もし自宅が被災したら?被災後の住まいの選択肢とは

太古から、自然災害とともに歩んできた日本。ここ20年を振り返っても、震災、水害、土砂災害、火山の噴火など、多くの自然災害に見舞われ、さらに増加傾向にあるといわれている。
有事に備え、自宅の備蓄や避難場所の確認などをしている方も多いであろうが、被災後の“住まい”に関してはどうだろう。もし自宅が被災してしまったら、どのようなタイミングで、暮らしの基盤となる住まいをどのように確保すればいいか、想定しているだろうか。
今回は、被災後の住まいの選択肢についてまとめてみたい。

被災後は、身の安全が確保できるタイミングで住宅の被害状況を撮影しておくことが肝要だ。市区町村から罹災証明書を取得して支援を受ける際や、損害保険を請求する際などに必要となる被災後は、身の安全が確保できるタイミングで住宅の被害状況を撮影しておくことが肝要だ。市区町村から罹災証明書を取得して支援を受ける際や、損害保険を請求する際などに必要となる

災害発生後、時期によって住まいの選択肢は移り変わる

大きな災害が起きると、元の暮らしに戻ることは容易ではない。“被災”と一口に言っても、発災からの時期は大きく”発災直後”、”応急救助期”、”復旧・復興期”の3つに区分される。
それまで居住していた場所が被災によって住めなくなってしまった場合、住まいの選択肢もその時期によって変わっていく。

発災直後
「発災直後」は、災害発生から最大7日以内の期間を指す。発災直後に逃げる場所は、集会所や小学校など、自宅から最寄りの緊急避難所になる。自治体の指示に従い、避難解除が出るまで滞在することができる。

応急救助期
「応急救助期」は、災害発生から数日~1ヶ月程度(大規模災害の場合、最大6ヶ月程度)の期間を指す。住宅の状態によっては応急的な修理をして住み続けることもできるが、難しい場合には、応急仮設住宅や公営住宅の一時使用、応急借上げ住宅に住むことができる。

復旧・復興期
「復旧・復興期」は、災害発生から1ヶ月程度~2年程度(大規模災害の場合は数ヶ月~数年程度)の期間を指す。この時期になると、恒久的な住まいの確保に焦点があたるため、前述の応急仮設住宅や公営住宅の一時使用、応急借上げ住宅といった仮住まいから、被災者再建支援金を活用して建て替え・住み替えをするか、災害公営住宅に住むことが求められる。

次からは、それぞれの期間の住まいの特徴を解説していこう。

応急救助期の住まい① 二次的仮住まい「応急建設住宅」

応急建設住宅とは、いわゆる仮設住宅のこと。被災証明書(ないし罹災証明書)を有し、かつ要配慮者や低所得者など、自力で自宅を確保することができない被災者を一定期間保護するための、応急救助期に供給される仮住まいだ。台所やトイレ、浴室等、必要最低限の生活機能と居住空間を備えることが災害救助法で定められている。

もし自宅が被災してしまったら、暮らしの基盤となる“住まい”をどう確保すればいいか。災害発生後、時期によって住まいの選択肢は移り変わる。発災以降のタームとそれに沿った災害住宅の種類を紹介する。もし自宅が被災してしまったら、暮らしの基盤となる“住まい”をどう確保すればいいか。災害発生後、時期によって住まいの選択肢は移り変わる。発災以降のタームとそれに沿った災害住宅の種類を紹介する。

原則として、供給されるのは2年以内となっており、住んでいる間にかかる光熱費などは居住者が支払う。短期間での大量供給が求められるため、構造は簡易的で一般に壁や天井、床などは薄く、十分な断熱性や遮音性が備わっていないことが多いというデメリットはある。

また立地に関しても、完成までに一定の時間がかかること、用地不足の場合にはその後の中長期的な復興を視野に入れた土地利用が優先され、交通の便が悪い場所に建設される場合もある。
5~8世帯程度が一棟にまとめられるケースが多く、阪神淡路大震災、東日本大震災では、集会施設が設置され、コミュニティとして機能していたほか、安否確認時の要としても活用されていた。

応急救助期の住まい② 自治体の采配が大きい「公営住宅の一時使用」

発災時に空室となっている公営住宅の部屋を被災者の仮住まいとして活用する方法も、応急救助期には取られる。ただ、被災による公営住宅の入居は地方自治法で目的外使用となるため、特例的な措置への申請が必要となり、入居を希望する被災者は、罹災証明書のほか、公営住宅などの一時使用に係る標準許可申請書と誓約書の提出が必須となる。

公営住宅の一時使用にあたっては、被災者か否かの判断は、原則として市町村が発行する当該災害に係る罹災証明書等により行われる公営住宅の一時使用にあたっては、被災者か否かの判断は、原則として市町村が発行する当該災害に係る罹災証明書等により行われる

基本的には賃料が発生するが、公営住宅の入居基準に則っていることから、場合によっては減免等が行われる。あくまでも一時入居であるため、一定期間が経過した後は退去が必要になる。

以上の法的な手続きや制限があるものの、公営住宅の一時使用は自治体の采配によるところが大きい。たとえば過去には、以下のような自治体ごとの対応が講じられてきた。

・佐賀県(2019年8月・前線に伴う大雨災害)
半壊以上の被災者を対象に、6ヶ月間(2年以内を限度として期間延長の許可可能)とし、県営住宅入居相談シートを市町村窓口から県に提出することで支援を受けられるようにした。

