賃貸集合住宅のLPガスで制度改正案
経済産業省は2023年7月24日の有識者会議で、賃貸集合住宅のLPガスにおいて、ガス供給と関係のない設備費用の上乗せを禁止する制度改正案を示した。本記事では、都市ガスとプロパンガスの違いや、現状起こっている課題、今後どのような制度改正がなされる予定なのか、解説していきたい。
第6回 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 液化石油ガス流通ワーキンググループ
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shigen_nenryo/sekiyu_gas/ekika_sekiyu/006.html
賃貸住宅における都市ガスとプロパンガスの違い
賃貸住宅では、ガス設備が都市ガスあるいはプロパンガス(LPガス)のいずれかに大別される。都市ガスとは、インフラ整備されたガス導管を通じて各戸に供給されるガスのことを指す。
LPガスとは、LPガスボンベを事業者が建物まで配送し、建物横に置かれたガスボンベから供給されるガスのことである。原料に関しては、都市ガスがメタンを主成分とする天然ガスであり、海外から輸入する液化天然ガス(LNG)が大半を占めている。LPガスは、プロパン・ブタンを主成分とする液化石油ガス(LPG)であり、大半を海外から輸入している。
都市ガスもLPガスも本来は無色無臭であるが、ガス漏れを判断しやすくするため、いずれもニオイを付けているのが特徴となっている。また、両者は原料が異なることから、熱量や重さも異なる。熱量は、都市ガスが約46(MJ/立米)であるのに対し、LPガスが約99(MJ/立米)である。
LPガスは熱量が大きいことから、中華料理店などの飲食店で好まれることもある。
重さは、都市ガスが空気より軽いのに対し、LPガスは空気より重くなっている。万が一ガス漏れしたときは、都市ガスが上に溜まり、LPガスが下に溜まるという違いが生じてくる。よって、ガス感知器は都市ガスが天井面の下方30cm以内に、LPガスは床面の上方30cm以内に設置することになっている。自然災害時に関しては、都市ガスは埋設管の復旧に時間がかかるというデメリットがあるが、LPガスはすぐに復旧できるというメリットがある。価格に関しては、都市ガスは、ガスの埋設管によって自動で効率的にガスを供給できることから価格も安くできる仕組みとなっている。
一方で、LPガスは人の手によってガスボンベを配送して供給しなければならないことから、都市ガスと比べると効率性が大きく落ち、ガス料金は都市ガスよりもLPガスの方が高くなっている。賃貸住宅で都市ガスとLPガスのどちらが採用されるかは、まずはインフラの整備状況に依存している。地方では、都市ガスが未整備の地域もいまだに多い。都市ガスが未整備の地域であれば、賃貸住宅に限らずガスはLPガスにせざるを得ない。
日本ガス協会HP 都市ガス事業に関する情報。こちらからガス事業者の検索が可能
https://www.gas.or.jp/jigyosya/
一方で、都市ガスが整備されている地域であっても、賃貸物件のオーナーによってはLPガスを選択する場合もある。理由としては、LPガスを選択すると、LPガス事業者がガスの配管工事やエアコン、給湯器等を負担してくれるケースがあるからだ。都市ガスが整備されている地域でLPガスとなっている物件の場合、建物オーナーがイニシャルコストを削減する目的でLPガスを採用しているものと思料される。
LPガスに関連する賃貸住宅のこれまでの問題点
賃貸住宅におけるLPガスの問題は、入居者がLPガスの物件に入居すると、ガス代の比較的安い都市ガスを選択できないという点である。
まず、LPガスは、人海戦術によるガスボンベの配送業務があることから、ガス代はどうしても都市ガスよりも高くなってしまう。LPガスの料金の高さは供給の構造的な部分もあるため、やむを得ない点はある。
しかしながら、LPガスの料金が高いのは、他にも理由があるのではないかと考えられている。具体的には、アパート建築時にLPガス事業者が負担したガスの配管工事費やエアコン、給湯器等の設備代がガス料金に上乗せされているのではないかという懸念だ。LPガス事業者がエアコン等の設備費用をサービスし始めたのは、もともとは都市ガスに対抗するための措置の一つであった。
当初は、ガスの配管工事費程度をサービスするものが主流であったが、徐々に事業者間の競争が激しくなり、給湯器やエアコンまで負担するケースが増えていった。これらのLPガス事業者がアパートの建築時に負担する設備は、無償貸与という形になっている。
