京都一ファンキーな不動産会社、川端組

公道から建物を見たところ。格子の壁の裏にコンテナ、長屋がある。格子は周囲に合わせるためのデザイン公道から建物を見たところ。格子の壁の裏にコンテナ、長屋がある。格子は周囲に合わせるためのデザイン

2019年10月にその物件をウェブ上で見た時から取材に行こうと決めていた。細長い土地に立ついかにも京都らしい古い長屋、その周囲にそびえ立つ柱、梁、屋根、そこに置かれた味わいのある中古のコンテナ群。専門知識はないものの、普通の建築でないことは一目で分かった。現場がどうなっているのか、どうやってこの建物が可能になったのか、どう使われているのか。

折悪しく、それからすぐにコロナがはやり始め、ようやく、京都のメインストリートのひとつ、堀川通からすぐのところにある共創自治区CONCON(以下こんこん)を訪ねることができたのはオープンから3年目。初めて開催するという夏祭りの準備が進んでいる朝だった。

公道から建物を見たところ。格子の壁の裏にコンテナ、長屋がある。格子は周囲に合わせるためのデザインコンテナの向こうに長屋があるのがお分かりいただけるだろうか。敷地が細長く、隣にも同じように細長い建物が立っているため、全体像が見えにくいのが難。手前のコンテナはトイレなどの共用部として使われている
こんこんがあるのは堀川通からほんの少し入ったところ。最初もっと離れた、不便な場所かと勝手に思っており、その立地の良さにびっくりしたこんこんがあるのは堀川通からほんの少し入ったところ。最初もっと離れた、不便な場所かと勝手に思っており、その立地の良さにびっくりした

最寄り駅・地下鉄東西線二条城前を下りて堀川通へ。そこから少し入ったところにこんこんがある。大通りからほんの少ししか離れていないのに住宅中心の静かな一画である。通りからは木目の格子壁しか見えず、その奥にコンテナが積まれていることなど知らなければ分かるまい。なぜ、ここにコンテナが積まれることになったのか。

話はオープンの3年前に遡る。その当時、現在こんこんのある土地には中央に3軒長屋、突き当たりにお地蔵さんがあるだけでそれ以外は駐車場になっていた。もともとは路地に面して長屋が並んでいたのだろうが、それらはすでに取り壊されていた。

その土地を活用しようと所有者は考えた。他にも多くの賃貸物件などを経営している所有者で、普通にマンションを建てても将来的な市場を考えると難しいし、大体、活用として面白くないと思った。「面白い活用ができる人を知らないか」と所有者に問われた管理会社が思い出したのが自称、京都一ファンキーな不動産会社、株式会社川端組の川端寛之氏である。

公道から建物を見たところ。格子の壁の裏にコンテナ、長屋がある。格子は周囲に合わせるためのデザイン突き当たりのお稲荷さん。右側の床、柱、梁などが新築された部分。そこにコンテナが置かれている

コンテナ利用で、仕事関係者が集まる基地を作ろうと考えた

敷地は細長く、入り口より奥のほうが広くなっている。案内図に式、阿、弥と書かれているのが長屋部分。それ以外はコンテナ敷地は細長く、入り口より奥のほうが広くなっている。案内図に式、阿、弥と書かれているのが長屋部分。それ以外はコンテナ

相談を受けた川端氏は長屋を活かし、そこにコンテナを加えたオフィス、アトリエからなる複合テナント施設を作ろうと考えた。

「こんこんがある二条城南東エリアは京都中心部のビジネス街、飲食店街からは微妙に距離があり、少し西に行くと住宅街というニーズの谷間のような立地。飲食店は難しいし、いかにもオフィスという建物、住宅は注文にそぐわない。

そこで思い出したのが近所に住むコンサルティングファーム株式会社ぬえの松倉早星氏が『仕事のときに集まるデザイナー、カメラマンなどが一緒に入居できる基地みたいなところがあったらいいなあ』と言っていたことでした。そういうのを作ろう、一緒にやろうと誘って現地を見てもらいました。『思っていたものよりでかいな』と言われましたが、そのでかいのを作ろうと一緒に取り組むことになりました」

もうひとつ、コンテナについては10年ほど前から使ってみたかったのだという。コンテナで作られた建築だけを集めた写真集があり、そこにはコンテナを9つ積んだような建物もある。だが、日本の建築基準法の下では輸送用コンテナは建築には使えない。一部合法に使われているケースもあるが、日本にあるコンテナ利用例の大半は建築用に作られたコンテナを利用しているのだ。

