元号にも残る“養老”のまち。はじめてのテレワーク施設「YOROffice」がオープン
岐阜県にある養老公園には日本の滝100選に選ばれた「養老の滝」がある。
ここには「孝行息子の祈りが通じ、滝の水が酒に変わった」という伝説が残る。噂を伝え聞いた時の天皇・元正天皇が滝を訪れた際「この多度山の美泉について、病が癒えるなどの効験が大きく、これは大瑞であると述べ、養老への改元を布告した」(※)と元号改変のエピソードが伝えられている。この時、元正天皇が“老を養う若返りの水”と言ったことが「養老」のはじまりとされている。
そんな歴史が残る岐阜県の養老町に、2022年9月1日、最先端のテレワーク施設「YOROffice(ヨロフィス)」が誕生した。未利用となっていた福祉センターを改修した館内には、時代のニーズを捉えた大小さまざまなスペースが用意されている。養老町ならではの工夫も施されているとのことで、さっそく足を運んでみた。
※岐阜県のホームページより
セキュリティは最高レベルの3つ星
エントランスを入るとまず身分証の提示を求められる。これは、安心安全な働き方を確保するためのセキュリティ対策なのだそう。「YOROffice」は、経産省の指定検査事業者「日本テレワーク協会」から、最高レベルの3つ星を獲得している。これは、全国の公共施設としては初のこと。
多目的で多数の利用が想定される場合、こうしたセキュリティ対策は利用者としてはありがたい。
ちなみに、身分証を提示するのは初回利用のみ。2回目以降はそのまま入館できる。
養老公園をイメージした館内
今回取材に協力いただいたのは、「YOROffice」の指定管理者である株式会社La Himawariの代表取締役社長・石井信行さんと、養老町役場、産業建設部産業観光課の久保山正也さん、企画財政課の古川恭史(たかふみ)さん。
まず案内してもらったのは、コミュニケーションラウンジと一体となったコワーキングスペース。真新しい緑のカーペットがまぶしい広々とした空間だ。
「この緑は、養老公園の芝生をイメージしているんです」と久保山さん。聞けば「YOROffice」全体が養老公園をモチーフにデザインされているとのこと。養老公園はまちのアイデンティティ。エントランスにも養老の滝をイメージした水の流れるオブジェがあったり、公園内のキャンプ場をイメージしたスペースなどが広がっていたり、館内にいながらにして養老公園の開放感を感じられるような工夫がされている。
ちなみに利用料金は、後述する施設やネット回線使用料を含め日額2 ,000円、レンタルオフィスは月額110,000円となっている。(※月額の設定もあり。プリンターなどの利用料は別途)
コワーキングスペースには用途別で使えるスペースが用意
コワーキングスペースの中央にはバランスボールと卓球台が設置されている。仕事の合間に卓球でリフレッシュしたり、卓球台をデスクにバランスボールに座って仕事をしたりといった活用ができる。
デスクワーカーから注目を集めているらしいバランスボール。筆者も以前別の場所で使ったことがあるのだが、姿勢を保つためだけでなく、集中力が切れたときにはゆらゆらしてみると不思議とリラックスできる。考え事をする際にもアイデアが浮かんできそうだ。ただ、家やオフィスでは導入しにくい人もいると思うので、こういった場所で使えるのはうれしいと感じた。
企業向けのレンタルオフィスも用意
館内の奥には5、6人用のレンタルオフィスが3室用意。スタートアップや養老町への進出企業向けのスペースとなっている。
室内でグランピング!? キッチン併設のカフェテリアも利用可能
と、ここまでは“広々としたテレワーク施設”というだけの印象で終わってしまいそうだが、「YOROffice」ならではのおもしろさもある。
福祉センターだったころに食堂として利用されていた場所を「グランピングカフェテリア」として改装。ここには、室内なのにテントが設置されている。
「養老公園のキャンプ場をイメージしています。キッチンは事前にお申し出いただければ無料で使っていただけますので、食材などを持ち込んでグランピング気分を味わいながらテレワークをすることも可能です」と久保山さん。
養老名物を持ち込んで試食を楽しんだり、新メニュー開発のためのワークショップなどを開催するのにも使えそうだ。
シャワーと展望デッキでリトリート気分を味わう
カフェテリアの隣には展望デッキも設置されている。ビーズクッションとハンモックがあり、ゆったりした気分で過ごせそうだ。ちなみにここにはシャワーブースもある。利用者はいつでも使用できるので、仕事の合間や仕事終わりにさっぱりして展望デッキでくつろぐ、という使い方もできる。
