戦前の神奈川県の人気住宅地
1930年(昭和5年) 四月八日、横浜貿易新報社(現在の神奈川新聞)は新聞紙上で「県下新住宅地 十佳選」の推薦投票を募り、4月15日から5月15日までの途中経過を報告した。
ベストテンは以下の通りだった。
1. 神奈川区 白幡丘住宅地
2. 相模線神中線 厚木
3. 戸塚町 東明住宅地
4. 横浜線 上溝町横山(※現在は、相模線)
5. 神奈川区 妙蓮寺前
6. 東海道線 茅ヶ崎海岸
7. 戸塚町 秋葉住宅地
8. 東海道線 平塚海岸
9. 小田急線 鶴巻温泉
10. 横浜線 橋本駅付近
10. 神中線 瀬谷駅付近
白幡丘は現在の東急東横線白楽駅東側。妙蓮寺は東横線妙蓮寺駅東側の妙蓮寺の裏側である。
東明住宅地は戸塚駅から横浜市営地下鉄で1駅の踊場駅の南側、神奈川県立戸塚高校近く。秋葉住宅地は戸塚駅と東戸塚駅の間の高台である。
上溝町横山はJR相模線上溝駅北側で、以前執筆した相模原星ヶ丘団地の西側にあたる。
昭和初期にできた住宅地・汲沢
ということで、ベストテンのいくつかを訪ねてきた。
まず戸塚の東明住宅地であるが、地名としては汲沢(ぐみざわ)である。市営地下鉄踊場駅の南側である。駅は尾根道らしく高台であるが、そこから南に下っていく東側が東明住宅地である。富士山が簡単に遠望できる場所である。また、西側など周辺も良好な住宅地が形成されている。
『戸塚区史』によると昭和初期に京浜工業地帯や横須賀の海軍関係事業所に勤務する人たちが戸塚地域に家を求めるようになった際、戸塚町に隣接する汲沢の住宅地化が進み人口が急増し、1939年に横浜市戸塚区に編入されたのだという。
東海道線戸塚駅と東戸塚駅の間の西側の高台が秋葉町である。具体的に秋葉住宅地というのがどこかわからなかったが、秋葉台公園という場所が高台の上にあるので、景観の良い住宅地というならそのへんだろうと思い行ってみた。公園からは周囲が見渡せ、東戸塚駅周辺も一望できる。
高台から降りていくと、古そうだが良好な住宅地がある。そこから南に少し行くと日鉄秋葉団地という住宅地があるが、もとは東京文明堂創業家の邸宅が建っていたという。それが1966年から造成されて団地となった。
高台から下りていくと大倉陶苑があった。皇室御用達の大倉陶苑は発祥の地・蒲田にあったが1960年に本社・工場が移転したものだという。
またフルーツパーラーの銀座千疋屋は秋葉第四公園付近が発祥の地で、重油でボイラーを焚いた温室でバナナやパイナップルを栽培したのだそうだ。(資料:『川上の100年史』「川上の100年史」編纂委員会、2019)
妙蓮寺・白楽はかなり高級感がある
次は東横線の妙蓮寺。妙蓮寺駅は駅前すぐにお寺の妙蓮寺があるが、その裏手(東側)の高台が住宅地である。横浜貿易新報が良好な住宅地を選出した際の記念碑も残っている。小規模だが良好な住宅地である。
そしてそのさらに東側が住宅営団の団地だった。戦後は横浜市営バスと日本鋼管の社宅になったらしい。
お隣の白楽駅の東側の高台にあるのが白幡丘住宅地である。行政地名は白幡西町。街路樹のある、ゆるくカーブした坂道沿いに高級そうな住宅が並んでいる。
昭和初期と思われる住宅が残っていて、和風住宅の横の応接間・書斎だけが洋室という当時の人気のデザインだ。
白楽と妙蓮寺の間の、東横線の西側の高台である篠原台は、東急が白楽台住宅地として戦前に開発した宅地を含め、かなり格式の高い雰囲気が漂う高級住宅地である。
大谷翔平ゆかりの地・鶴ヶ峰
10位の瀬谷付近はまだ行っていないが、現在の駅前からは景観の良い住宅地という面影は感じられないようだ。同じ瀬谷区の鶴ヶ峰も景勝地として知られていたそうだが、やはり現在の鶴ヶ峰駅前からは想像しづらい。
だが帷子川まで歩いてみると、なるほど昭和初期なら渓谷のようだっただろうと想像がつく。世田谷の等々力渓谷のようだったのではないか。そこに架かる橋の名前は鶴舞橋。かつては鶴がいたのである。だから鶴ヶ峰なのだ。
1919年の都市計画法により風致地区というものが各地に指定されたが、鶴ヶ峰も横浜市内では山手、磯子、日吉、大倉山、弘明寺などとともに風致地区に指定されていたのである。
住宅営団の団地も鶴ヶ峰駅前にあり、ここは中央分離帯のある広い道路が住宅地へのアプローチとして整備されていた。営団の中でも中央分離帯のあるのは首都圏では他に千葉県の検見川だけだと思うので、鶴ヶ峰と検見川は営団の中では少し階級の高い人が住むところだったのではないかと想像する。
現在は営団住宅の入口だったと思われるところが「鶴ヶ峰まちかど広場」となっていて、木が植わっているのがおそらく営団住宅跡地としてのサインなのだろう。
鶴ヶ峰は大谷翔平のお母さんの実家があるところだそうで、だから大谷翔平も何度も鶴ヶ峰に来たことはあるらしい。鶴が飛翔するから翔平なのだろうか。
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