だが、なんとか道はあるはずと大阪の建築事務所muuraの中川泰章氏に参加を打診した。中川氏は事務所としてコンテナを利用しており、それ以外にもコンテナ利用の建築を手がけている。しかし、京都は建築をする上で景観、消防的な安全性その他に非常に厳しい土地柄である。そこで川端氏は京都の条例などに詳しく、法規関係に強い魚谷繁礼建築研究所の魚谷繁礼氏にも参加してもらおうと当初のプロトタイプのプランを見てもらった。

敷地は細長く、入り口より奥のほうが広くなっている。案内図に式、阿、弥と書かれているのが長屋部分。それ以外はコンテナコンテナそれぞれに過去に使われてきた歴史が刻まれている。ひとつずつ眺めるのも面白い

生まれたのは外壁のない建築物

長屋の上の床にコンテナ。不思議な風景である長屋の上の床にコンテナ。不思議な風景である

魚谷氏はプランを見て笑い出し、「こんな学生のコンペみたいなものを本気でやろうと思っているの?」(実際には標準語ではなかったはず)と言ったそうだ。そして間髪入れずに「自分だったら、最初からこんなのをやろうとは思わない、面白そうだからやろう」と。

だが、これだけのメンバーが揃っても完成までには時間を要した。輸送用コンテナの建築での利用が違法とされるのは柱、梁となる主要構造部の強度が分からない、安全を担保できないという理由からだという。魚谷氏は想定問答を用意、役所と協議を重ね、最終的にはコンテナを主要構造部にしないというやり方で建設を可能にした。

具体的には主要構造部である床と鉄骨の柱、梁と屋根を安全が担保できるように新築、そこに輸送用コンテナを置いた。だから、コンテナは部屋として使われているが間仕切り壁のようなもので、建築の一部ではあるが主要構造部ではないものという位置づけになる。

だが、そうするとこんこんには外壁がないことになる。つまり、外壁がなくても建物は成り立つということだが、その解釈でよいのか?

長屋の上の床にコンテナ。不思議な風景である右側にかすかに見えているのが全体の屋根。その下にコンテナが置かれ、間に通路
長屋と柱、梁などとの関係。仮囲いの中にあるようにも見える長屋と柱、梁などとの関係。仮囲いの中にあるようにも見える

川端氏はうれしそうに「そう、こんこんは建築の常識を覆した」という。こんこんは古い長屋と中古のコンテナで成り立っているようにみえるが、床、柱、梁、屋根を新築しているので、新築物件ということになる。

しかも、3階建てに見えているが、鉄骨造の2階建てなのだという。「3階建てになると耐火被覆が必要になり、コストがかさむということに加え、外観上ださくなります。そこで長屋の2階を無くし、1階建て、平屋の長屋ということにしました。こんこんは1階がすごく高い建物ということなのです」

コンテナ利用以外にも交渉事は多く、時間がかかった。しかも、建てているうちに京都の宿バブルの影響で建築資材が高騰、コンテナの価格は変わらなかったものの、鉄材などは1.5倍ほどにもなった。仕方ないので建築費を見直し、家賃設定を高くして乗り切ったと川端氏。

長屋の上の床にコンテナ。不思議な風景である廊下部分。このコンテナひとつずつが部屋。なぜかワニの絵がかかれたコンテナが複数あった

入居者が建物の価値を上げる

「いつもは最初の家賃は低めに設定、時間とともにハード、ソフトともに価値を上げていくために上げ代を残しておきます。もちろん、そのためには建物に消耗品は使いません。また、建物の価値を作り、上げてくれるのは入居している人。ですから、新しく入る人の家賃は上げていきますが、最初から入っている人はそのままで上がった分を還元するというつもりでいます」

入居者が建物の価値を上げるというわけだが、それを考えると入居者は誰でもよいというわけではない。ソフト面ではスイミーがテーマだったと川端氏。ご存じの方も多いだろう、スイミーは1963年に出版されたレオ・レオニ作の絵本に描かれている小さな魚。一匹ずつは小さいが、それが集まって泳ぐことで大きな魚に見え、捕食者たちを気にせず自由に泳ぐことができるようになったという物語である。

共用部には入居者同士の仲の良さを感じさせる張り紙も。挨拶、会話のある空間だった共用部には入居者同士の仲の良さを感じさせる張り紙も。挨拶、会話のある空間だった
共用部には入居者同士の仲の良さを感じさせる張り紙も。挨拶、会話のある空間だった長屋の屋根部分。コンテナ同様、こちらも歴史を活かした改装となっている