3Dプリンターで何をする?自由な発想が生まれる場所
もう1つ特徴的な場所がある。クリエイターズワークスペースだ。
「歩行訓練用の場所を改装しています。アクティブに動きながら考えたり、物を作ったりできるような空間にしようということで作られました。大人数でのプレゼンや合宿研修で企業に使ってもらえたらいいなと考えています。さらにクリエイターの仕事をより高次元に再現するために3Dプリンターも設置しました」と久保山さん。
若手クリエイターの利用促進に期待を寄せている。
子育て世代の利用を見据えて、キッズスペースと授乳室を備えた部屋も用意。ベビーシッターの同伴も可能だ。ほかにも畳敷きの部屋が3室。休憩室としているが生け花や茶道、書道など教室としての利用も可能だそう。さまざまな世代のさまざまな働き方に対応できる設備を整えた施設となっているようだ。
つながりが生まれプロジェクトが育つ環境を整えたい
「YOROffice」が掲げるゴールは、関係人口の創出と移住者の増加。都市部との連携を深めていきたいと久保山さんらは話す。
「まずはつながりをつくるということが大切だと思っています。利用者同士の交流が生まれると満足度があがるはず。都市部から『YOROffice』に来て、ここでの仕事を通して養老町の魅力を知ってもらい、移住につなげていきたいと考えています」と石井さん。
2022年11月からは「週末スタートアップ合宿」がスタート。参加者でチームを作り、そこで事業アイデアを出し合って実際に事業を進めていくというもの。
「これからの時代は会社に雇用されるというスタイルだけでなく、どんどん自分からおもしろそうなプロジェクトに参画する時代。『YOROffice』ではプロジェクトが生まれて育っていく環境を整えていこうと考えています」(石井さん)
利用者同士がニックネームで呼び合うのがここのルール。「肩書がないほうが仲良くなりやすい」というのがその理由だ。名刺交換タイムを設け、利用者同士がつながれる環境をつくる働きかけも行っている。
まちとの接点をつくる副業兼業支援も
2021年度、養老町では副業兼業に関する支援事業を実施。
「都市部で働く人を地元の事業者が副業を条件として雇用し、地元のビジネスに活用することに対して支援するいうもの。養老町として初の試みだったのですが、5事業ほど展開できました。都市部の現役世代に対し、養老町に興味をもってもらえるきっかけづくりになったと思います」
こうした支援事業で養老町と接点ができた都市部の人たちが、「YOROffice」を利用しながら新しいつながりをつくっていくことにも期待が寄せられている。
周辺施設との回遊性向上で使いやすさを目指す
「YOROffice」では宿泊はできないが、県指定文化財となっている旅館や周辺の宿泊施設をワーケーションの受け皿として考えている。
近くには養老公園だけでなく、温泉施設やキャンプ場など魅力的なスポットが点在している。まちの玄関口ともいえる養老電鉄養老駅の駅舎も実は歴史深いスポット。駅舎が完成したのは大正8(1919)年。実に100年以上の歴史が詰まった貴重な建物だ。
2022年4月には駅舎内の観光インフォメーションが改修された。養老の滝をイメージしたスペースには、自分で豆を挽きコーヒーを淹れるセルフドリンクコーナーも設置されているそう。
モビリティレンタルでまちを周遊できるように
養老町では2020(令和2)年度に「養老公園観光拠点整備プロジェクト」計画を策定。現在、計画に基づく事業を推進しており、そのなかで駅からのモビリティレンタル構想も進んでいるという。電動アシスト付き自転車、電動キックボード、歩行支援ロボットなどを想定しているというから、これが実現されれば周遊性は高まる。歴史と自然あふれるスポットに加え、最新のテレワーク施設といった拠点をつなげることができれば、まちのにぎわい創出につながるだろう。
アフターコロナの時代。テレワークは進展し、地方移住の動きが活発化している。2021年度から地方創生施策としてテレワーク移住支援金の交付がスタート。自治体の移住定住補助金も用意されている。移住のリサーチとして、「YOROffice」のようなテレワーク施設を利用してみるのもいいかもしれない。
仕事も、仕事をする環境も自分で選べる時代になりつつあると感じる。「YOROffice」がどのように活用されるのか、これから注目していきたい。
【取材協力】
https://yoroffice.jp/
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