LPガス事業者のサービスが過剰になってきたことで、最近ではLPガスの高い料金の原因は当初の設備費の負担にあるのではないかという懸念がでてきている。
三部料金制とは
そのため、近年ではLPガスの料金の根拠を説明するために、価格を三部料金制で表示することがLPガスに求められている。三部料金制とは、基本料金と従量料金の他に、貸付料金等の設備料金を設けた料金体系のことを指す。LPガス事業者が当初の設備費を負担している場合には、設備料金に内訳価格が記載され、料金の根拠が明示されることになる。
なお、賃貸住宅においては、LPガス事業者がアパート経営者に対し長期間ガス事業者を変更できないという条件で設備費を負担しており、トラブルになっているケースがある。国民生活センターには、LPガスに関し賃貸物件の借主だけでなく貸主からも相談が寄せられている状況となっている。
経済産業省の法改正の議論方針3つ
賃貸住宅のLPガス料金の問題は、長年指摘されてきた問題であり、国としては経済産業省が中心となって対策を行ってきている。具体的には、「総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 石油・天然ガス小委員会 液化石油ガス流通ワーキンググループ」という有識者会議によって対策が議論されている。
ワーキンググループでは、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」の法改正を検討している。2023年7月24日に開催されたワーキンググループの資料によると、主に以下の3つに関連する法改正の議論がされている。
・過大な営業行為の制限
・三部料金制の徹底
・LPガス料金等の情報提供
過大な営業行為の制限
1つ目の過大な営業行為の制限とは、LPガス導入時に切替えを制限する条件を付した設備の貸与契約等を締結してはならないとしている。現在、建築時にLPガス事業者がエアコン等の設備を無償貸与しているが、無償貸与の条件としてガス事業者を長期間切り替えられない制限があり、消費者の自由な選択を阻害する形になっている。改正案では、法律で罰則規定を設けて過大な営業行為の制限をする見込みだ。
三部料金制の徹底
2つ目は、三部料金制の徹底である。改正案では、消費者に設備料金を請求してはならないとされ、設備料金の計上は禁止される。
LPガス料金等の情報提供
3つ目は、LPガス料金等の情報提供である。LPガス事業者は、入居希望者またはオーナー、不動産管理会社等を通じて、ガス料金等を提示する努力義務が課せられる。
経済産業省が2023年7月24日に公表したこれらの法改正案の骨子は、おおむね了承されている。
国土交通省のこれまでの取組み
国土交通省は、経済産業省の要請を受け、通達という形で不動産業界にLPガス料金の情報提供を徹底するように周知してきた経緯がある。
具体的には、2021年6月に「賃貸集合住宅におけるLPガス料金の情報提供のお願い」というものを不動産の業界団体に対して通知している。2021年当時の通知内容としては、三部料金制によるガス料金の根拠の開示が徹底されていた。新たな制度が創設されれば設備料金は請求できなくなるため、通知内容も変更されることが予想される。
今後の方針
今後は、経済産業省の主導により「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」が改正されていく予定となっている。全体のスケジュールとしては、2024年度中に法改正を行い、2027年度から施行を目指すという考えのようだ。
新制度が施行されれば、新規に契約した賃貸物件の入居者の設備費負担は発生しなくなり、すでに契約している賃貸物件のガス料金は、基本料金、従量料金および設備料金などの算定根拠を明示したうえで通知されることになる。ワーキンググループ内では、新規物件と既存物件との間に差異が生じるため、混乱が起きるという意見もあったようだ。
しかしながら、業界内の悪しき習慣を無くすということが今回の改正の大命題であることから、特に経過措置は設けない方針となっている。
既存物件には設備料金が記載され、ガス代は割高のままとなるため、既存物件の賃貸経営者には新たな空室対策が求められていくのかもしれない。
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