・倉敷市(2018年7月・豪雨災害)
第1回募集では、75歳以上の高齢者、乳幼児(生後0日から小学校就学前の子ども)、妊産婦、障害者を優先に提供。

・京都市(災害を想定した条例制定)
火災などの自然災害により住宅に被害を受けた市民が一時的に身を寄せる場所として、市営住宅を3ヶ月~1年間無償で提供。

ほかにも、災害発生から数日~1ヶ月程度と想定される応急救助期の使用に対し、被災状況に応じて期間を6ヶ月~最大2年まで延ばすなど、管轄地域の様子や、個々の状況に合わせた柔軟な対応が特徴となっている。

応急救助期の住まい③ 民間賃貸住宅での仮住まい「応急借上げ住宅」

本来は通常の賃貸住宅として市場に供給されている物件のうち、発災時に空室のものを所有者の承諾を得て被災地の自治体が借上げたうえで、被災者に仮住まいとして提供する方法もある。”借上型応急仮設住宅”、”みなし仮設住宅”などと呼ばれる。

応急借上げ住宅には、自治体によるマッチング方式と、被災者が自ら住宅を探し都道府県に申請する方式とがある応急借上げ住宅には、自治体によるマッチング方式と、被災者が自ら住宅を探し都道府県に申請する方式とがある

多くの自治体で賃料や共益費、退去時修繕費用(契約期間中の故意又は過失による損壊の修繕費用は除く)などを自治体が負担し、入居者は電気、水道、ガス料金、場所によっては駐車場費や自治会費を支払うこととされている。一般の賃貸住宅のため、設備に差があり、応急建設住宅には標準装備されていた、エアコン、ガスコンロ、給湯器、照明器具、カーテンが必ずあるわけではない点には注意が必要だ。

もう一点注意したいのが、入居期間。自治体が借り上げている期間内は入居可能であるが、所有者の意向により、その期間が制限される可能性がある。また、既出の応急建設住宅や公営住宅とは異なり、立地場所が点在しているため、見守り等の支援が手薄になりやすく、孤立する懸念もある。入居者からの積極的な行政への情報伝達努力も求められるだろう。

復旧・復興期の住まい 低所得被災者向け「災害公営住宅」

災害公営住宅は、災害により滅失した住宅に居住していた低額所得者を、中長期の間、低家賃で受け入れることを目的とした恒久的な住宅だ。自治体によっては復興住宅、復興公営住宅等と呼ばれることもある。

応急的な仮設住宅とは異なり、恒久的に暮らすことができる。入居者は、原則として同居親族要件、②入居収入基準、③住宅困窮要件の3要件を満たす必要がある応急的な仮設住宅とは異なり、恒久的に暮らすことができる。入居者は、原則として同居親族要件、②入居収入基準、③住宅困窮要件の3要件を満たす必要がある

建設予定地の確保~完成~入居まで、概ね発災から一年以上を要するが、安定した生活環境が確保されやすい。一方で、大規模な集合住宅形態が多く、加えて建設された土地に縁のない人が集まるため、住民間のコミュニティが構築されにくい点が課題のひとつとなっている。

また、低額所得者を対象としているため、収入が規定額を超過したり所得が高額になったりした場合には、一定期間経過後は明け渡しの努力義務(高額所得者の場合は明け渡し義務)が発生する点にも注意が必要だ。

被災後の支援を得るには自分の所在地を明確に

今回紹介した公的な被災後住宅のほかにも、親族や友人を頼って被災地外へ避難する、実費で転居するなどの住まいの選択肢はあるが、共通して重要になるのが“被災状況”と“自分の所在”を、住民票を置く自治体に届け出ることだ。特に、被災後の支援を得るには重要な情報となる。

被災後は、想定外の事態への対応に追われ、情報を得ることが難しくなるだろう。平常時から非常時の住まいについて知っておくことも、防災知識の一助となるはずだ。


【参考】
▼内閣府『被災者の住まいに関する相談・情報提供マニュアル』 平成28年3月
https://www.bousai.go.jp/taisaku/pdf/h2803sumai/sumai_zenpen.pdf
▼内閣府『防災情報 公的住宅等の一時提供』
https://www.bousai.go.jp/taisaku/hisaisyagyousei/pdf/kakuho_3.pdf
▼厚生労働省『福祉避難所設置・運営に関するガイドライン』 平成20年6月
http://www.sago-octagon.com/menu02/images/hukusihinanjo.pdf

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石川県能登地方を震源とする令和6年能登半島地震により、被災された皆さま方に心からのお見舞いを申し上げます。
被災者の救済と被災地の復興支援のために尽力されている方々に深く敬意を表すとともに一日も早い復興をお祈りしております。

LIFULL HOME'S PRESS編集部 ACTION FOR ALL編集部

■LIFULL HOME'S 【令和6年能登半島地震】住まいに関する支援情報は こちら
→ https://inquiry.homes.co.jp/r6-noto-peninsula-earthquake-support

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被災後の支援を得るには自分の所在地を明確に

【LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL】は、「FRIENDLY DOOR/フレンドリードア」「えらんでエール」のプロジェクトを通じて、国籍や年齢、性別など、個々のバックグラウンドにかかわらず、誰もが自分らしく「したい暮らし」に出会える世界の実現を目指して取り組んでいます。

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