「理想はこんこんに相談が来て、それを入居している人たちが設計し、デザインし、コピーを考え、撮影して、Webページができるといったように分担して一緒に作り上げていけるような体制。新しい価値、経済圏を生み出す場です。スイミーは黒い魚で赤い魚の群れの中でいつも目になりますが、こんこんでは毎回目が変わってチームが生まれる、そんなことを考えました」

共創自治区というネーミングはそれを言葉にしたもの。誰かが何かをお膳立てしてくれるのではなく、入ってくる人たちがルールそのものを含め、一緒に作り上げていく場、時代とともに変化していく場というわけである。

ただ、完成直後は理想通りにはいかなかった。前述したようにこんこんは新築物件で、新築物件は確認申請が終わらないと募集ができない。だが、主要構造部だけしか作らないこんこんの工期は短く、募集に時間をかけられなかった。また、施主からは完成時に満室で引き渡しを求められもしており、入居希望者を一人一人精査するには時間がなかった。

「ところが、その後、コロナの感染が拡大。仕事の状況が変わった方なども多く、結果、この間で入居者はかなり変わりました。現在では自分の足で立っていられるプロフェッショナルが集まる場になっています」

共用部には入居者同士の仲の良さを感じさせる張り紙も。挨拶、会話のある空間だった入居者は一業種一人(あるいは一社)ということになっており、さまざまな才能が集まっている

不動産会社がリスクを取る意味

ところで、ここでひとつ、疑問がわく。川端組は不動産会社である。小さな不動産会社であれば不動産と人をつなぐ仲介の仕事がメインになっていることが多く、川端氏のように自ら企画をたてチームを組んで物件を作るような仕事のやり方は珍しい。リスクもある。

「設計士さんから言われました。自分の仕事は図面を書いて、建物を建てておしまいで、入居者が決まらなくても不動産会社のせいにできる。でも、こんこんのように不動産会社が企画からやっている物件は不動産会社が自分で最後まで責任を持ってやらなくてはいけない。怖くないですかと」

まして不動産業では大きな額のお金が動く。もちろん、リスクもある。しかし、それよりも部屋を探しに来た人に「これしかありません」と妥協を勧めるのが嫌だと川端氏。以前は京都で賃貸住宅のリノベーションを手がけている人がおり、その人の物件が紹介できたものの、その人がいなくなり、紹介するものが無くなった。そこで建物を建てる立場=川上がないと仕事ができないと考え、川上に行くことにしたのだという。リスクは高いけれど、相談されて「そんな物件はない、諦めろ」というほど悔しいことはないという。

もちろん川端氏のオフィスもコンテナ。左右の壁を見るとコンテナそのままの凸凹が見える。私の理不尽なリクエストに応えて目を剥いてくださった川端氏もちろん川端氏のオフィスもコンテナ。左右の壁を見るとコンテナそのままの凸凹が見える。私の理不尽なリクエストに応えて目を剥いてくださった川端氏

「多くの人は与えられた情報の中で自己規制をして、本当はこんな物件に住みたいけれど、そんなことを言ったら不動産会社に笑われるだろうと思って黙っていたりします。自分自身、20代、30代の頃には他の人と違う建物が好きなマイノリティの自分は正しいのかと悩んだこともありますが、若いうちに、一般的な道の他にも道はある、新しい選択肢があると思ってもらえるようにしたいと思っています」

また、不動産会社で空き家の再生などを手がけている人たちは次第に仲介をやらなくなることが多いが、川端氏はそうはならないという。ずっと仲介の現場にいることで常にニーズと向かい合っていたいと考えているからだ。

長屋と路地、いろんな人が出入りする自由な空間

こんこんができるまでの話が長くなった。実際のこんこんがどのような場所かをご紹介しよう。通りに沿っては駐車場があり、道路側から見ると前述したように木製の格子が壁となってコンテナも長屋も見えないようになっている。景観に配慮した結果である。

細長い建物の左側に路地があり、来訪者はその路地を奥に進む。最初にあるのは朝から開いていてコーヒーも飲めるワインスタンドTAREL。他で営業している飲食店やカフェがイベント的に営業する日もあり、変化に富んだ今日の一杯が楽しめる店である。

その奥には古い3軒長屋があり、一番手前には田中染色補正という、シミ落としの作業場がある。それ以外の2軒は壁、天井を抜くなどして大きな1軒に改装されており、こちらは主に前述した株式会社ぬえのオフィス。中央にはリビング的なスペース、キッチンもあるが、長屋の風情、昔に貼られた掲示などが随所に残されている落ち着く空間である。

