻ってきており、コロナ前の2019年と同水準に回復してきている。

コロナ禍以前から、外国人観光客の日本でのナイトライフの満足度は低かった。夜の経済の活性化は日本の課題であり、ポテンシャルを秘めた分野でもある。

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インバウンドや、国内の旅行者も回復している今、改めて「夜の経済活動」といわれるナイトタイムエコノミーの可能性や課題について考えてみたい。

ナイトタイムエコノミーの基本情報

ナイトタイムエコノミーの定義

ナイトタイムエコノミーとは、夜間(18時~朝6時頃まで)の経済活動のことを指す言葉だ。
レストランや居酒屋やバーなどの飲食店をはじめ、ライブハウスやクラブなどのエンターテインメント、さらにはジムに通ったり映画を観たりといった夜間に行われる活動全般をいう。加えて、電車やバスやタクシーなどの交通サービスも含まれる。こうした夜間の活動全般を促進することで、経済を活性化させるという取り組みだ。

風営法の改正

日本では1948年に風営法が制定され、2016年6月に改正風営法が施行された。この風営法改正による特徴的だった変更点は、従来24時までとされていたダンスを行うクラブが、一定の条件を満たすことで朝まで営業可能となったことだ。
これまで閉鎖的だったナイトシーンが開放されることとなり、大きな注目を集めた。

【□関連リンク】風営法の改正で、夜のまちはどう変わるのか

ナイトタイムエコノミーの可能性

ナイトタイムエコノミーが注目されるのは、大きな経済効果が見込めるためである。実際にナイトタイムエコノミーの推進に取り組んでいる海外都市の例を見てみると、イギリスのロンドンでは約3.7兆円、アメリカのニューヨークでは約2.1兆円の市場規模があるといわれている。経済規模が大きいため、雇用創出にも大きく寄与している。

参照:「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」国土交通省 観光庁 観光資源課 平成31年3月参照:「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」国土交通省 観光庁 観光資源課 平成31年3月

日本では、ナイトタイムエコノミーに影響の大きい2023年の訪日外国人旅行消費額は5兆2,923億円だった。

日本でのナイトタイムエコノミーが活性化すると、その経済効果は東京だけでも潜在的に5兆円規模はあるとの見方もある。だが、日本ではまだこうした夜の機会を十分に生かしきれておらず、コロナ禍以前から観光庁を中心にナイトタイムエコノミーの推進に向けた方策を検討していた。

ナイトタイムエコノミーの課題

交通

ナイトタイムエコノミーの推進において重要となるのが、夜の時間帯の交通だ。

ニューヨークでは100年以上前から地下鉄の24時間営業が実現している。地下鉄はニューヨーク市内ほぼ全域をカバーしており、全路線で24時間営業となっている。ニューヨーク市民は時間を気にすることなく夜の街を楽しむことができ、ニューヨークでのナイトタイムエコノミーはこの地下鉄があることを前提に成り立っている。一例としては、野球のナイターの開始時間は日本では18時が基本だが、ニューヨークでは19時前後が基本となっている。地下鉄が24時間営業しているため帰りの時間を気にしなくてよく、これにより試合後にもレストランで飲食をしたりと、消費促進の機会が増えることになる。

ロンドンでも2016年より、ナイトチューブという名称で地下鉄の24時間営業を開始している。この実現のために、2000年代初頭から終夜運行を見越して路線の改修工事や、地下鉄駅の防音化を進めてきたという。

日本の鉄道の24時間営業の検討においても、騒音とメンテナンスが課題となっている。
地上を走る路線は深夜騒音の問題があり終夜運行は難しい。では、騒音の問題が比較的少ない地下鉄ならどうだろうかと思うのだが、メンテナンスの課題が残ってしまう。基本的に鉄道は毎日のメンテナンスが必要であり、通常は深夜にメンテナンス作業を行っている。日本の鉄道は24時間営業を行うことを前提に路線がつくられていないため、ロンドンのように路線の改修工事を行わないとメンテナンスができなくなってしまうのだ。

このように、日本の鉄道の終夜運行においては課題が多く、実現するとしてもかなりの時間がかかりそうだ。

治安

ナイトタイムエコノミーを活性化させるうえで、治安の問題は避けて通れないだろう。夜の時間の経済が活性化すれば、音楽をはじめとする騒音、アルコールに酔った客の起こす問題、さらにはゴミの放置などが問題となってくるだろう。

安心安全を前提として、地域住民の理解を得る必要がある。警察や民間事業者が連携し、夜の時間のセキュリティ体制の強化が必要となってくるだろう。

ナイトタイムエコノミー推進のために

ナイトメイヤー(夜の市長)

ナイトタイムエコノミーの成功例として前述したニューヨークやロンドンでは「ナイトメイヤー(夜の市長)」という役職を設置している。ナイトメイヤーは2014年にオランダのアムステルダムで初めて採用された、まだ比較的新しい役職である。欧州を中心に採用する都市が増えている。

ナイトメイヤーの役割としては、都市のナイトタイムエコノミーに関するPRを行い、ナイトタイムエコノミー推進のため関係各所との調整を行うことである。ナイトタイムエコノミーが推進されることで、治安をはじめとした問題が出てくることが想定される。地域住民にとっては不安の種でもあるだろう。行政は地域住民の生活を守る立場でもあるため、前面に立って推進するのが難しい面もある。ナイトメイヤーはナイトタイムエコノミー推進の必要性を伝え、推進のための政策を通しやすい環境づくりを行う役割も担っている。

日本では、2016年にアーティストのZeebra氏が渋谷区の初代ナイトアンバサダーに就任した。2018年にはDA PUMPのISSA氏が沖縄市のナイトアンバサダーに就任している。両者とも観光大使も務めているため、現状の役割としては観光PRの要素が強いようだ。

ナイトタイムエコノミー補助金

日本では、港区や宇都宮市をはじめとして複数のエリアで「ナイトタイムエコノミー補助金」を出している。夜間に集客が期待できる事業が補助対象だ。観光客の増加を目的に、消費拡大、宿泊者の増加、翌日の観光などの効果を期待しているという。

観光客だけでなく、こうした取り組みは地域住民も楽しめるものでもある。補助金を活用して夜の時間の取り組みを始められないか検討してみてはいかがだろう。

まとめ

日本への観光客はコロナ禍以前と同水準に戻ってきたが、依然として日本でのナイトタイムエコノミーの取り組みには課題があり、また可能性も秘めている。

交通や治安などの課題は簡単には解決しないが、ナイトタイムエコノミー補助金の創設など積極的に夜の経済を活性化させようとする動きが、日本各地の自治体で見られ始めてきた。こうした活性化の種となる取り組みに注目しつつ、日本でのナイトタイムエコノミーをめぐる取り組みを今後も追っていければと思う。

参考文献

・ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集 国土交通省 観光庁 観光資源課 平成31年3月
・「夜遊び」の経済学  木曽崇 (光文社新書)

公開日: