外国人が災害弱者とならないために
日本には2021年6月末時点で約289万人の在留外国人が居住している(出入国在留管理庁報道発表資料)。外国に居住したことがある人は経験があるかもしれないが、母国との環境の違いに戸惑いを感じることがあるだろう。日本に住む外国人にとって、そのひとつが「災害」の多さだ。日常生活の中でも、言葉の壁や文化の壁によって困難に直面することも多い外国人だが、特に災害時にはそれらが鮮明になって表れることとなり、自治体のなかには、外国人を高齢者や障がい者と同様に「災害時要援護者」と位置づけているところもある。
そんななか、兵庫県加東市の社(やしろ)、社第二住宅で、ベトナム国籍の入居者向けに防災イベントが開かれると聞き、現地を訪ねた。
イベントを主催したのは、同物件を管理するビレッジハウス・マネジメント株式会社(以下、ビレッジハウス社)。同社はかつて独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営していた雇用促進住宅をリブランディングし、全国47都道府県で1,060物件(2,844棟、10万5,150戸)の賃貸住宅を運営、管理している。
住宅を建て替えるのではなく、既存の建物を有効活用、長く使用することで低賃料を実現したビレッジ社の賃貸物件は、日本で技能実習生などとして働く外国人の入居者も多く、今回イベントが開催された社第二住宅もそのひとつだ。
日本で安心して働き、暮らすためには、災害への備えは重要なテーマだが、イベントはどのような内容で構成され、参加者たちはどう感じたのだろうか。初秋の晴天の下、現地で見て、感じたことをリポートする。
自分の命は自分で守るために知るべきこと
兵庫県加東市は播磨地方の北側に位置する。播州平野特有の低い山々に囲まれた穏やかな気候の土地だ。ビレッジハウス社が運営する社、社第二住宅は加東市を南北に貫く国道175号線から少し東に入った平池公園近くにある。
建物に隣接する集会室で始まったイベントは、オリエンテーションに始まり、講義、実際の避難体験演習といったスケジュールで進んだ。
まず、講義ではひょうご防災特別推進員で防災士の石﨑徹さんが講師を務めた。日本における過去の地震災害の紹介から始まり、実際に家にいるときに地震が起こったらまず何をしなければならないのかなどを、通訳だけでなく、ベトナム語のスライド、テキストを通して学んだ。言葉の壁がある外国人にとって、災害時は自ら正確な情報を収集することが必要になる。
そのための情報源として、テレビやラジオだけでなく、行政無線、地元のコミュニティー放送やNHKの国際放送など、ベトナム語で情報を得る方法が紹介された。ここで大切なのは、決してSNSだけを頼りに、不正確な情報や、特に災害時に流布されやすいうわさの類をそのまま信じることなく、正しい情報を得ることが重要で、これが身を守る第一歩となるということだった。
講義では、このほかにも家での災害への備えとして、非常食品や飲料水、カセットコンロ等を備蓄しておくことの大切さ、家具等の転倒に備えるための器具の紹介と使用方法の説明などがあった。最後に、避難所での生活に役立つ段ボールベッドを実際に製作するワークショップが行われ、わいわいと和やかな雰囲気のなか、参加者たちが組み立ての体験を行った。
ヘルメットを被り避難所への避難経路を確認
日本では災害時に、行政により避難勧告や避難指示が発令されることがある。また、自宅の損壊が大きいときや、近隣に土砂災害や火災などの危険が迫っているときも、家を離れて指定された避難所へ身を寄せる必要があることが説明された。
そして、参加者20名が安全のためのヘルメットを被り、実際に避難所までの道のりを歩き、経路の確認を行った。社、社第二住宅から道路を挟んで東側には睡蓮をはじめ多数の水生植物の宝庫として有名な平池公園がある。この美しい公園の西側を参加者一同はゆっくりと経路を確認しながら約15分、指定の避難場所である加東市立福田小学校へ向けて歩いた。
小学校に到着した後、講師の石﨑さんから、避難所は避難者自身が協力し合って運営するもの、みんなが被災者であることなど、避難所生活での留意点などの説明があった。
その後、同じ経路を帰り、当日イベントの総括などの話を聞き、集会所隣に設えられたテントの下で交流会が実施された。スタッフを交え20名の参加者たちは、夏の名残を感じさせる播州の爽やかな気候の下で、ベトナム料理を囲んでひとときを楽しんだ。
母国ではあまり意識することのない地震災害への備え、講師の石﨑さんからは「自分の命をどう守るのかを最優先に考えよう」とあった。
経験がないことから、地震が起きたときのイメージが湧きにくい彼らにとって、日常の備えや実際の避難行動をリアリティーをもって体験できたのではないだろうか。参加者の一人、来日2年目のMAI THI YEN (マイ ティ エン)さんは、「日本での生活で一番不安だったのは、地震が起きたらどうしたいいのかということでした。今日いろいろなお話を聞いて、少しは安心できたかな」と話してくれた。
災害時には、最も身近な人たちの支援を必要とする
外国人の出入国や在留許可を管轄する出入国在留管理庁は、2021年度「在留外国人に対する基礎調査」を公表している。在留外国人に対するアンケートの中で、注目したい2つの設問の上位を示そう。
◇住居探しの困り事は?
1. 家賃や契約にかかるお金が高かった 19.2%
2. 国籍等を理由に入居を断られた 16.9%
3. 保証人が見つからなかった 15.1%
◇災害時の困り事は?
1. 信頼できる情報をどこから得ればよいか分らなかった 12.2%
2. 避難場所が分からなかった 10.5%
3. 警報・注意報などの避難に関する情報が、多言語で発信されていないため分からなかった 10.3%
この調査を踏まえ、出入国在留管理庁では「外国人材の受入れ・共生のための総合的対策の充実を図り、政府全体で外国人との共生社会の実現を図っていく」としている。
外国人のような災害弱者が誰からのサポートを求めるのかといえば、普段から外国人支援に関わっているような、身近な人たちであるともいわれている。住宅を通して身近な存在であるビレッジハウス社は、入居者の災害への不安を解消し、安心・安全な生活をサポートしていくことは、良質な住宅環境の提供と切り離すことはできない事業の役割のひとつと考えているのだ。
地球規模で持続可能な開発目標として掲げられる、SDGs17の目標のなかでも「脆弱な立場にある人々の保護に重点を置き、水害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減」とうたわれている。私たちが不慣れな海外で災害に見舞われたと想像してみると、不安なことが多くあるだろう。日本に住む外国人も同様である。身近な人たちができる支援とは何だろうか。平時から備えておくことが必要だ。
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