敷地の一番手前にあるワインスタンド。いつか開いている時に絶対来ると誓った敷地の一番手前にあるワインスタンド。いつか開いている時に絶対来ると誓った
敷地の一番手前にあるワインスタンド。いつか開いている時に絶対来ると誓った3軒長屋の一番手前が田中染色補正さん。いかにも京都らしい御商売である

複数の人が出入りしているのが常態なのだろう、建物内をうろうろ見学している不審な来訪者(私だ)に奇異の目が向けられることはなく、普通に「おはようございます」という声がかかる。受け入れられている感じがしてうれしい。

その奥に進むと長屋の隣にはコンテナ、突き当たりにお地蔵さんがあり、右手に階段。階段自体はワインスタンドと長屋の間にもあり、上っていくとそこにもコンテナ。全体では19個のコンテナが置かれており、建築関係、デザイン関係、広告関係、福祉・医療関係などと幅広い会社や個人が入居し、事務所、店舗として使っている。

コンテナ自体は大阪南港まで行って買ってきたもの。最初は外から見て、その後中を見て買ったそうだが、中には以前運搬していたものが床に浸み込み、悪臭を放つものもあったそうだ。床はそのまま使っているため、匂いが強いものはダメ。意外に選ぶのは大変そうだ。

敷地の一番手前にあるワインスタンド。いつか開いている時に絶対来ると誓った2軒をぶち抜いた長屋中央にあるリビングスペース。左側にはキッチンがある。柱が多く、写真にすると分かりにくいが、けっこう広い
敷地の一番手前にあるワインスタンド。いつか開いている時に絶対来ると誓ったもともと玄関があったところの両脇に棚が作られていた。古い掲示にお茶目ないたずら書き

入居者の声で自治会ができ、夏祭りも

空室(?)のコンテナを覗いてみた。床はそのまま使う。確かにこの状態で床が臭かったらつらい。壁に窓をあけて利用空室(?)のコンテナを覗いてみた。床はそのまま使う。確かにこの状態で床が臭かったらつらい。壁に窓をあけて利用

コンテナ自体はとても安く、1個30万円程度。えっ、マルが一つ足りないのではないかと思ったが、運搬用はそのくらいだという。これが建築用のコンテナになると1個数百万円というから、その差は大きい。だから、輸送用コンテナを建築には使わせないという話かと勘繰ってしまいたくなるほどである。

だが、コンテナは暑くて寒そうだ。聞くとまさにその通り。やるつもりになれば断熱、防音などはできるが、今回は予算の関係があり、隣と接している面だけは断熱、遮音し、屋根も施主からの提案で断熱したものの、それ以外はあまり手を入れていない。

それでもコンテナそのものの面白さと、自分たちで場を作り上げていく共創という概念に惹かれて人が集まり、この数ヶ月ほどでコミュニティが姿を現しだしたという川端氏。入居者の中から自ら自治会を作ろうと声があがり、月に1回、入居者が集まるようになったのだ。

そして3年目の10月1日にこんこんの夏祭りが始めて開催された。奇しくも取材はその当日。入口にはロゴを入れた提灯が飾られ、入居者の人たちがそれぞれに楽しそうに準備を進める中でこんこんの3年間を聞いた。

残念だったのは祭りが始まる前にこんこんを引き上げなければならなかったこと。170人ほども人が集まり、盛り上がったそうで、それは準備時点の活気からでも察せられた。次回、夏祭りが開かれる時には仕事を抜きにしてお邪魔したいものである。

もうひとつ、次回訪ねたいのは川端氏が京都以外で関わる、点ではなく面で、再生を手がけている空き家群。この人が作る場所ならきっと面白いはず。京都一ファンキーな不動産会社と自称しているが、実態は京都一誠実な、本気で不動産と人を愛している不動産会社さんなのだ。京都周辺の、川端氏に仕事を依頼できる不動産所有者、部屋探しを頼める人たちがうらやましい。

空室(?)のコンテナを覗いてみた。床はそのまま使う。確かにこの状態で床が臭かったらつらい。壁に窓をあけて利用夏祭り準備中のこんこん入口。提灯に描かれた物件の印象的なロゴは入居者が作ったもの。無茶苦茶かっこいい
空室(?)のコンテナを覗いてみた。床はそのまま使う。確かにこの状態で床が臭かったらつらい。壁に窓をあけて利用取材が終わって出てみると敷地内にはこんな飾り付けがされており、賑やかな雰囲気に。こんなものが作れるレベルの人達が集まっているのか!

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