高齢化率40%超、課題解消のため目指したのは「飛騨ファンをつくる」こと
収穫期の人手が足りない、田畑の草取りが大変、特産品をどうやってPRすれば良いかわからない──高齢化が進む地方の集落では、常にこうした困りごとを抱えている。しかし、そんな住民たちの困りごとを「地域資源」に換えて地域活性を成功させた自治体がある。岐阜県の最北端に位置するまち、飛騨市だ。
飛騨市といえば、2016年に公開された大ヒットアニメ映画『君の名は。』のモデルとして一躍注目を集め、日本国内だけでなくアジア各国から多くの映画ファンが今も聖地巡礼に訪れている。
しかし、そんな飛騨市が抱えているのは「人口減少」という問題だ。高齢化率は40%を超え、日本の30年後を先取りする、まさに人口減少先進地と言える状況にある。そこで飛騨市では、「人口減少は止められないとしても、飛騨市に心を寄せる人たちを“見える化”したい」と、ある取り組みを始めた。その経緯について、飛騨市役所企画部ふるさと応援係の上田博美さんと、地域おこし協力隊の永石智貴さんにお話をうかがった。
交流人口を増やして“見える化”するため、飛騨市ファンクラブを設立
「飛騨市は、平成16年に古川町、神岡町など2町2村が合併して誕生しました。市の面積は792.5Km2とかなり広いものの、森林率は全国トップの93.5%。山が多く、人が住める可住面積は全国の市区の中で最小で、人口は2万3000人を下回っています。
そのため飛騨市では、人口減少は止められないものとして真正面から受け止める代わりに、地域外の方との交流を大事にしたいと考えるようになりました。
観光で飛騨市を訪れる方たちや、当時大ヒットした『君の名は。』で聖地巡礼に訪れる人たちとコミュニケーションを図れるようにするため、“交流を見える化しよう”と取り組み始めたのが『飛騨市ファンクラブ』です」
飛騨市ファンクラブは2017年1月に設立された。丸5年が経過した現在の会員数は1万500人超。入会費も年会費も無料という気軽さで、飛騨市を応援する気持ちがあれば誰でも入会することができる。
「ファンクラブにご入会いただいている会員さんのうち、飛騨地域(飛騨市、高山市、下呂市、白川村)以外の方は全体の約85%を占めており、ありがたいことに各都道府県にひとり以上会員さんがいらっしゃいます。
各所で会員さんが増えてきたため、2019年からは会員さんと交流する『飛騨市ファンの集い』を企画し、東京・岐阜・大阪で実施しました。さらに、参加者からのリクエストを受けて、飛騨市でもディープな内容のファンの集いを実施しています。毎回多くの方が参加して下さり、交流を楽しみにして下さっていることをとても嬉しく思います」
ファンクラブから自然発生した「お手伝いをしたい」という声
ファンクラブ発足から3年が経過した頃、ある出来事が起こった。
「ファンクラブの交流会を行っている中で、会員さんから“何かお手伝いできることはありませんか?”と声をかけられたんです。本当に熱心な会員さんで、いろいろなファンクラブのイベントに参加しているうちに、ご自身も携わってみたいと思われたようですね。
他にもそういう方が何人もいらっしゃって、もしかしたらこの方たちが“飛騨市の関係人口”に該当するのではないか?と気付きました。そこで、こうした方たちが全国にどれぐらいの数がいて、どのように生まれるのか?について、実験や研究を行いました」
ちなみに、関係人口とは観光客以上移住者未満の“地域と多様に関わる人々”のことを指す。
「実験では、市内の資源など3つのテーマをもとにイベントを実施したり、研究では、飛騨市を含む4つの団体が共同でアンケートを実施し、その結果をもとに分析を行いました。1年間の関係人口の研究や実験を経て2020年4月に誕生したのが、飛騨市の関係案内所『 ヒダスケ!』です。
高齢化や過疎化を受けて、飛騨市内には“人手不足”という困りごとがたくさんあります。その困りごとを解決するために、全国の皆さんのお力をお借りして、飛騨市民を助けて頂きながら楽しく交流し、関係を築いていく──これが『ヒダスケ!』のミッションです」
困りごとがある人と、助けてくれる人を『ヒダスケ!』がマッチング
▲飛騨市までの交通費はヒダスケさんの自己負担。作業が終了したあとはそのまま飛騨市へ宿泊する人も多い。稲刈りや果樹園の収穫など、農業繁忙期に人手不足を解消でき、出荷量の増加にもつながっているという。中には「保護猫シェルターのお掃除の手伝い」「恋活イベントの盛り上げ役」といったユニークなプログラムも『ヒダスケ!』ポータルサイトでは、「ヌシ」が抱える地域の困りごとと、それを助けてくれる「ヒダスケさん」をマッチングする。
例えば、飛騨の特産品である桃の収穫期に人手が足りず困っていた「ヌシ」が「ヒダスケさん」に手伝ってもらうと、オカエシとして電子地域通貨「さるぼぼコイン」500ポイント(1ポイント1円相当)ともぎたての桃がもらえる。
ヌシにとっては困りごとを解消することができ、ヒダスケさんにとっては「ヌシからのオカエシ+電子地域通貨500円分+リアルな飛騨生活の体験」が得られる。ちなみに、さるぼぼコインは飛騨地域限定の地域通貨であるため、500円分は地元に還元され経済の好循環につながっている。
「困りごとについては、市民の方や事業者さんから提案を頂いたり、市民の方との会話の中から困りごとを吸い上げ、相談しながらプログラム化しています。『ヒダスケ!』の申し込みには会員登録制度は無く、参加したいプログラムがあったらフォームに簡単な項目のみを入力するだけ。申し込みを簡単にすることでハードルを下げています」
グッドデザイン賞、グッドライフアワードなど6冠を獲得
▲こちらは飛騨の越冬に欠かせない薪づくりプログラムの様子。「“手伝いに来てやった”という上から目線ではなく“人を助けに行く”という想いでプログラムに参加し、ありがとうと言ってもらえることで、ヌシとヒダスケさんとの良好な人間関係が成立します。困りごとは地域資源。これからもこの資源を有効に活用していきたいと思います」こうした『ヒダスケ!』の取組みは、地域課題を解決する活動の好事例として全国から注目を集め「2021年度グッドデザイン賞」「第9回グッドライフアワード」など6冠に輝いた。
「本来ならお金を払って手伝ってもらうことなのに、無料で助けに来てくれる人が本当にいるのか?と思っていらっしゃる方もいますが(笑)、実際にやってみると“意外と楽しい”という声が聞かれるようになりました。助けに来て下さるヒダスケさんたちも、地域の方と実際に会って、ヌシの熱い想いを知ることができ、“ヌシのファン”になる方も多いようです。
これはまさに関係人口の増加につながっていると思います。こうした経験を経て、いつ畑をやめてもいいと言っていた地元のお年寄りが“もっと頑張りたい”と奮起している姿を見ると、改めて『ヒダスケ!』をはじめて良かったなと感じますね。
市の人口減少や高齢化はなかなか食い止めることはできませんが、私たちが目指しているのは“地域を閉じさせない”こと。まず『ファンクラブ』で飛騨市に関心を持っていただき、『ヒダスケ!』で交流を深めていく…関係人口、関心人口、交流人口、行動人口と徐々に飛騨市に関わる人たちを増やして、関係人口にあたる方たちと市民が心地よい関係を継続しながら“元気なまち”になることが私たちの最終目標です」
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「人を助ける」という行為は、人と人が存在しないと成立しない。助けてもらうことで人は感謝し、助けた側も人の役に立ったという自己有用感に満足できる。雇用主×労働者、店主×顧客ではなく、双方が対等な関係で成り立っている点こそ『ヒダスケ!』の勝因と言えそうだ。
■取材協力 飛騨市役所/飛騨市の関係案内所 ヒダスケ!
https://hidasuke.com/
■飛騨市ファンクラブ
https://www.city.hida.gifu.jp/site/fanclub/
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